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「AI PC」を強く打ち出す2024年のIntel。2024年内登場の次世代CPUは「Arrow Lake」と「Lunar Lake」の2本立てに
2023年に同社は,デスクトップPC向け第14世代Coreプロセッサを10月に,同年12月にはノートPC向けの新アーキテクチャCPU「Core Ultra」シリーズを発表済みだ。
今回は,それ以外のCPUが発表となったのだが,イベントでは各モデルの紹介や解説ではなく,2024年におけるIntelのクライアントCPU戦略が主なテーマであった。そこで本稿では,2024年のIntelのCPU戦略を整理するとともに,イベントのタイミングで発表となったCPU群のラインナップを整理したい。
「AI PC」ブランドを訴求していくIntel
「競合(AMD)の同等性能CPUに対して,同じ性能を発揮する場合の消費電力は79%も少ない」ことや,「GPU性能は,これまでのCoreプロセッサ内蔵に対して2倍も高性能になった」といったことをアピール。とくに電力あたり性能については,大きな自信を見せており,Core Ultraで搭載される低消費電力版の高効率コア「LP E-core」とメディアエンジン(ビデオプロセッサ)だけで動画を再生できることをアピールするために,Holthaus氏はかなりユニークな論法を展開した。
「2023年,アメリカ在住の皆さんは,300億時間,Netflixを見たとされている。この時間のNetflix視聴体験を,もし前世代Coreプロセッサ搭載機ではなく,新しいCore Ultraプロセッサ搭載機で見るとしたら,今年は約1600軒分のアメリカにおける一般的家庭の年間消費電力分を節約できる。素晴らしいと思いませんか?」(Holthaus氏)というのだ。
聞きようによっては,Coreプロセッサが電気を喰いすぎているような印象も与えかねない例え話だが,いずれにせよ,Core Ultraプロセッサはとにかく電力効率がいいようである。
また,Intelが推進する「リモートワーク時代に求められる新しいPCの機能セット(プラットフォーム)」である「Intel vPro」対応製品や,現在のPCに求められる機能と性能をIntelが「お墨付き」の形でプロデュースした「Intel Evo」は,これまで従来のCoreプロセッサブランドで展開してきたが,2024年以降は,Core Ultraが担うことも発表された。
Holthaus氏によると,2024年には750機種に上る新しいPCがAcerやASUSTeK Computer,Dell,HP,Samsung Electronics,そしてMicrosoftから登場するそうだ。
ただし,それらが搭載するプロセッサは,Core Ultraオンリー……ではなく,第14世代Coreプロセッサを搭載した製品も含まれる。とくに,単体GPUを搭載する高性能なゲーマー向けノートPCやデスクトップPCにおいては,第14世代Coreプロセッサを訴求しなければならず,Intelの推進する「AI PCへの移行」を全面的にアピールできないもどかしさがまだある。
カンファレンスの後半でHolthaus氏は,2024年後半にIntelが投入する予定の製品について語った。
それによると,デスクトップPCや高性能なゲーマー向けPC向けには,性能重視の新型プロセッサ「Arrow Lake」(開発コードネーム)を開発中で,同時に次世代のノートPC向けプロセッサ「Lunar Lake」(開発コードネーム)の開発も進められているという。
Arrow Lakeは,Core Ultra系列のデスクトップPC版とも言うべきもので,Intelが推進する「AI PC」構想をデスクトップPCにもたらす存在として,強く訴求されている。Holthaus氏も,Arrow LakeがNPUを搭載することを強調していた。
業界情報筋によれば,Arrow Lakeも,ベースダイを介して複数のチップレットを組み合わせるFoveros技術ベースで製造され,主役たるCompute Tile(CPUダイ)の製造には,Meteor Lakeで採用したIntel 4とは異なる製造プロセスが用いられるのではないかと推測されている。TSMC 3nmを用いるのではないかと言われているが,はたしてどうなるだろうか。
Arrow LakeのCPU構成は不明だが,いずれにせよ,現行Core Ultraの最大16コア22スレッドは上回ると思われる。また,統合型GPUも,これまでのCoreプロセッサが採用していた「Iris Xe Graphics」から「Intel Arc Graphics」ベースのものに刷新されることだろう。
