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IDC2024で行われた,弁護士による「ゲーム開発のよくあるご相談Q&A」をレポート。何か起こっても慌てる必要はないが,自力で判断できないことはすぐに相談を!
インディーゲームの制作や販売で無視できない,著作権や特許権,そして生成AIまわりの法律にまつわる話や,契約書を作る際に注意すべきことなどが語られた。
こういうゲームを開発しても法的に問題はないですか?
前野氏は自身が好きな「逆転裁判」シリーズの話をして会場の空気を温めたのち,実際に裁判となったふたつの釣りゲームの画面を見せつつ会場に問いかけた。
――左のゲームが出た1年半後に右のゲームが出た場合,著作権侵害になると思いますか?
読者の皆さんはどう思っただろうか。ちなみに会場の答えは「著作権侵害にはならない」というものが多かったが,実際の裁判では最終的に「侵害はない」という判決にはなったものの,一審と二審の判断が分かれる微妙なケースだったという。
そもそも著作権法は「著作物の創作的な表現」を保護している。条文において著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」とされており,そこに「アイデア」「世にありふれたもの」は含まれていない。
たとえば「亡国の王子が各地を転戦しつつ仲間を増やしていき,ついには敵の大国を打倒する」「冒険者たちが各地を冒険しつつ人々の頼みに応え,最終的には魔王討伐を目指す」といったアイデア自体は著作権法では保護されてはいない。その中で使用された具体的なテキスト,グラフィックス,音楽といった「著作物」の「作者の権利」が守られるわけだ。
この考えを踏まえて冒頭の釣りゲームを見比べた場合,確かに多くの共通点はあるものの,著作権の侵害にはならないとも言えるのだという。またUI(ユーザーインタフェース)についても,釣りゲーム以外のジャンルでも見受けられるありふれたものを応用しているため,ありふれたアイデアの範疇と判断された。ここは一般的なユーザーとの見方とズレが生じがちなポイントである。
ただし,法的に問題がなければ何をしてもいいかといえば,そうではない。もし前野氏が右の釣りゲームの開発中に相談を受けた場合,どちらかといえば「このままの状態でのリリースは止めたほうがいい」とアドバイスするという。実際に裁判となり,一審と二審で判決が分かれる微妙なケースだったわけだし,SNSなどで炎上する可能性も高いためだ。
次の話題は最近相談が増えているという生成AIの利用についての注意点だ。これに関してはさまざまな省庁や検討会などからガイドラインが出ているが,お勧めできるものは経済産業省による「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」だという。題名通りコンテンツ制作の観点からまとめられているため,ゲーム制作者にとっても参考にしやすい。
また,生成物が既存のものに似てないかを調べるため,Web検索やチェックツールを使うことも欠かせない。もちろん生成時のプロンプトに既存の作品名やキャラクター名などは入力しないほうが無難だろう。
なお生成AIに関しては法的なことだけでなく,配信プラットフォーム側のポリシーにも大きく影響を受けるものでもある。特にSteamは,米国におけるAIの法改正により方針が変わるため注意が必要だ。日本だけではなく米国での法改正の動きも追っておくことが望ましい。さらに,生成AIの使用はユーザーからの反発を受ける可能性もあるため,どのように公表・説明するかをよく考えることも大切だという。
法律相談に関する最後のトピックは特許権について。こちらは「発明を保護する法律」であり,著作権法では保護されない「アイデア」を保護するためのものだ。新しい発明を勝手に真似できると「わざわざ考えるのが損」になり,産業の停滞を招いてしまう。そうならないように発明を保護し,産業の発達を促すための目的で定められている。なお発明は特許が認められると同時に公開され,20年後には誰もが使えるようになる。
特許情報は公開されているものであり,もし自分が作っているゲームのアイデアが何かをアレンジしたものだったり,他の作品に似ていることに気がついたりしたときは「特許情報プラットフォーム」を使って特許を調べるよう前野氏は勧めていた。例えばゲーム会社の社名をキーワードに検索をかければ,その会社が持っている特許を調べられる。
なお特許の文章を頭から読んでいくのは大変かつ,結局のところ専門家による判断が必要になることも多い。ただ「発明の詳細な説明」の欄では「従来あった課題」を「この発明によって解決する」というフォーマットで説明されているので,まずここに目を通してみるのがいいそうだ。
とはいえ,個人開発や小規模開発のゲームがすべての特許を調査するのは現実的ではない。作品が既存のゲームのアイデアに似通ってしまった場合や,一部似たものを作る場合は「弁理士」に相談することを検討してほしいと前野氏は語っていた。
この契約書を見てもらえますか?
