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[GDC 2025]他者を尊重することが,作品とチームの未来を豊かにする──ゲーム開発に限らない「心理的安全性」の話
そんな会議は理想的で素晴らしいものだが,その実現はとても難しい。意図を持って運営されれば刺激的な場となるが,そうでなければストレスの溜まるものになりかねない。一人の声が会話を独占してしまうこともあれば,誰も発言する勇気を持てないこともある。最悪なのは,会議に参加した人たちが「この時間って無駄じゃない?」と感じることだ。
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同じ目的を持ってクリエイティブに向き合うチームメンバーのポテンシャルを最大限に引き出し,創造性や仲間意識,そして集中力を育む環境を整えるにはどうすればいいのだろうか。ゲーム開発者カンファレンス「GDC 2025」の初日(2025年3月17日),そんな“より良いチーム”を作るために重要な「心理的安全性」をテーマとした「Independent Games Summit: Meetings Make Games! Fostering Empathy and Focus in Collaborative Discussion」が行われた。
職位や専門分野,アイデンティティを問わず,参加者が安心して発言できる場所でクリエイティブに向き合いたい人。そういった場所を作ってリードしたい人や参加したいと思う人,すべてに向けたセッションの模様をレポートしよう。
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本セッションのスピーカーであるMichelle Olson氏は,Banana Bird StudiosおよびLightspeed LAに所属するゲームクリエイターだ。以前はインディーゲームのディレクターやゲームデザイナー,映画プラットフォーム「Plasticity」の主任デザイナーなどを務めており,今はAAAタイトルの制作に関わっている。つまりインディー,テック,そしてAAAタイトルと,幅広い分野でのチーム開発経験を持っているわけだ。
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そんなMichelle Olson氏がなぜGDC 2025で自身の経験を語ろうと思ったか。それは「会議が悪い評判を持たれているから」だ。
チームでのクリエイティブにおいて話し合いは,重要で素晴らしいものだと考える氏だが,しかし残念ながら,会議が嫌われるのも無理はないとも話す。それは,適切に運営されない会議は混乱や緊張を生むだけで,フラストレーションを増大させてしまうからだ。
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誤解や意思疎通のミスが頻発する。一部の参加者が発言機会を得られない。特定の人間の声だけが支配してしまう。それらは参加者が「時間の無駄だった」「そもそもなぜ自分がここにいるのか?」という不満を生む原因となる。
クリエイティブな個性を持つ人々が集まる場では,意見の衝突や社会的な摩擦が避けられない。しかし,それ自体は問題ではなく,重要なのは摩擦とうまく付き合い,建設的な議論へと導くことにある。
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そんな場所を作るのに重要な役割を担うのが「ミーティングランナー」。会議が脱線するのを防ぎ,目的を達成するための進行役だ。
会議の流れを管理し,話が逸れたときに軌道修正する。参加者全員の意見を引き出す。議論が白熱した際には,適切に仲裁する。それができる進行役を決めることで会議の生産性が向上し,参加者が安心して意見を述べられる環境が整う。
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次にすべきことは「明確な目標の設定」だ。会議の目的が不明確だと,議論が迷走し,時間の浪費につながる。
会議のゴールを明確に設定し,事前に共有する。アジェンダを作成し,議論の方向性を定める。参加者が事前準備できるように,必要な資料を提供する。それらによって明確な目標ができることで,参加者の積極的な関与が促される。
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ここまでで「そんなの当たり前じゃないか」と思う人は,それができている環境にあるということ。実はこれですらできていないところが多いわけで……心理的安全性を保ちつつ,話し合える場所を作ることは大変だということである。
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次のステップは「場の雰囲気を和らげる」こと。緊張感のある会議では,参加者が自由に発言しづらい。
発言しやすい環境を整え,批判的な発言を避ける。適度なユーモアを交えながら進行する。また無言の時間も重要で,意図的にアイスブレイクを導入し,リラックスした雰囲気を作ることも欠かせない。ちょっとした雑談で笑いを誘うことで雰囲気を和らげ,無言の時間や批判されない空気によって気軽に発言でき,話さなくてもいい「間」があることで創造的なアイデアが生まれるという期待ができる。
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ミーティングランナーの大事な役割に,全員の意見を聞く機会を作ることがある。発言者が偏ると,議論の多様性が損なわれる。
発言していないメンバーに意見を求め,小グループでのディスカッションを導入。チャット機能などを活用し,リアルタイムで意見を集めるなど,全員の意見が尊重されることで,参加者の心理的安全性が向上する。
「行動が文化を作る」ことへの意識も重要だ。会議でのコミュニケーションのあり方が,チームの文化を形成する。積極的な傾聴を心がけ,相手の意見を否定せず,まずは受け入れる。クリアな言葉づかいで意思疎通を図るといった行動の積み重ねが,健全なコミュニケーション文化を築くというわけだ。
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本講演で印象的だったのが,「チームメンバーは人間であることを忘れない」ことの重要性の話だ。
会議の場では,メンバーを「役職」や「担当分野」ではなく,一人の人間として尊重することが不可欠。思いやりを持って接する。人間関係の摩擦を恐れず,互いにサポートする。相手の発言に対して,ポジティブなフィードバックを心がける。こうした姿勢が,心理的安全性を確立し,チーム全体のパフォーマンス向上につながる。
「相手は人間」という認識はそれこそ当たり前ではあるが,相手を想像しにくい,顔が見えにくいチャットでのやり取りでは,いわゆるレスバのように感情的な衝突に発展することがある。だからこそ「画面の向こうには感情を持った人間がいる」という意識を常に持つことが大切だと感じる。
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会議の要点を振り返ることも忘れてはいけない。議論の要点を整理して今後のアクションを明確にし,会議のまとめを口頭で行う。重要なポイントを議事録に残して全員に共有する。そして次のステップを明確にし,誰が何をすべきかを明示する。このプロセスを取り入れることで,会議の成果を実感しやすくなる。
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心理的安全性を高め,より効果的な会議を実現するための具体的な戦略が紹介された本講演。とくに「チームメンバーは人間であることを忘れない」という視点は,会議運営だけでなく,日々のチームマネジメントにおいても重要な示唆を与えるものだと思う。
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心理的安全性の確保は,単に会議の効率を向上させるだけでなく,クリエイティブなアイデアを生み出し,関わる人々の人生の充実にもつながる。筆者自身もこれに近い考えを持っており,日々何かしらで実践するのだが,思考の流れをそのまま言葉にする特性によって,ときに一方的な話し方になってしまうことがある。
本講演を聞いて,自分のリズムに固執せず,違うリズムの人々を尊重することの大切さをあらためて感じた次第だ。
今回紹介された戦略のうち,たった一つでも取り入れることで,会議の質は確実に変わるという。チームの特性に合わせてカスタマイズしながら,実践してみる価値があると強く思う。
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「GDC 2025」公式サイト
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