テストレポート
「Nintendo Switch」分解レポート。「任天堂はどんな新しいことを提供してくれるのか」と期待が膨らむ内部構造だ
Nintendo Switchは,2012年12月8日に発売された「Wii U」の後継となる製品で,タッチスクリーンを備えるタブレット端末的な本体に対して周辺機器を(物理的もしくはワイヤレス接続で)付け替えることにより,モバイルゲーム機のように使う「携帯モード」(Handheld Mode)と,机上に置いてワイヤレスコントローラから操作する「テーブルモード」(Tabletop Mode),専用ドック経由でテレビなどのディスプレイデバイスに映像出力する「TVモード」(TV Mode)を,文字どおりスイッチできるのが最大の特徴だ。
4Gamerでは発売に合わせて初回セットアップ方法や各種機能周り,注目タイトル紹介,キーパーソンインタビューなど,Nintendo Switch関連の記事をいくつか掲載済みだが,本稿では,店頭で購入してきた実機の分解レポートをお届けしたいと思う。
なお,今回入手したのは,付属する専用ワイヤレスコントローラ「Joy-Con」(ジョイコン)の色が左右で異なる「ネオンブルー/ネオンレッド」モデルだ。
※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は4Gamerが入手した個体についてのものであって,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
ファブレット的な本体と,スイッチコンセプトを具現化するJoy-Con,ドックからなるNintendo Switch
分解に先だって,入手したNintendo Switchの基本仕様を確認しておこう。
本体の実測サイズは約172(W)
一方,同じ6.2インチ液晶パネルを搭載する「Wii U GamePad」だと公称サイズが254.4(W)
いずれにせよ,据え置き型ゲーム機の本体としては,PlayStation 4やXbox Oneのスペック情報を出すまでもなく,圧倒的に小型軽量だ。
上辺部には[電源]ボタンと[音量]ボタン,3極・4極両対応(≒ヘッドフォンとマイク,ヘッドセット対応)の3.5mmミニピン端子,そしてカバー付きの「ゲームカードスロット」を搭載。任天堂は「ニンテンドーゲームキューブ」以降,据え置き型ゲーム機では3世代続けて光学メディアをゲーム用に用いていたが,Nintendo Switchでは半導体メディアへ回帰した格好だ。
USB Type-Cの細かな仕様は明らかになっていないが,試した限り,よくある,5V 2.1A出力のモバイルバッテリーで充電を行うことはできた。
面白いのは,このスタンド自体が,microSDXC対応のmicroSDカードスロットカバーを兼ねていることだろう。本体内蔵のフラッシュメモリに入りきらないゲームデータを保存したいときには,このスロットを活用することになるはずだ。
お次はJoy-Conだ。Nintendo Switchにおける「スイッチ」コンセプトのカナメとなるJoy-Conは,左の「Joy-Con(L)」と右の「Joy-Con(R)」の両方に加速度センサーとジャイロセンサーを搭載しており,Wii Uの「Wiiリモコンプラス」的に利用できる。しかも,従来のフォースフィードバックを超える振動機能「HD振動」を利用可能だ。
Joy-Con(R)には追加で,「amiibo」に対応するNFCリーダー機能と,非接触で対象物の動きや形状を検出できる「モーションIRカメラ」機能も搭載している。
ワイヤレス接続するため,Joy-Conはバッテリーを内蔵している。携帯モードで本体に接続しておけば自動的に充電できるが,別途,別売りの「Joy-Con充電グリップ」を購入すれば,USB Type-C経由で充電しながらゲームパッドとして使うこともできる。
最後にNintendo Switchドックだが,こちらは背面側のカバーを開けたところにACアダプター接続用のUSB Type-C端子と,将来的にアップデートでUSB 3.0対応とされるUSB Type-A端子,HDMI Type A端子が並び,また,本体正面向かって左側面にUSB 2.0対応USB Type-A端子が2ポート並ぶ仕様になっている。
大きな隙間はもちろんNintendo Switchを差すためのもので,中を覗き込むと,USB Type-Cオス端子と,ガイド用の突起を確認できる。USB Type-Cは耐久性の高さを追求した接続端子なので,抜き差しで壊れるような心配はおそらく無用だろうが,乱暴に扱ったりするのは避けたほうがいいだろう。
