インタビュー
コロプラの新社長に就任した宮本貴志氏にインタビュー。「最新のテクノロジーと,独創的なアイデアで“新しい体験”を届ける」のが目標
コロプラといえば「ユージェネ」「白猫プロジェクト」「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」といった自社IPのタイトルや,「ドラゴンクエストウォーク」「テイルズ オブ ルミナリア」「ディズニー ツムツムランド」などの開発案件系までを幅広く手掛けており,最新のテクノロジーを率先して取り込むことで定評があるゲームメーカーだ。
そんなコロプラの新社長に宮本氏が就任した。氏は,オンラインゲーム業界で長らく活動していたが,今までの活動はどちらかというとマーケ寄りのキャリアだ。カードゲーム「アルテイル」で4Gamerに何度も登場しているので,古くからの読者であれば印象に残っている人も多いだろう。
前社長の馬場功淳氏が開発者出身だっただけに,宮本氏の就任が今後のコロプラにどのような影響を与えるのかは大いに注目を集めるところだ。
今回は,社長に就任した直後の宮本氏に時間をいただいて,キャリアを振り返りつつ今後の展望などを語ってもらった。今後のコロプラは,どこが変わって,どこが変わらないのか。ぜひ一読してほしい。
1995年4月 明治屋入社
2001年9月 デジキューブ入社
2003年10月 ソフトバンクBB(現ソフトバンク)入社
2005年4月 デックスエンタテインメント入社
2008年4月 GPコアエッジ設立。代表取締役社長CEO
2011年4月 ゲームポット取締役CMO
2012年7月 コアエッジ設立。代表取締役社長CEO
2020年6月 コロプラ入社,マーケティング・コミュニケーション部長
2020年9月 マーケティング本部長
2021年12月 代表取締役社長
「アルテイル」を盛り上げるために出来ることは何でもやった
お久しぶりです。社長就任おめでとうございます。
宮本さんの名前をプレスリリースで久しぶりに見かけたら,コロプラの代表取締役社長と書かれていて,いったい何ごとかと(笑)。
コロプラ 代表取締役社長 宮本貴志(以下,宮本氏):
ありがとうございます。
昔から僕のことを知ってる業界人は,みんなびっくりしてますね。「長年一緒に草野球をやっていた仲間が,いきなりメジャーリーグに行ってしまった」とか,散々な言われようです(笑)。
4Gamer:
宮本さんのことを知ってる4Gamerの読者も,“宮本氏=アルテイルの人”の印象が強いと思うので,まずは経歴を振り返るところから始めていただけると……。
宮本氏:
分かりました。では,“アルテイルの人”としてのキャリアから語らせてください。
僕が2005年にデックスエンタテインメントに入社したときが,ちょうど「アルテイル」のサービス開始直後だったんです。これを売るためのプロモーション業務が,アルテイルとの最初の関わりでした。
ほどなくしてアルテイルのプロデューサーに就任しましたが,当時はオンラインゲーム業界の黎明期と言ってよく,何もかも手探りのなかでのサービスでしたね。
4Gamer:
当時のアルテイルって,本格的なブラウザゲームと言うだけでなく,対戦型のデジタルカードゲームだったり,ゲーム内課金のシステムを導入したりと,非常に意欲的なタイトルでしたよね。
宮本氏:
確か国産初のブラウザゲームが「リヴリーアイランド」で,そのすぐあとくらいのタイミングで登場した記憶があります。ゲーム内課金のビジネスモデルも,当時はほかにパンヤ(「スカッとゴルフ パンヤ」)くらいしか見当たらなかったですし。ブラウザゲームのプラットフォームに関しても,当時はカジュアルなゲームばかりでした。それだけに,アルテイルは色々な意味で“早すぎた”ゲームでしたねえ。
4Gamer:
世に出るのが,もう少し遅ければ……?
