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[TGS 2019]IESF事務局長 レオポルド・チャン氏による講演「グローバルeスポーツムーブメント:オフィシャルスポーツとしての可能性」をレポート
本講演では,国際eスポーツ連盟(IESF)事務局長のレオポルド・チャン氏が,IESFのがeスポーツグローバル戦略や,広く認知されるための施策について,「世界的なeスポーツの勢い」「持続可能なeスポーツの成長」「eスポーツの次のステップ」の3つのテーマから語るものとなった。
日本eスポーツ連合(JeSU)公式サイト
国際eスポーツ連盟(IESF)公式サイト(英語)
講演の冒頭では,IESFが国際オリンピック委員会(IOC)に働きかけをしている世界的なeスポーツ団体であり,現在56か国が加盟していることや,言語・人種・文化の壁を越えてeスポーツを真のスポーツとして推進していること,毎年eスポーツのワールドチャンピオンシップなどを開催していることが,チャン氏より紹介された。
加えて国際的なeスポーツの標準化とルール作りにより,各国のeスポーツの総合的な開発のための標準化にも取り組んでいるという。そんなIESFが目指すのは,IOCへの加盟である。
2008年に設立されたIESFのこれまでの歩みも紹介された。現在は,IOCおよび国際スポーツ連盟機構(GAISF)の認定を得ようとしている段階だ |
IESFの使命が「加盟国を増やすこと」「標準化されたeスポーツの規格作りに邁進すること,またそのサポートを提供すること」「国際的に認知された,または標準化されたトレーニングを通じて人材を育成し,その生涯までも保障することの促進」であることも紹介された |
「世界的なeスポーツの勢い」については,まずIESFに加盟している56か国のうち31か国にて,その国のオリンピック委員会など国際的機関にeスポーツがスポーツとして認定されていることが紹介された。
それら31か国の多くはアジアの国々とのことで,チャン氏はその理由をアジア競技会およびアジアインドア・マーシャルアーツゲームズにてeスポーツが競技として採用されているからと説明した。
またメキシコもIESFに新たに加盟したそうで,チャン氏は「スペイン語圏に大きな影響を与えられるのではないか」と期待をのぞかせた。現在メキシコシティでは,eスポーツの選手が利用できるナショナルトレーニングセンターが建設中で,一部は使用できる状態にあるという。
チャン氏は「メキシコが国を挙げてeスポーツに力を入れていると分かる」とコメントし,「この事例は,eスポーツをスポーツとして認知させる非常にいいモデルになる」と評価した。
それでは,どうすればeスポーツがスポーツたり得るのか。チャン氏は,今後eスポーツがスポーツとして認知され続けるためには「持続可能」が大きなキーワードになるとし,「スポーツは社会に還元し,また社会とコミュニケーションを取っていくうえで大きく成長していく分野」と説明。すなわち,スポーツには「選手を育成して才能を引き出す」「選手の生活を保障する」「引退後の選手は若手の育成に携わる」という一連の持続可能な流れがあるわけだが,eスポーツにもそれが必要だというのである。
またチャン氏は,eスポーツの持続可能な流れを産業にしていくことも重要だとし,「喫緊の大きな課題の1つ」と表現。その実現のためには官民の連携が必要だが,現在は民間側が先行している状況であり,チャン氏は「土台を支えるためには国の支援が必要になるはず」と語った。
さらにチャン氏は,eスポーツの持続可能な流れを作るために,次世代に対する責任も必要であるとし,「eスポーツは現在急成長を遂げており,また拡大も期待されている。多くの人の関心を惹いている今,1つのトレンドで終わることなく,しっかりとした制度や基準,保障といった仕組み作りを同時に進めなければならない」と語った。
もちろん,eスポーツが世間からスポーツだと認知されることも重要だ。その第1歩は,現在IESFが国際スポーツ連盟機構(GAISF)の加盟認証を得ようとしていることにある。GAISFは,国際サッカー連盟(FIFA)を筆頭にさまざまなスポーツの国際団体が所属している団体であり,チャン氏は「GAISFのメンバーに加わることが,eスポーツをスポーツとして認知させる最初の条件」と説明。実際,IESFの活動に対するGAISFの理解はかなり進んでいるとのことで,「あと1歩のところで扉が開くのを待っている状態」なのだとか。
