インタビュー
いま明かされる「ロスト」の仕様――“喜怒哀楽”を喚起し,プレイヤーの記憶に残るゲーム体験を提供する「Wizardry Online」について,二人のプロデューサーに聞いた
オンラインゲームならではの
パーティマッチングはどうなる?
4Gamer:
オンラインゲーム固有の要素についてですが,パーティマッチングはどうなるのでしょう? Wizardryだし酒場で?
岩原氏:
酒場でなくともマッチングできる一般的なパーティ募集/メンバー募集のシステムを用意しています。これは,まだ調整が必要ですけどね。
前田氏:
双方向のアクセスを可能にしてるので,割とスムースに検索できると思います。
岩原氏:
どこでもPKできるゲームですから,酒場はむしろ,インスタンスゾーンを使って安全に話し合える場として用意するのもいいかもしれません。
あとは,酒場で食事をすると30分間バフがかかるとか。将来的には,NPCに貢ぎ物をしていくと何かアイテムをもらえるようなことも実現したいですね。
ダウンタイムの話にも繋がるのですが,募集の告知だけ出しておいて,先にダンジョンに入ってしまうこともできるんですよ。参加希望の知らせが来たら,迎えに行くか,あるいは現地まで来てもらうかして,そこからパーティを組めます。
4Gamer:
現地まで来てもらう,とおっしゃいますが,一つのダンジョンに複数パーティが入れる仕組みだと聞いたので,どう考えてもモンスターはリポップしますよね。
岩原氏:
はい。
4Gamer:
……であれば,来てもらうのって相当難しいのでは。現実的には,地上か,フロアの入り口まで迎えに行くことになるんでしょうか。
岩原氏:
まあフロアの入り口にもたどり着けないような人は,パーティに必要ない,みたいな感じになると思いますよ。
4Gamer:
き,厳しい(笑)。「Diablo」みたいなポータルとか!
前田氏:
そんな便利なものは用意しません(笑)。
岩原氏:
ポータルを使えるようにしてしまうと,リドルの存在意義がなくなってしまうんですよね。
4Gamer:
あ,そうか。そうですね。確かにあったらダメだ。
前田氏:
リドルに挑戦する場合には,「ガーディアンズゲート」をくぐってインスタンスゾーンに入らなければならないんです。そこで与えられた試練を個人なりパーティなりでクリアして,初めてダンジョンの先に進めるようになるのです。
4Gamer:
そのほか,Wizardry Onlineならではの特徴は?
岩原氏:
抜刀/納刀があります。街中で抜刀状態だと警告文が出ます。というのも,何かをクリックしたときに誤ってプレイヤーやNPCに武器が当たってしまったら,それだけで犯罪者扱いになりますから。
あとは抜刀状態だとダッシュができません。したがってモンスターから逃げるときは,いったん納刀しないとダメなんです。納刀してしまうとガードもできなくなりますから,攻撃されて一気にHPを減らされる可能性もありますけど。
4Gamer:
逃げることにもリスクを持たせるわけですね。
岩原氏:
これは予想なんですが,ダンジョン内でパーティ同士が遭遇した場合に,まずはお互いに納刀するという暗黙の了解が生まれるかもしれません。
4Gamer:
納刀しない場合は,PKと見なされても文句はいえない,と。
前田氏:
まあ街中で抜刀して歩いている人がいたら,普通は「アイツ,ヤバそう」と思いますよね。
4Gamer:
魔法使いはどうでしょう? やはり抜刀モードじゃないと呪文を唱えられない?
前田氏:
ええ。杖を構えていないとダメという制限があります。
尖った部分にこだわると同時にフォローアップもする
数年後を見据えた仕組みも用意
4Gamer:
しかし,いろいろお話を聞いてると,正直なところ「それWizardryですか?」と思う部分もありますが,普通にコアなゲームとして面白そうですね。
岩原氏:
音楽にもこだわっていますよ。発表会に出演していただいたイトケン(伊藤賢治)さん,グラスホッパー・マニファクチュアの山岡 晃さんをはじめ,ゲームミュージックの錚々たる面子が揃っています。
前田氏:
テーマソングはイトケンさんが手がけているのですが,ゲーム内の音楽は光田康典さん率いるプロキオン・スタジオにお願いしています。
岩原氏:
桐岡麻季さん,亀岡夏海さん,土屋俊輔さんが作曲やアレンジを手がけています。
そんななか,実は全曲の3分の1くらいの数の曲を作っているのが,弊社の柴田というスタッフだったりするんです。
4Gamer:
そりゃまたゲームポットさんも多彩な人材がいますね。
岩原氏:
私自身が柴田に「こういう曲にしてくれ」と逐一指示を出したので,プロデューサーである私の意思が色濃く反映された曲となっています。
今,公式サイトで流れている曲は柴田の書いた曲を桐岡さんがアレンジしてくれたんですよ。でもアレンジがすごく良すぎて,柴田はしばらく自分の曲だと気づきませんでしたけどね(笑)。
4Gamer:
戦闘中って曲は変わりますか?