宮本氏:
まったくです(笑)。2009年にモバゲーやグリーが一世を風靡して,「怪盗ロワイヤル」などのライト寄りのカードゲームが続々と登場しましたけど,アルテイルはあのブームにまったく乗れてませんでしたから。
4Gamer:
逆に早すぎたがゆえに,後発サービスの類似品かと思われたりもして。
宮本氏:
そう! 社外からは,「グリモバみたいなカードゲーム?」とか言われることも多くて,「いえ,どちらかと言うとM:tG(Magic:the Gathering)なんですけど」みたいな話をしょっちゅうしてました。
4Gamer:
宮本さんといえば,アルテイルのイベントで常に自ら体を張っていたのも印象に残ってます。オフラインイベントでCHAGEのコスプレをしたりとか。
宮本氏:
ありましたねえ(苦笑)。ほかにも「ビンゴマン」や「GM立源寺」といったキャラクターを面白おかしく演じたのも懐かしい思い出です。
4Gamer:
日本のオンラインゲーム黎明/発展期でしたし,色々な人が色々なことを試して,うまくいったりいかなかったり,とても面白い時期でした。
おっしゃるように当時はオンラインゲーム業界がまだ確立されていなくて,ひと口に“マーケ担当”といっても,色々なことをやってました。たとえば公式サイト内の「お知らせ」を書いたり,バナー画像を作ったり,ゲーム内外でのイベントを考えたりと,いわゆる運営業務全般をやったり。むしろ,運営とマーケの比率が8:2くらいのバランスだったと思います。
4Gamer:
あぁ……当時の見てたイメージそのままで,運営のほうがメインだったんですね。
宮本氏:
そうですね。あまり予算がなかったので,他社さんと協業を行ったり,アルテイルを盛り上げるために出来ることなら,なりふり構わずやってましたねえ。
ゲームポットの傘下でGPコアエッジを立ち上げる
4Gamer:
さて,そんな中の2008年4月に,ゲームポットがデックスエンタテインメントのゲーム事業を買収しました。このゲーム事業は,ゲームポットが新たに設立した子会社のGPコアエッジに引き継がれ,宮本さんはその代表として就任されたわけですが。
宮本氏:
ええ。当初のGPコアエッジは,ゲームポット社内の“アルテイル部門”のような位置付けでした。
また,それとほぼ同時期の2008年6月に,ソネット(ソニーネットワークコミュニケーションズ)がゲームポットの全株式を買って子会社化したんです。4Gamerさん的には,パンヤをはじめ「ファンタジーアース ゼロ」「ペーパーマン」などでゲームポットのことをよくご存じだったと思います。
4Gamer:
それはもう。勢いのある会社でしたからねえ。
宮本氏:
親会社のソネットも,「ポストペット」に続く形で「リヴリーアイランド」が盛り上がっていて,当時はソネットグループ全体に勢いがありました。
4Gamer:
そもそもソニーというグループは,新しいものに手を付けるのが早いですよね。オンラインゲームも黎明期からイチ早く手を付けて,いっときはEverQuestの日本語版も運営していたくらいですし。
宮本氏:
そう。そんな状況のさなか,僕はアルテイルだけでなく,ゲームポットが扱うタイトルのマーケも見るようになります。4Gamerさんには「Wizardry Online」なんかでもすごくお世話になりましたね。
4Gamer:
懐かしいなあ(笑)。
宮本氏:
それからしばらく経ったころに,ゲーム業界で傘下メーカーの統合やリソースの再編成が相次ぐようになります。GPコアエッジもご多分に漏れず吸収合併され,僕はゲームポットの取締役CMOとして就任しました。
4Gamer:
もう相当大きくなったころのゲームポットですね。
宮本氏:
そうです。すでに総勢350人ぐらいの大所帯になっていて,フットワークの軽さが失われていたんですね。意思決定してから動くまでに長い時間がかかるようになっていて,これはオンラインゲームの運営においては非常によろしくないのです。
4Gamer:
ゲームの運営以外にも,いろいろなところで問題は起きそうです。
宮本氏:
そして何より辛かったのは,僕や旧デックスエンタテインメントから来た10人のメンバーが,アルテイルに全力を注げなくなってしまったことです。
それで社内のマーケ体制を整えて,「これなら僕がいなくても大丈夫だろう」と思えるようになったタイミングで,ゲームポット社長の植田さん(※植田修平氏)にわがままを言って辞めさせてもらいました。そうして,GPコアエッジから“GP”すなわちゲームポットを外した,別会社のコアエッジを設立したんです。
4Gamer:
つまり,違う会社の取締役という立場ではなく,もう一度全身全霊をアルテイルに注ぎたかった?
