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アレンジは大胆に,しかし中身は純正品「Fate」。RPGとしても秀逸な「フェイト/エクストラ」レビュー
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印刷2010/08/07 15:17

レビュー

「Fate」ファンも納得の大胆アレンジと,RPGとしての確かなクオリティに注目

フェイト/エクストラ

Text by 小倉正也


画像集#002のサムネイル/アレンジは大胆に,しかし中身は純正品「Fate」。RPGとしても秀逸な「フェイト/エクストラ」レビュー
画像集#001のサムネイル/アレンジは大胆に,しかし中身は純正品「Fate」。RPGとしても秀逸な「フェイト/エクストラ」レビュー
 7月22日に発売されたPSP用ソフト「フェイト/エクストラ」は,“TYPE-MOON×RPGプロジェクト”と銘打って豪華スタッフが手がけたRPG作品だ。原作「Fate/stay night」の設定やキャラクターに思い切ったアレンジが加えられているため,原作ファンによる期待と不安が入り交じった前評判が,ネット上のそこかしこで見られた本作。果たして「Fate」はどのようなRPGに生まれ変わったのか? 実際にプレイした上でのレポートをお届けしたい。

 同人サークルとして活動してきたTYPE-MOONが,商業デビュー作としてPC版「Fate/stay night」を世に出してから6年あまり。これまで,PS2版やいくつものスピンオフ作品がリリースされてきたが,その中でも本作「フェイト/エクストラ」は,「Fate」の生みの親,奈須きのこ氏が(開発当初は監修にまわっていたが,のちに自ら)シナリオを担当しているという鳴り物入りのRPGだ。

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 また,原作元のTYPE-MOONと共に開発を手がけるのは,ルミナスアークシリーズや「セブンスドラゴン」など,RPGの開発実績が豊富なイメージエポック。プロデューサーは「世界樹の迷宮」「セブンスドラゴン」の新納一哉氏,キャラクターデザインは漫画家・イラストレーターとして活躍するワダアルコ氏,宝具デザインは「ブラック★ロックシューター」のhuke氏,音楽は数多くのゲーム音楽を手がけ「sampling masters MEGA」名義で「beatmaniaIIDX」シリーズや「太鼓の達人」シリーズにも楽曲提供をしている細江慎治氏と,非常に豪華なスタッフが集まっている。
 原作「Fate/stay night」はビジュアルノベルでありながら,キャラクターのステータス画面が登場するなど,RPG風の仕掛けを取り入れた作品だった。そのため,ファンにとっては,まさに待望のRPG作品である。しかし一方で,「世界観がアレンジされ,シナリオ以外のスタッフも異なるのならば,原作の良さが損なわれてしまうのでは?」と不安を抱いている人も少なくはなかったわけだ。
 だが,心配はご無用。結論をまず述べるが,開発陣の「Fate」への思い入れの強さもあってか,原作は見事に換骨奪胎され,秀作RPGに仕上がっている。

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電脳世界でも「Fate」らしさは健在


敵サーヴァントの正体をあらかじめ知ることで,対戦時に相手の行動がある程度予測できるようになる。そのため,経験値を稼ぐだけでなく,情報収集も大事な目的だ
画像集#007のサムネイル/アレンジは大胆に,しかし中身は純正品「Fate」。RPGとしても秀逸な「フェイト/エクストラ」レビュー

 現代日本の地方都市を舞台にした原作「Fate/stay night」の世界とは大きく異なり,本作の舞台は2032年の霊子虚構世界“SE.RA.PH”(セラフ)。128人のマスターが,虚構世界上に作られた学園にて,願いを叶える“聖杯”をめぐってトーナメント戦を繰り広げる。
 実際のゲームの流れを簡単に説明すると,基本は学園内とアリーナの往復だ。学園内で情報収集やアイテムの購入などを行い,アリーナを探索して経験値を稼ぎ,アリーナから脱出するとゲーム内の1日が終了。これを繰り返して,敵サーヴァントの情報収集を行ないながら,7日に1回行なわれる敵マスターとの対戦に臨むことになる。

