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「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
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印刷2011/10/15 00:00

レビュー

付属の液冷クーラーを用いたオーバークロックでAMD FXの評価は変わるか?

FX-8150/3.6GHz

Text by 宮崎真一


FX-8150プロセッサ
画像集#002のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
 前編では,基礎検証などを交えながら,「FX-8150/3.6GHz」が持つゲーム性能を見てきたが,端的に述べて,FX-8150のスコアは振るわなかった。「8コア」CPUたるFX-8150が4コア4スレッド仕様の「Core i5-2500K/3.3GHz」(以下,i5-2500K)の後塵を拝したというのは,看過できないところだ。
 一方,AMD FXプロセッサの全ラインナップを倍率ロックフリー仕様としてきたAMDは,本シリーズをオーバークロックに向いたCPUと位置づけている。日本市場へ投入されるFX-8150の初回出荷分500個に,Antec製「KUHLER-H2O-920」相当の簡易液冷クーラーが付属するのは,「これを使ってオーバークロックしてください(自己責任ですけど)」と捉えることも可能だ。

簡易液冷クーラーの製品ボックス
画像集#003のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
 オーバークロックを前提とする場合,自分でクーラーを選びたい人のほうが多いはずで,北米市場で単体価格245ドルのCPUを,国内のメーカー想定売価3万3800円(税込)にまで引き上げてしまう簡易液冷クーラーが付属するのは賛否が分かれるだろうが,実際問題として付属してくるという事実は揺るがない。そこで今回はこの簡易液冷クーラーを用いて,オーバークロック設定などの検証を行い,FX-8150の立ち位置をあらためて整理してみたいと思う。

※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。


テストした個体では全コア4.5GHzの動作を実現

Turbo COREでは「TDPの余裕分」がカギに


Crosshair V Formula
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected]
実勢価格:2万4000〜2万7000円程度(※2011年10月15日現在)
画像集#004のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
 CPUのアーキテクチャなどといった基本的な情報は前編を参照してもらうとして,さっそくテストに入っていきたい。テスト環境は表1のとおりで,「Phenom II X6 1100T/3.3GHz」と「Phenom II X4 980/3.7GHz」を省いたほかは,前編とまったく同じだ。AMDの評価機に含まれていたASUSTeK Computer製マザーボード「Crosshair V Formula」では,DDR3-1866設定時にFX-8150が安定動作しなかったため,DDR3-1600設定にしている点と,AMD製プロセッサのメモリ設定をいずれもGanged(=デュアルチャネル)モードにしている点も共通である。

画像集#012のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

簡易液冷クーラーは,ポンプユニット内蔵の水枕とラジエータからなる,よくある構成。Antec製品も含め,おおむね1万円くらいで各社から出ている製品と同等だ。ファンは最大2基取り付け可能で,今回は2基とも取り付けている
画像集#005のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
 この環境でFX-8150に簡易液冷クーラーを組み合わせて利用するわけだが,見るべきポイントは2つある。1つは単純に,どこまでオーバークロックできるのかという点。もう1つは,空冷と液冷とで「AMD Turbo CORE Technology」(以下,Turbo CORE)の有効性に違いが生じるのか,もっとはっきり言えば,空冷と比べて液冷のほうがTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)に対する余裕が生まれるため,「Max Turbo」の効果がより大きくなることは予想できるが,実際のところはどうかという点である。

簡易液冷クーラーはマザーボード上のUSBピンヘッダから給電する仕様。ラジエータ部は120mm角ファンに対応したもので,大きくはないが,この手の製品の常として,PCケースによっては取り付けられない可能性もある
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画像集#009のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
付属する簡易液冷クーラーには,モニタリング&制御用ソフトウェア「ChillControl V」も用意されている。ここから,ラジエータ部に搭載されるファンの回転数や液温を確認したり,ファンの回転数を最大に引き上げる条件となる温度を設定したりといったことが可能だ
画像集#010のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
「CPU-Z」(Version 1.58)から4.5GHz動作を確認したところ
 まずはオーバークロックに関して。せっかくなので「AMD OverDrive」(Version 4.0.5.0529)を利用しようとしたのだが,評価機を用いた今回のテスト環境では,Turbo COREからBulldozerモジュール単位の動作クロックが反映されない,AMD OverDriveから動作クロックの推移をモニタリングしているとWindows Aeroが突然無効になるといった謎の現象が起きたため,今回はCrosshair V FormulaのBIOS――厳正を期せばUEFIだが,便宜上,ここではBIOSと表記して話を進める――から,動作倍率を変更することとした。