分解難度がかなり高いNintendo Switch本体。ゲーム機と言うよりもモバイルデバイスに近い
というわけで最も気になるであろう本体からだが,結論から先に言うと,分解の難度はかなり高い。また,一度分解したが最後,元に戻せなくなる可能性も極めて高い。それもあってか,任天堂は本体カバーを留めるネジに特殊なものを採用しており,一般的なプラスドライバーやトルクスドライバーでは回せないようになっていた。「一般ユーザーに原状復帰は不可能なので開けるべからず」というメッセージが感じられる仕様だ。
ちなみに,(そもそも原状復帰できないところまで分解したので,大勢に影響はないのだが)今回は序盤中の序盤,ガイドレールと本体をつなぐフレキシブル基板の1つを切ってしまった。内部はとにかくフレキシブル基板の数が多く,任天堂が採用した実装技術は,PlayStation 4やXbox Oneではなく,スマートフォンやタブレット端末のそれに近いと言えるだろう。
それを踏まえてまずは背面カバーを外したところから話を始めてみたい。
背面カバーを外すと,基板やバッテリーを含んだほぼ全面を覆うシールド板が目に入る。
シールド板の上にちょこんと載っている小さな基板は,microSDカードスロットを実装するもので,超小型の接続端子によってメイン基板とつながっていた。また,中央付近には冷却用のファンがあることも分かる。
金属板を取り外すと,SoC(System-on-a-Chip)がある部分にはシリコングリスがかなり大量に塗ってあり,ここから,金属製のシールド板を放熱にも使っていることが確認できる。
そのほか金属板の下では,全体の4割強が「Nintendo」ロゴ入りのリチウムイオン充電池(以下,バッテリーパック)になっていることにまず驚く。バッテリーパックは3.7V 4310mAhの16Whという仕様で,一般的なスマートフォンと比べると容量は大きい。
パッシブクーラーは,超薄型のヒートパイプと,本体正面の排気孔部に位置する放熱フィンから構成されていた。SoCから発生する熱を排気孔の近くまでこのパッシブクーラーで運び,それを実測約30mm径,厚み約6mmのファンで筐体外へ出す仕様だ。
取り外すと分かるのだが,ファンユニットは電源関連製品大手として知られるDelta Electronics製だった。
左下の写真を見てもらうと,メイン基板はかなり特殊な形状になっているのが分かると思う。
最後に,静電容量方式タッチスクリーンを実現する樹脂パネルを筐体の正面側から外すと,液晶パネルも取り出せる。
残念ながら,液晶パネルの背面側にある型番らしき文字列「LPM062M326A 1N6J529502」からメーカー名に当たることはできなかったが,経済紙の報道では,中小型液晶パネルの大手メーカーであるジャパンディスプレイ製と伝えられているので,参考までに書いておきたいと思う。
Tegraの詳細は依然として不明
取り出したメイン基板を見ていこう。
本稿では以後,当該基板上で最も大きなチップが載るほうを「部品面」,その背面を「パターン面」と呼ぶことにするが,部品面には子基板が接続されており,そこにはSamsung Electronics(以下,Samsung)製のeMMC「KLMBG2JENB-B041」が載っていた。Nintendo Switchは容量32GBのフラッシュメモリを標準で内蔵するが,KLMBG2JENB-B041の容量がまさに32GBなので,ここにファームウェアやOS,(入る限りの)ゲームプログラムやデータが格納されることになるのだろう。
Nintendo Switchのメイン基板,部品面。メイン基板の左にある子基板にはSamsung製32GB eMMC「KLMBG2JENB-B041」が搭載されており,いわゆるストレージとしての役割を果たしている。SoCは金属シールドに覆われており,まだ見えない |
メイン基板のパターン面。こちらにもいくつかのチップが載っている |
メイン基板上の実装ではなく,わざわざ子基板として用意している以上,eMMCの容量を増やしたモデルの実現は難しくないはず。将来的には本体側フラッシュメモリ容量64GB版や128GB版といったバリエーションモデルが登場する可能性もありそうだ。
SoCにはたっぷりとグリスが塗られていたが,その右側のメモリチップにグリスは塗られておらず,シールドと熱的な結合はないようだ。メモリの発熱はそれほど大きくないのだろう。
