インタビュー
ついに明かされるWizardry Onlineの方向性。そればかりか,なんとアノ作品の流れを引く新作までもが登場する2010年のゲームポットについて,社長の植田氏に聞いてみた
そんなゲームポットも,2009年は非常に静かな1年を過ごしていた。あれだけの数のタイトルが,粛々と運営はなされているものの大きな動きはなく,何よりゲームポットという会社そのものが(外から見て)動きを起こしていなかった。
2009年のオンラインゲーム業界は,急速に成長してお金が無尽蔵に投下されたそれまでのツケを一気に払った印象が強く,全体的に地味で,サービスが停止される作品も多かったのは,みなさんご承知のとおりだ。読者のみなさんの目にはあまり触れないが,事業部の縮小や運営チームの外注化,会社そのものの消滅など,言葉だけ聞くといささかげんなりする要素が多かったのは否定できない(まぁこの業界に限った話ではないが)。
だがそんな中でも各社はしのぎを削り,次なるムーブメントで覇者になるべく,粛々と牙を研いでいたわけだ。ブラウザゲームの台頭やソーシャルゲームの勃興などのムーブメントにあまり左右されることなく,その先を,それより広い部分を見据えて,静かに力をたくわえていたゲームポットの2010年について,同社代表取締役社長の植田氏に聞いてみることにした。
4Gamer:
お久しぶりです。
割といつも動きが派手なゲームポットさんにしては,2009年はなんだか静かな1年でしたが,実際どうでした?
確かにそうですね。2009年を振り返ってみると,弊社としては比較的平和で,そんなに大きなニュースもなく,今までがんばってた既存のゲーム――FEZ(ファンタジーアース ゼロ)とかパンヤ(スカッとゴルフ パンヤ)とかラテール(トキメキファンタジー ラテール)とか,そういうタイトルがお客様からいい評価を受けて順調だったな,という感じです。
4Gamer:
そもそも何か大きなチャレンジをする予定がなかった,ということでしょうか。
植田氏:
1年以上前なので去年の話じゃないんですけど,ペーパーマンなどは,弊社としては新しいチャレンジですね。開発陣も抱え込んでやってますから。この激戦区のFPSの中で,累計30万人もの方に遊んでいただいて,おかげさまでビジネス的にもかなり安定してきましたし,そういう意味では非常に大きな意味を持った1年でした。あとは,これを海外のほうで展開していったりとか。
4Gamer:
おや,海外。まずはどのへんからですか。
植田氏:
結構いろいろな地域から引き合いがあるんですけど,まずは東南アジアあたりでしょうか。
4Gamer:
あの絵柄ですし,割とどこでも通用しそうな気はしますね。
植田氏:
そうですね。ヨーロッパのほうからも声がかかってます。なにせヨーロッパだと,リアル系はいろいろと規制がね。
4Gamer:
とくにドイツなんかはそうですよね。
そう。レーティングの問題とか考えると,既存の戦争モノFPSと違って,ペーパーマンはいいかもしれない。
4Gamer:
引き合いがあるのは良い話ですけど,優先順位が難しいですね。
植田氏:
そうですね,開発のリソースの問題もありますし。
あと海外という話つながりで,北米で事業を立ち上げたりとかもしました。ヨーロッパ全域,タイ,インドネシア,ロシアなど,実は結構幅広い地域でやってるんですよ。
4Gamer:
ヨーロッパ全域,というのはEU?