宮本氏:
ええ。しかも,ソネットグループのゲームポットから独立したのに,またソネットから出資を受けて別会社を作るという荒技です。
4Gamer:
……いやそれ普通に意味が分かりません。役員クラスがよっぽど目をかけてくれないと無理なのでは。
宮本氏:
ええ。普通に考えてあり得ないというか,いま振り返ると愚行と言えるのかもしれません。けれども,当時の僕はどうしてもアルテイルで再び勝負をしたかった。周りから何を言われようと,仲間やアルテイルを狂おしいほど信じていたんです。
4Gamer:
それで,実際にコアエッジを設立された後はどんな感じだったんですか。
宮本氏:
色々とありましたが,一番厳しかったのは,想像していた以上にゲーム業界が大きく変化していたことです。
4Gamer:
ちょうど業界の入れ替わり時期でしたから。
宮本氏:
スペックの進化に伴って開発費が一気に高騰していて,新カードの追加コストやランニングコストは何倍にも膨れ上がっていました。プラットフォームに関してもスマホの勢いは増すばかりで,一方のブラウザゲームは次第に落ちていき,Flash Playerのサポート終了で事実上,トドメを刺されるという状況でした。
4Gamer:
ちょうどスマホへの流れが一気に加速したときですよね。この流れに対応しきれない会社もたくさんありました。
宮本氏:
そうしてアルテイルもスマホに対応せざるを得なくなり,「アルテイルNEO」(iOS / Android)を手掛けたものの,世に出る頃にはもう,対戦型カードゲームとして後発組になっていました。このときすでに海外では「ハースストーン」が,国内では「シャドウバース」がスタンダードになっていましたから。
4Gamer:
確かに……。
コアエッジにはアルテイルしかなかったし,現在楽しんでくれているお客さんもいるわけで,海外展開や各種システムのリニューアルなど,できる限りの努力をしました。でも,サービスを続けている間にも出血が止まらない状態で……。そうやって万策が尽きたときの時の絶望感たるや。
最後はお客様を裏切る形になってしまい,本当に申し訳なく思ってます。
4Gamer:
宮本さん個人の気持ちとしても,14年間をアルテイルと共にしてきたわけですし,サービス終了はつらくて厳しいですよね。
宮本氏:
そうしてアルテイルのサービスが終了した後は,原点に立ち返ってマーケ業務に軸足を置き換えました。以前から手掛けていたゲーム業界特化型の人材紹介サービスや,海外のパブリッシャが日本に進出する際のコンサル業務などを中心に行っていたんです。
幸いこれらの業務は軌道に乗りかけていたんですが,今度はコロナ禍が来てしまった。このとき,いよいよコアエッジは終わったなと。
4Gamer:
アルテイル以降もけっこう色々と頑張ってらっしゃったんですね。
宮本氏:
そんな折に,当時コロプラの社長だった馬場と腹を割って話しました。コアエッジは,コロプラのタイトルのブラウザ展開を行ったことがあったりして,以前から関係が続いてたんです。
そうしたら馬場が「それなら,ウチでマーケをやってくれませんか?」と声を掛けてくれたんです。こういった流れで,僕を含むコアエッジのメンバーは2020年5月にコロプラ入りすることになりました。
テクノロジーを生かしたゲームこそコロプラの持ち味
4Gamer:
オンラインゲーム業界で長年活動してきた宮本さんから見た,コロプラの第一印象はどういったものでした?