岩原氏:
もちろんです。ボス戦でも変わります。
4Gamer:
そこまで音楽にこだわった理由はなんでしょう。
岩原氏:
ゲームに限らず映像でもそうですが,曲の雰囲気に引っ張られることって多いんですよね。曲の雰囲気がプレイのモチベーションを高めたり,場面の怖さなどを強めたりするんですよ。
前田氏:
記憶にも残りますよね。あとから振り返ったときに,曲と場面がセットになっていることが多いと思うんです。
岩原氏:
メロディアスな曲にしろ,雰囲気だけの曲にしろ,ゲームを左右するものなので,音楽には凄くこだわっています。もし評判がよければサウンドトラックを作りたいくらいですね。
4Gamer:
直接聞いたことはないですが,たぶん「人喰いの大鷲トリコ」の上田さんなんかだと「意図しないイメージが付いてしまうので曲はつけない」と言うかもしれません。でもそれって岩原さんと逆のことをやっているようで,実は同じことを言っているわけなんですよね。
岩原氏:
そうですね。
長い時間,ダンジョンに潜るわけですから,圧迫感のある曲で「これ以上はだるい」と思わせ,街に帰らせるというような効果も期待しています。
4Gamer:
それだけこだわって,豪華な面子まで揃えて音楽を作っているのに,やってることはハードなWizardry!
岩原氏:
ね。いいでしょう?(笑)
4Gamer:
個人的には歓迎ですが,聞けば聞くほど大丈夫なのかと心配です。どれだけついてこれる人がいるんだろうか,と。
岩原氏:
何度かお話してきたとおり,食いつく人は凄く食いつくゲームだと思うんですよ。その代わり,「これはキツい」と思ってしまうと凄くダメになってしまうんじゃないでしょうか。
前田氏:
食いついてくる人が満足できるようなバランス調整が必要ですよね。そこは,非常に慎重にやらなければならないと捉えています。
ただ,運営・開発が考えていることだけで完璧な状態にするのはまず無理ですから,ある程度は実際にやってみて,プレイヤーの動向を見ながら調整を進めることも必要になります。
4Gamer:
現実問題として,これまで「コアプレイヤー向け」を謳っていても,実際そうなっているタイトルは少なかったですよね。
そういう意味では,Wizardry Onlineはむしろやり過ぎです。もちろん,いい意味で。
岩原氏:
私はかつてEQのコアプレイヤーでしたが,今やっていて面白いゲームがないんですよ。そこで自分でコア向けのものを作ろうと考えたんです。これが私にぴったりハマるなら,ぬるいゲームに不満を持っている人達もハマるかもしれません。
4Gamer:
繰り返しになりますが,そうはいっても,そこまでモチベーションを維持できるか,維持させられるかという大きな問題がありますよね。
岩原氏:
ええ。ですから,そこまでハードコアなものにはしていません。一つミスしただけで失敗,取り返しがつきません,というさじ加減にはなっていないんです。
前田氏:
尖ったシステムを提供する一方で,きちんとフォローアップできる何かしらも用意するということを,すべての面においてやっています。
どうしても尖った部分だけが大きく取り上げられますし,それはこちらの狙いではありますが,やってみるとそんなには……と感じることが多いはずですよ。
4Gamer:
逆に,コアプレイヤー向けを謳うのであれば,きちんと突き進まないと「口だけかよ」といわれてしまいます。……確認のため聞いておきたいのですが,Wizardry Onlineは「日和らない」ですよね?
岩原氏:
私がいる限りは大丈夫です。
売上が上がらないから緩くしましょう,ということをやってしまうと,結局ほかのタイトルと同じゲームになってしまうんですよ。社内でも「冒険しましょう」と,ずっといってきましたから。
4Gamer:
なるほど。
実は雑魚モンスターは雑魚モンスターにあらず
一体一体が「ユニーク」な存在
4Gamer:
ところで何度かEQの話題が出てきて思いついたので聞いてみたいんですが,インベントリからアイテムを捨てたら,ダンジョン内に残りますか?