登場は2024年内とのことだが,2023年におけるCore Ultraの登場タイミングを踏まえれば,2024年暮れ近くと見るのが自然だろうか。
ゲームノートPC向けの第14世代Coreプロセッサ「HX」シリーズ
最後に,1月に発表となったIntelの新CPUラインナップについて整理しておこう。まずは,高性能ノートPCやゲームノートPC向けの第14世代Coreプロセッサ(開発コードネーム Raptor Lake Refresh)のHXシリーズから。
2023年10月に登場したデスクトップPC向け第14世代Coreプロセッサ(関連記事)と同様に,第14世代Core HXシリーズも,基本的には第13世代Coreプロセッサの動作クロック微増+小改良版という位置づけになる。最上位モデルの「Core i9-14900HX」の場合,P-coreの最大クロックが5.8GHzに達しており,ノートPC向けCPUとしては業界最高クロックだとのこと。
性能微増が,第14世代Core HXシリーズの分かりやすい特徴ではあるが,プラットフォームとして見た場合,いくつかの点で第13世代Coreにはない特徴もある。
ひとつは,高速データ通信規格「Thunderbolt 5」に対応し,最大120Gbpsの伝送(Tx)モードに対応している点。2つめは,Wi-Fi 7やBluetooth 5.4といった新世代の無線技術に対応している点だ。
また地味ながら,最大メモリ容量が128GBから192GBに増えたことも,第14世代Core HXシリーズのウリのひとつと言えるかもしれない。
Intelが公開した性能比較グラフには,「Ryzen 9 7945HX3D」および「Ryzen 9 7945HX」の結果が盛り込まれているので,今回のHXシリーズは,これらを仮想敵としていることが分かる。
K SKU以外のデスクトップPC向け第14世代Coreプロセッサも登場
2023年に登場したデスクトップPC向け第14世代Coreプロセッサは,クロック倍率のロックがない,いわゆる「K」SKUの製品だった。1月には,それに加わるラインナップとして,クロック倍率がロックされた“無印”モデルのTDP(Thermal Design Power,
これらも,第13世代Coreプロセッサの性能微増版といった位置付けで,最大メモリ容量も192GBに増えている。
K/KSモデルの第14世代Coreプロセッサと同様に,パッケージは「LGA1700」のままで変更はなく,チップセットも第12世代Coreプロセッサ以降に登場したIntel 700/600型番のものに対応する。既存の600番台マザーボードのBIOSをアップデートすれば,CPUだけを交換するアップグレードが可能ということになる。
新しい命名規則のUシリーズ。その実態はリネーム?
薄型軽量のモバイルノートPC向けの「U」シリーズは,2024年モデルから,「Core i」の「i」が取れた新しい命名規則に変わる。ただし,CPUのグレードを表す「7/5/3」の数字はそのままで,慣れるまで混乱しそうだ。
Intelは,今回発表となったU系プロセッサを「Core Uシリーズ」と呼んでいる。
Core Uシリーズのラインナップは以下のとおり。
名称こそ目新しいが,ここまで取り上げてきた第14世代Coreプロセッサとは異なり,ダイ自体は,第13世代Coreプロセッサそのものだ。つまり,今回発表となったCore Uシリーズは,事実上のリネーム品ということになる。
「Core 7 150U」は「Core i7-1365U」,「Core 5 120U」は「Core i5-1355U」,「Core 3 100U」は「Core i3-1315U」のリネーム品のようだが,Core 7 150UとCore 3 100Uは,P-core最大クロックが200MHzほど高くなった。
この名称変更は,Intelが今後,全力を注いで訴求していくCore Ultraシリーズと,既存のCoreプロセッサを差別化したいという思惑があるのだろう。おそらく,この領域の本命は,Lunar Lake系になるはずだ。
Intel 公式Webサイト
- 関連タイトル:
Intel Core Ultra(Meteor Lake)
- 関連タイトル:
第14世代Core(Raptor Lake Refresh)
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