宮本氏:
まず,“ものづくり”へのこだわりがすごい会社だと思いました。
僕は以前の4Gamerさんのインタビューでも「0から1を創り上げる人」は,めったにいないすごい人材だと述べていて,それは今も変わらないんですけど。コロプラには馬場を筆頭に,そういった人材がたくさんいるんです。正直言って,そこらのメーカーさんでは太刀打ちできないだろうなと。
15年の歴史が詰まった「アルテイル」は,スマホでどんな作品へと生まれ変わったのか。コアエッジ社長の宮本貴志氏にインタビュー
コアエッジがスマホ向けにサービスインした,新作オンラインカードゲーム「アルテイルNEO」の話を聞くため,コアエッジの代表取締役社長である,宮本貴志氏にインタビューを行った。アルテイルにとっての15年と,宮本氏にとっての15年には,どのような想いの積み重ねがあったのだろう。
4Gamer:
なるほど。まぁそもそも馬場さんからして,Excelと格闘して数字と向き合ってるような人……ではなさそうですが。
宮本氏:
ええ,コロプラのタイトルには,常に最新のテクノロジーが盛りこまれているんです。プロダクトアウトやマーケットイン※の話になると,まずプロダクトアウトが先に来る。もちろんこの二つは,タイヤの両輪として2つで一つの役割を果たすのですが,コロプラの場合はまずプロダクトアウトありきで,次に重要なのがコロプラらしいキーテクノロジーなんです。
※プロダクトアウトは企業の方針・発想を優先して商品開発・生産をしてから販売を行うこと。マーケットインは市場や購買者といった買い手のニーズを汲んで製品開発・販売を行うこと。
4Gamer:
一般的にそこはバランスよくやったりするんですけど,ぶれないのは結構すごいですね。
コロプラが掲げているVisionに「最新のテクノロジーと,独創的なアイデアで“新しい体験”を届ける」というのがあるんですが,まさにその通りで。
4Gamer:
コロプラのゲームは,キャラクターなどの見た目は可愛らしいんですけど,中身をちゃんと見ると硬派というか,とても“ゲームらしい”印象が強いです。
宮本氏:
ありがとうございます。「白猫プロジェクト NEW WORLD'S」の指一本で楽しめる操作性などは好例ですが,ほかのタイトルにも最新のテクノロジーが盛り込まれているんですよ。
4Gamer:
そもそも社名の由来にもなった最初のゲームからして,当時最新のテクノロジーを使っていたわけですしね。
宮本氏:
そうなんです。馬場が最初に作った「コロニーな生活」は,ガラケーとは言えモバイル向けの“位置ゲー”で,当時としてはかなり斬新でした。また,スマホの流れが来たときにはイチ早く社内体制をシフトして,「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」を作っています。
4Gamer:
実は出たときには「スマホでわざわざクイズゲーム……?」ってちょっと思ってたんですが,やってみたらめっちゃ面白かったです。
宮本氏:
そうですよね(笑)。僕らの世代はアーケードゲームでクイズゲームに親しんでいますけど,“黒猫”ではクイズゲームとアプリ内課金のシステムを絶妙な形で結びつけています。そして「ドラゴンクエストウォーク」も,単なる位置ゲーに留まらず,ドラクエらしい戦術的なバトルを実現しています。
「白猫プロジェクト NEW WORLD'S」(iOS / Android) | 「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」(iOS / Android) |
4Gamer:
最近では「ユージェネ」とか。
宮本氏:
僕がコロプラで最初にマーケティングを担当した作品ですね。
「ユージェネ」でも,ほぼリアルタイムでアスタリスタ(ライブをするキャラクター)とのやりとりを楽しめるという,なにげにすごいことをやっています。こういった最新テクノロジーが盛り込まれたゲームをアピールできるのは,マーケ冥利に尽きると思いましたし,僕個人も久々の大企業ということで力が入りました。
4Gamer:
マーケ担当の観点からは,コロプラに対してどんな印象を持ちました?
