レビュー
ASUSのRadeon R9 280X&270Xカスタムモデルを試す
ASUS R9280X-DC2T-3GD5,R9270X-DC2T-2GD5
R9280X-DC2T-3GD5 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) [email protected] メーカー想定売価:4万5000円前後(※2013年10月10日現在) |
R9270X-DC2T-2GD5 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) [email protected] メーカー想定売価:3万円前後(※2013年10月10日現在) |
ただ,その記事において,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)のRadeon R9 280X(以下,R9 280X)搭載カード「R9280X-DC2T-3GD5」は,メーカーレベルのクロックアップモデルであるにも関わらず,時間の都合により,AMDのリファレンスクロックに落とした状態でのテストとなっていた。「カードの実力検証」は宿題になっていたわけだ。
今回4Gamerでは,ASUSから「GPUクーラーを取り外してもよい」という許可付きで,R9280X-DC2T-3GD5を新たに貸し出してもらうことができた。付け加えると,Radeon R9 270X(以下,R9 270X)搭載カード「R9270X-DC2T-2GD5」も同時に入手できたので,今回は日本市場への投入予定があるという,これら2枚の実力を検証していきたいと思う。
2製品はいずれもASUSオリジナル基板と
オリジナルクーラーを搭載
R9 280XとR9 270XがそれぞれどんなGPUなのかという話は8日に掲載した解説記事とレビュー記事を参照してもらうとして,まずはカードを概観してみよう。
※注意
GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為です。外した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。取り外しによって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
■R9280X-DC2T-3GD5
外観上の大きな特徴となるのが,リファレンスよりも横幅のあるオリジナル基板と,それよりもさらに大きなASUSオリジナルGPUクーラー「DirectCU II」にあるというのは,GPUレビュー記事でお伝えしてあるとおりだ。
なお,DirectCU IIクーラーを構成するファンの片方が,ブロワーファンの機能を兼ね,縦だけでなく横方向へのエアフローを生むとされる「CoolTech Fan」になっているというのは,GPUレビュー記事で触れているとおりである。
AMDはNVIDIAのように,GPUコアの刻印を(分かりやすい形では)打たないので分かりづらいが,製造週を示すと思われる4桁数字が「1327」で,2013年27週,すなわち7月第1週と,比較的新しい点は目を引くところである。製造開始から時間が経って,製造技術が向上し,歩留まりも上がってきたタイミングで製造された個体というわけで,だからこそ製造コストを(相対的に)低く抑えることができ,299ドルというメーカー想定売価を実現できたのだろう。
さらに,独自の素材を用いて高密度で製造したというチョークコイル「Super Alloy Choke」と,長寿命化を果たしたとされるコンデンサ「Super Alloy Capacitor」,そして対応電圧の拡大を果たしたMOSFET「Super Alloy MOS」からなる部品群を搭載する「Super Alloy Power」仕様になっている点も大きな特徴だ。
メイン電源部に寄ったところ。Super Alloy Powerと名付けられた部品群が整然と並んでいる。写真下側中央のチップがDigi+ VRMだ |
SK Hynix製の2Gbit GDDR5チップ「H5GQ2H24AFR-R0C」を合計12枚搭載しているというのは,GPUレビュー記事でお伝えしたとおり |
■R9270X-DC2T-2GD5
PCI Exprss補助電源コネクタは6ピン×2で,これもリファレンスカードと同じだ。
カード長は実測約273mm(※突起部除く)で,リファレンスカードの同241mmから30mm以上長い計算になる。もっとも,基板自体の長さは同243mmなので,リファレンスカードとほとんど同じだ。R9270X-DC2T-2GD5を覆うGPUクーラーがカードの後方へ30mmほどはみ出しているため,こういうサイズになっているのである。