岩原氏:
あー,言わんとしていることは分かります(笑)。やりたかったんですけど,Wiz特有の要素を他にいくつも入れているので、サーバー負荷も考えてあえて入れていません。(※)
(※)EQで,お金を1copperずつつまんで,落としながら歩いて,初めてのダンジョンでも迷わないように……とやっていた人は多いはずだ
4Gamer:
でもジャンクアイテム扱いだし,負荷といっても数時間で消すようにすればそこまでのものじゃないですよね?
前田氏:
……言っちゃいますか?(と岩原氏の顔を見ながら)
岩原氏:
うーん……まぁいいか。
4Gamer:
……なんか予想外の気になる反応が。
前田氏:
実はWizardry Onlineでは,モンスター1体1体をユニーク管理しているんですよ。
4Gamer:
なんですと。
何をやろうとしてるのかなんとなくご理解いただけますよね?
将来的には,モンスターがプレイヤーキャラクターの死体から装備をルートして使う,というようなこととかをやりたいんです。例えば,コボルドなのに凄い武器を持っているらしくて手に負えない,倒してみたらロングソード+5を持っていた,みたいなことができないものかなぁ,と。
前田氏:
将来的にそういったことを実現するために,最初からユニーク管理システムを採用したんです。その結果,取捨選択としてダンジョン内にアイテムを置いておけるようにするのはあきらめました。
4Gamer:
いやあ,それはまた,ずいぶん遊びの幅が広がっていきそうないい情報を聞きました。チャームしてMobに武器を持たせてチャームを解いて遊ぶとかも楽しそうです。
前田氏:
残念! チャームはありません(笑)。
ともあれ,ここに関してはまだ仕組みを作った段階で,現実的に遊びを組み込めるのはまだまだずっと先の話です。今後の展開に期待してください。
岩原氏:
もうついでなのでもう1個しゃべっちゃいますが……。
今,実装されているシステムで面白いものといえば,ダンジョン内にランダムポップする宝箱です。
前田氏:
えええ,それしゃべっちゃうんですか?
岩原氏:
まぁいいんじゃないかな,これくらいなら。
実はその宝箱,時間の経過によって,中身のレア度が上がるんです。
4Gamer:
お。レア度って何段階くらいあるんですか?
前田氏:
そこは,レア度が上がるのに必要な時間も含めて,実際にプレイして確かめていただきたいんです。宝箱を開けるまでの時間が長いほどレア度が高くなりますから,誰も行ったことのない未知の部分を探索すると,絶対にいいことがありますよ。
4Gamer:
ですよね。つまり,みんなが行ってるようなところに行っても,あんまりいいものが落ちてないということなんですね……。
……さすがに時間が押してきました。そろそろ締めに入ります。
さてこのWizardry Online,いまどき珍しく,負荷テストを実施しますよね(編注:5月28,29日に実施済)。
岩原氏:
ええ。技術的に確認しておきたい事項があるのはもちろんですが,きちんとした負荷テストをするというのも記憶に残るんじゃないかと考えたんです。いろいろな機能を封じていて,説明文は読めるけれど,実際にどうなのかまでは分からないようになっています。
また負荷テストではキャラクターが死ぬ部分を封じていますが,これは魂の天秤があるからです。このシステムはゲーム自体のキモの一つですから,負荷テストの段階では伏せておきましょう,と。
まあ「これで全部かよ」と見限られる可能性もあるのですが,まぁきっと4Gamerがフォローしてくれるでしょう!
