今週のテーマ:特殊スーツを着たヒゲの男がバールを持って仁王立ち
「パールライス」はお米だが,
「ハーフライフ」は1998年にValveから発売されてファンやメディアの高い評価を獲得した名作FPSだ。プレイヤーは,ニューメキシコ州にある研究施設,
ブラックメサの無口な研究者
ゴードン・フリーマン博士となり,不気味な異世界のクリーチャーなどを相手に,生き残りをかけて戦っていく。
そんな「ハーフライフ」は,海外メディアがたまにやる「ファンなら必ずプレイしておきたいFPS:ベスト10」といった企画記事に,必ずといっていいほど顔を出すタイトルだ。とはいえ,筆者は
「ハーフライフ2」(2004年)をプレイした経験はあるものの,「ハーフライフ」は初めてなの♡
「ハーフライフ2」の冒頭は,主人公のゴードンが陰鬱なシティ17に列車で到着するところから始まる。しかし,最初に出てくるヘンな英語を話す
顔色の悪いおじさんが誰なのか,主人公がどういう境遇にいるのか,そしてシティ17をはじめ,世界がどんな状況に陥っているかといった説明はまったくない。にも関わらず,
アリックスや
バンス博士,
バーニィなどの主要キャラクターはこちらをよく知っており,それどころか英雄として讃えてくるので,誉められた筆者はたいへん嬉しかったが,同時に当惑もした。あなた達,どなた?
筆者の隣の編集者もよく分からないと言っているので,おそらく,そういう「ハーフライフ2」プレイヤーはたくさんいるはずだ。そんな人々にとってこの「ハーフライフ」は壮大な前日譚であるといえるだろう。強引だけど。
ブラックメサ研究所で行われていた実験は,壮絶に失敗する。なんとなく,ゴードンがある特殊な物質を乱暴に扱ったからこうなったような気がしないでもない
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「ハーフライフ」がなぜプレイヤーの印象に残る作品になったのかといえば,それは,
「ドラマチックなストーリー展開」や
「映画的な演出」にあるとされている。言われてみれば,そうかもしれない。なにしろ洋ゲーといえば,同梱されているマニュアルというかペラ紙に「キミは正義の味方の○○! さあ,××をやっつけろ! 操作方法は……」という感じで,必要最低限のことしか書いてないのが普通だった時代(個人の印象です)。自慢じゃないが,
「DOOM」(1993年)の舞台が火星の衛星だったことは最近知ったし,なんで地獄の門がうっかり開いてしまったのかはいまだに謎だ。正直な話,気にならなかったけど。ガンガン撃って,ガンガン倒して,ガンガン進んでいくのが面白かったわけで,設定やストーリーなどは二の次だった。
突如として出現した異次元のクリーチャーにより,研究所内は阿鼻叫喚の地獄に
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そんなところへ,大人も十分に納得できる物語を持ったFPSが登場し,「面白い」と話題になったということだ。今では,相当複雑なストーリーのFPSも普通。派手なカットシーンや,表情までリアルに再現されたキャラクターの演技などで説得力のある物語を紡ぎ出すことができるが,当時としては斬新だったということなのだろう。もっとも,最近の欧米のFPSプレイヤーは,「ストーリーとか,別にどうでもいいっス」とシングルプレイを遊ばず,マルチプレイばかりやっているという話もあり,ぐるっと一周した感じもあるが,そんな中でも,
「BioShock」や
「Wolfenstein: The New Order」など,シングルプレイのみのタイトルが突発的にヒットしたりもしており,書いているほうもだんだん収拾がつかなくなってきたのでもうやめる。
シ○ラー! 後ろ後ろ! まさに映画的表現
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ともあれ,ブラックメサではと
ある特殊な物質を対象とした実験が行われていた。ゴードンもそれに参加していたのだが,予想どおりというかなんというか,実験は壮絶に失敗し,異世界のクリーチャーがこちらの世界に侵攻を開始してしまう。
ゴードンのトレードマークともいえる,「HEVスーツ」
