インタビュー
TYPE-MOONの原点を辿る「魔法使いの夜」インタビュー。奈須きのこ&こやまひろかず&つくりものじ氏の3名に聞く,ノベルゲームの未来と可能性
“つくりマジック”――「まほよ」における演出の妙
話題がでたところで,スクリプトを担当されたつくりさんに,主に演出面についてお話を伺っていきたいと思います。すでに話題に挙がったように,本作ではハイレベルなスクリプト演出が作品世界を支えていますよね。つくりさんご自身は,初めに「まほよ」のアイディアを受け取った時にどのようなイメージを抱かれたのでしょうか。
つくり氏:
そもそも最初は,そんなに大きなプロジェクトではなかったはずなんです。小説の挿絵のようなものを作って,絵の数も少なめでいこうという。ところが実際に作り始めてみると,従来の演出では,「まほよ」の世界観をうまく表現できなかった。楽にプレイできるけど,やり終えた時に魂に訴えてくるものがなくて,スーッと終わってしまうというか。
4Gamer:
「まほよ」はFateとは違い,ほとんどのシーンで三人称の文体が採られていますよね。そこがまず大きな違いなんじゃないかと思うのですが。
奈須氏:
原作である小説版が三人称でしたし,内容としてもシンプルだし,メインは青子と有珠と草十郎という3人の生活だったので,それを客観的に見せる意味でも三人称にしたかったんです。ただ実際には,ノベルゲームを三人称で描くというのは,すごく難しいんですよ。これまでのギャルゲーやノベルゲームの文脈で文章を三人称にしてしまうと,グラフィックスや演出が破綻してしまう。そうした問題をパーフェクトにカバーしてくれたのが,つくりものじの演出なんです。
4Gamer:
これまでのノベルゲームの文法というと,背景の上にキャラクターの立ち絵が正面を向いて立っていて,掛け合いの会話をする方式ですよね。それを前提としつつ,盛り上がるシーンではイベントCGを用意する,みたいな。でも「まほよ」では,もう立ち絵とイベント絵の区別がない。
奈須氏:
「まほよ」にはイベント絵ってほとんどないんです。プレイヤーがイベント絵だと思っていても,それはほぼ立ち絵の組み合わせでできています。
4Gamer:
CGは全体で何枚くらいあるんでしょう。
こやま氏:
200枚はいってないんじゃないかと思います。いわゆるキャラクター主体のイベント絵に限ればそう多くはありません。こちらで差分を用意したものと,つくりさんが演出判断で独自に切り貼りして作った素材も多数あるので正確な数が把握できないんですよ。
つくり氏:
これまでのFPS的な,一人称の演出ではなく,奈須さんの三人称の文体に合わせた演出をしようと思ったんです。背景に立ち絵を乗せていく従来のやり方だと,もし2人のキャラクターがいたとしても,彼らはお互いの方向ではなく,プレイヤーの方を向いているわけじゃないですか。にもかかわらず,彼らはプレイヤーをいないものとして,こちらをガン見しながら2人で会話を続けていく。
4Gamer:
ある意味,ノベルゲームの“お約束”の部分ですよね。
つくり氏:
そうです。自分は今回の「まほよ」においてはその表現に違和感を覚えていて。なので極力従来の表現から外していったというところです。そういう“お約束”が,プレイヤーを物語に飲み込む障害になっているように思えてしまって。
4Gamer:
実は今回のインタビューでは,奈須さんやこやまさんももちろんなんですが,つくりさんにぜひその辺りのお話をお聞きしたいと思っていました。というのも「Fate/hollow ataraxia」の中のとあるシーンが,強烈に印象に残ってまして。セイバーとアーチャーが冬木大橋で対決するシーンなんですが,あれもつくりさんの演出ですよね。
つくり氏:
すみません,そうです。
4Gamer:
あれを見たときに,ものすごい衝撃を受けたんです。もう,これでノベルゲームの常識が変わるんじゃないか,というくらいに。……実際には,それを引き継いだタイトルというのは,その後現れなかったように思いますが。
奈須氏:
あそこはつくりさんの切った絵コンテが先にあって,それに合わせて周囲が作業する形で作ったんです。Fate/hollow ataraxiaの場合,演出に関してはFateでやり尽くしちゃった感があったんですが,その中で唯一の挑戦,新しいことをやろうと考えたシーンです。
4Gamer:
