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[GDC 2009#24]「World of Warcraft」で推し進められる“Directed Gameplay”というコンセプト
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印刷2009/03/27 21:54

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[GDC 2009#24]「World of Warcraft」で推し進められる“Directed Gameplay”というコンセプト

キャプラン氏は,WoWではTigoleとして知られるデザイナーだ
画像集#002のサムネイル/[GDC 2009#24]「World of Warcraft」で推し進められる“Directed Gameplay”というコンセプト
 MMORPGであろうがなかろうが,オープンワールドなゲームの開発において,ゲームデザイナーが最も注意しなければならないのは,「いかにプレイヤーを迷わせないか」である。
 こう語るのは, Blizzard Entertainmentのゲームデザイナー,Jeffery Kaplan(ジェフェリー・キャプラン)氏だ。同氏は,「World of Warcraft」(以下,WoW)のプロジェクトにおいて,Rob Pardo(ロブ・パードゥ)氏(「Warcraft」シリーズの生みの親といわれている)のもとでデザイナーとなり,拡張パック第一弾の「The Burning Crusade」(2007年1月)ではリード・デザイナーを,「Wrath of the Lich King」(2008年11月)ではディレクターを務めるなど,常にWoWの中核にいる人物である。

 そんなキャプラン氏が,GDCにおいて「The Cruise Director of AZEROTH: Directed Gameplay within World of Warcraft」(アゼロス客船ディレクター: World of Warcraftにおけるディレクテッド・ゲームプレイ)という講演を行った。Blizzard関係者のGDC参加が珍しいうえ,キャプラン氏が“あの”WoWの中核メンバーであるため,この講義にはゲーム業界人なのか,それともただのファンなのか判別できないような人々が,長蛇の列を作っていた。

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 さて,世界中で1200万アカウントと,MMORPG市場の63%を独占するほどの大成功を収めているWoWだが,キャプラン氏の講義内容は,「これまでに犯してきたデザイン部分での失敗を,どのように訂正してきたか」というものだった。
 講義のタイトルにある「ディレクテッド・ゲームプレイ」というのは,「デザイナーがプレイヤーに道筋を与えるゲームプレイ」という意味で,講義自体もWoWのクエストシステムだけに絞って進められた。

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 まずキャプラン氏は,WoWがプロダクションの初期段階だった頃──具体的には,当時最も人気のあったMMORPG「EverQuest」の拡張パック第3弾「EverQuest: The Shadows of Luclin」がリリースされた,2001年末か2002年初め──のことを語った。当時のEverQuestには,合計約1200種類ものクエストが存在しており,それに対抗するためには少なくても600種類のクエストを用意する必要があったという。
 しかし,対抗心のあまり2004年11月にWoWがローンチされた段階で,クエストの数は約2600にも及んでいた。The Burning Crusadeでは倍以上の約5300種にまで増え,Lich Kingがリリースされた今では約7650種ものクエストを楽しめるようになっている。なんとこれらのクエストは,北米だけでも一日につき約1664万回もプレイされているのだというから凄まじい。

 WoWのゲームコンセプトは,もともと「オープンワールドに感じられる世界を舞台に,コンテンツでプレイヤーを楽しませていく」というものだった。そのため,クエスト関連はとくに集中してデザインが行われたとのことで,豊富なクエスト量だけでなく,クエストログの調整,画面上や右側でクエストの進行状況を示すような工夫,クエストの存在を示すNPCの頭上のエクスクラメーションマークなどで,プレイヤーを誘導するよう務めたわけだ。
 このあたりが,コアなMMORPGゲーマーをして「WoWは初心者に優しすぎる」と言わしめるゆえんであるのだが,Blizzard Entertainmentが,それをあえて狙っているというのが,キャプラン氏の話からも分かるだろう。

 この後,キャプラン氏のトークは,「WoWのクエストシステムで,何が失敗だったのか」を述懐していく。長いので,まとめておくと以下のようなものだ。


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●The Christmas Tree Effect
クエストデザイナーが協調せずにクエストを放り込んだので,ミニマップがエクスクラメーションマークで埋め尽くされ,まるで電飾のようになってしまう状態を,Blizzard社内でこう呼んでいるという。現在では,一地域に七つ以上のクエストがないように修正された。