植田氏:
ええ,EU圏内です。でも契約しているだけでも5か国ありますよ。
会社としての2009年は,そういう新しい方向を見つけたりしてました。
日本国内の状況は,そう悲観するものでもない
――肯定してきたものは否定され,否定されてきたものは肯定され
4Gamer:
海外に向けて動いたとのことですが,国内で爆発的にヒットさせてビジネスに結びつける,というのは,確かにそろそろ厳しくなってる気がします。
最近の傾向を見ていると――実は昔からそうですけど――趣味趣向が若干変わってきているのかな,と思います。さっき話題になったFPSにしたって,数年前では「絶対日本では流行らない」って言われ続けていたジャンルですよね。
4Gamer:
どこの会社も敬遠してましたしね。
植田氏:
ホントに(笑)。しかしいざふたを開けてやってみると,あれよあれよと意外に人気が出て,あっという間にタイトルも増えて。あとオンラインFPSっていうジャンルに関しては,実は「大コケしたタイトル」ってないと思うんですよね。
そんなわけでユーザーさんの嗜好性は刻々と変わっているわけで,まぁそれが逆に難しいんですけど。我々が今まで肯定してきたものは否定され,否定されてきたものは肯定され。
4Gamer:
最近は,重厚長大「に見えない」という要素がキーかもしれませんね。ブラウザゲームなんかがその筆頭ですが。
植田氏:
そういう部分はキチンとリサーチしなきゃいけないですね。
4Gamer:
まぁ確かに,10年前とかに記事を書いてもだーれも読んでくれなかったFPSが,市民権を得る時代が――しかもコンソールにおいて!――来るとは思っていませんでした。
植田氏:
Call of Duty 4なんて世界で1000万本でしょ? 有名RPGなんかの本数の比じゃない。日本だってそう悪くないですしね。
ずっと前から比べれば,「3」のときも相当いい数字だったんですけど,コンソールの「4」でいきなり大化けしましたね。
植田氏:
そんなこんなを考えると,日本市場にあまり悲観的な見方はしていません,私は。
4Gamer:
「終わりそう」と考えるわけではなく,努力の割に(数値が)報われるのかな,というところが疑問なんです。そういう大変な勝負をする前に,まずは海外とかに手を広げたほうが,と思うんですね。日本のコンテンツってどこでも欲しがりますし。中国に至っては,極論,日本のIPだったらなんでもいいわけで。
植田氏:
そういう部分はありますね。でも,実は結局日本のオンラインゲームマーケットって,外国産のゲームが多いんですよね。
4Gamer:
確かにオンラインゲームマーケットに至ってはとんでもない比率ですね。
植田氏:
ね。世界で配信されているオンラインゲームも,やっぱり比率的には韓国が多いんです。そうすると,結局勝負するにしても,どこの国で勝負しようが……。
4Gamer:
結局は同じである,と。
植田氏:
ということですよね。だから弊社は,2010年は自社コンテンツをですね……。
4Gamer:
つまり自社IPですか?
植田氏:
です。出しますよ。ぜひ期待してください。
ついにその姿を現すWizardry Online
――萌えとかないです。血と汗とデカダンスです
4Gamer:
Wiz込みの話ですか?
ええ。もうちょっとしてから発表します。
4Gamer:
そろそろその「もうちょっと」の範囲を教えてくださいよ。
植田氏:
えーと,暖かくなったら,かな(笑)。
4Gamer:
真面目な話,順調なんですか?
植田氏:
開発が進むにつれ,そして他社さんからルネサンスプロジェクトの作品が出て,その反応を見るにつれ,改めてブランドの魅力を感じるとともに,「これは絶対失敗できない」というプレッシャーも感じます。生半可なものは作れないな,と。
4Gamer:
Wizのテイストはどういう部分を残してますか?
私もよく知らないんですよ(笑)。
4Gamer:
そんなバカな(笑)。
植田氏:
今までの,いわゆる韓国産を代表とする「MMORPG」というものとは,明らかに遊び方が違うと思います。一言で言うと「緊張感がある」ゲーム。ドキドキ感といいますか。
4Gamer:
片手でお菓子食べながら,敵をダラダラと500匹くらい倒すゲームじゃないならそれでいいです。
植田氏:
その状態には,絶対ならないと思いますよ。
4Gamer:
ほかに何か新しい仕掛けは?
植田氏:
といいますと?
4Gamer:
WizはそのIPの性格上,ファミコン世代であってもApple世代であっても,もしかしたらゲームボーイの外伝世代であっても――あれは名作でした――みなが共通して持ってる何かがあると思うんですよ。で,たぶんそのテイストは,なんらかの形で残されるだろう,と。
植田氏:
なるほど。
4Gamer:
でもゲームポットはオンラインゲームパブリッシャですから,そんな程度のことでは終わらず,きっと何か「オンラインゲームパブリッシャらしい仕掛け」が入ってるはずだな,と。
そういうことなら,もちろんありますよ。「Wizをやり込んでいた人なら琴線に触れるところがいくつもあるはず」とプロジェクトの人間も言ってましたが,それ以外にも,いわゆる「オンラインゲームらしさ」とでもいいましょうか。
4Gamer:
粘ってもそれ以上教えてくれなさそうなので,話を変えますが,どのへんの層を想定してますか? コアなWizファン? ライトなファン? それ以外?
