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[CEDEC 2021]IPと語り方の進化が,物語に新たな楽しみを生み出す。キャラクターIPのメディアミックス展開を考えるセッションをレポート
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印刷2021/08/31 15:13

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[CEDEC 2021]IPと語り方の進化が,物語に新たな楽しみを生み出す。キャラクターIPのメディアミックス展開を考えるセッションをレポート

 ゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2021の最終日となる2021年8月26日,「キャラクター経済圏とIPクリエーションの視点から望む,ニューノーマル時代におけるメディアミックスの新パラダイム」というセッションが行われた。

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 この講演でキーとなるのが,3つの考え方だ。まずは物語の語り方を表す「トランスメディアストーリーテリング(TMS)」。「ストーリーIP」「キャラクターIP」「世界観IP」といったIPの区分。そしてキャラクターIPビジネスがもたらす影響を見る「キャラクター経済圏」である。
 今回登壇したのは,TMSに注目する,立命館大学 映像学部教授の中村彰憲氏と,「428 〜封鎖された渋谷で〜」「文豪とアルケミスト」などのゲームを手がけ,ストーリーIP,キャラクターIP,世界観IPという考え方を提唱した,ストーリーテリング 代表取締役会長のイシイジロウ氏,そして,ブシロードでさまざまなIPに携わり,複数メディアでIPを展開するキャラクター経済圏による文化産業振興を呼びかける,Re entertainment代表の中山淳雄氏だ。今回は,先の考え方をそれぞれが解説し,近年のキャラクターIPについてのディスカッションを行う形で講演が進められた。

 まずはTMSとは何かをおさらいしておこう。これは,アメリカの研究者であるヘンリー・ジェンキンス氏が提唱した概念である。かなり大ざっぱにまとめると「ある世界観のもと,複数の物語を複数のメディアで語る。ユーザーは断片化した物語をつなぐことで全貌を明らかにしたり,その行間を読むことを楽しむ」というものだ。

 例えば,「機動戦士ガンダム」や「ポケットモンスター」「Fate」,そして一連のマーベル映画(マーベル・シネマティック・ユニバース,MCU)や「スター・ウォーズ」といった人気のIPには,TMSの手法で語られているという共通点がある。
 機動戦士ガンダムの舞台となるのは人類が宇宙に植民した「宇宙世紀」。地球とスペースコロニーの民族間対立が,人型機動兵器「モビルスーツ」を主力とした戦争を引き起こす。ここから始まる物語が,TVアニメ,小説,コミック,ゲームなどさまざまなメディアで展開される。
 Fateを例に挙げてみよう。歴史や神話の英雄たちが魔術師に召喚される「英霊」になり,あらゆる望みを叶える「聖杯」を求めて争う。この「聖杯戦争」を題材としたさまざまな物語が,ゲームや小説,アニメなどで描かれる。

 MCUの場合,スパイダーマンやキャプテン・アメリカといったマーベルコミックスのヒーローたちが,MCUという同一の世界で活躍する。彼らの戦いは20本以上の映画や,10本以上のドラマで語られるが,基本的には「〜2」「〜3」という単一作品の続編という形を取らない。しかし,「アベンジャーズ/エンドゲーム」で起きたできごとが登場人物たちにトラウマを与え,その後に公開された「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」の展開に大きな影響を及ぼしていたりする。

 ポケットモンスターについては,さまざまな地方には馴染み深いものからまだ発見されていないものまで無数のポケットモンスター(ポケモン)たちがいて,トレーナーとの結びつきや,トレーナーたちによる人間模様が描かれる。ゲーム毎に新たな地方が増えるだけでなく,アニメやマンガ,映画でも物語が語られる。

 これは筆者の私見だが,TMSは作り手とファンがWin-Winになれる手法であると思える。作り手は規模の大きなビジネスができ,ファンは好きな世界観をずっと楽しめるのがその魅力ではないだろうか。

 そして,イシイジロウ氏が語るのが,ストーリーIP,キャラクターIP,世界観IPという分類だ。シリーズ化して後世に残る作品になるためには,世界観IPになっていることが重要だが,最初から世界観IPとして成立する作品は少ないという。まずはストーリーの面白さで観客を惹きつけるストーリーIPから,愛されるキャラクター主導で物語を作れるキャラクターIPへ。そして,さまざまなストーリーが展開し,個性的なキャラクターが活躍するようになる世界観IPへと進化していけば,作者や役者が変わってもIPは受け継がれていくとする考え方である。

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 ストーリーIPの好例としてイシイ氏が挙げるのが「ターミネーター」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「宇宙戦艦ヤマト」「エイリアン」といった作品群だ。ストーリーの面白さが魅力であるが,続編を作っても記憶に残るのはパート2や3までといった弱点がある(例えば「エイリアン」の続編が作られた際も,「2」の続編であることが強調される)。日本の興行収入上位にはストーリーIPが多いのだという。

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 次の段階がキャラクターIPである。成功作品の例は「ドラえもん」「名探偵コナン」「ドラゴンボール」「シャーロック・ホームズ」「007」「ハリー・ポッター」など。制作者や演者の世代交代,主人公の変更に弱いが,うまくいけばより長期にわたって展開できる。007の場合は原作小説の発表から68年経つが「今度の映画は誰がボンドを演じるの?」と話題になる。これなどは世代交代がうまくいった例といえるだろう。ただし,イシイ氏によれば,ゲームとして展開する際に弱いところがあるという。