グリスを除去したところ,NVIDIAの文字がくっきりと刻印されたダイが見えるようになった。型番は「ODNX02-A2」だ。「OD」「02」が何を示すのかは分からないが,「NX」はNintendo Switchの開発コードネームだろう。また,GeForceなどNVIDIA製GPUの型番法則と照らし合わせるに,「A2」はA2リビジョンであることを示す可能性が高い。
カスタム版のTegraプロセッサを搭載 |
K4F6E304HB-MGCHは1枚あたり容量2GBのLPDDR4メモリチップだ |
デジタルノギスを用いて計測したところ,ダイサイズは約12.00
SoCの横に2枚並んだメモリチップはSamsung製のLPDDR4 DRAM「K4F6E304HB-MGCH」だった。K4F6E304HB-MGCHは16Gbitチップなので,Nintendo Switchは2枚で合計4GBのメインメモリを実装していることになる。
スペックシート上のメモリクロックは3200MHz相当(実クロック1600MHz)なので,定格クロックのまま,64bitメモリコントローラを統合するTegra(ベースのSoC)と組み合わせたとすると,メモリバス帯域幅は25.6GB/sとなる。
25.6GB/sというメモリバス帯域幅はちょうどPlayStation 3と同じで,Wii Uと比べた場合は容量,帯域幅とも2倍という計算だ。
部品面ではまた,Maxim Integrated製の3フェーズレギュレータ「MAX77621AEWI+T」を2基搭載しているのも見てとれるが,これはカスタムTegraへの電源供給を行うためのものだ。
なお,メモリチップの近くには「M92T36 630380」という刻印のチップもあるのだが,この正体は分からなかった。
MAX77621AEWI+Tは3フェーズレギュレータ。これを2基搭載している |
メモリチップの近くある謎のチップ。刻印はM92T36 630380だった |
まず,蟹マークのチップが見えるが,これはRealtek Semiconductor製の組み込み機器向けサウンドCODEC「ALC5639」。その近くに見える「PI3USB30532ZLE」は,Pericom Semiconductor製クロスバースイッチで,USB 3.1 Gen.1(≒USB 3.0)とDisplayPort 1.2を多重化してType-Cに流せるようになっている。おそらく,Nintendo Switchドックとの接続用だろう。
パターン面には「MMX77620AEWJ」というチップが実装されているのも確認できるが,これはMaxim Integrated製のパワーマネジメントIC(PMIC)なので,電力管理を行うためのものだと思われる。
PI3USB30532ZLE。Pericom Semiconductor製クロスバースイッチだ |
Maxim Integrated製パワーマネージメントIC,MAX77620AEWJ |
となると,液晶パネルを駆動するドライバーはどこに? という話になるのだが,ゲームカードスロットと3.5mmの載った子基板に,正体不明のSTMicroelectronicsのロゴ入りチップ「FT9CJOFK6358AA01」があった。これがそうなのではなかろうか。
STMicroelectronics製チップ, |
パターン面には「B1633 GCBRG HAC STD T1001216A1」という刻印のチップもあったが,これは正体不明である |
Joy-Conも分解。HD振動の正体はやはりアレだった
Joy-Conは左右で機能が異なるため,今回は「Joy-Con(L)」→「Joy-Con(R)」の順番で,やはり特殊なネジを外しつつ分解を試みるが,まず,カバーを2枚に下ろすと,内部ではバッテリーパックが大きなスペースを示しているのが分かる。そのスペックは3.7V 525mAhで19Whだ。
「Joy-Conはハプティックリアクタを搭載するのではないか」と推測したのは西川善司氏だったが(関連記事),見事に的中ということになる。
なお,ここまで分解すると後は簡単で,バッテリーパックとその台座を取り外せば,メイン基板を取り出せるようになる。
というわけで,下に示したのがJoy-Con(L)の子基板部品面とパターン面である。ここでひときわ目立っているのは,Broadcom製のBluetooth Smartチップ「BCM20734」だ。
BCM20734はアナログ信号をデジタル信号に変換するADC
ADCポートがあれば,たとえばマイクのアナログ信号をそのまま取り扱えたりするので,音声認識機能などの実現が容易になるのだが,Joy-Conはマイクを搭載していない。
その側には,Macronix International製の4Mbitフラッシュメモリ「MX25U4033E」が実装されていた。この小容量フラッシュメモリは,