もうあのシーンだけ,なんども繰り返しプレイしてしまったくらいです。なので今日はつくりさんに同席していただけて,本当に嬉しく思っています。あれ以来,ノベルゲームにおけるスクリプターはもっと評価されるべき! とずっと考えていたんです。
つくり氏:
そう言ってもらえると嬉しいです。ただ「まほよ」の場合は,素材は一人称用のものがかなりの数が上がってきてしまっていたので,今更それを全部三人称用のものに替えてというようなことはできなかったんですね。それで結果的に一人称を想定して作られた素材で三人称用の演出をするという増改築に挑戦することになって……これがなければ「まほよ」は1年くらい前に発売されていたはずで,本当に申し訳ないです。
奈須氏:
つくりさんがどれほど凄いことをやっているかを補足したいんですが,一人称用の素材というのは,Fateまでの方法論で作られたものなんです。衛宮士郎という主人公がいて,彼が見た風景を素材として作る。だから基本的には,主人公視点の絵しか存在していないはずなんです。
こやま氏:
立ち絵も背景も,用意したのは従来のお約束に則った水平な視点のものばかりでしたからね。上から見たり下から見たりした絵がほとんどない状況で,あたかもカメラが動いているかのような演出を作っていく。言葉にしちゃうと「ふーん,そうか」ですけど,一枚の絵として完成させたものをバラバラにして,自由なアングルで再構築していく,実際とんでもない離れ技ですよ。
奈須氏:
まさに「つくりマジック」です。
4Gamer:
いやもう,マジックと呼ぶに相応しいと思います。ああいった演出というのは,どういう工程を経て思いつかれるのでしょうか。やはり事前に絵コンテを切るんでしょうか。それとも実際にスクリプトを組みながら,パズルのようにはめ込んでいくんですか。
つくり氏:
ほぼ後者ですね。重要なシーンだと,前もって絵コンテを切る場合もあるんですが,日常の会話シーンなどは,実際に作業しながら「こうやるとうまくつながるぞ」という演出を手探りで見つけていく感じです。ただ,さすがにスクリプトの座標の数値を手打ちしていくのは時間がかかりすぎるので,そこは専用のスクリプトエディタをプログラマーの清兵衛さんに作ってもらいました。おかげでこちらは純粋に演出作業に労力を割けたので,マジックと言うなら清兵衛マジックかと。
4Gamer:
日常のシーンだと,すべての画面にアニメ制作で言うところのレイアウト※が入っていますよね。少なくとも本編においては,先ほども話題に挙がった「キャラクター2人が正面を向いて並んでいる」というシーンはなかったように思います。
※レイアウト……アニメ制作における演出の一工程。絵コンテから起こしたカットに対して,キャラクターや背景などの要素を配置し,画面の構図を決定すること。
つくり氏:
そうですね。実際にプレイした方は動いているシーンの方に目を止めると思うんですけど,作業の段階で一番時間がかかっているのは,既存の素材からレイアウトをとる部分なんです。もちろん戦闘シーンなども重視しましたが,日常シーンにおける情感をなるべく伝えたかったので。
4Gamer:
ノベルゲームの“お約束”に我慢ができなくなったとおっしゃってましたが,それを意識されたのはいつ頃からなのでしょうか。
つくり氏:
うーん。自分も以前は「これはこういう記号だから」という気持ちで処理できたんですが……。「まほよ」に限っては,製作開始からずっとそこが気になってしかたなかったです。
奈須氏:
そこは立ち位置の違いじゃないですかね。例えばプレイヤーでいる限り,アドベンチャーゲームっていくらでも妥協できてしまう。お約束に頼れば,コストをかけなくても物語は語れてしまうから。しかし,その前提を頭では理解しつつも,作り手側に回った時に妥協を許せなくなっちゃう人がいて,その代表がまさにつくりものじなんですよ。
つくり氏:
文体が三人称視点であったという点と,あがってきた背景やキャラクターのクオリティが,これまでと段違いだったことも大きいと思います。それこそFateの頃だと,まだ記号として扱えたんです。でも「まほよ」のグラフィックスから受ける立体感や空気感はとにかく濃密で,これを活かさない手はないと思いました。始めは背景と立ち絵が違和感なくなじむような演出をと考えたんですが,なじませる程に違和感がその“従来のお約束”の部分にシフトしていくわけです。で,それならもういっそのことシーンごとにカメラが切り替わるような演出にしたら面白いんじゃないか,という発想になりました。
