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東京レトロゲームショウ2016:第38回 連続殺人事件の謎を追う「Still Life」で,真冬なのにゾクッとしてみよう
今週の「東京レトロゲームショウ2016」は,2005年に発売されたポイント&クリック型のアドベンチャーゲーム,「Still Life」を紹介しよう。ゲームを作ったのはフランスのMicroïdsで,個人的には,2002年にリリースされた「Syberia」のスマッシュヒットから,アドベンチャーゲームをメインに作ってきたメーカーという印象だった。とはいえ,改めて調べたところ,実はアクションからFPS,ストラテジーまで,さまざまなジャンルのタイトルを量産してきた会社であり,筆者の印象がいかにあてにならないかがよく分かるはずだ。
Steam「Still Life」紹介ページ
ちなみに筆者は10年前,自分でも理由は分からないのだが,海外産のアドベンチャーゲームが好きで,ショップでMicroïdsの名前を見かけると,つい手に取ってしまった記憶がある。アドベンチャーゲームはお値段がちょっと安かった,というのもあったのかもしれないが,この「Still Life」もそんな,何気なしに買った1本だった。
本作のテーマは,「連続猟奇殺人事件」だ。そのため,グロっぽい場面もあり,また会話にも頻繁にFワードが出てくるという,かなりの大人向け仕様の作品になっている。北米のレーティング,ESRBでMature(18歳以上対象)に指定されているのも無理もない話だ。
物語の舞台になるのは風の街,シカゴで,主人公はFBIシカゴ支局のエージェント,ビクトリア・マクファーソン。凍てつく冬の寒さに襲われた市内では,おりしも凶悪な連続殺人事件が発生している。被害者はいずれも女性で,すさまじい暴行を受けたあと,内臓を摘出されるという点が共通しており,ビクトリアはその事件の捜査を担当しているのだ。しかし,進展ははかばかしくない。今夜,5人めの被害者が発見され,急いで現場に駆けつけた彼女だったが,例によって手がかりはほとんどない状況だ。誰が,なんのために,こんなことを繰り返すのか?
精神的に追い詰められた彼女は,クリスマスということで郊外にある父の家に帰った。実家は立派なお屋敷で,そういえばビクトリアも社用車ではなく,戦車のような自前の4×4を乗り回しているので,たぶんお金持ちだ。うらやましい。
それはともかく,家に帰った彼女は屋根裏部屋で,祖父のトランクの奥深くにしまってあったノートを見つける。今は亡き祖父,グスタフ(ガス)・マクファーソンは若い頃,ヨーロッパを放浪しており,本業は売れない画家だが,探偵として活躍したという過去を持っている。そんな祖父のノートを見て,ビクトリアは驚愕する。
そこには,1920年代にプラハで起きた殺人事件の顛末が書かれていたのだが,その事件は70年の時を経て,ビクトリアが直面している事件に瓜二つだったのだ。
そんなガスは,事件現場で,そこで起きたことを“ビジョン”として見るという特技を持っていて,それが探偵仕事に役立っていたりするのだが,残念ながら孫娘には遺伝していない模様だ。
ゲームシステムは冒頭にも書いたようにポイント&クリック式で,2Dの画面を背景に3Dのキャラクターが移動し,手がかりや証拠品のあるところではカーソルの形が自動的に変わって教えてくれる仕掛けだ。アドベンチャーでは会話が重要になるが,本作の場合,会話の選択肢さえなく,マウスをクリックしていけば自動的に話が進み,飛ばしていい会話は飛ばせるというシンプルなものになっている。
グラフィックスは800×600ドット固定だが,緻密に描き込まれた背景は,例えば陰鬱なプラハの街並みや荒れ果てたシカゴの事件現場,そしてビクトリアの恋人が経営するギャラリーのモダンな雰囲気など,非常にいい感じだ。FBIのシカゴ支局って,こんなにおしゃれなのだろうか。
会話システムがシンプルで,パズルも最初のうちはそれほど難しくないので,この手のアドベンチャーゲームに慣れた人なら,ゲームは比較的サクサク進むはずだ。とはいえ,ゲーム後半に向かうにつれて,パズルの頻度と難度は上がっていく。しかも,苦労して解いた割には物語がたいして進展しない,ということも少なくなく,そのへんのバランスはやや悪いかもしれない。「詩」というか,判じ物のような手がかりが与えられるパズルもあり,英語が分かれば簡単なのかもしれないが,日本人にはちょっとつらかったりする。
もっとも,欧米にはパズルの難度にこだわるアドベンチャーファンも多いと聞くので,仕方ない。あきらめて,トライアル&エラーを繰り返しつつがんばってみよう。あまり大きな声では言えないが,リリースされてからそれなりに時間が経っているので,攻略サイトは割と充実している。
約10年前にプレイしたときは,結構熱中してやり込み,充実した時間を過ごした記憶がある。竹を割ったような性格で行動的なビクトリアは魅力的で,筆者はファンになったし,物語にもググっと引き込まれた。とはいえ,なにしろメインテーマが連続猟奇殺人と,相当にキワモノなので,いずれ忘れられてしまう作品だろうとも思っていた。
ところが現在,あちこち調べてみると,「アドベンチャー名作選」みたいなリストには必ず顔を出す,それなりに高い評価を受けたゲームとして認知されているのが分かる。知らなかった。名作10選には入らないかもしれないが,名作20選なら入ってくる,そんな立ち位置のゲームであるようだ。
ガスとビクトリア,それぞれが犯人を追ううち,やがて,70年の時を隔てた事件が1つに収斂していく。新たな人物が次々に出てくるが,だんだん,誰も彼もが怪しく見えてくる。捜査を妨害しようとする者もいるようだが,それはなぜなのか? 犯人はプラハ事件のコピーキャット(模倣犯)なのか? それとも偶然の一致なのか? 興味のある人は,ぜひお試しを。
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