●クエストの説明が長すぎ
WoWのテキストエディタは,最大511キャラクターに制限されていた。それでも長過ぎるようで,テストプレイの結果,これをじっくり読む人はほとんどいないことが判明した。

●ミステリーをなくす
クエストを行う理由や目指す場所,報酬となるアイテムの内容が分かりにくいクエストは,プレイヤーがファンサイトで検索することを促すだけ。ファンサイトの存在は悪いことではないが,ゲームデザインという観点では問題がある。

●クエストの繋がりがむちゃくちゃ
クエストがLv30からLv44という長いスパンに広がるMyzraelのクエストのように,デザイナーが張り切りすぎた“悪いクエスト”がある。プレイヤーは,自分がどんなクエストをしているのか途中で忘れてしまう。

●ギミック・クエスト
乗り物を登場させるなど,プレイヤーにはあまり嬉しくないクエストもある。乗り物を作って格好いいと思うのは,担当デザイナーとアーティストくらいだろう。

●流れの悪さ
キャプラン氏は,Loch Modanのクエスト企画を見せて,担当するデザイナーの手腕によって,どれだけ洗練されていくものなのかを示した。

●誰がモノ集めを面白いと思うのか
日本では,「お遣いクエスト」とも呼ばれるような,モノ集めに奔走させるのが,Collectionクエストというタイプ。簡単なのでデザイナーは多用しがちだが,なぜコボルトを8匹倒し,ウルフミートを10個取ってくる必要があるのかなど,プレイヤーに「デザイナーの未熟さ」を感じさせるものが少なくない。

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 全体的には,ファンにクエストデザインの失敗を弁明するかのような話の流れだが,キャプラン氏はさらに「Progressive Percentage Item Drop」(以下,PPID)という,Lich Kingで取り入れられた新しいシステムを解説した。
 昔のシステムでは,アイテムをドロップするはずのモンスターを倒し続けても,なかなかアイテムが出てこないことに苦労させられたプレイヤーも多いはず。当初,ドロップ確率は25%ほどに設定され,その後のベースは35%まで引き上げられたとのことだが,およそ3分の1の確率であっても,十分ではなかったようだ。
 そこで,Blizzard Entertainmentは,PPIDというシステムを採用したのだ。これは,最初のモンスターを倒したときは16%の確率でしかドロップアイテムが出てこないが,その後モンスターを倒すごとに25%,35%,50%,66%といった具合に確率が引き上げられていき,最終的には100%になる。
 このことで,ドロップアイテムが登場,もしくはCollectionクエストをコンプリートする時間は,プレイヤーの間では均一に近づいたとキャプラン氏は話す。ただし,「なかなか出ない,すぐに出てきた,というのもゲームの要素の一部分である」ことを認めつつ,ゲームのメカニックは完全ではないながらも,全体的にはドロップ率のベースは45%くらいまでに引き上げられたはずであると語っていた。

 キャプラン氏がクエストシステムの失敗例として,前述の「クエストの説明が長すぎ」という項目を説明していたとき,彼は「クエスト用のストーリーなんて誰も読まない。我々ゲームデザイナーはシェイクスピアじゃないんだから,独りよがりなストーリーなんて極力短くしておくべき。良いストーリーなら本屋でたくさん売っている」とコメントしていたのだが,このとき,筆者の前に座っていた女性が,連れの男性の顔を見ながら低くうなり声を出していた。
 このキャプラン氏のコメントは,ファンの反発を招くことになるかも知れない。というのも,欧米のゲーマーの中には,Loreコミュニティと呼ばれる集団も存在し,ゲームのストーリーを解析して一つ一つを繋げて吟味したり,自分でさらにストーリーを広げていったりすることを楽しむファンも少なくないからだ。
 クエストのストーリーは短いほうが良いのか,長いほうが良いのか。すべてのファンを満足させるのは難しいだろうが,Blizzard Entertainmentの推し進める“ディレクテッド・ゲームプレイ”というものは,好き勝手にゲーム世界を楽しみたいファンにとって,どのように受け止められるものなのだろうか。

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