今週のテーマ:FPSの歴史の影にひっそりとたたずむ伝説の忍者マスター
生まれて初めての“3D酔い”がイヤというほど堪能できた「Wolfenstein 3D」
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欧米ゲーム市場の中心的ジャンルである
FPS(ファーストパーソンシューター)。一般的にFPSのゲームシステムを確立したのは,idSoftwareが1992年に発売した
「Wolfenstein 3D」だといわれている。ナチスが謎の生体実験を行っているという古城に潜入したアメリカ軍兵士の活躍を描く同作は,のちにさまざまな機種に移植されるほどのヒット作となった。そして,そのヒットを受けたidSoftwareは,欧米ゲーム史上のエポックとなった
「DOOM」(1993年)と
「Doom II: Hell on Earth」(1994年)を立て続けにリリースし,巨大なジャンルの礎を築いたのだ。
「DOOM II」。画像は2010年に配信されたXbox 360版(関連記事)
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しかし,1つのジャンルが作り上げられるには,それだけでは足りない。誰かがそれを真似しなければならないのだ。例えば,H・G・ウェルズの「宇宙戦争」のヒットを見て,誰かが同じような内容の小説を書き,たぶん英国紳士に
「宇宙戦争の真似じゃん!」とか言われながらも,そうした作品が増えていくことで,
侵略モノSFというジャンルが確立したと考えている筆者なのだが,そのへん,どうですかね?
余談ながら,最新作「DOOM」の詳細がE3 2015で発表される予定だ(関連記事)
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最初の「DOOMそっくりさん」がなんだったのか,ちょっと調べがつかなかったが,FPSなどというシャレた言葉もなかった当時,ゲーム雑誌で働いていた筆者は次々に出てくる「DOOM」の亜流を紹介するとき,原稿に「ゲームシステムは,DOOMと同じ」などと書いていたような記憶がある。懐かしい。
つまらない前置きが長すぎたのでそろそろ本題に入るが,先週スタートした超人気連載
「東京レトロゲームショウ2015」で今回取り上げるのは,いきなりの洋ゲー
「Shadow Warrior」だ。
「Duke Nukem 3D」。カウアーバンガー!
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「Shadow Warrior」を開発した3D Realmsは,1993年に発売されたFPS
「Duke Nukem 3D」が最もよく知られるメーカーで,そんな彼らが「Duke Nukem 3D」のヒットを受けて,1997年にリリースしたのが「Shadow Warrior」になる。idSoftwareの「Quake」と同年に登場した「Duke Nukem 3D」は,いうまでもなくDOOMクローンの1つだったのだが,キャラクター設定やストーリー展開などに「お笑い」「おふざけ」の要素をたっぷり含むことで強い個性を発揮していた。
そんな前作の成功を受けての新作であるため,
「Shadow Warrior」も妙なテイスト満載の,忘れられない作品に仕上がっているのだ。
鏡に映った主人公のロー・ワン。忍術の奥義を知り尽くした最強の忍者だが,忍法は使わず,もっぱら銃と剣で戦う
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主人公は日本の忍者マスター,
ロー・ワンで,アメリカ人はどうなのか分からないが,日本人ならここで「日本人の名前じゃなくない?」という最初のツッコミを入れるはずだ。忍者のマスターである彼の姿は,上半身裸でタトゥー入れまくりの老人というもので,ゲーム開始後,部屋の鏡で自分の姿を初めて見た日本人プレイヤーはのけぞったという。私のことですけど。
そんなワンが働いているのは,
ジラ・エンタープライゼスという日本の巨大企業で,ワンは会社のため日夜,暗殺や謀略などを行っている。ご存じのように,日本の大手企業はどこでも,そんな忍者を雇っているものだ。
ちなみにジラの社旗には
「神Zilla Enterprises」と書いてあり,無理に英語で読むと“ゴッドジラ”という世界的に有名な巨大生物の名前を思い出させるものになる。これもまた,「神」がGodを意味するということを知っている漢字圏の人しか分からないという気がしないでもないけど,どうなのだろうか。
そんなワンはある日,ジラ・エンタープライゼスのCEOである
マスター・ジラが異世界のクリーチャーを使って日本を征服しようと企んでいることを知って職を辞するのだが,ワンの力を恐れたマスター・ジラはワンを亡き者にするため,次々と刺客を送り込むというのがゲームの設定だ。クライマックスの決戦は,富士山に作られた秘密基地を舞台に行われる。もっとも,当時のFPSはたいていそうだったが,ストーリーを説明するカットシーンなどはなく,どういう物語なのか知らなくてもゲーム進行に差し支えないという親切設計になっている。
そんなワンはゲーム中,日本語らしい日本語を話さないが,「Duke Nukem 3D」の主人公