また,eスポーツがオリンピックのスポーツ競技として採用されるためには,いくつかのプロセスを経なければならない。GAISFは4つの組織で構成され,加盟するとまず非IOC承認競技協会(AIMS)に認定される。そのうえで厳しい審査を通ると,今度はIOC承認国際競技団体連合(ARISF)に認定される。
そしてさらなる審査を経て,オリンピック夏季大会競技団体連合(ASOIF),またはオリンピック冬季大会競技団体連合(AIOWF)のいずれかに認定されるのだ。
なおASOIFに加認定されるには40か国,AIOWFに認定されるには25か国の加盟国が必要となる。上記のとおりIESFは31か国が加盟している(この場合は,eスポーツがスポーツとして認定されている加盟国のみを指す)ので,チャン氏は「こちらの意味でも,あと少しのところまで来ている。これからも加盟国を増やすべく邁進していく」と意気込みを見せていた。
話題は,IOC内にeスポーツをオリンピック競技として認めるかを検討するELG(eスポーツ検討会)が設けられ,具体的に議論が行われていることにもおよんだ。
ELGのメンバーの中にはIESFとJeSUもアドバイザーとして加わっており,チャン氏は「IOCの中に,国の是認を受けた団体が加わるのは珍しいこと。eスポーツが世界的に期待されていること,そして日本がどれだけeスポーツに貢献できるか,世界的に期待されていることが分かる」「IOCと密に連絡を取り,議論を増やすことによってELGの意義を高めていきたい」と話していた。
「持続可能なeスポーツの成長」というテーマは上記でも触れられたが,チャン氏は改めて官民の連携が必要であることをアピールし,具体例として韓国・釜山に建設された「グローバルeスポーツR&Dセンター」を紹介。
この施設には3つの柱があり,その1つが「国際eスポーツレフェリーアカデミー」だ。チャン氏は「スポーツにおいてレフェリーの存在は大きなキー」とし,「レフェリーを育成し管理することは,eスポーツが人々から信頼を得るうえで極めて重要」と表現。「官民が連携して優れたレフェリーを育成することは,合法性や公平性の担保にもつながる」と続けた。
このアカデミーでは,認定資格を持つレフェリーの育成と,その認定資格の作成,審判員の管理という3つの業務を行っているとのことである。
2つめの柱は「国際eスポーツアカデミックセンター」だ。この施設ではeスポーツに対する資金的なサポートと広報活動,そして情報提供のためのタイミング作りを担っている。また国際的に有名な大学教授や教育機関と連携して情報収集し,それをアーカイブしたり,世界の人々に正しい形で伝えたりといった業務も含まれるとのことで,チャン氏は「こうした業務こそがeスポーツを健全なスポーツとして成長させるうえでの大切な分野の1つ。そこにIESFが関与していくこともまた重要」と語った。
そして3つめの柱が「国際eスポーツトレーニングセンター」となる。選手1人1人が同じような条件でeスポーツの練習が可能で,またコーチが学ぶこともできる施設だという。とくにIESFでは,この施設の基準作りとそれに則ったトレーニングメニュー作り,そしてそれらの啓蒙に注力しているとのこと。
またグローバルeスポーツR&Dセンターでは,強化合宿やキャンプも行えることも紹介された。なおこの施設は選手やコーチだけでなく,eスポーツに興味がある人なら誰でも利用可能とのことで,チャン氏は「公的機関がサポートしているから行えること」と語っていた。
さらにチャン氏は,「eスポーツワールドチャンピオンシップ」と「グローバルeスポーツエグゼクティブサミット」についても紹介。「プロのスポーツ選手を目指すには,大会に出て好成績を収めるなどのステップが必要」とし,「JeSUはその道しるべとなるようなプロセスにも力を入れている」と表現。「IESFもそのような場を用意することで,eスポーツのプロ選手を育成できると考えている」とのことである。
講演の終盤では,「eスポーツの次のステップ」が語られた。
チャン氏は「eスポーツは非常に速いスピードで企画され,認知されている。その準備と目先のことを片付けるのが精一杯で,やらなければならないことが山積みというのが現状」とし,「そうしたムーブメントとしてのeスポーツを制度化し,国や国際機関に認められることを何よりも先に達成しなければならない」と指摘。
最後に「きちんと準備して,常に対話しながら着実に前進する。このたゆまぬ連続性を,粘りよく続けていくことが重要」と述べ,講演を締めくくった。
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