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「HEVスーツ」という実験用特殊装備を身につけていたため,からくも生き残ることができたゴードンは,クリーチャーを倒しつつ崩壊した研究所からの脱出を目指すことになるが,敵はクリーチャーだけではない。証拠隠滅のために派遣されてきたアメリカ海兵隊もゴードンを攻撃してくるうえ,よく分からない暗殺者の一団も出現して,もうてんやわんや。
ちなみに,HEVスーツの胸元にあるマークは漢字の「入(る)」ではなく,放射性同位体の半減期(つまりハーフライフ)を計算するのに使われる崩壊定数“λ”(ラムダ)であるということは知っているので安心してほしい。
敵は異世界のクリーチャーだけではない
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研究者であるゴードンは,もちろん最初は武器を持ってないので,拾った
バールで敵を倒していく。今や「ハーフライフ」シリーズを代表するアイテムとも呼べるバールだが,なぜそういう風に言われるのかは,ちょっと分からない。使ってみても,すごく役に立つわけでもないし。
最低でもナイフぐらい持っているFPSで工具を使うところが新鮮だったのかもしれないし,戦隊モノに出てきそうなスーツを着たヒゲのおじさんがバールを持って仁王立ち,という図のインパクトが大きかったのかもしれない。まあ,なんでも,いいですけど。
ドラム缶を見つけたバール男が,意味なくガンガン叩いているところ。そんなゴードンだが,実はマサチューセッツ工科大学卒の理論物理学者だ
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分かりにくいかもしれないが,海兵隊の一団がヘリコプターでやってきた。ゴードンは割と撃たれ弱いので,何度もプレイしてダンドリを覚えていく必要があり,そのへんが洋ゲーっぽいかなーって
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ブラックメサの警備員や科学者。主としてハードウェア的な理由から,似た顔の人が多いようだ
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「ハーフライフ2」と同様,「ハーフライフ」にもカットシーンは用意されておらず,物語はほかのキャラクターとの(あるいはほかのキャラクター同士の)会話によって進んでいく。また,警備員や研究者など,ほかのキャラクターに声をかけて,連れて歩くことも可能だ。ゴードンでは開けられないドアを,研究者が網膜スキャナで開けてくれたりするし,警備員は戦闘に参加してくれて便利だが,たまに思ったように動いてくれないこともあるので,用が済んだら放っておくのもありだ。諸君,元気で生き延びろよ。
そんな「ハーフライフ」は現在,Valveのオンラインゲーム配信システム「Steam」で入手可能だ。オリジナル版では,Quakeエンジンが使われていたが,発売中の
「Half-Life: Source」では,タイトルどおり,エンジンがSourceに切り替えられているため,グラフィックスもオリジナル版よりは多少,良くなっているようだ。
物語の鍵を握る(らしい)謎のおじさん。名前はG-Man。いたるところでその姿を見ることができる
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こちらは「ハーフライフ2」のG-Man。ポリゴンが増えてテクスチャも良くなったが,相変わらず謎だ
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ただ,Sourceエンジンを使ったゲームには妙な慣性が付いており,例えば崖っぷちで止まれずにそのまま落下した,といったことがしばしば起きるので注意が必要だ。とくに「ハーフライフ」では,高低差の激しいマップが非常に多いので,敵は倒したけど,足を滑らせて死亡,みたいなことが割と起きて悔しい思いをする。ハシゴの上り下りにもクセがあるので,ゲームに用意された
「トレーニングルーム」で操作を覚えておくのがいいだろう。
あとSourceは,「3D酔いを起こしやすいエンジン」とも言われているが,個人的に平気なゲームも少なくなく,これはタイトルによる違いが大きい部分だと思う。
さあ,果たしてゴードンはこの破壊的状況を乗り切ることができるのか? ときどき姿を見せる顔色の悪いおじさんの正体は? そして,XENとはなんなのか? 詳細はあなたの目で確認してほしい。ところで,
「ハーフライフ2」のエピソード3は,どうなってるんですか。ねえねえ。