インタビュー
「ファイアーエムブレム」のこれまでとこれから。ファミコン時代の開発秘話から最新作「ファイアーエムブレムif」までを制作陣に聞く
やられたら生き返らないユニットと,
滅びの美学
4Gamer:
FEといえば,やられたユニットが基本的には生き返ってこない,“ロスト”が衝撃的だったのを覚えています。私自身も,ユニットがやられるのがいやで,誰一人倒されないように頑張ってクリアするという遊びにも挑戦しました。
成広氏:
いわゆる“パーフェクトプレイ”ですね。実はもともと,想定していない遊び方ではあるんです。
4Gamer:
えっ,そうなんですか!?
成広氏:
多くのユニットが仲間になるのは,途中でミスをして失ってもいいように,という理由からなんです。誰一人倒されないことを目指すと難度もグンと跳ね上がりますし。
山上氏:
何人かのユニットを失うことを許容すれば,そこそこの難度でゲームを進められるんです。それは分かっているんですが,誰かを失うのがいやだという感覚は,テストプレイの段階から芽生えていましたね。
樋口氏:
仲間にしたユニットを使うか否かは別として,ロストするというのはいやなものですよね。
成広氏:
……遊ぶ人はそう考えるだろうな,というのは分かりつつ,いろいろなことが起きるのを含めて,失うことを受け入れてもらいたいというか。
シリーズでは特定ユニットのロストが出現条件になっているユニットもいますが,これは滅びの美学的な部分を受け入れてほしいと試行錯誤していたからなんです。覚醒では,そうしたユニットもいませんが。
樋口氏:
倒された仲間がロストせず,次の面で復活する「カジュアルモード」も今のFEにはあります。最初のうちは抵抗がありましたが,このモードがあるから遊んでみようと思われた方もいらっしゃいますし,今は導入して良かったと思っています。
山上氏:
仲間を守りたいと思ったら,プレイするときに緊張しますよね。緊張するからこそ愛情が芽生えて,愛情があるから,また仲間を守りたくなる。そんな適度な緊張感という意味において,失われたユニットが帰ってこないという設定は,ゲームというものが成長する時代とマッチしていたんじゃないかとも思っています。
4Gamer:
確かに,失ったときの影響が大きいことを分かっているからこそ,仲間を守るのに必死になるんですよね。
使うユニットを変えることで,それまでとは違った面白さが見えてくるという面もありますね。作り手としてはいろいろなユニットを使ってほしいので,難度を上げてみたり,誰かがロストしていないと出現しないユニットを設定してみたりしているんです。
遊び手としては,この先どんな強敵が出てくるか分からないわけですし,ユニットに感情移入もしているので失いたくないのも理解しています。それでもあえてこうした仕組みにしたことで,作り手を意地悪だと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが,いろいろなユニットを使ってほしいからなんだという理由をご理解いただけると,ゲームがまた面白くなるんじゃないかと思います。
4Gamer:
諸行無常といいますか,進んでいくときには悲しいこともあるけれど,それでも頑張っていこうという感じは貫かれていますよね。こうした作り方の源流には,どんな狙いがあるんでしょう?
成広氏:
「いろいろなことがあるけど,生きていこうよ」ということですね。シリーズにはさまざまな国が登場しますが,未来へ向けての生命力を持った人々が描かれていますし。これまで開発に携わってくれたスタッフ達も,こうした感覚を持っていたんだと思います。
4Gamer:
ユニットの話題ということでお聞きしたいんですが,これまでシリーズを開発してきて,思い出深いユニットはいますか?