宮本氏:
今までのコロプラもマーケができてなかったわけではないですけど,そこに関しては色々と役に立てそうだと思いました。
4Gamer:
足りない部分的な話でしょうか。
宮本氏:
というよりやり方,でしょうか。
コロプラのタイトルで言うと,例えば白猫プロジェクトなどがヒットしていた頃なら,コマーシャルなどのマス層をターゲットにしたPR手法で大きな効果を挙げられました。ですが現在は,そういったやり方では生き残れません。いまの時代に合ったやり方で,コロプラのゲームを適切にアピールする必要性を感じています。
4Gamer:
なるほど。
まず大前提として,もちろんみなさんご承知かとは思いますが,現在のゲームにとってのライバルはゲームだけではありません。漫画や動画,音楽などがスマホ一つで楽しめるなか,娯楽として選ばれることからして,本当に難しい時代に突入しています。
ゲームにおいても,近年は中国メーカーの勢いが増すばかりです。単に綺麗なグラフィックスとか,マルチプラットフォームとか言ってる段階はとうの昔に過ぎていて,日本のIPを使ったり日本人の声優を使ったり,我々のお株がどんどん奪われていっているわけです。
4Gamer:
そういった厳しい状況の中,コロプラのゲームをどのようにアピールしていく予定ですか?
宮本氏:
先ほども申し上げたとおり,コロプラのゲームには最新のテクノロジーがぎっしり盛り込まれているわけで,ここで差別化して勝負するのが得策です。そのためには,コロプラのゲームが刺さるターゲットとなる“ゲーム好き”のお客様に向けてきちんと訴求し,長く遊んでもらうための施策を考えねばなりません。
4Gamer:
先ほどもちょっと触れましたが,コロプラの可愛らしい絵柄と硬派な「ゲーム好き」とのミスマッチが気になります。
宮本氏:
そうですね。コロプラのゲームは良く言うと“ゲームらしい”ですが,“人を選ぶ”という見方もできます。仮にこういったタイトルで,他企業や中国メーカーのようなマス向けのPRを行っても,呼び込んだお客様とコロプラのゲームとの潜在的な相性が良いとは限らない。一時的には人を集められるでしょうけど,長期的な定着率はそれほど高くないはずです。
例えば,いわゆる“インスタ女子”にとって,白猫はちょっとハードルが高いと思うんですよね。
4Gamer:
あれ全然カジュアルじゃないですよ……。
宮本氏:
かといって,コロプラのテクノロジーを直接アピールするのが良いかというと,それも違います。白猫プロジェクトにしても,「すごい技術がつまってる!」というきっかけで選ぶ人はいないですから。
4Gamer:
そう考えると,コロプラらしさを適切にアピールするのは結構難しい道になるような気がします。
宮本氏:
そのための第一歩として,マーケ担当も運営担当者と同じレベルでゲームに詳しくなる必要がありますし,入社以来それを,口を酸っぱくして言ってきた気がします。そして,PRを行ってお客様を呼び込んだら終わりではなく,実際に遊んでいるプレイヤーの動向などを注視して,どうやったら楽しく遊んでもらえるか,今後はどういった属性のお客様を呼び込む必要があるのか,などを考えることが大切です。
こうやって突き詰めて考えていくと,マーケと運営って紙一重というか,やるべきことはほぼ一緒なんですよ。
4Gamer:
なるほど。長年アルテイルを見てきた宮本さんらしいセリフですね。
宮本氏:
こういった部分を含めたマーケ担当の意識の変化や,社内体制のリセットなどは,これからのコロプラがゲーム業界で生き抜くために必要なことだと考えています。実際,僕がコロプラ入りしてから一年近くをかけて,これに対して地道に取り組んでいます。
社長が技術屋から営業屋へ?
4Gamer:
そうじゃないだろうと思いつつ聞くんですが,宮本さんがコロプラ入りしたのは,最初から社長になることが既定路線というわけではなかったんですよね?
宮本氏:
いろんな人から同じことを聞かれるんですが,違いますよ!(笑) なにしろ2021年の初めの頃,僕は社員採用の部署にも,前職の経験からアドバイザーとして参画していましたから。そもそも僕と馬場は,ある意味正反対の人間なので,最初から「宮本を引き入れて社長にしよう」という判断ではなかったはずです。
4Gamer:
前社長の馬場さんは開発者出身で,新たに就任する宮本さんはマーケ屋です。つまり,社長が技術屋から営業屋に変わるわけで,入社後短期間で思い切った人事だなと。
宮本氏:
確かにそう見えてもおかしくないですよね。
ちなみに僕は本部長に就任後,経営会議に参加していたのですが,馬場によると,経営者としての判断はなかなか良かったそうです。そういうところは大丈夫だから,全然心配していないと言われました。まあ,僕もGPコアエッジの頃から数えると,10年以上社長をやってますし。
4Gamer:
極端な話かもしれませんが,これからのコロプラが営業会社になってしまわないか,心配する人って出てきませんかね……?