 プレイしてまず驚いたのは,「Fate」らしさの再現度が高いこと。確かに,本作のストーリーや設定を聞く限りだけでは,従来の伝奇的世界観から大きくかけ離れたものに感じられる。しかし実際に本作をプレイすると,ノベルパートの演出やテロップなどの画面デザイン,ゲーム全体から醸し出される雰囲気が,実にTYPE-MOON的なのだ。「Fate」やTYPE-MOON作品を遊んだことがある人ならば,この点はすぐにピンとくるはずだ。

アリーナに入る際の演出。文字の配置や,左下に英語テロップが記載されているあたりが実にTYPE-MOON的
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 そのため,舞台となる学園を実際に歩き回ってみると,プレイヤー自身が「Fate」世界の一員になった気分が味わえる。「Fate/hollow ataraxia」のように,街中も自由に歩き回れればもっと嬉しかったかも……とも思うが,学園内だけでも「Fate」らしさが味わえる。そしてさらに,詳しくは後述するが,戦闘システムやゲームバランスといったゲームとしての手触りも,実に「Fate」らしい。このように大胆にアレンジされつつも,丁寧に再現された「Fate」世界の上で,奈須きのこ氏のシナリオが展開したら――そう,これは正真正銘,純正品の「Fate」。「Fate」の新作なのだ。


三者三様の味方サーヴァント,お馴染みの面々

そして敵方にはあの英霊が……!?


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 聖杯戦争は,主人公達“マスター”と,歴史上の英雄・偉人を再現した“サーヴァント”の2人1組で挑むものだ。主人公(性別・名前・あだ名を設定可能)のサーヴァントは“セイバー”“アーチャー”“キャスター”の3クラスから選択可能で,サーヴァントによって,ステータスの成長率やスキルの種類が異なっている。

 どのサーヴァントをお供にするか悩ましいところだが,初回のプレイではセイバーをお勧めしたい。ゲーム中でも「初心者向けのサーヴァント」として紹介されているセイバーは,魔力以外の各ステータスの伸び率が高く,八面六臂の活躍をしてくれる。基礎能力が優れている上,攻撃系・支援系どちらのスキルもバランス良く習得するので,どんな場面でも臨機応変に対応可能。
 なお,外見は「Fate/stay night」のセイバーとよく似ているが,中身はまったくの別人で,原作のセイバーを知っていればいるほどそのギャップに驚かされるはずだ。なにしろ,自信満々の言動をする割にはここぞという場面で大ポカをやらかしてしまう,困ったちゃんな英霊なのである。……ところが,実際にプレイを続けると,だんだんそんなセイバーが可愛く見えてきてしまう。ペットと共に散歩する感覚とでも言おうか,戦闘終了時などにちょっとした会話を繰り返しながらアリーナの探索をしていくと,次第にサーヴァントに対する愛着がわき,見方が大きく変わるのだ。完璧な剣士であった「stay night」のセイバーのイメージは一旦捨てて,ぜひ新たなセイバーを愛でていただきたい。

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本作仕様のセイバー(通称:赤セイバー)。鎧には身を包まず,あえて軽装のまま戦場へ赴くのだ
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 もちろん,アーチャーやキャスターでも,それぞれの特徴が反映されたプレイが楽しめる。アーチャーは「Fate/stay night」では凜のサーヴァントだったが,今作ではプレイヤーキャラとして登場。彼の場合,各スキルに必要な“投影精度”の値が決まっており,あらかじめ必要な値の分,“投影準備”という行動によって投影精度を上げておかなくてはならない。スキルを使用するために必要な手数が多いことから,セイバーに比べると若干扱いにくいが,投影準備を何度も繰り返せばスキルの効果も上がるため,敵サーヴァント戦などの長期戦では頼れる存在となるだろう。もちろんゲームが進めば,原作や,今年上映された劇場版でもお馴染みの“あの”宝具も登場する。シナリオについては,味方サーヴァントのうち唯一「Fate/stay night」から継続して登場しているキャラということで,ファンには嬉しいセリフが多い。女主人公でプレイすれば,原作での凜の気分が味わえるはずだ。

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毒舌だけど面倒見の良いアーチャー。敵対する凜やライダーとの掛け合いも見所だ
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 今作のキャスターは,敵に対するバイオレンスな言動と,マスターへの過剰なまでのラブコールが表裏一体となっている,本人曰く「ピーキー」なサーヴァント。肉弾戦には不向きなクラスなので筋力や耐久の伸び率が低く,自ずとスキルでの攻撃が中心となる。しかしサーヴァントのMPを回復する手段は限られているため,いかにうまくMPをやりくりできるかが鍵となるだろう。味方サーヴァントの中でもとくに扱いが難しいため,戦闘に慣れた2周目以降での選択がお勧めだ。