成広氏:
ゲームの機能的なところでは弓が好きなんです。初代作のゴードンとか,「ファイアーエムブレム 烈火の剣」(以下,烈火)のリン(※)とか。ボウナイトのように馬に乗せるのではなく,スナイパーのような純粋な弓系に育てたくなるんです。
キャラクター的な部分では「ファイアーエムブレム トラキア776」のホメロス(※)のように,女性ファンには嫌われそうなユニットもちょっと好きです。
※リン
「ファイアーエムブレム 烈火の剣」における,2人の主人公の1人。剣と弓を装備できる。
※ホメロス
「ファイアーエムブレム トラキア776」に登場するユニット。美青年のバード(吟遊詩人)で女好き。
樋口氏:
僕にとってはどのユニットも愛着がありますね。強いて挙げるなら,個人的にはオジサン過ぎないオジサンというか泥臭そうなキャラクターが好きなので,「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」のベオウルフ(※)や,覚醒のグレゴ(※)などがお気に入りです。
※ベオウルフ
「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」に登場するユニット。傭兵部隊の一人であるフリーナイト。
※グレゴ
「ファイアーエムブレム 覚醒」に登場するユニット。自軍の中では年かさな方。
山上氏:
初代作を遊んだときに,飛行系がやたらと弓に弱かったところが強烈に印象に残ってます(笑)。
弓は隣り合ったユニットに攻撃できなかったり,移動力が低かったりといったクセがあるので,こうした兵種を使うときのメリットを持たせたかったんですよ。また,戦線が膠着状態になった時に突破しやすいようにという配慮なんですね。
山上氏:
シーダ(※)がすぐにやられるから,余計に印象に残りやすい。死にすぎるんですよ,あの人(笑)。育てようとして,勝負に行くとやられてしまう。育てていくうちに好きになっていくんですが。
※シーダ
初代作に登場するユニット。タリスの王女で,初期クラスはペガサスナイト。ペガサスナイトは弓に弱いため,少しでも突出すると敵の弓に落とされてしまう。カシム,ナバール,ロジャーなど,数多くのユニットと会話して味方に引き入れてくれる。
成広氏:
シーダは……スペシャルですから(笑)。ユニット同士を会話させて仲間を増やすという試みも当時はあまりありませんでしたが,シーダがあそこまで多くの人を仲間に引き入れるようになるとは思っていませんでしたね。
4Gamer:
例えば初代作のリフ(※)のように,ネタ的に愛されているユニットもいますよね。
※リフ
初代作に登場するユニットで,禿頭の僧侶。敵を倒すのではなく,攻撃されることで経験値を得るという仕様で,プレイヤーに強い印象を与えた。リメイク作である「ファイアーエムブレム 紋章の謎」ではなぜか登場しないこともあり,カルトな人気を誇る。
成広氏:
リフについては個人的に特別な思い入れこそないんですが……スタッフの中にはリフLOVEな人が何人かいますね。スーパーファミコン版「ファイアーエムブレム 紋章の謎」の第一部にリフが出てこないことで,いろいろと言われたりもしました(笑)。
山上氏:
システムから作り始めて,キャラクターや世界観はあとから乗っけていくという進め方をしていましたからね。
4Gamer:
そういうことも出てきてしまうと。
成広氏:
実は,ファミコン版を制作していたときは,ここまで続くシリーズになるとは思ってなかったですし。ユニットにしても,ファミコンの少ない情報量の中からいろいろと想像してくれるのは驚きでしたね。意外と情報量が少ないほうがいいのかな? と(笑)。
とはいえ,もっとキャラクターのことを知りたい方もいるだろうということで,現在は「支援会話」というシステムでユニットのいろいろな側面が見えるようにしています(笑)。
山上氏:
僕のようにFEのシステムに惹かれてゲームを遊ぶ方もいらっしゃいますから,支援会話は見たい人が見ればいいという作りにしているんです。
4Gamer:
支援会話を見ることを強制はしていないわけですね。
そう考えると,やはり世界観や人間模様はもちろんですが,ターン制シミュレーションRPGというゲームシステムそのものを重視されているような気がします。
山上氏:
そうですね。ターン制だとじっくりと考える時間が生まれるので,より高度な戦略が生まれますし,ターンごとにもの凄く頭を回転させる。こうした面白さは,ゲームというものの本質的な部分に近いのではないかと思っているんです。だからそこを,現代の方にも楽しんでほしいんです。「昔のおっちゃんたちは,こういうところからスタートしてるんやで!」と(笑)。
シミュレーションRPGの魅力は,
じっくり考えながら遊べるところ
4Gamer:
ちなみに,歴代ハードの中で,とくに印象深いものはありますか?