4Gamer:
つくりさん的にはいかがでしょう。結果として完成した「まほよ」の演出には,満足されてますか。……正直に言いますと,とくに日常パートについては,まだ先があるんじゃないかと,個人的には思っているのですが。
つくり氏:
いや,すみません,まさにそうなんです。部分部分で調整不足だな,と思っているところが結構あるので,今後はそこを詰めていきたいです。
奈須氏:
自分としては,おかしくなっちゃう前につくりさんにはガス抜きをしてほしいんですけど(笑)。
■[コラム]“つくりマジック”の真相「飛び立つコマドリ」
本文中でも語られた“つくりマジック”の中から,その幾つかをピックアップして紹介しよう。
まずはコマドリが有珠の前に飛んできて,奥手に飛び去るシーン。このシーンで使用されているコマドリの素材は左の2種類のみで,実際の動きはプログラム上でかけられたブラー処理などで表現されている。また滞空して一瞬止まる部分では,画像の透明度変化と上下運動で,それっぽい動きを再現したとか。まさに氏のこだわりが産んだといって過言ではないコマドリの動きだが,ここで得られた技法は,戦闘シーンなどにもフィードバックが行われ,活用されているとのこと。
ちなみに物語前半では「ピピピ」としか喋らないコマドリだが,実はそのすべてにちゃんとしたセリフが用意されている。開発の途中までは,それを表示する「コマドリスイッチ」オプションがあったそうだが,彼が喋るとロマンチックなシーンが台無しなるので,泣く泣く削ったのだとか。
奈須氏によれば,コマドリのセリフのモデルとなったのは,つくり氏自身とのこと。つくり氏が鳥好きということもあり,両氏の思いれたっぷりのキャラクターに仕上がっている
廃遊園地での戦い――狂気とセンスに満ちた演出
4Gamer:
つくり演出を知る手がかりとして,つくりさんご自身が影響を受けているような作品があればお聞きしたいのですが,いかがでしょうか。
つくり氏:
……今回特にこの作品,というのはないですね。しいて言えば映画やテレビ,あるいは自然の風景といったものまで含めて,子供の頃から見てきたものの積み重ねだと思います。例えば青子の踏み込みやゴーレムの挙動なんかは,子供の頃に見た,サンダーバード2号からエレベーターカーが降りてくるシーン等が参考に……なってるのかもしれないです。
奈須氏:
それ初耳(笑)。
つくり氏:
意識というより,最近衝撃を受けたということなら,「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」とか。Fateの時とは別の意識を持っていたこともあって,それはより臨場感を出すということだったんですね。Fateだったらセイバーが剣を振る時に「いかにかっこよく剣を振るか」だけを考えましたけど,「まほよ」では「振る前と,剣を振ったらその周囲はどうなるんだろう」ということを考えました。ヱヴァンゲリヲンでも射撃そのものは言うまでもないのですが,そのための変電設備のかっこよさは異常でしたし。
4Gamer:
ああ,まさにヤシマ作戦※ですね。すごくよく分かるお話しです。そうか,青子はラミエルだったか。……ちなみにつくりさんは青子や有珠にどんなイメージをお持ちですか?
※ヤシマ作戦……「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」に登場する,架空の作戦名。新劇場版では「第6の使徒」として登場したラミエルを陽電子砲による狙撃で迎え撃つため,日本中を停電させるというシーンが描かれた。ビームの撃ち合いによる緊迫した戦いが展開される,同作の名場面の一つだ。
つくり氏:
作っている最中には,この部品をどうやっていじろうかということしか考えてなかったので,彼女達をキャラクターとして見られるようになったのはマスターアップ後ですね。遊園地のシーンで青子が草十郎を殴るシーンを見返して,「あ,なんか勘違いしてたけど,やっぱり青子がヒロインっぽいかも」と思ったりしました(笑)。
奈須氏:
ずっと言ってたもんね。ビームとかやめましょうよって。ヒロインがビームとか意味分かんない,ありえないでしょって。
つくり氏:
ありえないですよね。だって,原作ではビームとか撃ってないじゃないですか!