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サーヴァントでは珍しい,和装の女性英霊。狐耳&尻尾も特徴的だ
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 学園で聖杯戦争の運営を支えているNPCは,柳洞一成,藤村大河,間桐桜,さらには言峰綺礼と,「Fate」ファンにはお馴染みの面々。マスターの中にも間桐慎二や遠坂凜といった,これまたお馴染みのキャラクターがサーヴァントを連れて登場する。

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タイガーこと藤村先生の依頼に応じると,サーヴァントと主人公のマイルームに飾れるインテリアがもらえる
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NPCとして保健室に常駐している桜。支給品の回復アイテムやお手製の弁当がもらえる
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凜は魔術師ではなく“ハッカー”として登場。ただし,性格はいつもどおりの世話好き&おっちょこちょい
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初戦の相手となる慎二。マスターとしての能力は決して高くないが,あの手この手で妨害してくる
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出番は少ないが,この三人娘も学園に現われる。なぜか肩書きは新聞部部長

 もちろん,新たに登場するマスターやサーヴァントも,既存のキャラクターに負けず劣らずの個性派揃いだ。敵サーヴァントの正体を探っていく過程も「Fate」の楽しみのひとつなので,ネット上の攻略情報などはできるだけ見ずに「この見た目や性格は,あの人物かな……?」と推理しながらプレイしてほしい。ネタバレになるので詳しくは書かないが,筆者は終盤でとあるサーヴァントと対面したとき,驚きを通り越して絶句してしまった(ここでは,神話や歴史に詳しくなくても誰もが必ず知っている有名人,とだけ述べておこう)。また,敵マスターも癖の強い連中ばかりなので,作中で明かされたプロフィールを元に「どうして聖杯戦争に参加したのか」「敵マスター同士がぶつかっていたらどうなっていたか」など想像すると非常に楽しい。

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対戦相手の年齢や格好はバラバラ。日常的な学園の景色とミスマッチしている様子が印象的だ
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どこかのファストフード店のCMで見たことがあるような敵マスター。見た目もさることながら,意外なキャストによる怪演も必聴だ
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対戦の直前に敵マスターと交わす会話から,各マスターと聖杯戦争の関わりが見えてくる。フルボイスでないのが少々残念
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敵サーヴァントを撃破すると,その英霊の詳しい人物背景が明かされる。英霊の元となった人物を知らなくても興味を持って読めるし,あらかじめ知識があれば史実と「Fate」独自の解釈のギャップも含めて楽しめるはずだ


「Fate」らしさを活かした新鮮な戦闘システム


戦闘はサーヴァントと敵の一騎打ち。マスターは後方からサーヴァントへ指示を出す。画面左下には基本コマンドの三すくみの関係がわかりやすく表示されている
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 RPGの華といえば,敵との戦闘。本作の戦闘システムは特殊なもので,1ターンあたり1回ずつ行動を入力していく一般的なコマンド式戦闘と違い,1ターン毎に6回分の行動をまとめて入力する方式となっている。
 基本コマンドはATTACK,GUARD,BREAKの3種で,GUARDはATTACKに強く,BREAKはGUARDに強く,ATTACKはBREAKに強く……と,それぞれジャンケンのような三すくみの関係。基本的に相手の行動は6回のうち一部しか見えないため,相手の行動パターンを推理して行動を決める必要がある。また3種の基本コマンドに加え,特殊攻撃や補助効果のある“スキル”と,各サーヴァント特有の切り札である“宝具”が特殊コマンドとして存在する。

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アリーナ内の敵の行動は,戦闘を重ねれば重ねるほど多くの情報が開示されていく。行動パターンの推理しにくい相手でも,何度も闘っていけば有利になるのだ
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各ターンのコマンドを入力すると敵味方が6連続でバシバシと打ち合う。この間,プレイヤーは固唾をのんでサーヴァントの戦いを見守ることになる