ちなみにGPUクーラーは,カードの横方向にも20mmほどはみ出している。R9280X-DC2T-3GD5のように「そもそも基板の横方向も長い」というわけではないが,キューブ型など,小型のPCケースとは干渉する可能性も否定できないので,この点は押さえておきたい。
その印象は,GPUクーラーを取り外してみても変わらない。銅製ヒートパイプがGPUダイと触れるようなデザインは上位モデルと共通である一方,ヒートパイプの数は6mm径のものが3本へと減らされているからだ。
ちなみに,Digi+ VRMによるデジタルPWM回路になっているのは,上で紹介した上位モデルと同じ。電源周りの部品がSuper Alloy Power仕様になっている点も,R9280X-DC2T-3GD5から変わっていない。クーラーと,電源回路の規模は,GPUのグレードに合わせて“順当に”引き下げられたが,信頼性に関係した根本部分では,コストダウンすることなく,きっちり仕上げてきたといったところか。
R9 270X GPU |
エルピーダメモリ製のGDDR5チップ。8枚で合計容量2GBを実現する |
ダイに刻まれた製造週と思われる4桁数字は「1331」,つまりは2013年8月第1週と,こちらもかなり新しい。R9 280X同様,歩留まりの向上した最新世代の設備を用いて製造された個体という認識が正しそうだ。
なお,グラフィックスメモリはエルピーダメモリ製GDDR5「W2032BBBG-6A-F」。6Gbps品なので,メモリクロック設定には400MHz相当分の余裕が設けられていることになる。
OCで競合製品との力関係に変化はあるのか
GPUレビューのテスト環境を踏襲してテスト
今回のテスト環境だが,一言でまとめるなら,「先のGPUレビュー記事とまったく同じ」だ。Radeon R7 260Xのテストに用いた比較対象のグラフィックスカードをカットし,一方で今回の主役の1つであるR9270X-DC2T-2GD5を加えたほかは,何も変わらない(表)。
付け加えると,テスト方法も同じだ。4Gamerのベンチマークレギュレーション14.0へ基本的に準拠しつつ,「SimCity」と「F1 2012」を外し,「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(以下,新生FFXIVベンチ キャラ編)を入れるという格好になっている。
さらに,R9280X-DC2T-3GD5のテストではゲームの解像度を1920×1080ドットと2560×1600ドット,R9270X-DC2T-2GD5のテストではゲームの解像度を1600×900ドットと1920×1080ドットにするというのも変わらずである。
要するに,すべてのテスト方法を先のGPUレビューと共通化することで,データを可能な限り流用し,新規に取得するデータをR9280X-DC2T-3GD5とR9270X-DC2T-2GD5の2つだけに絞ったというわけだ。そのため,テストに関するあれやこれやを,もう一度細かく説明することはしない。詳細はGPUレビュー記事のセットアップを確認してもらえれば幸いだ。
追加でお断りすることがあるとすれば,以下,グラフ中に限り,R9280X-DC2T-3GD5は「ASUS R9 280X」,R9270X-DC2T-2GD5は「ASUS R9 270X」と表記し,リファレンスと区別することくらいだろうか。
R9280X-DC2T-3GD5はHD 7970 GEを逆転
GTX 770といい勝負を演じる場面も
2日前と同じく,今回も,グラフ画像はクリックすると「より負荷の高いテスト条件」のスコア順で並び変えたものを表示するようにしてあると断りつつ,さっそくR9280X-DC2T-3GD5のテスト結果から見ていきたい。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.1.0)の結果になるが,R9280X-DC2T-3GD5はR9 280Xからスコアを5〜7%程度伸ばしている。GPUの最大クロックとメモリクロックがともに7%上がっていることを考えると,極めて順当な結果になっているといえよう。この結果,「Radeon HD 7970 GHz Edition」(以下,HD 7970 GE)との力関係に逆転が生じている点にも注目しておきたい。
続いて「Far Cry 3」の結果がグラフ2,3となるが,R9280X-DC2T-3GD5のスコアはここでも対R9 280Xで5〜7%程度高く,HD 7970 GEを逆転している。R9 290Xの仮想敵である「GeForce GTX 760」(以下,GTX 760)を圧倒し,「標準設定」であれば「GeForce GTX 770」(以下,GTX 770)より高い位置に付けている点も目を引くところだ。