なお,Joy-Conはその仕様上,3軸のジャイロセンサーと3軸の加速度センサーを搭載するのだが,おそらくパターン面にいくつかある小さなチップがそれだと思われる。
Joy-Con(L)の基板の部品面。中央右に見える大きなチップがBCM20734で,その左下に見えるのがMX25U4033Eだ。BCM20734の右下に見えるチップは,刻印を読み取れなかった |
Joy-Con(L)の基板パターン面。写真右上に見えるチップはジャイロ兼加速度のセンサーだと考えている |
とくに大きな違いが,基板デザインとアンテナだ。以下,写真とキャプションで紹介するので,チェックしてみてほしい。
また,Joy-Con(R)の基板上には,STMicroerlectrnics製のチップ「NFCBEA 812006 33」という,Joy-Con(L)にはないチップの存在も確認できた。残念ながらそのものズバリの型番では製品に当たらなかったが,型番や実装位置からNFCリーダーICだと推測できる。
ちなみにここまでJoy-Conの充電周りはあえて説明してこなかったが,実のところは接点を使ったシンプルな実装となっている。Joy-Conを本体(やJoy-Con充電グリップ)にかちっと填めると接点がつながり,給電が始まる仕掛けだ。
Nintendo Switchドックの基板は2種類のフラッシュメモリを搭載
最後はNintendo Switchドックである。
ここでも任天堂は特殊ネジが用いているため,「カジュアルな分解」はできなくなっているが,構造自体は単純なので,背面側にあるネジをすべて取れば,各種インタフェースを提供する基板を取り出せるようになる。
部品面で最も大きなチップはSTMicroelectronics製の32bitマイコン「32P048」だが,この正体は不明だ。その近くにある,「M92T55 633416」と刻まれたチップの正体も分からない。
基板中央部にある「VLI210-Q4」はVIA Technologies製のUSB 3.0ハブコントローラである。
一方パターン面には,Macronix International製512Kbitフラッシュメモリ「MX25L512E」と,同社製の2Mbitフラッシュメモリ「MX25V2006E」がある。少なくともどちらかに,前述した32P048のファームウェアを格納しているはずだ。
2つ用意している理由は分からないが,それこそ内側USBポートのUSB 3.0対応のような,何らかの機能を拡張するときのためなのかもしれない。
もう1つ,部品面にあるチップと同じメーカー製と思われる「M92T17 623382」というチップがあるのだが,これもやはり正体不明だ。
「超多機能タブレット」的な実装のNintendo Switch
個人的には,SIMスロット搭載のバリエーションモデルが出る可能性を感じられないかなと思っていたのだが,このみっちり具合からすると,少なくともこのままの設計でWAN機能搭載モデルが出る可能性はほぼゼロだろう。
さて,そんな「単なるタブレット」のようにも見えるNintendo Switchをゲーム機たらしめているのは,やはりJoy-Conということになる。
加速度センサーやジャイロセンサー,モーションIRカメラ,そしてHD振動を実現するハプティックリアクタは,Joy-Conに大いなる可能性を与えている。そしてそれは,Nintendo Switchというゲーム機そのものにも,将来性を与えている印象だ。
Nintendo Switchは,「果たして任天堂はJoy-Conで,家庭用ゲーム機にどんな新しい楽しさを与えてくれるのか」というワクワク感を与えてくれるハードウェアであり,家庭用ゲーム機の市場で長年戦ってきている任天堂らしいアドバンテージを感じさせてくれる存在だとまとめることができるだろう。
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任天堂のNintendo Switch公式情報ページ
※お詫びと訂正
初出時,Nintendo SwitchドックのUSBサポートについて,誤った情報を掲載しておりました。お詫びして訂正いたします。
※2017年3月6日15:30頃追記
搭載するカスタムTegraについて,初出時には「Tegra X1ではないか」としていましたが,考察を変更しました。
- 関連タイトル:
Nintendo Switch本体
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