弁護士は法律に関する相談だけでなく,個人や企業との契約をかわす際にも力になってくれる。そもそも契約書とは何かといえば,証拠である。契約自体は書面がなくても成立するもので,例えばお店でモノを買うとき,お金とモノを交換する契約が成立している。
ただ,双方の主張が食い違い,裁判になったとき,裁判所は契約書での合意について重きを置いて判断する。これをあとから覆すのは相応に難しいので,意見の相違があってもそもそも裁判に進展せず,双方の弁護士による話し合いで早期解決する流れにもなりやすい。
また,ゲーム開発においては権利をいかに集約するのかが大切になる。これが集約されていないと,ゲームの続編を作る,グッズを作る,別のプラットフォームに移植する際にすべての権利者の許諾を受ける必要があり,交渉に難航するうちに旬を逃してしまうということにもなりかねない。
そのため,お互いが後で困らないような契約を結び,契約書として残しておくのは大切なわけだ。契約書の条件は,契約書や電子メールなどの形で明確にしておこう。
また前野氏は「フリーランス保護法」について注意する必要があると指摘する。これは相手が個人,または法人でも実質ひとりで仕事をしている場合に関係してくるものであり,自分自身がフリーランスの立場で会社から仕事を請け負う場合も考え,公正取引委員会などがまとめた「ここからはじまる フリーランス・事業者間取引適正化法」を一読しておくことを勧めてていた。
契約書で明確にしておくべき条件は多々あるものの,委託業務内容と成果物の仕様は特に重要だという。簡単に言えばどういった成果物を,いつまでに納品するのかなどだ。この「どういった成果物」を単に音楽やテキストというだけでなく,「これこれの曲調の曲を何曲,このファイル形式で納品する」という具合に,なるべく具体的に書くことが重要なのだという。また成果物が思ったようなクオリティではない,うまく動作しないことが分かったとき,やり直してもらう,損害賠償を請求するという取り決めも大切だ。
委託契約の場合は,成果物の著作権を含む知的財産権が委託者に帰属する(譲渡する)とされていることを必ず確認する。このとき,「著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)などの知的財産権は委託者に帰属する」というように,第27条と第28条について記載する必要があることは特に注意したい。また一見自分にとって有利に見える契約も,そのほかの取り決めによって必ずしもそうではないこともある。弁護士など専門家に相談してみないことには判断しにくいことも多い。
また契約するときの視点として,ものごとがうまく運ばなかった場合を考えてみることも挙げられた。というのも,契約者同士の関係がうまく言っているときは基本的に契約書の出番はない。互いに得るべきものを得られており,納得しているからだ。
契約に関する交渉は「悪いこと」ではないし,「無理強いすること」でもない。自分が求める条件はまず出してみるべきだし,それは相手側も同じだ。相手側から提案された条件は当然相手本位のもの。自分で納得できるラインまで引き戻す必要がある。基本,原案を出す側が有利に交渉を進めていきやすいので,その点は心得ておきたい。
ただ,交渉には切り札がある。それは「この条件では飲めないので,ほかの方と契約します」と伝えることだ。これは安易に使うのではなく,ここぞというタイミングまで温存しておくことが重要だ。逆に避けたいのは条件をよく確かめないうちに「あなたと契約します」と伝えてしまうこと。そのあとに契約書が提示され,不利な内容があったときに弁護士に相談しても,対処が難しい場合がある。
なお,作品がなんらかの権利侵害をしており,企業などから警告書が届いたときは,可能な限り早く専門家に相談すべきである。放置してしまったり,逆に慌てて返事などをしてしまうと,そこが裁判や交渉のスタート地点になり,リカバリーが困難になる。平時からトラブルに備えて,専門家の連絡先を調べておくなどすると落ち着いて対処できるだろう。
特許・商標については弁理士。会計税務については会計士や税理士。会社労務については社労士。そして法務関係については弁護士に相談してほしいとのことだった。
以上「最低限ガイドラインは読んでおく」「判断に迷ったらすぐ専門家に相談する」ことの大切さが印象に残った本セッション。法律関係の知識は,自分だけで対処できる範囲を見誤らないためにこそ役立つ,と言えるかもしれない。
「Indie Developers Conference 2024」公式サイト
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