「Crysis 3」においても,R9280X-DC2T-3GD5が示すスコア傾向は大きく変わらない(グラフ4,5)。R9 280Xに対しては4〜7%程度高いスコアを示し,HD 7970 GEに対しても互角以上に立ち回っている。
メモリバス帯域幅の利点を活かし,高負荷設定でGTX 770に迫っているのも立派である。
「同じ」「変わらない」と繰り返すのもだんだん億劫になってきたが,グラフ6,7にスコアをまとめた「BioShock Infinite」でも,R9280X-DC2T-3GD5はここまでと同じような結果になった。テスト条件を問わず,対R9 280Xでは5〜6%のスコア差を付けている。
公式の高解像度テクスチャパックを導入済みで,極めてグラフィックスメモリ負荷が高くなっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)では,ついに全テスト条件でR9280X-DC2T-3GD5がGTX 770のスコアを上回った(グラフ8,9)。標準設定の1920×1080ドットでは,CPUボトルネックによると思われるスコアの頭打ちが生じているが,8xアンチエイリアシングを適用した「Ultra設定」だと,その差は4〜8%程度だ。
グラフ10,11は,新生FFXIVベンチ キャラ編の結果となる。ここでR9280X-DC2T-3GD5はHD 7970 GEを逆転。「最高品質」の2560×1600ドットで,スクウェア・エニックスの示す指標における最上級の「非常に快適」をクリアできているという観点で,GTX 760を除く4製品に違いはないのだが,それでも,R9280X-DC2T-3GD5だけが7500オーバーというのは見逃せないところである。
GPUレビュー時同様,「平均フレームレートを見たい」という人のため,新生FFXIVベンチ キャラ編実行時の平均フレームレートをまとめたグラフもグラフ10’,11’としてまとめたので,参考にしてもらえれば幸いだ。
GPUクロックが高いだけのR9270X-DC2T-2GD5は
R9 270Xリファレンスカードとの差をあまり広げられない
続いてはR9270X-DC2T-2GD5のテスト結果である。グラフ12は3DMarkのスコアで,R9270X-DC2T-2GD5はR9 270X比でわずか1%しかスコアを伸ばせていない。前述のとおり,R9270X-DC2T-2GD5ではGPUクロックはリファレンスの最大1050MHzから最大1120MHzへと引き上げられているものの,メモリクロックはリファレンスと同じ5600MHz相当に据え置きだったので,これが足を引っ張る格好になっている可能性が高そうだ。
メモリチップが6Gbps仕様であることを活かして,自己責任でのメモリクロック引き上げを試みたほうがいいのかもしれない。
Far Cry 3のスコアをまとめたグラフ13,14だと,パーセンテージ的にはR9 270X比で最大4%のスコア差を示した。GPU演算負荷の高い,俗に言う「GPUヘビー」なゲームタイトルでは,メモリクロックの違いがなくとも,GPUクロックの引き上げによって,相応のスコア向上は期待できるということになるわけだ。
もっとも,それによってGTX 660 Tiとの関係性に何か変化が生じたりするわけではないというのは,少々厳しいところでもある。R9 280XにとってのHD 7970 GEのような「あと少し性能が高ければ超えられるライバル」的なGPUがないので,どうしてもインパクトを欠く印象が拭えない。
Far Cry 3以上にGPUヘビーなタイトルであるCrysis 3でも,R9270X-DC2T-2GD5とR9 270Xとのスコア差は最大4%となった(グラフ15,16)
一方,ミドルハイクラスのGPUにとって,必ずしも描画負荷が高くはないタイトルだと,R9270X-DC2T-2GD5はもとからそれほど大きくない優位性をほとんど失ってしまうというのが,グラフ17,18にスコアをまとめた「BioShock Infinite」のスコアから見て取れる。R9270X-DC2T-2GD5とR9 270Xのスコア差は最大でも約2%に過ぎない。
メモリヘビーなSkyrimも,BioShock Infiniteと同じような結果になっている(グラフ19,20)。
そしてこの傾向は,やはりグラフィックスメモリ負荷が相対的に高めな新生FFXIVベンチ キャラ編にも当てはまる。グラフ19,20にまとめたとおり,1920×1080ドットの最高品質で8939という実スコアを叩き出しているので,申し分ないといえばそのとおりなのだが。
なお,ここでも新生FFXIVベンチ キャラ編のスコアは平均フレームレートベースのものをグラフ21’,22’としてまとめておいた。興味のある人は合わせてチェックしてみてほしい。
ASUS R9 280XはHD 7970 GEよりも消費電力は低い