 今回は,システムに100%の負荷をかけ続ける「OCCT」を6時間連続実行し,その間に動作異常が生じなかったことをもって「安定動作した」と判断することにしたが,結論からいうと,今回入手した個体では,定格1.2625VのCPUコア電圧を1.45Vまで上げた状態において,全コア4.5GHz設定時に安定動作を確認できている。
 今回のテストでは,CPUコア電圧を1.475Vまで引き上げると全コア4.9GHzでOSが起動するのも確認できたが,OCCTを実行するとエラーが発生したり,システムがフリーズしたりといった具合だった。5GHzの大台に指定すると,CPUコア電圧を1.5Vに設定しても,システムを立ち上げることすらできなかったので,簡易液冷クーラーで5GHzを目指すのは難しそうな気配である。

 ……さて,試してみてから言うのも何だが,全8コアのオーバークロックというのは,ゲーム用途を考えると,あまりメリットのある行為ではない。ゲームによっては,依然としてシングルスレッド処理のタイトルすらあるくらいで,8コアを“使い切る”ような状況はほとんど生じないからである。
 そこで,Crosshair V Formulaから,Turbo CORE倍率を変更する形で,Max Turboの倍率を変更してみたところ,24倍,つまり4.8GHzで,2 Bulldozer Moduleが安定動作した。ただ,ベンチマークテストを行ってみると,全コア4.5GHz設定と比べてスコアは大幅に低下。いくらMax Turboの倍率を上げても,TDPの余裕が十分に確保されていなければ,設定した動作クロックに達する時間が短くなってしまうということなのだろう。


4.5GHz設定時はi5-2500Kのスコアを上回ることも

定格運用する限り,空冷と液冷の違いはほとんどない


 オーバークロックの安定動作限界が見えてきたところで,テストに入っていきたいと思うが,その前に,テスト環境が同じなので,FX-8150を空冷で定格動作させたときのスコアと,「Core i7-2600K/3.4GHz」(以下,i7-2600K),i5-2500Kのスコアは,前編のものを流用するとお断りしておきたい。前編でFX-8150はTurbo CORE有効時と無効時それぞれで検証しているが,今回流用するのはTurbo CORE有効時のものだ。
 そして,今回新たにテストしたのが,簡易液冷クーラーを取り付けたFX-8150を全コア4.5GHzへとオーバークロックした状態(以下,FX-8150@4.5GHz(LC))と,簡易液冷クーラーを取り付けた状態で定格動作させた状態(以下,FX-8150(LC))の2パターンである。

 テスト方法は当然のことながら前編と同じ。ベンチマークレギュレーション11.0準拠だが,ゲーム側のシステムアップデートによるものと思われる問題が生じたため,「Battlefield: Bad Company 2」は省略する。

 というわけでグラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.2)における「Entry」「Performance」「Extreme」各プリセットの結果である。FX-8150(LC)のスコアは,FX-8150とまったく同じ。よりCPU性能への依存が大きいEntryプリセットだと,FX-8150@4.5GHz(LC)はFX-8150からスコアを約5%伸ばしており,定格動作時のTurbo COREの「All Core Turbo」となる3.9GHzと比べても,動作クロックが約15%高い効果を確認できよう。そしてなにより,前編で歯が立たなかったi5-2500Kを逆転している点は注目に値する。

画像集#013のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 続いてグラフ2,3は,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の「Day」と「SunShafts」シークエンスにおけるテスト結果をまとめたもの。描画負荷が大きく,CPU性能の違いがスコアに表れにくいSunShaftsではなく,Dayのほうを見ていくのは前編と同じだが,やはりFX-8150(LC)とFX-8150との間に有意なスコア差は見られなかった。
 FX-8150@4.5GHz(LC)は,解像度1280×720ドット時のスコアがFX-8150より約12%高く,ここでもオーバークロックの効果は顕著だ。ただし,FX-8150とi5-2500Kの間にあった約29%というギャップを埋めるまでには至っていない。

画像集#014のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
画像集#015のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 グラフ4にテスト結果を示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,スコアの頭打ちを回避できた1280×720ドット設定時に,FX-8150@4.5GHz(LC)がFX-8150比で7%高いスコアを示し,i5-2500Kをわずかながら逆転した。その意味では3DMark 11に似た傾向といえる。

画像集#016のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 一方,グラフ5の「Just Cause 2」だと,スコアの傾向はSTALKER CoPのDayシークエンスと近い印象だ。FX-8150@4.5GHz(LC)におけるオーバークロックの効果は,対FX-8150でプラス10〜13%とはっきり表れている。ただ,i5-2500Kには6〜22%置いて行かれており,スコア差は依然として大きい。

画像集#017のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)も,Just Cause 2と似た傾向(グラフ6」。FX-8150@4.5GHz(LC)は,FX-8150から2〜7%ほどスコアを伸ばしているものの,やはりi5-2500Kには届いていない。

画像集#018のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 最後に「DiRT 3」だが,グラフ7にスコアを示したとおり,ここではオーバークロックの効果がほとんど見られなかった。動作クロックに依存しにくい例と捉えるのがよさそうである。

