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暗号資産の税金は,株のように一律20%にならないのか。「暗号資産の税制改革:現在の可能性と課題は」セッションレポート[WebX]
ビットバンク代表取締役CEOであり,日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の会長である廣末紀之氏がモデレーターを務め,pafinの代表取締役Co-CEO 斎藤 岳氏,コインチェックの常務執行役員CFO 竹ケ原圭吾氏,自民党所属の衆議院議員 小倉まさのぶ(將信)氏,東洋大学准教授の泉 絢也氏が登壇。暗号資産の現在の税制上の問題と,改正を目指している点について語られた。
冒頭では,JCBAが7月30日に政府に提出した「2025年度税制改正要望書」が話題にあがった。今回登壇したメンバーの一部は作成にも関わっており,JCBA部会長でもある斎藤氏によってその内容が語られた。
2つ目は「暗号資産の寄附についての取り扱い整備」である。現状,暗号資産の寄附に関しての税務署の取り扱いが不明瞭になっているので,その整備をしてほしいという要望とのとこ。
3つ目は「暗号資産の相続税周りの改善」。現状は暗号資産の相続税とそれを売却時にかかる税金を足すと,暗号資産の時価を超えるケースがあり得るという。相続した財産以上の税金を納めなければならないのは不健全なため,それを改善してほしいという内容となっている。
4つ目の「暗号資産同士の交換時の課税について」は,持っている暗号資産を別の暗号資産に交換すると損益が発生して課税されるが,そこではなく円などの法定通貨に交換した時点でまとめて課税対象にするべきではないか,という要望だ。
これらのうち,4つ目はシンプルな要望だが,実務上どのようなワークフローになるのかといった論点が多く,中長期的な目標になりそうだという。ただ,残る3つは今日決めれば,明日からでもできる内容であり,中でも「暗号資産の所得税を一律20%の申告分離課税に」という要望に最も注力していると述べた。
なお,こうした要望は毎年出しているそうだが,今年は「あらゆる暗号資産がすべて雑所得扱いになるのはおかしいのではないか。譲渡所得になるようなものもあるのでは?」といった,現状の仕組みの論理的におかしい点を記載しているという。
コインチェックCFOの竹ケ原圭吾氏は,雑所得であることによる納税の煩雑さに触れ,それが納税率を下げているのではないかと指摘する |
暗号資産が「譲渡所得」になるロジックがあると主張するのは,東洋大学准教授の泉 絢也氏 |
実際,譲渡所得にできる余地があるのかは学説も分かれているそうだが,泉氏は「その余地はある」という見解を示した。
国税庁は「暗号資産は現状『譲渡所得』を生み出す資産には当たらない」としているが,それは国税庁の理解が「暗号資産はあくまで支払い手段でしかなく,株式のような値上がり益を生み出す資産ではない」としているからではないかと,泉氏は指摘する。現実に暗号資産は支払い手段だけでなく投資資産として使われていることから,譲渡所得の対象になるというロジックである。
譲渡所得については廣末氏からの補足もあり,長期の譲渡所得は課税が1/2になるという。暗号資産に長期投資をしている人は,譲渡所得になれば税金的には非常にお得になるそうだ。
また,竹ケ原氏は事業者の観点からこの話題に触れ,「現状の雑所得の形は分かりづらく,納税を促進するインセンティブがない。そもそも取引履歴をダウンロードする人が少なそうだし,申告分離課税にしたほうが,暗号資産の利益について納税する人は増えるのではないか」と語っていた。
モデレーターの廣末紀之氏。登壇者のトークについて,より分かりやすく嚙み砕いた形で補足を行っていた |
自民党 小倉まさのぶ氏は国民の代表たる国会議員の中で,暗号資産に対する理解が広まることが税制改正への第一歩であると語った |
こうした現状について自民党の小倉氏は,暗号資産の税制改正には「暗号資産をまったく知らない国民の大多数の理解を得られるのか」という点は無視できないと語る。
また,「現状の申告分離課税になっているものは,国が資産形成の観点から推し進めているもの」であり,まだそうとはいえないものが総合課税になっているとのこと。そのため,暗号資産が申告分離課税になるためには,暗号資産が国民の資産形成に役立つものであるということを,より多くの国会議員に理解してもらうことが必要になると説明した。
つまり,小倉氏によれば,暗号資産がマニアだけのものではなく,国民の資産形成の手段として広く浸透することが税制改正に向けて必要になる。今後,暗号資産がそのような立ち位置になれるは,税制改正の議論も含めて注目したい。
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