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GeForce RTX 50の最新技術の疑問点に答えが出た。NVIDIAのGDC 2025ブースレポート
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NVIDIA版Unreal Engine5と技術デモ「Zorah」
NVIDIAが発表する新GPUには,さまざまな新機能が搭載されているわけだが,近年はその多くが「独自機能」となっているので,登場時点ではDirectXのような標準APIから利用できない。つまり,それらの新機能は,NVIDIA拡張APIで活用するしかないわけだが,ゲーム開発者からすると,導入の難度(≒導入コスト)が上がるので敬遠されてしまう。
そこでNVIDIAは,「Unreal Engine 5」(以下,UE5)世代になってから,そうした新GPUの独自機能を,UE5に組み込むことにした。
NVIDIAが改造したUE5は,UE5開発元のEpic Gamesが提供しているバージョンからは,分岐(ブランチ)してしまう。独自のブランチになったNVIDIA版UE5は,NVIDIAがサポートする。それを理解したうえであれば,ゲーム開発者は,NVIDIA版UE5を使ってゲームを開発できるわけだ。こうしたNVIDIA版UE5は,「NvRTX」と呼ばれ,NVIDIAの開発者向けWebサイトから入手できる。
直近では「黒神話:悟空」のPC版が,まさにNvRTXで開発されていた。そのため,同作のレイトレーシング要素は,GeForce RTXシリーズ搭載PCでのみ,最大の効果を発揮できるわけだ。
GeForce RTX 50シリーズ版に対応したNvRTXは,まもなくリリースされるとのこと。NVIDIAブースでは,GeForce RTX 50シリーズ発表時に公開された技術デモ「Zorah」を,NvRTX上で実行していた。来場者は,Zorahデモを使って,GeForce RTX 50シリーズの目玉機能である「Mega Geometry」(メガジオメトリ)の効果を確認できるというものだ。
大雑把に言うと,Mega Geometryとは,3Dシーンのレイトレーシング描画に,無段階LODを統合した仕組みだ。ZorahデモではMega Geometryをオン,オフすることで,無段階LODの有無による違いを体験できる。
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ブースの担当者によると,最新版NvRTXの利用者が希望すれば,Zorahデモのプロジェクトを提供できるとのことだ。
NVIDIA ACEを採用したシムピープル的なゲーム「InZOI」
NVIDIAのブースとしては珍しい,ゲームの展示も行われていた。タイトルはKRAFTONから2025年3月28日にアーリーアクセス版がリリース予定の「inZOI」だ。
inZOIは,AIベースのアバター生成・運用エンジンの「NVIDIA ACE」(Avatar Cloud Engine,ACE)を活用している。ゲーム自体の基盤技術がNVIDIA ACEで動作しているため,NVIDIAブースで展示されていたわけだ。
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inZOI自体は,「The Sims」シリーズに近いもので,ゲーム中に登場する人間たちに干渉したり,観察したりして,各人の人生の成り行きを楽しむ,いわば人生シミュレーションゲームとなっている。
The Simsの場合は,プレイヤーがひんぱんに指示をしないと,期待どおりに動かないのでゲームが進行しない。しかしinZOIでは,登場するメインキャラクターやNPCも,それぞれが個別の性格や知性を有しているので,ゲーム世界の中をリアルタイムで自律的に行動する。いわゆる放置ゲー(英語だとAway from Keyboard,AFK)的な要素も強い感じがした。
マウスクリックで,ゲーム世界に干渉もできる。だが基本的には,テキスト入力による自然言語コミュニケーションが,ゲーム世界に干渉する主な手段だ。
ブースでのデモでは,「あなたのいる世界は現実ではないよ」と,メインキャラクターに話しかけていた。すると,それを聞いたキャラクターは,直後,鏡の前に歩んで手を掲げて,「確かに,私の手は本物じゃないような気がしてきた」と発言をする。
プレイヤーからプロンプトとして話しかけられた事柄は,メインキャラクターのAIはもちろん,NPCのAIにも影響を及ぼしていく。そのバタフライエフェクトの波及を楽しむのが,このゲームの醍醐味と言うことなのだろう。なお,自分自身や他者を傷つけるような行動を促すことは,できない仕様となっているそうだ。
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inZOIが使っているNVIDIA ACEは,スタンドアローンで動作するそうで,NVIDIAのGPU(AI)サーバーにアクセスする必要はないとのこと。ただし,その分だけGPU側グラフィックスメモリの使用量が大きくなる傾向にあるそうで,最低でも1GB分はAI関連の動作でグラフィックスメモリを占有するという。
Steamにおける本作の最低システム要件は,グラフィックスメモリ容量が6GBとなっているが,ブースにいたNVIDIAの担当者によれば,NVIDIA ACEを利用するには,8GB以上必要とのことだった。
生成系AIを用いたボディモーション生成
NVIDIAは現在,生成系AIを用いたゲーム開発支援技術「NVDIA AIBM」(AI Body Motion)を開発中で,そのβ版に相当するものをブースで披露していた。
NVDIA AIBMは,自然言語で「他人の目を気にして身を潜めるように進んで」とか,「大胆にジャンプして障害物を乗り越えて」といった具合にプロンプトで指示すると,適したモーションを生成系AIが生成してくれるというものだ。毎回同じモーションにならないように,複数のモーション候補を提示するので,ユーザーは任意のものを選択して,対象のキャラクターにその動きを適用できる。
ブース内のデモ機では,Mayaのプラグインの形で動作していたが,すでにUE5へのプラグインも完成間近だとのことであった。リリースは2025年内を予定している。
開発コスト面で気軽にモーションキャプチャ技術を利用できないインディゲーム制作用に,最適な技術に思えるが,NVIDIA AIBMの利用に当たっては「NVIDIA AI Enterprise」ライセンスが必要になるそうだ。
力を入れていたDLSS 4関連の展示
NVIDIA独自の超解像技術「DLSS 4」では,AI処理のコア部分が,CNNモデルからTransformerモデルに変更された(関連記事)。