画像集#019のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 面白いのは,グラフ8に示した「PCMark Vantage」(Build 1.0.2)のスコアだ。ここでは,FX-8150(LC)のスコアが,FX-8150よりも2%高い。
 スコアの詳細は表2にまとめたので参考にしてもらえればと思うが,スコアの向上が顕著なのは,画像処理や映像データのトランスコードが主な「Memories」と,音楽データのトランスコードや音楽管理ソフトの処理などが主な「Music」の2項目だ。トランスコード系処理のような「一定の負荷がかかり続ける」タイプとターボ系のクロックアップは相性がいいので,液冷化によるTDPの余裕がプラスに働いているのだろう。
 ただこれは逆にいうと,簡易液冷クーラーがTurbo COREにもたらすメリットは,そういう局面にしかなさそう,ということでもあるのだが。

画像集#020のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
画像集#021のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか


オーバークロックで消費電力が極端に上昇

発熱が一定レベルを超えるとファンはうるさくなる


 全コアを4.5GHzまでオーバークロックすれば相応の効果があると分かったが,CPUコア電圧を大きく引き上げている以上,消費電力がかなり高くなることは想像に難くない。
 そこで,前編とまったく同じ条件で,ワットチェッカー「Watts up? PRO」からシステム全体の消費電力を計測することとした。テストにあたっては,OCCTの30分間連続実行時点を「高負荷時」,その後,30分放置した時点を「アイドル時」としている。

 その結果はグラフ9のとおりで,グラフィックスカードへの負荷がほとんどかかっていないにもかかわらず,FX-8150@4.5GHz(LC)は400Wを大きく超えてきた。驚異的というか,にわかには信じがたい値であり,Watts up? PROが壊れたのかと目を疑ったほどである(※もちろん正常動作しているのを確認している)。全コアに100%の負荷がかかるような極端な環境だと,高クロック&高電圧化の弱点が一気に露呈してしまうようだ。

画像集#022のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 さらに,アイドル時と高負荷時におけるCPU温度をハードウェアモニタリングツール「HWmonitor PRO」(Version 1.12)で取得したものがグラフ10となる。
 前編でも指摘したとおり,HWmonitor PROで温度データの補正がうまく行えていない可能性があるものの,FX-8150同士の比較ならば,それが問題になる可能性は低い。というわけでFX-8150の諸条件で見比べてみるわけだが,FX-8150@4.5GHz(LC)のCPU温度は,簡易液冷クーラーをもってしても定格動作時から26℃も上昇してしまっている。これはインパクトの大きい値だ。

画像集#023のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか

 さて,ここで1つお詫びしなければならない。前編で筆者は,付属の簡易液冷クーラーについて「ラジエータ部に取り付けたファンの動作音はさほど大きくない」と述べたのだが,今回,オーバークロック設定を行ってみると,“HWmonitor PRO読み”で70℃を超えたあたりからファン回転数は急激に増し,「爆音」と述べて差し支えないレベルにまで動作音が高まったためだ。オーバークロック用途を考えると,もう一段上の冷却能力を持ったクーラーを用意したほうがいいかもしれない。


オーバークロック動作に期待は持てる,が……

少なくともゲーマー向けのCPUではない


画像集#011のサムネイル/「FX-8150」レビュー(後編)。オーバークロックで状況は変わるか
 以上,前編を掲載した時点では時間の都合で行えなかったテストを行ってみたが,ひとまず言えるのは,オーバークロック設定を行った場合,FX-8150の性能は素直に,かつ相応に伸びるということだ。
 ただ,全コアを4.5GHzまで引き上げても,「一部のテストでi5-2500Kを上回る」レベルに留まるのはいただけない。要するに,i5-2500Kと戦うには,4.5GHzの動作クロックが必要になるが,少なくともいますぐそれを実現するには,付属の簡易液冷クーラーから別のものに交換し,しかも消費電力の増大を許容しなければならないわけで,それを考えるに,AMD FXというCPUの船出が相当に苦しいものになったとは言わざるを得ないだろう。

 まとめると,ゲーマーが「ゲームにおける性能向上」を求めた場合に,FX-8150は,選択肢となるようなCPUではない
 もちろん今後,製造技術の進歩によって,規定の動作クロックが大きく上がったり,より安価になったりすれば,AMD FXの評価が変わってくることも十分に考えられる。しかし少なくとも,近い将来に「500個限定,簡易液冷クーラー付き」で登場してくるFX-8150は,AMDの最新CPUを買わないと気が済まないとか,とにかく新しいアーキテクチャのCPUを触ってみたいとか,ひたすら高クロックを狙ってみたいといった理由があるマニアのためのコレクターズアイテムである。

FX-8150レビュー記事(前編)

  • 関連タイトル:

    AMD FX(Zambezi)

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