社長が替われば会社は変わりますし,編集長が替わればメディアは変わります。しかも今回は開発出身から営業出身という,方向性すら違う人事ですし。
その心配はごもっともです。それに対して,「そうじゃないです」とはっきり伝えるのが,僕の最初のミッションかなと。
そして次に聞かれる前に先回りして答えますが,「馬場ってコロプラを辞めてしまうの?」みたいな疑問が出てくることに対しても,「そうじゃないです」とお伝えしておきます。むしろ馬場は,これからものすごく働くことになるはずです。
4Gamer:
馬場さんが社長から開発者に戻るというのも,なかなかすごい話ですよね。
宮本氏:
そうですよね。僕も,アルテイルで色々なトラブルがあった頃,「もういい,俺が運営もやる!」って言いたかったけど,やっぱり言えなかった。それを言ってしまうと社長業なんてやれないですから。そうですよね?(笑)
4Gamer:
「もういい,俺が原稿を書く!」って言い始めたら,私も会社の決め事ができなくなりますよ(笑)。
宮本氏:
ですよね。結局のところ,現在は新作をヒットさせるのが本当に難しいということに尽きると思うんです。では,どうすればヒットさせられるのかというと,ヒットが出るまで打席に立ち続けるしかない。
ただ,何も考えずにずっと打席に立ち続けられはしませんから,打てる選手を見つけたり,あるいは育てたりといった環境を整えることが大切です。
4Gamer:
結局そこに立ち返るしかないですよねえ……。
もともと馬場は,「コロニーな生活」を1人で開発して,これが成功して一人じゃやっていけないからコロプラを会社にしたというような経歴ですから。彼にとっては,何年も前のタイトルがセルランの首位を独占している現状や,これから新作をヒットさせることの難しさなどは,僕なんかよりずっと肌で感じているのかもしれません。でも,それを感じるだけでなく行動に移してしまうところが,本当にすごいなと。
4Gamer:
たとえばミクシィはモンスト,ガンホーはパズドラといった特大ホームランを打っていますが,コロプラは二塁打三塁打を量産しているイメージが漠然とあります。
宮本氏:
ありがとうございます。褒め言葉ですよね?(笑)
4Gamer:
もちろんです。そういう会社,なかなかないですから。
宮本氏:
補足するとコロプラは,たとえばスクウェア・エニックスさんのように開発ラインがたくさんあるわけではないです。そういったなか,三塁打や二塁打を打てるわけで,“打率”の高さにも自信がありますよ。
4Gamer:
あと前から気になってたんですが,コロプラはほんと続編を作らないですよね。ほかの皆さんと同じように「白猫2」とか「黒猫2」とか作ってれば,そこそこのヒットをそれなりに打てそうなんですが。
宮本氏:
そうやって楽な道を進まない所も,硬派で僕は好きです(笑)。
もし出すとしても、他のメーカーさんではやらないような斬新な出し方をすると思います。
繰り返しになりますが,コロプラはプロダクトアウトのゲームメーカーなんです。“最新のテクノロジー”と言うのは簡単で,実際によく耳にもしますが,本当の意味で成し遂げているメーカーさんって実は少ない。コロプラにとっても最大の武器なので,そこをこれからも大切にしていきたいですね。
4Gamer:
でも,ちょっとくらい気を抜いてもいいとも思うんです。
宮本氏:
単なる続編ではなくて横展開ならアリだと思いますよ。たとえば白猫にしても,いまも遊んでくれている人は大好きな人ばかりで,IPとして“濃く”なっているんです。だから「白猫テニス」(iOS / Android)を出したし,現在も「白猫GOLF」(iOS / Android)を鋭意開発中です。
ほかにも,ユージェネに搭載されている“STAR ENGINE”といった優れたテクノロジーを用いた,新しい取り組みなんかも考えていきたいですね。
「白猫GOLF」の事前登録受付が開始に。オリジナルQUOカード1000円分が抽選で当たるRTキャンペーンも開催中
コロプラは本日,新作スマホアプリ「白猫GOLF」の事前登録受付を開始した。これにあわせて,登録者数に応じて報酬が増えていく事前登録キャンペーンや,オリジナルQUOカード1000円分が抽選で当たるTwitterキャンペーンも始まっている。
コロプラのことを広く知ってもらう
4Gamer:
では社長就任にあたり,これからのコロプラをどうしたいか,中長期のビジョンなどはありますか。
宮本氏:
究極的に言うと,多くの人にコロプラや,コロプラのゲームを好きになってほしいです。そしてそのための第一歩として,まずは社員のみなさまにコロプラのことを広く知ってもらいたいなと。言葉にするのは簡単なんですが,社内だけで1000人,関連会社を含めると1500人といった企業になるとこれが難しくて,地道に取り組んでいきます。
4Gamer:
今そんなにいるんですか!