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 そして,世界観IPが「機動戦士ガンダム(宇宙世紀シリーズ)」「ポケットモンスター」「Fate」「スタートレック」「MCU」「スター・ウォーズ」などである。前述したTMSの語り方がされているのが,大きな特徴だ。
 キャラクターIPから世界観IPへ移行するには,クリエイターや演者,主人公,そしてファンの世代交代が必要となる。初代作の主人公たちがいなくなっても通用する世界観を作り上げることで,世界観IPになれるわけだ。

 また,世界観IPのさらなる進化形としてイシイ氏が挙げるのが,宇宙世紀以外の作品を含めた「機動戦士ガンダム」「仮面ライダー」「プリキュア」だ。ガンダムや仮面ライダー,プリキュアというキャラクターさえ出てくれば,これまでのシリーズとまったく独立した世界でもシリーズIPとなる。
 それでいて,仮面ライダーたちが点在する無数の異世界を旅する「仮面ライダーディケイド」や,宇宙世紀であるか否かを問わず世界観に内包する「∀ガンダム」といった,すべてのシリーズを同一世界につなぐ作品も存在する。これはマーベルも未踏の領域であるという。

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 これらのIPが映像化,グッズ化,舞台化,そしてゲーム化などで経済にどのような影響を及ぼすかを考えていくのが,中山氏のキャラクター経済圏である。

世界各国でのキャラクター経済圏。縦軸は金額規模,横軸は成立年
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 IPのゲーム化という点を考えると,以前はIPが玩具(グッズ)化や映像化されたのに伴ってゲーム化されていたものが,2010年代にはゲーム発のIPが多く見られるようになり,収益の柱もモバイルゲームになってったというのが,近年の変化であるという。これに伴い,ユーザー基盤育成(ファンの育て方)も変化しているそうだ。

 中山氏が携わった「BanG Dream!(バンドリ)」では,少人数のライブやコミックから始まり,アニメとゲームでユーザーを掴む。そして,ゲームの持続的なアップデートと,グッズ及びイベント展開を継続することでユーザーをつなぎ止め,その後にアニメ第2期がスタートする……といった展開がされた。ここで重要になるのが,アニメ第1期と第2期の間をつなぐ時期に行われた,ゲームの持続的アップデートとグッズ及びイベント展開の継続だ。通常,アニメが終わるとユーザー数は減少していくが,「BanG Dream!」では上記の取り組みで母数を上げることに成功している。中山氏が10本以上のアニメプロジェクトに携わった経験からすると,アニメの間をつなぐ2年間でユーザー数が1/10になることすらあるという。
 ゲームメディアとして注目すべきは,モバイルゲームの持続的アップデートだろう。家庭用ゲームよりも頻繁にアップデートできるモバイルゲームの特性により,ユーザーの興味をつなぐことに成功したというわけで,今後のIPビジネスを考える上で興味深い事例といえる。

「ポケットモンスター」のキャラクター経済圏,その内訳
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2014〜2016年の「妖怪ウォッチ」経済圏。時代的に家庭用ゲームと玩具が主導で,モバイルゲームの影響はこの図には出ていない
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2019年の「ドラゴンボール超」経済圏。左下のモバイルゲームが非常に大きいのが印象的
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 IPの展開においては,さまざまなコンテンツ(『BanG Dream!』の場合はゲーム,アニメ,ライブ,舞台など)を展開してユーザーの母数を増やすのが現在のトレンドだ。そこでは,SNSやモバイルゲームなどデジタルメディアを使って,ユーザーに日々アプローチすることが重要となる。

「BanG Dream!」では,SNSやモバイルゲーム(アプリ)でデイリーにアプローチする,キャラクター経済圏のオンライン化でファンを増やした
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 それぞれの考え方が紹介された後,中村氏をモデレーターにしたディスカッションも行われた。興味深いところを抜粋しよう。

●「ハリウッドのようなトランスメディアストーリーテリングをプロジェクトとして行う際の,経営者としての懸念点は?」

 「自分の経験からすると,最初から世界観IPを作れるところはあまり見たことがない。パス回しをしているうちにゴールが決まり,そこからうまくなっていくというような現象が起こる。ストーリーIPから始まり,2〜3作目で世界観IPになっていくのでは」(中山氏)
 「最初から世界観IPやTMSというようなビジネス視点でIPやクリエイティブを立ち上げようとすると,うまくいかないことがある。(IPに参加する)作家が積み上げてきたものがTMSの材料。これは作家にしか作れないが,属人性を廃することでTMSへのステップアップができる。『Fate』の場合,『FGO』でTMS的展開をしているが,これが始まったのは,原作者の奈須きのこ氏以外の作家である虚淵 玄氏が『Fate/Zero』を書いてから。奈須氏がいなくても今と同じクオリティを保つ『Fate』ができれば,『機動戦士ガンダム』がいる段階へ行けるのではないか」(イシイ氏)

●「オンライン動画サービス全盛期の現在に,トランスメディアストーリーテリング作品が続々生まれるのはなぜ?」

 「TMSのベースにするには,アニメの長期TVシリーズや長編ノベルゲームぐらいの分量が必要。日本ではTVアニメ中心の文化があるため,TMS型のコンテンツが多い。オンライン動画サービスは,物量が多いことからTMSに向いている。MCUのすごさは,映画でTMSをやったことで,物量を表現するためにオンライン動画サービスへ移行している」(イシイ氏)

 人気コンテンツを語るキーワードとなる,トランスメディアストーリーテリング。そして,ストーリーIPからキャラクターIP,世界観IPへの進化。オンラインの発達でユーザーと緊密なコミュニケーションを取れる時代での,モバイルゲームのメリットと役割。いずれも興味深いテーマであり,これからいろいろなコンテンツを見るうえで,意識しておくとより深く楽しめるのではないだろうか。

3人が選んだシリーズ作品トップ10
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