 戦闘で実際に敵と剣を交えるのはサーヴァントの役目だが,それを生かすも殺すも,すべては指示を出すマスター次第。マスターはサーヴァントへ指示を出すほかに,1ターンに1回だけ“コードキャスト”(いわゆる補助スキル)かアイテムによって,サーヴァントを支援できる。とくに重要なのがサーヴァントのHPを回復させるタイミングで,6回の打ち合いの中でいつ回復させるかがポイント。ゲームが進むにつれて敵の攻撃が強力になっていくため,タイミングを見誤ると,回復が間に合わずにサーヴァントのHPが尽きてしまうのだ。
 6回分のコマンドをまとめて入力する方式ということは,操作せずに画面を見ている時間が長く,手持ちぶさたになるのでは? と思うかもしれない。ところが実際にプレイしてみると,敵味方が6連続で打ち合っている間も,自分の狙い通りに攻撃が相手にヒットしているか,敵の攻撃パターンがどのようなものかが気になって目が離せないのだ。また,打ち合いの派手な演出とスピード感は「Fate」の戦闘そのもの。ビジュアルノベルでの戦闘シーンをRPGで見事に再現していると言えよう。


気を抜くと即死! の絶妙なゲームバランス


画像集#033のサムネイル/アレンジは大胆に,しかし中身は純正品「Fate」。RPGとしても秀逸な「フェイト/エクストラ」レビュー
ゲーム開始時に表示される注意書き。「またまた,そんな大げさなこと言ってー」と舐めてかかってはいけません。本当に,いきなり死にます
 ところで,TYPE-MOONや新納一哉氏の過去作をプレイした人ならば,ゲームの難度も気になるところではないだろうか。「Fate/stay night」や「世界樹の迷宮」など,過去の作品を思い返せば,どれもプレイヤーの精神を一刀両断するような容赦ない難度の高さでお馴染みのものばかり。もちろん本作も一筋縄ではいくはずがなく,ノーコンティニューでのクリアは至難の業だ。
 とはいえ,プレイを投げ出したくなるほど無闇やたらに難しいわけでもない。サーヴァントの残りHPに気を払い,慎重にプレイしてさえいれば,そう簡単には倒されないはずだ。ただ,ついうっかり「あ,このターンは回復しなくてもいけるかなー」と油断してしまうと……あっさりDEAD ENDを迎えてしまう。筆者の場合,緊張して挑んだサーヴァント戦よりも,アリーナ内での雑魚戦において“ついうっかり”のゲームオーバーを何度も経験してしまった。
 さらに,イベント中の選択肢にも要注意。迂闊な選択は死に繋がるので,イベントシーンを読み進めていたらいつの間にかゲームオーバーしていた……なんていうことも充分あり得る。注意して挑めばクリア可能な難度だが,気が緩むと即ゲームオーバー。実に絶妙なゲームバランスのため,序盤から最後の最後まで緊張感溢れるプレイが楽しめる。
 ちなみに本作には,腕に自信のないプレイヤーのために“初心者モード”が用意されている。このモードではアリーナ内のすべてのエリアに,HP・MPを全回復できる“回復の泉”が設置されているので,残りMPを気にせずレベルアップに励むことができる。

画像集#034のサムネイル/アレンジは大胆に,しかし中身は純正品「Fate」。RPGとしても秀逸な「フェイト/エクストラ」レビュー
学園内の移動はショートカット可能なので,探索中に歩き回る手間が省ける
 また,UMDからのロード速度が非常に早いなど,システム面の出来が良い点も,プレイヤーを挫折させず,リトライを後押ししてくれる。本作にはメディアインストール機能が搭載されていないが,マップ内の移動やイベントシーンなどでもロード時間が非常に短く,「本当にUMDから読み込んでいるのか!?」と疑ってしまうほど。アリーナ突入時などには若干待たされるが,大抵は1〜2秒,アリーナ内での敵エンカウント→戦闘画面への転換は一瞬だ。ロード時間の長さがプレイヤーのモチベーションを大きく左右するRPGにおいて,この仕様は非常に嬉しい。ロード時間以外には,学園内での移動をショートカットする機能やゲーム内チュートリアルなどが付いているのも好印象だ。
 だが一方で,ステータス確認等のためメニューを呼び出すときの動作には,若干もたつきを感じた。処理に時間がかかっているわけではなく,メニュー表示時の演出に0.5秒ほどかかるだけなのだが,メニューの各階層を表示するたびにその演出が入るため,トータルで考えるとぎこちない印象になってしまう。こうした演出をカットできるオプションが付いていれば,より快適にプレイできたかもしれない。

