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[GDC 2024]サブスクがゲーム業界にもたらした影響とは。ライフサイクルの変化と今後の展望が語られた講演を紹介
そんな中,イギリスのゲームデータ分析会社FancensusのDavid Sidebottom氏がGame Developers Conference 2024で行った講演「Subscriptions Impact on Game Lifecycles」で,サブスクがすでに大きな影響を及ぼしていることが,詳しく解説された。本稿ではその内容を紹介しよう。
なお,講演で扱われたのは基本的にアメリカとイギリスのデータであるため,日本の状況とは異なる部分もある。
講演では,まずゲームにおけるサブスク業界の全体像が説明された。プラットフォーマーのものに加え,クラウドゲームサービス,パブリッシャ直営型,通信会社提供のサービスなど,提供形態は多様化が進んでいる。
その中でも代表的な存在なのが,Xbox Game PassとPlayStation Plusだ。2023年時点で両サービス合わせて約60億ドルの収益,8000万人を超えるユーザーを抱えていたという。ゲーム業界全体に与える影響はかなり大きいといえる規模だ。
ライブラリーの構成を見ると,両サービスで合わせて1650以上の独自タイトルが用意されている一方,9%のタイトルが重複している。
Xbox Game PassとPlayStation Plusのライブラリー構成には,両サービスの違いが如実に表れている。
Xbox Game Passの場合,Electronic Arts(以下,EA)の影響が大きく,ライブラリーの14%をEAのタイトルが占めている。これはEAプレイ(EAのタイトルを楽しめるサブスク)を統合したことが一因だという。また,Xbox Game Studiosの作品も11%を占め,自社/パートナー系のタイトル比率が高い。
PlayStation Plusは,日本の主要パブリッシャの作品比率が高いのが大きな特徴だ。上位にカプコン,スクウェア・エニックス,コーエーテクモゲームスなどが名を連ねており,ミドル〜インディータイトルが多いことが分かる。Xbox Game Passに比べてパブリッシャの分散度も高い。
このように,Xbox Game PassがMicrosoftおよびパートナー会社が発売したAAAの新作に比重を置く一方,PlayStation Plusは中小パブリッシャのミドル〜インディータイトルを幅広く取り入れるなど,両サービスの戦略の違いがはっきりと出た。
新作と旧作のミックス具合でも,両サービスの違いは歴然としている。
Xbox Game Passは,ライブラリー内の38%がデイワン(発売日から登場)タイトルだ。PlayStation Plusは,比較的古めのタイトル比率が高い。発売からの平均時間は48か月と,Xbox Game Passの5か月を大きく上回っている。
つまり,Xbox Game Passは新作に重きをおき,PlayStation Plusは過去の人気作品に比重を置いているということである。
Fancensusが行ったユーザー調査でも,サブスクなら通常は手に取らないタイトルでも気軽に遊べると75%のユーザーが回答している。幅広い年代の新旧作品をバランス良くラインナップすることが,ユーザーにとってのメリットとなっているようだ。
サブスクの登場によって,ゲームのライフサイクルは従来とは大きく異なってきている。
従来のタイトルリリース時は,発売日前後にプロモーションが集中し,その後はすぐに広報活動が落ち着いてしまうことが多かった。しかしサブスクに登場すると,再び露出がピークを迎えるという。また,ゲームの発見性(ユーザーに露出する程度)は発売から1年後と同等の水準に達することも判明したそうだ。
さらに,ダッシュボードやストアでの目立つ掲載回数(プロミネントプレースメント)を計測したデータを見ると,Xbox Game Passのタイトルが公式サイトやダッシュボードでの全プレースメントの40%以上を占めるなど,プラットフォーム側の全面的な協力があることが分かる。パブリッシャはXbox Game Passに参加することで,非常に高い露出を得られるわけだ。
一方で,ストリーミングサービスの普及に伴いユーザーの集中力が低下する可能性も指摘された。講演では「ゲームをダウンロードせずにすぐ遊べるようになり,気に入らなければすぐ別のものを遊び始めてしまう。ユーザーの注意は分散されがちになっている」と説明された。
実際に60%のユーザーが「気に入らず,すぐにゲームをやめてしまった」と回答しているという。つまり開発者は,短時間でユーザーを惹きつけるUIなど,ゲーム内の工夫が一層重要になってくるわけだ。
また,ゲームのライフサイクルへの影響に加え,収益モデルにも変化が及んでいるという。
従来は発売日に一定の収益を得られるのが通例だったが,サブスクのデイワン登場であれば,前払いの収入を得られるというメリットがあるそうだ。だが,Sidebottom氏は「収益は必ずしも継続したものとは限らない。継続を前提に組み込んでしまうと,あとで問題になりかねない」と指摘した。
このようにメリット/デメリットが明確になってきたなかで,通常タイトルとは違うコミュニケーション戦略を構築する必要性が高まっている。ゲームを適切なタイミングでリリースするか,サブスクに出さない選択を取るかなど,柔軟に対応していく必要があるわけだ。
講演ではサブスクへの参加が1つの選択肢にすぎないことが強調された。
発売1年目にサブスクに出すことで新規ユーザー層の獲得を狙う手もあれば,逆に販売を継続して既存のゲーマーコミュニティを維持する戦略も取れる。
さらに,一部のクラウドゲームプラットフォーマーにタイトルをライセンス供与するケースも考えられる。提携先を慎重に選んでいけば,サブスクとは異なる形でユーザーに作品を届けられるだろう。
いずれの選択肢を取るかは,各社の事情やタイトルの特性次第だ。重要なのは常に最適なプラットフォーム選択を意識し続けることであるとSidebottom氏は語り,講演をまとめた。
今やSteamを含めた新作リリースは年間1万4000本を超える規模になっている。デイワン登場によるメリット,長期販売による恩恵,サブスクへの参加の是非など,検討すべきポイントは各タイトルで異なってくるはずだ。
最適なタイミングと形態を選ぶことが,ゲーム業界にとって極めて重要になってきているのがここ数年の大きな流れといえるだろう。
このように,ゲームのサブスク分野はまさに過渡期を迎えている。2大プラットフォーマーサービスの違いは明らかだが,両者ともユーザー獲得に注力しており,さまざまな施策を講じている。
ゲーム業界にとって今後の課題は,新たなビジネスモデルへの柔軟な対応と,個々のタイトルに最適なライフサイクル戦略の構築にあるといえそうだ。ゲーム会社はプラットフォーマーとの協力関係をより一層深めつつ,自社の強みを生かせる道を探ることが重要になってくるだろう。
「GDC 2024」公式サイト
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