奈須氏:
原作ではそもそも遊園地自体が出てこないし。雑居前の戦闘は人形で終わりなんですよ。
4Gamer:
ええっ。いやあの遊園地のシーンは,派手さという意味では,「まほよ」の一番の見せ場だと思うんですが……。
奈須氏:
このつくりものじという鴨……いえ,男が犯人です。原作では人形戦も夜の学校が舞台だったんですけど,それはFateでやったし,別の場所にしようということになって。しかし,複雑な地形を選ぶと素材作りがたいへんになる。どこかコストかからない,けど雰囲気のあるステージはないか……と悩んでいたら,さらっとつくりさんが「廃遊園地というのはいかがか」,と。それコストバカ高ですよね!? とつっこみながらも,「廃遊園地……たまらん(ごくり)」。
つくり氏:
自分もそうなんですけど,廃墟を好きな人って多いじゃないですか。廃墟が持つ独特の空気の中で,得体の知れないものに追われるという状況って,素晴らしいと思ったんです。ただ言っておきたいのは,そのアイデアを思い付いたのは「まほよ」がもっと小規模だった頃ですからね。それがあれよあれよという間に大きな話になり,更に三人称でバリバリ動かすことになって。だから終盤には「廃墟チクショー! そもそも絵がねぇ! あのシナリオライターが!」という気分でした。
4Gamer:
ということはフラットスナーク戦は,最初は予定されてなかった?
奈須氏:
そうです。他の部分は原作の流れまんまですが,廃遊園地と番外編各種は2009年の奈須きのこの芸風です。……まあ,あんなに早く有珠が本気を出すつもりじゃなかったんですが。でも遊園地戦の構想がまとまって,これは面白くなるという確信が持ててしまったら,もう出すしかない(笑)。最初にプレイヤーにおもねる要素は無理に入れないという話をしましたが,この遊園地戦ではそれが必要になるだろうと。で,その後になって,さらにこやまさんがビームを撃ちたいと言いだして。
こやま氏:
え,俺が? ……そうだっけ?
奈須氏:
ちょうど「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」が公開された時ですよ。言ってたでしょ,俺もビームが撃ちたいって。王道がやりたいんだって。
つくり氏:
微妙に違いますね。こやまさんは確かに王道をやりたいとは言ってましたけど,それを受けてビームを撃たせたのはあなた。犯人はあなたです!
奈須氏:
マ,マジか……でも,ほら,青子は元々ビー魔ーだから……。それに,少なくともビームどころか拡散波動砲を撃たせたのは間違いなくあなたですよ! 俺,スクリプト見てビックリしたもん! 「まったく知らないシーンになってる!」って(笑)。
つくり氏:
それはまあ,確かに……。でも都合3.5射させるとか聞いてないし! 全く同じビーム3回撃たせるわけにいかないでしょ!
4Gamer:
つまり皆さんのコダワリの合わせ技で,遊園地のシーンは成り立っているわけですね(笑)。
奈須氏:
実際「まほよ」の制作は,誰かがハードルを上げると周りもそれに合わせて張り切るというものでした。それが循環して,つくりさんのところで一気にはじけた感じです。結果,「ものじの身体が耐えられない!」みたいなことに。
こやま氏:
青子がビームを撃つシーンも,最初の段階では4本まででしたしね。その証拠に,ギャラリーの中にはビームが4本出ている絵がありますから。しかし実際にはその絵はバラされ,いつの間にか8本になってた。……初見の時はびっくりです(笑)。
奈須氏:
いつのまにか魔法陣のアンテナが増殖していた。でも,あのクオリティを見せられたら誰も文句を言えない。こっちもテキストを直して対抗するしかない。
■[コラム]“つくりマジック”の真相「青子ビーム 第二射の変遷」
いつの間にか8本の拡散波動砲になっていたという青子のビームだが,つくり氏によれば,これは第一射目の演出が予想以上に派手になってしまったため,しかたなく変更を加えた部分だという。
画像の上段部分が当初予定されていた演出プラン。本文中でも触れているとおり,4本のビームが飛ぶことになっていたのが分かる。このままだと第一射目に比べ,威力が落ちているように見えかねないということで,パワーアップを図った最終的な演出が下段部分。ビームの本数が増えているのはもちろん,迫力と臨場感を表現するため,全体を引きで捕えた,遠景からの情景までが追加されている。「少しでも,青子さんパねぇと思っていただけたら幸いです」とは,つくり氏の弁。