樋口氏:
どのハードにもそれぞれの挑戦があったので,全て印象深いですね。
成広氏:
それぞれのハードの制約の中でベストを尽くす,ハードの制約と向き合うというのが楽しみでした。制約があるからこそモノが作りやすいんじゃないかと思いますね。
山上氏:
個人的にはGBAですね。シリーズとして初めて,海外市場に挑戦したのが,このハードでしたし。自分自身がプロデューサーとして関わったのもGBAからでした。どうやったら多くの人に遊んでもらえるのかと,悩み続けていました。
4Gamer:
日本市場と海外市場で,ゲームの受け取られ方に違いはありましたか?
やはり海外ではシステムを重視される方が多いようで,最初の頃は「シナリオがなければ良いゲームなのに」なんてことを言われたりもしました(笑)。
物語が長いと次の面になかなか行けないというご意見もありましたので,いろいろと苦心して調整することもありましたね。今はターン制シミュレーションRPGとしての完成度の高さを支持していただけているようです。
樋口氏:
FEシリーズが海外進出したのは烈火が最初なんですが,実はその前作である「ファイアーエムブレム 封印の剣」(以下,封印)でも実験的に海外版を制作していたんですよ。「ストーリーが難しすぎる」ということで発売には至らなかったんですが。
山上氏:
烈火では,封印よりキャラクターをクローズアップした作りになっていました。それが海外市場でも受け入れられるだろうということになったのかもしれませんね。徐々にキャラクターにファンがついて,物語を楽しまれる方も増えていきましたし。
樋口氏:
引っ込み思案系のキャラクターは海外ではあまり良い印象を持たれなかった,という話を聞きました。ただ,最近はこうしたこともなく,人気が出るキャラクターに日本と海外で大きな差はなくなってきています。
海外でも日本のカルチャーが浸透し,またFEシリーズにも若いプレイヤーさんが多くなっているということでしょうか。
山上氏:
突き抜ければ好きになってもらえるんですよ。無理に合わせようとしないで,突き抜けたほうがいい気がします(笑)。
4Gamer:
そろそろお時間ということなので,最後にあらためて,皆さんにとって,シミュレーションRPGの魅力はどこにあるのかを教えてください。
成広氏:
個人的には,ゆっくり遊べること,急かされずに考えられる遊びであるという部分ですね。自分のペースで遊べるという,貴重な遊びだと思っています。
樋口氏:
プレイヤーのそれぞれが自分の力で考え,異なった攻略法を見つけることができ,ゴールしたときに達成感を得られるというのは,シミュレーションRPGの大きな魅力だと思います。
山上氏:
プレイヤーそれぞれのペースに合わせて思考時間が確保されるところですね。誰もが素早く考えられるわけではないですから,ゆっくり考える人でもじっくりと戦略を練ることができる。
シミュレーションRPGの良さって,言い訳ができないところにあると思うんです。じっくり考えて相手にターンを渡すわけですから,しくじったときは全て自分が悪い。つまり,出てきた結果に納得感がある。
ターン制と表現するとピンと来ませんが,時間制限のないオセロや将棋のようなものだと考えるなら,じっくり考えることの魅力が分かっていただけると思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
ここまでは,FEシリーズの歴史を駆け足で振り返ってもらいつつ,FEシリーズの開発陣が,シミュレーションRPGのどこに魅力を感じ,それをどのようにゲームとして組み上げてきたのかを聞いてきた。作り手が何を考えていたのかを踏まえてからシリーズを遊ぶと,また違ったモノが見えてくるのではないだろうか。
次ページからは,最新作となるファイアーエムブレムifに関しての気になるあれこれについて聞いている。続けてお読みいただきたい。
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