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[GDC 2009#24]「World of Warcraft」で推し進められる“Directed Gameplay”というコンセプト
こう語るのは, Blizzard Entertainmentのゲームデザイナー,Jeffery Kaplan(ジェフェリー・キャプラン)氏だ。同氏は,「World of Warcraft」(以下,WoW)のプロジェクトにおいて,Rob Pardo(ロブ・パードゥ)氏(「Warcraft」シリーズの生みの親といわれている)のもとでデザイナーとなり,拡張パック第一弾の「The Burning Crusade」(2007年1月)ではリード・デザイナーを,「Wrath of the Lich King」(2008年11月)ではディレクターを務めるなど,常にWoWの中核にいる人物である。
そんなキャプラン氏が,GDCにおいて「The Cruise Director of AZEROTH: Directed Gameplay within World of Warcraft」(アゼロス客船ディレクター: World of Warcraftにおけるディレクテッド・ゲームプレイ)という講演を行った。Blizzard関係者のGDC参加が珍しいうえ,キャプラン氏が“あの”WoWの中核メンバーであるため,この講義にはゲーム業界人なのか,それともただのファンなのか判別できないような人々が,長蛇の列を作っていた。
さて,世界中で1200万アカウントと,MMORPG市場の63%を独占するほどの大成功を収めているWoWだが,キャプラン氏の講義内容は,「これまでに犯してきたデザイン部分での失敗を,どのように訂正してきたか」というものだった。
講義のタイトルにある「ディレクテッド・ゲームプレイ」というのは,「デザイナーがプレイヤーに道筋を与えるゲームプレイ」という意味で,講義自体もWoWのクエストシステムだけに絞って進められた。
しかし,対抗心のあまり2004年11月にWoWがローンチされた段階で,クエストの数は約2600にも及んでいた。The Burning Crusadeでは倍以上の約5300種にまで増え,Lich Kingがリリースされた今では約7650種ものクエストを楽しめるようになっている。なんとこれらのクエストは,北米だけでも一日につき約1664万回もプレイされているのだというから凄まじい。
WoWのゲームコンセプトは,もともと「オープンワールドに感じられる世界を舞台に,コンテンツでプレイヤーを楽しませていく」というものだった。そのため,クエスト関連はとくに集中してデザインが行われたとのことで,豊富なクエスト量だけでなく,クエストログの調整,画面上や右側でクエストの進行状況を示すような工夫,クエストの存在を示すNPCの頭上のエクスクラメーションマークなどで,プレイヤーを誘導するよう務めたわけだ。
このあたりが,コアなMMORPGゲーマーをして「WoWは初心者に優しすぎる」と言わしめるゆえんであるのだが,Blizzard Entertainmentが,それをあえて狙っているというのが,キャプラン氏の話からも分かるだろう。
この後,キャプラン氏のトークは,「WoWのクエストシステムで,何が失敗だったのか」を述懐していく。長いので,まとめておくと以下のようなものだ。
クエストデザイナーが協調せずにクエストを放り込んだので,ミニマップがエクスクラメーションマークで埋め尽くされ,まるで電飾のようになってしまう状態を,Blizzard社内でこう呼んでいるという。現在では,一地域に七つ以上のクエストがないように修正された。
●クエストの説明が長すぎ
WoWのテキストエディタは,最大511キャラクターに制限されていた。それでも長過ぎるようで,テストプレイの結果,これをじっくり読む人はほとんどいないことが判明した。
●ミステリーをなくす
クエストを行う理由や目指す場所,報酬となるアイテムの内容が分かりにくいクエストは,プレイヤーがファンサイトで検索することを促すだけ。ファンサイトの存在は悪いことではないが,ゲームデザインという観点では問題がある。
●クエストの繋がりがむちゃくちゃ
クエストがLv30からLv44という長いスパンに広がるMyzraelのクエストのように,デザイナーが張り切りすぎた“悪いクエスト”がある。プレイヤーは,自分がどんなクエストをしているのか途中で忘れてしまう。
●ギミック・クエスト
乗り物を登場させるなど,プレイヤーにはあまり嬉しくないクエストもある。乗り物を作って格好いいと思うのは,担当デザイナーとアーティストくらいだろう。
●流れの悪さ
キャプラン氏は,Loch Modanのクエスト企画を見せて,担当するデザイナーの手腕によって,どれだけ洗練されていくものなのかを示した。
●誰がモノ集めを面白いと思うのか
日本では,「お遣いクエスト」とも呼ばれるような,モノ集めに奔走させるのが,Collectionクエストというタイプ。簡単なのでデザイナーは多用しがちだが,なぜコボルトを8匹倒し,ウルフミートを10個取ってくる必要があるのかなど,プレイヤーに「デザイナーの未熟さ」を感じさせるものが少なくない。
昔のシステムでは,アイテムをドロップするはずのモンスターを倒し続けても,なかなかアイテムが出てこないことに苦労させられたプレイヤーも多いはず。当初,ドロップ確率は25%ほどに設定され,その後のベースは35%まで引き上げられたとのことだが,およそ3分の1の確率であっても,十分ではなかったようだ。
そこで,Blizzard Entertainmentは,PPIDというシステムを採用したのだ。これは,最初のモンスターを倒したときは16%の確率でしかドロップアイテムが出てこないが,その後モンスターを倒すごとに25%,35%,50%,66%といった具合に確率が引き上げられていき,最終的には100%になる。
このことで,ドロップアイテムが登場,もしくはCollectionクエストをコンプリートする時間は,プレイヤーの間では均一に近づいたとキャプラン氏は話す。ただし,「なかなか出ない,すぐに出てきた,というのもゲームの要素の一部分である」ことを認めつつ,ゲームのメカニックは完全ではないながらも,全体的にはドロップ率のベースは45%くらいまでに引き上げられたはずであると語っていた。
キャプラン氏がクエストシステムの失敗例として,前述の「クエストの説明が長すぎ」という項目を説明していたとき,彼は「クエスト用のストーリーなんて誰も読まない。我々ゲームデザイナーはシェイクスピアじゃないんだから,独りよがりなストーリーなんて極力短くしておくべき。良いストーリーなら本屋でたくさん売っている」とコメントしていたのだが,このとき,筆者の前に座っていた女性が,連れの男性の顔を見ながら低くうなり声を出していた。
このキャプラン氏のコメントは,ファンの反発を招くことになるかも知れない。というのも,欧米のゲーマーの中には,Loreコミュニティと呼ばれる集団も存在し,ゲームのストーリーを解析して一つ一つを繋げて吟味したり,自分でさらにストーリーを広げていったりすることを楽しむファンも少なくないからだ。
クエストのストーリーは短いほうが良いのか,長いほうが良いのか。すべてのファンを満足させるのは難しいだろうが,Blizzard Entertainmentの推し進める“ディレクテッド・ゲームプレイ”というものは,好き勝手にゲーム世界を楽しみたいファンにとって,どのように受け止められるものなのだろうか。
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- ライター:奥谷海人
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