展示会場では,実在のゲームを2台のPCで実行して,DLSS 4の効果を披露していた。比較デモで使っていたゲームは,「ホグワーツ・レガシー」と「AVOWED」の2タイトル。デモPCのGPUは「GeForce RTX 5070 Ti」だ。
ホグワーツ・レガシーのデモでは,ネイティブの3840×2160ドット(以下,4K)と,DLSS 4適用時の比較を披露していた。ちなみに本作は,2025年2月にGeForce RTXシリーズへのレイトレーシング最適化を行ったアップデートを配信したばかりなので選ばれたという。
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GeForce RTX 5070 Tiで動作させたホグワーツ・レガシーは,ネイティブ4Kでも60fps以上で表示できるそうで(※細かいグラフィックス設定は不明),DLSSなしでも相応に快適なプレイは可能だ。しかし,DLSS 4の超解像処理とアンチエイリアス,さらに4倍マルチフレーム生成のすべてを適用すると,4Kでもフレームレートは240fpsを超えて,なおかつ画質も上がるという。
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ネイティブ4Kでも60fpsで表示できると言っても,これはレイトレーシング解像度をかなり下げている。そのため,時間方向に映像がちらつくのが目立つのだ。それがDLSS 4を適用すると,時間方向と空間方向に各ピクセルの情報量を上げる効果があるので,映像品質が驚くほど安定するのだ。とくにHDRモードでは,高輝度ハイライトのチラツキがかなりうるさく見える。遊びやすさの面でも,DLSS 4によるチラツキ減退効果は大きい。
フレームレートが4倍に向上しても,遅延は約半分程度に収まるのは,NVIDIA独自の低遅延化技術「NVIDIA Reflex 2」の効果だろう。ゲームループの回転数は,ネイティブ4K時とDLSS 4適用時で変わらず60fps相当,すなわち毎秒60回相当のはずだ。しかしReflex 2の効果で,ゲームループのタイミングが後ろにずれる結果として,見かけ上の遅延は低減される。
次のAVOWEDによるデモでは,ネイティブ4KとDLSS 4の比較に加えて,DLSS 4とDLSS 3の違いも披露していた。
ネイティブ4KとDLSS 4の比較デモでは,画面左に開かれている手帳の内容と,上空に流れる雲の見え方,そして画面右にある魔法の杖の放電エフェクトといった要素で,見え方の違いに注目するよう促された。
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手帳の見え方は,DLSS 4の超解像処理によって陰影がはっきりしたことで,手帳に書いてある文様が,まるで視力が上がったかのようなくっきりとした見た目になる。
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雲のほうは,レイマーチングによるボリュメトリックレンダリングによる描画なのかは不明だが,ネイティブ4Kでは,時間方向にチラ付きが出る。それがDLSS 4版では安定して,チラつきも見えない。右に見える魔法の杖の放電が,分かりやすいポイントである。放電エフェクトが,時間方向に途切れたりつながったりする破線のように見えるのがネイティブ4Kで,DLSS 4のほうは,力強い実線的な表現になっていた。
次のデモは,AVOWEDによるDLSS 4とDLSS 3の比較となる。
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DLSS 3の超解像処理やアンチエイリアス処理は,現状でも十分美しいので,見比べはとても難しいと思った。だが,それぞれを見比べると,DLSS 3ではジャギーとチラツキがでるような部分が目に付く。それがDLSS 4になると,同じ部分でも美しくアンチエイリアス処理を施しており,チラツキやジャギーはなりを潜めていた。たしかにDLSS 4では,超解像処理の品質がさらに上がっているようだ。
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Reflex 2のInpaint技術のからくり
NVIDIAブースでは,ゲームタイトル「The Finals」を用いて,Reflex 2の効果を,従来版の「NVIDIA Reflex」(以下,Reflex 1)との比較で示すデモも披露されていた。
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Reflex 2では,タイムワープ処理を使って,視点が移動し続けた場合に生じる遅延を隠蔽するために,最新の描画フレームをスクロール表示する仕組みがある。ただ,単純に描画フレームをスクロールさせると,何も描画されない映像外領域が生じてしまうので,それをどう補間して不自然に見えないようにするがポイントになってくる。この映像外領域の補間を,「Inpaint」技術と呼ぶ。
筆者は,GeForce RTX 50シリーズの解説記事で「過去フレームやその深度情報などを活用して,スクロールアウトした映像外領域の映像を推測して算術合成する。そして,合成映像で映像外領域を塗りつぶす」と述べた。
この説明でも使ったスライドをもとに説明しよう。
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スライド中央に並んでいる画面内にいる敵キャラクターの周囲(シルエット付近)に白で示された映像外領域は,過去フレームの情報から合成して埋める。一方で,画面右端のチェッカーボードで表されている領域は,フレームの描画範囲外,いわば画面外から現れる領域だ。算術的な過去フレーム参照だけでは,補間フレームを生成できないように思える。
これについて,ブースでNVIDIAの担当者に聞いてみたところ,画面外からスクロールインしてくる領域については,「画面外部の映像外領域については,ちゃんとまじめにGPUで実際に描画している。AIの推測ではない」とのことだった。おそらく実際には,視点の移動速度や移動方向に配慮して,映像フレームを少しだけ大きめに描画することで,スクロールさせても映像外領域にならないようにしているのだと思われる。
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NVIDIAのGDC 2025特設Webページ(英語)
4Gamerの「GDC 2025」記事一覧
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