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ゲーム内チュートリアルも用意されており,戦闘システムや操作について懇切丁寧に解説してくれる
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テキストの表示スピードやボイスのON/OFF等もオプションから設定可能だ


 奈須きのこ氏自らシナリオを執筆しているだけあって,本作はテキストのボリュームが通常のRPGよりもかなり多めである。この点についてもシステム面でしっかりフォローされており,バックログ(読み返し)やスキップ等,ノベルゲームではお馴染みの機能を搭載することで,非常に読みやすくなっていた。強いて要望を挙げるなら,既読テキストのスキップ機能や,各イベントを回想できる機能があればなお良かっただろう。イベントシーンでは選択肢によって,その後の会話内容が変化するため,回想機能を利用して簡便にすべてのテキストを読破できるようにしてほしかったところだ。


1回や2回のクリアでは遊び尽くせないボリューム感


 戦闘システムやゲームバランスが良いとなると,ゲーム全体のボリュームも気になるはずだ。筆者の場合,1周目のプレイ時間は20時間強。これだけでも携帯機のRPGとしては決して少なくないボリュームである。だが,本作は味方サーヴァントごとに,ステータスやイベントでの会話内容が異なるので,どのサーヴァントを選んだかによってプレイ感覚も大きく異なるのだ。また,中盤のあるイベントでは,プレイヤーの下した決断によって,その後の展開に変化が起こる。こういった要素が盛り込まれているため,本作を隅々まで遊ぼうと思ったら,周回プレイに突入することになる。

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クリアデータを引き継いでプレイする場合,ゲーム序盤を一部スキップして開始できる
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アリーナの探索中も頻繁にサーヴァントが話しかけてくるため,退屈することはない

 なお,2周目以降のプレイでは,クリアデータから所持金と礼装(マスターの装備)の引き継ぎが可能なので,1周目よりも快適なプレイが可能だ。だが一方で,所持金の引き継ぎに関しては,普通にプレイしていれば1周目終盤の時点でどんなアイテム・礼装も購入できるくらいの貯金ができてしまうため,その使い道が少ないようにも感じたが,これに関してはプレイスタイル次第といったところもあるだろう。


ファン必見の仕掛けを用意しつつも

TYPE-MOON作品ビギナーにも優しい構成


 本作には「Fate/stay night」のキャラが多数登場しているだけではなく,TYPE-MOONの過去作を知っていればニヤリとできるネタも,ところどころに仕込まれている。とくに,あるキャラクターの登場シーンでは誰もが驚くはず。漫画やドラマCDでは作品の垣根を越えた共演が実現しているが,ゲームでここまで大々的に「Fate」と他作品のキャラが共演するのは初めてのことだろう。そういった意味では,TYPE-MOONファンには一種のお祭り的作品としても強くお勧めしたい。

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教会にて魂の改竄(サーヴァントのステータス強化)をしてくれるのは,TYPE-MOONの次回作「魔法使いの夜」の主人公・蒼崎青子。姉の橙子もなぜか一緒だ
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なんと,こんな細かいところにまで小ネタが……! スタッフロールにも要注目

 一方,ファンに嬉しい要素が多いとなると,TYPE-MOON作品にあまり馴染みのない人は置いてけぼりをくらうのでは……? と不安に思う方もいるかもしれない。だが,本作の舞台は「Fate/stay night」とは似て非なる世界で,しかも“聖杯”“サーヴァント”といった「Fate」世界の基本用語に関しても,ゲーム内でしっかりと説明されている親切設計。また先にも述べたように,ゲームシステムがよく出来ているため,単品のRPG作品としても充分楽しめる。なおかつ,シナリオは奈須きのこ氏渾身の紛う事なき純正品だから,TYPE-MOON作品の入門編としても最適だ。アニメ版や奈須氏の小説などがきっかけでTYPE-MOON作品に興味を持っている人だけでなく,新納一哉氏やイメージエポックのRPG作品のファンにも強くお勧めできる一本と言えるだろう。

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