植田氏:
コアファン,ですかね。あまり世の中に迎合しない作りにしてます。
4Gamer:
挑戦的ですね。
植田氏:
初心者に優しい,とかなんとかそういう売り文句も一切なしで。とりあえずやってみて,という感じの。
4Gamer:
3Dになって「アクション戦闘」とかが導入されて,町でいっぱいクエストもらうゲームだったらすごく寂しい気持ちになるところでした。
植田氏:
いやいや(笑)。遊べるのであればぜひどうぞ,という気持ちでしょうか。
4Gamer:
ところでWiz自体の版権はどこまで持ってるんでしたっけ。
植田氏:
全部持ってます。書籍とかコミック化とかノベライズとか。
4Gamer:
ホントに全部持ってるんだ。
今は別冊マガジンで連載してます。
4Gamer:
主人公がいなくてコミカライズしづらそう……でもないのか。
……おや,Wizardryというロゴも本物ですね。当たり前か。
植田氏:
もちろんマンガだけで終わらせるつもりはなくて,いろんな仕込みをしてますよ。
4Gamer:
時代も変わればWizも変わるんですねえ。
植田氏:
うちのスタッフは,テンションを上げるために,自分で西洋甲冑を買ってきて武術を習ってますよ。道場通ったりして。歩くとカッシャンカッシャンいうの。
4Gamer:
どうかしてる(笑)。
植田氏:
そしたらなぜかアメリカの新聞の西洋剣術の記事に載ったんですけどね(笑)。
4Gamer:
……って,まさかWizオンラインのネタはこれで終わりですか?
だめ?
4Gamer:
もうちょっと何か……。
植田氏:
じゃ今プロデューサーにしゃべっていいこと聞いてきますね。
(といってホントに退室)
ええと,いましゃべっていいことは以下のとおりです。でも質問は受け付けません。これ以上の情報も出せません,だそうです(笑)。
・生と死をかけたMO-RPGです
・キャラクターの死・灰・消滅をオンラインでも再現しています
・ただの迷路ではありません。まさに「迷宮」に挑みます
・ゲーム全体の雰囲気はダークでゴシックです。萌えとかないです。血と汗とデカダンスです。
4Gamer:
……なんかとんでもなく楽しみになってきました。
しかし意外と遠くなかったですね,Wizオンライン。なんにも情報が出ないから頓挫したのかと思ってたくらいで。
植田氏:
いやいや。ぜひ楽しみにしていてください。
Wizばかりか,あの消えていった名作までもが復活
――「再生の魔術師」に加えて「新しいIP」という特徴もついたゲームポット
4Gamer:
ところで先ほど話に出た「オリジナルIP」というのは。
仕込んでるのは三つです。Wiz含めて三つだから,ほかに二つ。タイミングや,いろいろな状況を見計らってのリリースになると思います。
4Gamer:
せめて何かヒントください……。
植田氏:
ゲームポットフェスタのときの……。
4Gamer:
あ。あれって,もしかして●●●じゃないですか?
(編注:ゲームポットフェスタのときの文章を見れば,分かる人ならすぐ分かる。参考までに,記事末にあのときのテキストをそのまま掲載しておこう)
植田氏:
ええと,ノーコメントとさせてください。
4Gamer:
きっとビンゴですね(笑)。いやあ,当時すでに熱狂的なファンもいたし,僕も好きでした。きっとゲームポットさんが,開発プロデューサー「G」氏の意志を継いでくれると思ってました!