Duke Nukemと同様,笑えない冗談を飛ばしては自分でガハハと笑うタイプだ。リアルタイムで本作を遊んだ筆者は当時,知らなかったけど,こうしたキャラクター造形やゲーム設定についてはさすがに「やりすぎではないか」という批判もあったらしい。個人的には,ここまでファンタスティックにぶっ飛んでいると,もはや気にならないですが。
刀で敵を切り刻む。一見するとそうは思えないが,当時はかなりバイオレントな場面だった
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ゲームシステムは,次々に出てくる敵を銃でバリバリ撃ったり刀でザクザク切ったりして倒していき,敵の攻撃を受けて体力が減ったら,そのへんに落ちているヘルスパックを拾って復活。武器はあらかじめいくつか持っているが,ゲームが進むにつれ,敵が落としたり隠してあったりしたものを手に入れることで,次第にバリエーションが増えていく。弾丸類はマップのあちこちに落ちており,以上,全体的に当時のFPSそのものだ。
マップは広からず狭からずで,基本的に攻略ルートがあらかじめ決定されている一本道構造だが,A地点からB地点に行くより,B地点からA地点に戻ったほうが攻略が楽,といった程度の自由度は存在している。スイッチなどを押して,遠く離れた場所にあるドアを開けるなどのパズル要素もあるが,全然難しくない……といいながら,どこへも行けなくなった筆者が攻略ムービーを頻繁にチラ見したというのはここだけの秘密にしてほしい。
「少し村」という妙な名前の小さな村では,かなり迷った。
最初のほうは,たまに出てくる日本語の看板や,似せようと頑張っている日本風マップなどが興味深いが,作っているほうも疲れてきたのか,中盤以降は無国籍な雰囲気になり,敵クリーチャーの種類もそれほど多くはないという印象だ。
だいたいそんな感じだけど,どう? 遊びたくなってきた? 筆者はかつて,すっかりハマッて何周もしたのだが,どこがそんなに面白かったのかと18年ぶりに考えてみると,まずはFPSというシステムそのものが魔術のように魅力的だったことが挙げられる。フライトシムやアドベンチャーばかりだった海外ゲーム界に突如として出現した新ジャンル,FPS。うわー新しい。そんな新しいモノを遊んでいるオレもカッコいい,という感じかしらね。うふふ。
さらに,「Wolfenstein 3D」の5年後に登場したタイトルだけあり,「DOOM」「DOOM II」などの疑似3Dに比べて,グラフィックスレベルが向上していたこともポイントが高い。まあ,現在の視点で見れば「しょぼい」としか言えないグラフィックスだが,上下の概念があったり,マウスにも対応していたりなど,先進的なシステムも持っていたようだ。さらに,シリアスなものだというイメージの強かったFPSに(あまり笑えないけど)お笑い要素を混ぜ込んだ,おそらくバカゲーFPSとしては「Duke Nukem 3D」に続く史上二番めの作品であるところも憎い。
微妙に読めない漢字や,アニメのポスター,そして京都タワーの写真に添えられた「大阪」の文字。日本語の分かる人だけのお楽しみかもしれない
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「Shadow Warrior」が海外でどのくらい売れたのかは,残念ながらよく分からない。追加コンテンツが2つほどリリースされたものの,続編が作られることもなく,いつしかデベロッパの3D Realmsも表舞台から姿を消してしまった。ちなみに,1996年から制作中と言われていた
「Duke Nukem Forever」は紆余曲折を経て,15年後の2011年,Gearbox Softwareからようやくリリースされた。とはいえ,「Duke Nukem」シリーズの権利問題は,相変わらずすったもんだしているようだ。
「Duke Nukem」がこの有様なのだから,「Shadow Warrior」の復活など,まったく期待できないと思っていたのだが,2013年,突如として
リメイク作がポーランドのゲームメーカー,Flying Wild Hogからリリースされたのだから,世の中,捨てたものじゃない。筆者と同様,あの作品が忘れられないという人がポーランドにもいたのだろう。気持ちは分かる。
(左)鼻歌を歌いながら滝で体を洗う謎の少女が,とくに理由もなく登場する。このほかにも,隠しキャラ多数。(右)は,2013年にリリースされたリメイク版の画像。こんなところまでリメイクしなくても
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本作は,ポーランドのCD Projektが運営するダウンロードサイト
「GOG.com」のほか,おなじみの
「Steam」で入手可能だ。Steamでは,当時のままのバージョンが
「Shadow Warrior Classic」という名称で
無料プレイできるほか,リマスター版の
「Shadow Warrior Classic Redux」が購入可能になっており,そちらは,いろいろな設定が現代風になっているので,より簡単にプレイできる。記事に掲載したスクリーンショットは,リマスター版で撮影したものだ。というわけで,興味のある人はぜひ試してみよう。