宮本氏:
そうなんです。先ほど申し上げた「最新のテクノロジーと,独創的なアイデアで“新しい体験”を届ける」というVisionも,コロプラを知ってもらうための施策のひとつですね。あとは,社長就任のタイミングで“統合報告書”なるものを公開しています。かなり作り込んでいて良く出来た資料なので,コロプラにご興味のある方は,ぜひ目を通してほしいです。
外部サイト:コロプラ 統合報告書/アニュアルレポート
4Gamer:
お,あとで詳しく拝見します。
宮本氏:
こういった活動を通じて,コロプラに対する理解を深めてもらうことで,色々な面で良い効果が期待できると思うんです。たとえば,一人一人の社員が「うちの会社ってこういう社風なんだな」って把握してくれるだけでも,日々の業務や会社とのリンクが強まって,帰属意識が高まる部分もあるかもしれませんし。
4Gamer:
こういう時代ですからね。ただでさえ帰属意識はどんどん希薄になってきていますし。
宮本氏:
ええ。在宅勤務も増えて,会社との関係も希薄化しています。時代に適応した新しい働き方だと思いながらも,帰属意識を持つことの成果も考えちゃうわけです。僕も古いおじさんなんで。
4Gamer:
いやあお気持ち分かります……。
宮本氏:
2012年にコアエッジを設立した直後に,忘年会をしたかったんですが予算がまったく捻出できなくて,悩んだ末に社内で鍋をしたのを思い出します。CFOに「ガスコンロだけは使うな」と釘を刺されたので,電気鍋を買ってきたりして(笑)。
4Gamer:
古き良きベンチャー企業的な(笑)。
宮本氏:
まぁ話を戻すと,そういったコロプラのスタンスを社内だけでなく,できれば外に向けても伝えていきたいです。そうして,最新のテクノロジーが詰まった渾身のタイトルをリリースして,「あぁ,コロプラがまたやってくれた!」みたいに思ってもらえるところに持っていけたら最高ですね。そうやって,日本のゲーム業界を元気にしていきたいです。
4Gamer:
期待してます。外部から見て「本当に社長が変わったんだ」と実感できるようになるのは,いつ頃になりそうですか?
宮本氏:
うーん……。社風などは少しずつ変わっていくでしょうけど,外部から見てはっきり分かるのは,きっと2年後くらいになると思います。社長が変わったことを多くの人は気にしないでしょうし,14年目を迎える会社が急激に変わるのは,僕を含めて誰も望んでいないかな,と。
4Gamer:
確かにそうかもしれません。では2年後のコロプラに向けて,最後にひとことお願いします。
宮本氏:
これからのコロプラは,前社長の馬場を開発に引き戻して新作を作ります。そういったなか,社長としての僕の大きな役割は,クリエイター陣が開発に集中できるための,さまざまな環境を整えることだと考えています。
コロプラとしては,持ち味のテクノロジーを生かしたプロダクトアウトで,まじめにゲームを作り,お客様の夢中を作り続けます。ぜひ,応援をよろしくお願いします。
4Gamer:
では2年後のインタビューで「うまくいった2年間でした」というお話が聞けることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
――2021年12月20日実施
「コロプラ」公式サイト
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