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[TGS2022]ニトリが初出展! 家具ノウハウを詰め込んだゲーミングトータルコーディネートで「お、ねだん以上」の毎日を?
しかし,ゲーマー向けの家具やグッズと言えば,椅子を本流に,マスクにガム,割り箸ホルダーなどなど,先に畑を広げきった専門メーカーはもとより,家具なのにやたら光る一発ネタに打って出るものまであり,飽和しきっている有り様だ。そこに,「取って付けただけでは?」と言われかねない製品で乗り込んでも戦況は怪しいものだが,どうやら家具屋には戦略ありの様子。
ニトリは,そこが生活空間である以上,「お、ねだん以上」の提供は,ゲーム部屋でもまったくもって譲らない意気込みらしい。
などといった心情は,筆者が脚色しただけなので本気にしてもらわないでほしいが,実際のところはどうなのか,同社ブースで広報担当に話を聞いてみた。
申し訳ないことに存じていなかったが,そもそもニトリは,2019年秋ごろからゲーマー向け家具を展開していたそうな。
とはいえ,知らなかったのは,筆者だけではないはず。絶対にだ。なぜかというと,ニトリのブースは,TGS初日のビジネスデーから,あらゆる方面の取材依頼をバシバシとぶつけられため,初出展で意気込んでいたはずの広報担当者が用意した名刺が,初日で完売状態になってしまったというからだ。
そんな裏話はさておき。同社がゲーマー向け製品の取り扱いをはじめた2019年は,何度もあった「〜元年」を乗り越えたeスポーツが,ようやく定着し始めた頃だっただろうか? 気付けばeスポーツも,もはやそれ以前の記憶が怪しくなるほど,ゲームにおける普遍的な活動となった。
ニトリがゲーマー向け領域に手を出した理由は,当たり前だがゲーマー向けアイテムが,「部屋をコーディネートする家具」の範疇にあったからだという。とはいえ,そのころにはもうゲーマー向け製品の専門メーカーが努力の結晶を実らせていた。私が無知だったように,当時すでに「国内家具メーカー最大手のニトリが出せば勝てる」なんて簡単な構図ではなかったはずだ。
しかし,ニトリは,ゲーマー向け専門メーカーとは明確に違う意志を持っていた。ニトリの製品は,「ゲームを遊ぶための快適な環境」だけでなく,「ゲーム“も”遊ぶための快適な空間」,つまるところ一般的なインテリアとしても活用できる品々であり,日々の暮らしを支えつつ,ゲーム嗜好にも応えるといった方向性である。もちろん,値が張るアイテムについては,その限りではないだろうが,基本的なスタンスはそこだ。
正直に言えば,玉虫色な話に聞こえてしまう。ほかのゲーマー向け専門メーカーにしても,「ゲーマー向け色は強いが,普通の家具としても使えるもの」や,「ブランドとして一般家庭にもなじむデザインを追求」といった手法は,製品展開戦略として採用しているだろう。ゲーム特化と一般的の中間を狙うバランス戦略が,ニトリだからといってそのまま勝機につながるかと問われれば,なんとも言い難い。
ただ,ニトリ独自の強みはかなり強力だ。全国どこにでもある同社販路は標準装備として,直営店舗やECサイトでゲーマー向け製品を陳列するだけではなく,「お部屋のトータルコーディネート」を提案しているからである。言ってみれば,それぞれが個性のある椅子やデスクを個別に売るのではなく,究極的には「引っ越し後,家具一式丸々を検討させる」といったことが可能なのだ。
この考え方はよく分かる。ニトリの大型店舗を歩き回って,1つのテーマでそろえた一角を見たら,「イイ……」と思ってしまう自分をたやすく想像できるほどだ。それも結局は販路の強みであり,大手の力である……と言ってしまうと,実に資本主義らしくて恐れ入る。いずれにせよ,ゲーマー向け専門メーカーの製品に比べれば,ニトリのゲーマー向け家具を目にする機会が圧倒的に多いことは想像しやすい。
ただ,ニトリの全店舗でゲーマー向け製品を提案しているかというと,そうでもない,世界に801店舗※があるなかで,国内の数十店舗での提案にとどまっているという。それがニトリのゲーマー向け製品におけるゲーム業界での旗色を示しているのではないか? そろそろ口が悪すぎるかもしれないが,あたらずとも遠からずに思える。
※公式サイトのコンテンツ「数字で見るニトリ」の「店舗数」より。2022年2月20日時点のもので,海外93店舗を含む
それに,この戦略はニトリの主な顧客層には機能しても,ゲームに特化した側から見ると,同時に弱みとして見えてしまうのではないか。
たとえば,ニトリブースでは,二とおりのゲーマー向けコーディネートルームとして,定番のブラックコーデに加えて,「その黒さがちょっと……」な人に向けた,とりわけ女性にお勧めなオールホワイトコーデのセッティングもあり,まさに「まるでゲームなんかやってなさそうなオシャレな部屋」が見られる。