DirectCU IIは冷却性能と静音性に長ける
続いては消費電力とGPU温度のテストだ。ここでも当然のことながらテスト設定は先のGPUレビュー記事と変わらないので,説明は割愛する。
まず消費電力のテスト結果がグラフ23で,アイドル時のスコアはR9280X-DC2T-3GD5が89W,R9270X-DC2T-2GD5が84Wとなった。今回用いているR9 280Xが「R9280X-DC2T-3GD5の動作クロックをリファレンス相当にまで下げたもの」なので,R9280X-DC2T-3GD5とR9 280Xの比較に大した意味はないが,GTX 770より10W高いというのは,気になる人がいるかもしれない。
R9270X-DC2T-2GD5は,R9 270Xリファレンスカードと比べて7W高いというのをどう捉えるかだが,あれだけ豪勢な作りだと,この程度はやむを得ないといったところか。
なお,R9 280Xでは,ディスプレイ出力がオフになった「ロングアイドルモード」に待機電力を大きく引き下げる「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)が正常に動作しないという話をお伝えしているが,R9270X-DC2T-2GD5は問題なく機能し,69Wにまで下がっていた。R9 270XリファレンスカードがZeroCore有効時に67Wまで下がるので,挙動はほぼ同じと述べてよさそうだ。
一方のアプリケーション実行時だと,R9280X-DC2T-3GD5はR9 280X比で10〜24W高いスコアを示した。クロックが高いのだから当たり前だが,それでもHD 7970 GE比で8〜17W低い点に注目しておきたい。より新しいTahitiコアと,高品位志向の電源部品,そしてデジタルPWMコントローラによる細やかな電流量制御が効いていると見ていいのではなかろうか。
一方のR9270X-DC2T-2GD5は,R9 270X比で3〜6W上がっているが,これも動作クロックの引き上げ分を考えれば,納得できる範囲と思われる。
最後にグラフ24が,アイドル時と,3DMarkの30分間連続ループ実行時(以下,高負荷時)におけるGPU温度を計測した結果となる。GPUクーラーが異なり,温度計測方法も異なるので,横並びの評価にはまったく適さないが,R9280X-DC2T-3GD5とR9270X-DC2T-2GD5がいずれも高負荷時に70℃を下回ってきている点は押さえておきたいところだ。
しかも,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,DirectCU IIクーラーの動作音はかなり静かだ。冷却能力と静音性のバランスが高いレベルで取れていると述べていいように思われる。
R9280X-DC2T-3GD5の完成度は高い
2製品に共通の問題は「高すぎる」価格
一方のR9270X-DC2T-2GD5は,クロックアップモデルの割にその引き上げ幅が小さく,全体的にインパクトを欠く感が否めない。ただ,テストの考察段でも述べたとおり,メモリクロックを自己責任で引き上げるという手は使えそうなので,そこまで考慮に入れるなら検討に値しそうだ。「上位モデルに搭載されているのと同じ名前なのにいろいろ廉価版的」なDirectCU IIクーラーも,その実力は確かであり,静音性を重視する人にも向いている。
問題は,一にも二にも価格である。「正式発売時には変わる可能性がある」という注意付きで示されたメーカー想定売価は,R9280X-DC2T-2GD5が4万5000円前後,R9270X-DC2T-2GD5が3万円前後だ。意地悪く北米市場でのメーカー想定売価を調べてみたところ,前者は329.99ドル,後者は229.99ドルだったので,仮に国内メーカー想定売価で市場投入された場合,ここでのドル円相場は順に約137円,約130円となってしまう。これでは,どんなにAMDが「R9 280Xは299ドル,R9 270Xは199ドルで,競合を価格性能比で圧倒!」とアピールしたところで,エンドユーザーにはまるで響かないだろう。
R9280X-DC2T-3GD5の完成度は高く,R9270X-DC2T-2GD5も静音性重視なら十分アリだ。だが,発売後すぐに手を出すべきかと聞かれたら,「うーん」と濁さざるを得ない。Radeon R9 290シリーズが登場し,当然起こり得る競合の対抗値下げが入ったところで,もう一度実勢価格を見て検討する,くらいが得策なのではなかろうか。
ASUSのグラフィックスカード製品情報ページ
ASUSのR9280X-DC2T-3GD5製品情報ページ(英語)
ASUSのR9270X-DC2T-2GD5製品情報ページ(英語)
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