4Gamer:
……なんかよく分からないところで期待されてプレッシャーが。
それでは最後になりますが,この作品であれば,アピールしたいユーザーさんの層は明確ですので,いつもの「読者にひと言」はやめにして,お2人にとってWizardryとは何かというところを聞かせてください。
最後が一番難しい質問ですね。
……いってしまえば,“青春”であり,“人生”です。小学2年生のとき,友人のお父さんがApple II版を遊んでいた姿が,すごくかっこよく見えたんですよね。コンピュータでゲームをやっていて,迷路が線で表示されて,モンスターも出てきて,さらに英語で呪文を打ち込んでいるわけですから。
それから自分でPCを使うようになって,PC-9801版を遊んだときに「大人になったな」と思ったんです。変な話ですが(笑)。さらにファミコン版でずいぶん遊びやすくなって,「これはこれで面白い」と。そうやって,家に帰ればWizardryを遊んでいるような青春時代を過ごしたんです。社会人になってからも,シリーズや派生タイトルがリリースされていましたから,基本的には変わっていません。
その頃は,まさか自分がWizardryに携わることになるとは考えてもいなかったのですが,あるとき(ゲームポットの)社長の植田と「すべてのゲームの原点はWizardry」という話をしたんです。それがきっかけでWizardry Onlineを手がけたり,漫画の原案をやったりしているわけですから,もう半生ずっとWizardryですよね。
前田氏:
僕はゲームボーイの頃からのプレイヤーなので,岩原ほど「Wizardryは人生」と言えるわけではないのですが,Wizardryは想像力やアイテム収集欲を掻き立てる根源的な楽しさのあるゲームと捉えています。
今,Wizardry Onlineでやっていることは,これまであった形の中に別の何かを注ぎ込んで,新しいものを作り出すことです。僕はこれまでゲームポットで「スカッとゴルフ パンヤ」に携わってきましたが,あれはゴルフゲームなので,根本のゴルフの部分は基本的にはいじりようがありません。
しかしWizardryは,枠が存在しているだけで,その形はどんどん変えていけると考えています。その中で,往年のWizardryファンや,コアゲームプレイヤーに訴求できるものを作っていきたいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
インタビューを読んで「Wizardry Onlineって面白そう」「何か凄いな」という感想を抱く一方で,「いくらなんでも風呂敷広げすぎじゃないの?」と思った人も多いかもしれない。それはある意味,間違えてはいない。おそらく,今回話されたことがすべて実現するためには,普通に見積もって3年程度はかかると思われる。
「そんな先の話をされても」と思う人は,これまでの十数年のオンラインゲームの歴史を振り返ってみてほしい。新機軸を謳って登場し,今,中堅あるいは長寿といわれるほどサービスが継続しているタイトルのほとんどは,運営が安定し,コンテンツが充実し,市場に受け入れられて常に一定のプレイヤー数が期待できるようになるまで,3年くらいはかかっている。
もちろん例外もあるが,それは黎明期に登場し,プレイヤー側が「こんなこともできる」「あんなことも試してみよう」と手探りで遊んでいた時代のタイトルであるはずだ。あのころといまは,さすがに同じ土俵では語れない。
ではWizardry Onlineが「生き残れるタイトルなのかどうか」は,正直なところ,まだよく分からない。私とて,皆さんと同じ現時点では「話を聞いているだけ」に過ぎないのだから。しかもこのインタビューでも言及されているとおり,Wizardry Onlineの特徴として掲げられた内容には,これまでの歴史の中で淘汰されていった要素がいくつか含まれているのだ。
今,それらが改めて魅力的に思えるのは,かつての体験がノスタルジーによって美化されているだけなのかもしれない。しかしこれからの数年間のなかで,ムーブメントが1周したあとの新機軸として,あるいは別の何かとして受け入れられていく可能性も,決して否定できない。
この手の「コアなゲーム」が登場せんとするときに必ず市井のコミュニティでわき起こる「コアなゲームなんかうれねえ」「コアじゃないとやる気が起きない」「誰もやんないから洋ゲーは死滅したんだ」「オマエらの見る目がないからだ」という議論を,Wizardry Onlineという作品は,久々に(良い意味で)蒸し返そうとしている。しかも確信を持って意図的に,だ。
それが吉と出るか凶と出るか,それはまだ誰にも分からない。
古い有名なIPを引っ張り出して大々的にオンライン化しようという試みは,業界の茶飲み話のネタとしてはよく話されるが,国内で,実際に実行に移した人は2,3の例を除き,ほとんど皆無なのだ。少なくとも「コアゲー」「マゾゲー」という部分においては,国内初だと言っても間違いではないだろう。
そんな中で幸いなのは,Wizardryが比較的世界で知られるIPだということである(日本はとりわけ異様なまでの人気だが)。Wizardry Onlineが,その貴重なIPに泥を塗る──つまり,あっさりコンセプトを変えたり,サービスを終了させたりする──ことなく,市場における存在価値を確立するために必要とする3年という歳月は,日本以外の国も見据えれば,それなりには短縮できるのかもしれない。
その一方で,プレイヤー側も長い目でWizardry Onlineの展開を見守る必要があるだろう。インタビューの合間に岩原氏と前田氏は「ユーザーの皆さんも,思うところがあるのであれば,ゲームポットに意見・要望を送るだけでなく,Wizardry Renaissance公式サイトのフォーラム『ウィザードリィ友の会』で建設的な議論をぜひ交わしてほしいんです」と話していた。
――2011年5月25日収録
「Wizardry Online」公式サイト
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