4Gamer:
恐らくスクリプト演出的な意味では,最後の青子と橙子のバトルより,遊園地の方が大変だったんじゃないかと思うんですが。青子の魔法の発動と共に,四季が移り変わる演出は鳥肌ものでしたけど。
つくり氏:
あれを作ったのは,もう2年近く前ですよね。
奈須氏:
あれは世界の書き換えが行われていることを,四季の変化で表現してるんです。背景作画チームの,鬼のような書き込みをご堪能ください。たった一分のシーンなのになんて贅沢なんだと。……ただ,あのシーン自体はかなり前に作られたものなので,つくりさん的には一番作り直したかったみたい。結局は,それより「なぜなにプロイ」を優先してもらったけど。
4Gamer:
あのシーンでは,BGMやSEのタイミングや音量まで調節されてますよね。
奈須氏:
本当に気合いの入ったシーンは音楽もSEも全部コントロールしていますよ,つくりは。恐らく今のものじがスクリプトを組み直したら,橙子戦もかなり違ったものになるでしょうね。バトル面のクオリティは遊園地戦を最高のものにしたかったから,遊園地を制作の最後に回してもらったんです。演出の技術的なピークは,やっぱり遊園地です。
つくり氏:
さっきも言ったスクリプトエディタとそれを使う技術が熟成したのが,開発の終盤になってからなんです。「こういう機能が欲しい」とか「このバグをなおしてほしい」というフィードバックをしながら,スクリプトの作業と並行して進んでいったので。「まほよ」の場合,結局エディタと自分が落ち着いたのがちょうど遊園地のシーンを組んでいる頃で,それも合わせて完成度が高くなっています。
奈須氏:
初期はやりたいけどできないということも多かったからね。……ちょっと驚く話をすると,そもそも遊園地のシーンって,通常の背景素材を1枚しか用意してないんですよ。さらに5章前半のミラーハウスに至っては,そもそも背景素材が存在しない。「青子が走っていて,一面の壁に青子の足が映っているイベント画」を切り貼りして,ミラーハウスを表現しているという。
つくり氏:
まあ積極的にやったというより,ある素材でどうにかやりくりしたというのが正確なところですけど(笑)。
奈須氏:
いやそれが凄いんですよ! 皆は5章後半の遊園地が凄いといってくれて,それはもちろんそうなんですけど。でも5章後半がものじのセンスで作られているとすれば,5章前半はものじの狂気が爆発している。「まほよ」において,「ないものをあるように見せる」という技術の集大成が,ミラーハウスだと自分は思ってます。
4Gamer:
あのシーンは,テキストの段階からああだったんですか?
奈須氏:
ああでした。正直,テキストの段階では「ここの表現,無理じゃね」って……(つくり氏を横目に)あ,無理じゃないです。ライターがそんな無茶な指定するわけないじゃない?
つくり氏:
……。
奈須氏:
ごめん。内心,ミラーハウスだけは普通のノベルゲームっぽく,画面を空に逃がして文章を流すことで誤魔化すしかないと思ってた。でもつくりものじは逃げなかった。だからミラーハウスのシーンは,シナリオ担当の自分が一番驚かされたシーンなんですよ。
■[コラム]“つくりマジック”の真相「ミラーハウスの戦闘」
背景素材の存在しないというミラーハウスのシーンは,いったいどうやって作られたのか。スクリプトエディタ上の画面を見ながら説明していこう。
画像は左が完成したゲーム画面,右はその構成要素を,分かりやすいようバラバラに表示したものとなる。1〜4番は背景の鏡面を構成する画像だが,これらはありもの素材を切り貼りすることで形作られている。1番は割れた鏡画像の背景部分を,2番は青子が走っている画像の背景を,3番は迫ってくる人形の背景を,それぞれ切り出して使用したもの。なお4番は1番と同じ素材を加工したもので,上に重ねることで色味を表現している。
さらに5〜7番は水族館シーンの背景から抜き出した整列用ポール。8〜13番は鏡の継ぎ目を表現するため,細い線の画像をプログラム上で白や黒に着色したもの。最終的には先の背景にこれらの素材,青子の立ち絵を組み合わせ,その上ですべての明度,コントラスト,透明度,倍率,レイヤータイプなどを調整した結果に,我々が実際に目にするゲーム画面が生み出されているのだ。
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