……何か読者のみなさんに見せられるものないですか。
植田氏:
言いたい放題ですね(笑)。じゃ既存のものですが1枚だけあげます。
4Gamer:
……やっぱりそそられますね。
植田氏:
でしょう? もう一つのほうはちょっと今は勘弁してください。きっとみなさんの期待を裏切らないものになると思います。
4Gamer:
しかしその2作だけで,2010年はもう十分「大きな動き」ですね。
なんていうか,人の五感に訴えられる「おお!」というものを,プロデューサーだとか運営チームだとか,そういった部分できちんと作ってサービスとして継続させて,楽しさを与え続け,なおかつビジネス的にも成功させる。そういうことがしたいんです,今年は。
4Gamer:
先ほどまでの話といまのセリフを統合すると「日本が作れば外国のゲームとは違うぞ!」ということですか。
植田氏:
なんかそうやって表現すると過激に聞こえますけど,少なくとも日本の「とんがった」部分を見せたいな,と思っています。なんとなく元気ないじゃないですか,日本のゲーム業界自体が。
4Gamer:
元気が出る理由は,現時点ではあまり見あたりませんしね。いくら不景気に強い業種だといっても。
植田氏:
まぁオンラインだと海外展開しやすいし可能性も大きいので,そこはぜひやっておきたいんです。
4Gamer:
こないだもちょうどガマニアさんとそんな話をした気がしますが,うかうかしてると……。
植田氏:
韓国や中国が,ね。
4Gamer:
あと数年後に本気で爆撃されたら絶対まずいですよ。
植田氏:
なにせ「人の数」が段違いですし,2,3年経てば普通に追いつきそうな気はします。
というかすでに追いついてる部分もありますし。レベルとしては正直十分なものに達しつつある。
しかし「数」の違いは,本当に驚異だと思います。現時点では一人一人のクオリティには大きな差があって,まだまだ日本にアドバンテージがありますけど,結局のところそれは時間が解決するかもしれないことだし,そもそも……。
植田氏:
4倍5倍,もしかしたらそれ以上の数いますからね。
4Gamer:
です。最近流行りのブラウザゲームとかも,まだ大半は韓国や中国からの供給ですよね。日本オリジナルの話もだいぶそこかしこで進んでるようではありますが。
植田氏:
そうですね。
4Gamer:
そういう意味でも,Wizには期待がかかります。これほどのIPを使った日本オリジナルというのは,いままで例がない……ような気がします。逆はいっぱいあるんですけどね(笑)。魔界村オンラインとか塊魂オンラインとか。
植田氏:
我々も,成功しているタイトルもあり,もちろん失敗しているタイトルもあり,そこで積み上げてきたものを総動員して,多くの人に喜ばれるゲームにしたいと思っています。
始まったばかりのモンスターファーム ラグーンも,最初スタートしたときは正直散々だったんですが,ゲームポットもテクモも意地がありますし,かなり改善されて,おかげさまで現在は順調です。
あの作品もきっと,最初の段階では「これモンスターファームじゃないじゃん」っていう部分が目立ってしまったんじゃないかな,と。Wizも,油断すると同じ轍を踏みそうなIPですが,先ほどのプロデューサーの言葉を聞く限り大丈夫そうですね。むしろこのご時世に売れるのかと心配に(笑)。
しかし「再生の魔術師」に加えて「新しいIP」という属性が付きましたね,ゲームポットも。
植田氏:
そんなに再生ばっかりしてるかなぁ。……確かにそうかもしれない。物好きが多いんですよ,きっと。ほかがやってないことに手を出したい,みたいな。
4Gamer:
残った一つのIPは,何もヒントをもらえないんですか。
植田氏:
完全に新IPです。なので出てからのお楽しみにさせてください。
オンラインゲームに関しては,なまじIPがあるから有利かっていうとそんなことはないと思うんですよね。逆に縛られちゃうこともありますし。そのへんを考えると,自由な発想で作れるものがあってもいいかなと。
4Gamer:
その3作目は内部開発ですか?
植田氏:
いえ,外部の優秀な開発会社さんと一緒に進めています。
RPG?
植田氏:
まぁまぁ(笑)。
4Gamer:
どうしてもだめみたいですね(笑)。まぁせっかくなら,MMORPGじゃない何か違うものも出して欲しいな,と勝手に思ってるだけなんですけど。
ともあれ2010年は,その2つか3つを集中的に,1年ちょっとお休みして溜め込んだものを一気に。
植田氏:
ええ。去年は仕込みをしたので,今年はドカン!とやりますよ。
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