これらの製品コンセプトは,あくまでライトユーザー向けであり,「ゲーム“も”する人」を対象とする。もちろん,そちらのほうが人口比では圧倒的に多いだろうが,それは具体的にどんな人たちなのだろう。
「ゲーマー向け製品を買いたい」と思う人は,それこそeスポーツゲーマーのように,ゲームのプレイで環境や肉体に強い負荷がかかると思うから購入を検討するのではないだろうか。そんなときの選択肢に,自然とニトリのゲーマー向け家具が入ってくるほどのネームバリューがあれば勝利できそうだ。だが,現状の認知度では,雰囲気からして「なんだか強くなれそう」なゲーマー向け専門メーカーの製品を選んでしまうのではないか。
いろいろとミニマムではないゲーマー向け家具という製品を,ゲーム“も”やりたいライトユーザーが手に取るのか? ないとは言わないし,ニトリに愛着がある人であれば,選んでもらえる可能性は高まる。ニトリというのはときに,家の家具すべてをニトリにしてしまうほどの魔力があるからだ。
「あっ,それゆえのトータルコーディネート戦略か」と,あらためて飲み込めたが,とりあえず話を続けよう。
「ゲームも楽しむが,生活における比重は,ほかのことも大切」という人が,家具を新調するときに,はたしてゲーマー向け製品に重点を置くのかどうか。
一様に語るつもりはないが,多様な答えが出てしまうと,それはそれで困難なはずだ。「家具ならなんでもあります」というラインナップにおける新たな提案のつもりで,ニトリは,バランスを重視した家具を持ち込んだ。しかし,彼らが踏み込んだのは,完璧なまでに一極に尖った専門製品の領域だ。ゲームにおいて,「なんでもできる万能型キャラクター」というのは,どこかで一線を越えない限り,いつだって「なんにもできないキャラクター」に一瞬でなってしまう。
ではどうすればいいのか。答えは簡単。なんでもできるキャラが強キャラであるなら,プレイヤー全員がそれを使う。ゲームの世界における不変的な原則だ。ニトリはそこを目指せばいい。
過剰に辛口な評が続いたが,それはひとえに,この一言のためにある。
「ニトリが本気でやったら,マジ誰も勝てんくなるわ」
全国規模の販路を持ち,独自の店舗やショッピングモール内にる楽しい空間で,ゲームまで取り込まれたら,ニトリしか勝たん。
今のところ,ゲーマー向け専門の家具を展開している既存メーカーが,ニトリの動きや製品をどう見ているのかは分からない。ニトリによるTGS初参戦は,「ステータスは高めだが,強力なスキルを備えていない新キャラ」くらいの認識かもしれない。しかし,「Here Comes a New Challenger!」のアナウンスが聞こえて,戦々恐々としているメーカーもいるはずだ。現状のラインナップを見て,「なんだ,大したことはないな」と判断しても悪くはない。ただ,ゲーム業界における某社の成功例に鑑みると,「専門的に尖らせて,新しいことすごいことをやっていたら,一般人を対象にした手軽かつ簡単なニュースタンダードが誕生して,任天堂は今の任天堂になった」なんて例もある。
ニトリのゲーマー向け製品で育った人たちが,より特化したゲーマー向け専門メーカーの製品に移るという流れもあり得る。ではそうなったとき,ニトリが競合と同じくらいハイグレードな製品も用意してきたら,どうなるだろう?
だいたいが中小企業であるゲーマー向けデバイス専門メーカーの領域において,地力の違いは明白だ。需要がニトリ1社で完結してしまい,上流に登ってくるはずの初心者をせき止められてしまう可能性だってある。そうなったときに,競合はどう対抗するのか?
なーんて。お祭りに見合わない夢物語を空想してしまう者がいるほど,ニトリのTGS初出展は,業界の一画に衝撃を与えたのではないか。
今後のゲーマー向け家具市場がどうなるかは,ニトリが今回受けた反響を分析するまでは分からない。良くも悪くもこのままかもしれないし,何かが大きく変わるかもしれないが,勝者となるのに十分な力を持つ強キャラが,こうしてやってきた。
ともあれ,まずはTGSというお祭りにやってきた新たな挑戦者を,温かく迎えるべきだろう。
とはいえ,おちゃらけながらも私は,大きな恐れを拭うことができない。
大物家具はもちろん,カーテンからクッション,コタツや洗濯もの干し,箸に粘着テープ付きベッド角クッションにシートまな板(個人的最強ローテアイテムだ)まで,家具の8割以上がニトリ製品でできている我が家が,聖域であるはずのゲーマー向け方面までニトリに侵食されれば,うちはもうニトリのモデルルームになってしまうだろう。
ニトリのゲーミング家具特集ページ
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