
インタビュー
AIの活用はコロプラとしての挑戦――。金子一馬氏のクリエイティブを学習したAIを搭載した「神魔狩りのツクヨミ」合同インタビュー前編
AIの活用はコロプラとしての挑戦――。金子一馬氏のクリエイティブを学習したAIを搭載した「神魔狩りのツクヨミ」合同インタビュー前編

「真・女神転生」シリーズのスタイリッシュな悪魔デザインで知られる金子一馬氏を学習した「AIカネコ」が神となる。AIを積極的に取り入れたカードゲーム「神魔狩りのツクヨミ」について,合同インタビューが実施されたのでその様子をお伝えしていこう。第1回のテーマは「本作がどのようにして作られたか」だ。
昨年5月に「project MASK」として発表された本作は,“「神」と創る,新たなゲーム体験”を謳い,話題を呼んだ。その実態は,金子氏を学習した「AIカネコ」が新たなカードを作り出す,ローグライクカードゲームであったのだ。
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舞台は近未来の日本にそびえるタワーマンション「THE HASHIRA」だ。突如「神魔」と呼ばれる怪物が出現し,住人が中に閉じ込められてしまった。国を守る秘密組織「ツクヨミ」に所属する主人公は,神魔を使役するカード「神魔札」を武器に,ターゲットである「登美のりこ」を討伐すべく,THE HASHIRAに挑む。
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AIカネコは,ゲームにおける神・オオカミ(天地身一大神)となり,プレイヤーの行動を分析,これをもとに新たなカード「創成神魔札」を作り出すのである。ゲーム制作にAIが絡むのは今になっては珍しいことではないが,クリエイター個人を学習させたAIにカードイラストを作らせるというのは,なかなかにユニークなものだ。
今回のメディア合同インタビューは前後編でお届けするが,その前編となる今回のテーマは「本作がどのようにして作られたか」だ。本作の開発プロデューサーである齋藤ケビン雄輔氏と,キャラクターと世界観を作った金子一馬氏に話を伺った。
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あなたには,AIカネコとしてゲームに登場してもらいます
――本日はよろしくお願いします。AIを前面に押し出した本作ですが,企画はどのようにしてスタートしましたか。
金子氏:
僕がコロプラに入社してゲーム企画のコンセプト出しをしたのが始まりです。イラストレーターとしてのイメージが強いかもしれませんが,もともとは世界観のコンセプト作りから何からやっていた人間なんです。
まずはジャンルを想定せず,アニメなどのクロスメディア展開をしてもいいような世界観の話を作りました。そのあとに「近年話題のAIをゲームに取り込めないか」という話と,「ローグライクなカードゲームにできないか」という話があり,現在の形になりました。
ケビン氏:
コロプラは「新たなテクノロジーを使って,新しい経験をお届けする」という姿勢の会社です。今の新たなテクノロジーといえばAIですが,ゲーム開発の現場で活用することはどこもやっているかと思います。
そこで「AIをプレイヤーの体験に結び付けられないか」というアイデアが出たのが出発点でした。ランダム性を持つAIと,ランダム性を楽しむローグライクは相性がいいだろうということで,AI×デッキ構築型ローグライクカードゲームとなったわけです。
――AIはどのような役割でプレイヤーと関わるのでしょうか。
ケビン氏:
AIカネコは,ゲーム内の神様であるオオカミとして登場します。「プレイヤーがどのような選択肢を選んだか」「どんな敵と戦ったのか」「敵の神魔が話しかけてきた際,どう答えたか」といったプレイログ的な部分を見ているわけです。こうした情報をもとに,プレイヤーの行動に応じたオリジナルカードである創成札を生成します。金子さんを学習したオリジナルイラストを生成し,名前や効果もそれぞれ異なるものになるわけです。
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――本作ならではの体験や見どころを教えてください。
ケビン氏:
「遊びがプレイヤーごとの体験になる」というところです。本作にはAIを用いた本当のランダム性があります。「自分はどう行動したか」をSNSなどのコミュニケーションにつなげていくのが,今回実現したいことの一つですね。
金子氏:
プレイしていくと次々に新しいものが出てきて,完全なオリジナリティのある体験ができ,その流れで世界観にも浸っていただけるようになっています。ぜひ自分だけのゲーム体験を味わっていただきたいです。
――金子さんが世界観を作られる際,ゲームにAIが入ることは知っていましたか。
金子氏:
世界観やストーリーが決まったあとにAIの導入が決まりました。これに合わせてキャラクターを手直ししたものが,神魔狩りのツクヨミです。
――AIを取り入れるうえで,世界観設定の際に工夫されたところはありますか。
金子氏:
ゲームを世界観に合わせたものにするというよりは,世界観をゲームに合わせて変えていきました。ゲームの仕様を優先するということですね。これまでにドット絵を打ったり,データ管理をするような現場仕事をしていたこともあり,ゲームの開発を進めていくと内容がどんどん変わっていくことは理解していましたので。
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――AIカネコの学習にはどれくらいの時間が掛かりましたか
ケビン氏:
学習そのものは数日程度で終わっています。それよりも,学習の前段階で素材を選定するほうが大変でした。最初に,金子さんが描かれた数十枚を学習させました。そこから生成された数万〜数十万枚のイラストの中から,素材として質が良いものを選び出し,逆にAIが学習するとまずいものは除外していったわけです。これは人間による手作業となりました。
――学習させる素材はどういった基準で選んでいったのでしょうか。
ケビン氏:
「生成物のクオリティを高めるための選定」と「AIイラストに見られる,細部が破綻する現象を防ぐための選定」,加えて弊社における生成AI技術利用のガイドライン※に則る形で「版権的なものや露出度の高いものなどを除外するための選定」を並行して行いました。ただ,それでも破綻してしまうものが生成される可能性はあります。
※コロプラのAIポリシーはこちら https://colopl.co.jp/aipolicy/
――サービス開始後,AIが問題のあるものを生成した場合はどうなりますか。
ケビン氏:
AIカネコが生成したものがプレイヤーの手元で表示される前に,裏側でチェックを行うように対策をしています。しかし、それでも世に出てしまうこともあるでしょうから,そういったケースについてはお問い合わせを受け付け,画像を差し替える対応を行うよう体制を整えています。
――AIを押し出したことで,プレイヤーから批判的な意見が出てくると予想できますが……。
金子氏:
それは正直ありますね。AIカネコという存在を打ちだすことで「遊びにAIを組み込んでいること」と,我々のスタンスとして「AIを利用したゲームの到達点を目指そうとしていること」を示しています。すでに我々の生活にAIは入り込んできていますし,コロプラとして恐れるばかりでなく,チャレンジしているということです。
ケビン氏:
AI利用に賛否があるなか,どういった捉え方をされるかは心配な部分ではあります。ただ今後,AIがなくなるとは思えませんし,利用される分野も広がっていくでしょう。我々としてはAIをフル活用するとどんなものが生み出されるのか,プレイヤーに触っていただくことも含めての挑戦になります。実際に動いてみないとエンターテインメントに向けたAI活用が見えてこないので。
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――AIカネコという表現はどのようにして作られたものなのでしょうか。金子一馬氏がゲームに組み込まれて,プレイヤーの行動を分析する――AIカネコにはある種の言霊のようなものが感じられます。
金子氏:
AIカネコという表現は,我々の上司が考えたものです。AIについてはいろいろな意見があるため,「AIを使ったゲーム体験」についての建てつけを考えてくれたんじゃないでしょうか。「言霊」という表現はすごくいいですね。AIカズマじゃないんだなとも思いました(笑)。
――金子さんはAIが自身の制作物を学習することについて,どう思われましたか。絵まで描くとなれば商売敵ですし,AIに上回られるかもしれません。
金子氏:
「どんどん学習してもらってもいいですよ」というスタンスです。どこかで勝手に学習されるよりも,コロプラという会社に学習してもらい,活用するほうがいいのかなと。AIが出力するものについても,嫌悪感はありませんでした。例えば私とAIカネコが同じ神様をテーマに絵を描いても,違ったものが出てきますし,AIカネコはあくまでデータでしかありませんから,怖いとは思いませんね。
AIについて抵抗がある方がおられるのは確かです。ミシンという機械が出てきて御針子の方がこれまでと働き方を変えたようなことが,AIによって起きるのではないかということですね。こうした技術的ブレイクスルーが起こるときは,物事が大きく変化します。私としては変化に対応したかったですし,コロプラもチャレンジするということだったので面白いなと思いました。
――ご自身をAIに学習させることについて,何か報酬はありますか。例えば「AI学習手当」みたいな。
金子氏:
そういったものはありませんね。AIカネコをどこかに貸し出すなら報酬をください,なんてことは冗談で言いますが(笑)。
――お二人にとってAIとはどういう存在と捉えていますか。ミシンのような機械の延長戦上のものなのか,あるいは道具を超えた存在なのでしょうか。
金子氏:
どちらかというと道具ですね。AIは管理することだけに長けている脳みそであり,おそらく欲望というものはありません。人間の誰かが欲望でもってAIをコントロールするならともかく,自発的に何かをするといった欲望は持っていない。AIが嘘をつくことが問題になっていますが,その中には人間がわざと虚構の情報を流させるケースもあります。
ですので,AIが「ターミネーター」の「スカイネット」のように人間不要論を唱えるようなことはないでしょう。もし仮にそうなってしまったら新たな物語の始まりだとも言えます。我々人間は,AIという新生命を生み出すために生まれてきた生命体ということになり,これはこれで面白い物語ができそうですね。
――AIが欲望を身につけたら怖いと感じられますか。
金子氏:
欲望を身につけても,それはネット上のことです。フィジカルは弱いと思います。ただ,機械の身体にダウンロードされると喧嘩では勝てなさそうです。
仮にAIが欲望を持ち,面白いものを作るということになったら,ジャンルや世界観を指定するだけでゲームができあがってしまうかもしれません。そうなると我々の仕事はなくなるかもしれないので,そういう意味では怖くはありますね。
ケビン氏:
現在のAIは特定分野における職人気質なものを持つ道具だと思っています。得意でないことはまったくできませんし,自発的に作業もしません。人間がどう指示するかが大切なので,便利に使えるか否かは結局は人間次第だと思います。
とはいえ,これまで人間が時間をかけてやってきた大量のデータ分析などが,AIの作業に置き換わっている現状があります。一緒に働いていく存在としてのAIについて,今後も常に考えていかなければならないと思います。
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この後も合同インタビューは続き,「神魔狩りのツクヨミ」の世界観やキャラクター,ゲーム性について貴重なお話を聞くことができた。4Gamerが独占で質問を投げかけたパートもあるので,後編もお楽しみに。
※掲載したゲーム画面はすべてSteam版の開発中のものとなります
「神魔狩りのツクヨミ」ティザーサイト
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(C)COLOPL, Inc.
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