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[GDC 2019]ゲームのプロモーションに活用されるGIF動画。拡散されるにはどう作り,どう公開するのか
この状況への対策として「コミュニティを活用しましょう」という言葉はゲームのマーケティングに関する講演においてはほぼ必ず口にされるが,コミュニティを形成できるだけのファンを集めるという段階ですでに結構なハードルとなる。
また動画配信が一般化し,SNSでもさまざまな動画を閲覧できるようになった反面,魅力的なトレイラーを作るとなるとコストがかかってしまう。実際,資金に余裕のあるパブリッシャやデベロッパは映像制作会社にトレイラーを発注しているわけで,資金に余裕のない側はむしろ「動画配信による宣伝がやりやすくなった」ことがひとつのハードルとなってしまっている側面がある。
そんな中,より効果的に注目を集める手段として,GIF動画を用いた広告が考えられる。しかしこれもまた,ただGIFを作れば良いというものではなく,どういった媒体に向かってどんなGIF動画を公開するのかという問題も残る。GDC 2019の4日目に行われた「PRsucess.GIF: Get your game across in 5 second」という講演では,「どのようなGIFを」「どこで」「どのように公開していくべきか」の具体的な指針が示されたので,紹介しよう。
「動画で見ればすぐ分かる」ことをGIF動画で伝える
登壇したのは,Future Friends GamesのFounderであるThomas Reisenegger氏だ。Reisenegger氏はこれまで「League of Legends」のような大きな作品から,「A Normal Lost Phone」「Orwell: Ignorance is Strength」「Bury me, my Love」のような個性的なインディーズゲームまで,70作品以上のマーケティングやコミュニケーションに携わってきた人物である。
さて,講演に先立ってReisenegger氏は,「GIFとはただのファイルフォーマットではなく,一種の哲学と考えるべきだ」と主張した。いささか大げさな表現ではあるが,つまり本講演では「GIF」という画像形式が問題になるのではなく,「おおよそどこにでも置けるショートビデオクリップ」という概念と,その利用法を解説するということだ。
そのうえでReisenegger氏は,「良いGIF動画」はいくつかのパターンに分類できると指摘した。以下,ひとつずつ見ていこう。
なおスライドは(当然ながら)GIF動画まみれであり,実際に動いていないと分かりにくい部分も多々あるが,ご了承いただきたい。
・ゲームプレイGIF
ゲームメカニクスを紹介したり,とにかく格好の良いシーンを切り取って見せたり,あるいはちょっと面白おかしいシーンを見せたりといった形で,「実際にゲームを遊んでいると遭遇できる画面」をGIF動画にしたもの。
PCゲームのゲームメカニクスは,実際に遊ぶと一発で理解できるものでも,文字として書き起こすとなんだか複雑で難しそうと感じさせてしまうことがある。また,分かりやすい文章で書いたとしても,門外漢にとってはまったく意味不明ということもあり得る(例えば4Gamer読者の大半にとって「ダブルブラインドの空母戦にCDSの要素を取り入れたもの」という説明は完全に意味不明だろう)。
ここにおいて,そのゲームメカニクスが実際にどう機能するかを見せる動画には,大きな効果がある。また,「そのようなメカニクスを使いこなすと,こんなカッコいいゲームプレイになる」ことを動画で見せるのも,とても強い印象を残し得る。
そして「ちょっと面白おかしいシーン」は,それ単体でSNS上に広がっていく力を持っている。
・バグGIF
物理エンジンが異常な挙動を引き起こしたり,不具合によって思わず笑ってしまうような状況が生み出されたりしている場合,それをGIFにすると思いもよらない拡散をすることがある。
もちろんこれはバグを公開することでもあるが,開発途中のゲーム(アーリーアクセスなど)であれば,「開発側はこのようなバグを把握しています」というメッセージにもなる。
・ジョークGIF
ゲームに登場するキャラクターやムービー,ないし各種アセットを用いて,短いジョーク動画を作る。これは事前の広報に使えることもあれば,ゲームをリリースしたあと(ないしアーリーアクセスやKickstarterを始めたあと)で季節イベントとして発表するという方向性もある。
・アセットGIF
ゲームプレイGIFの,「ゲームメカニクスを紹介するGIF」に近い。
それ単体でゲームの魅力を伝えるものではないが,すでにある程度までゲームに興味を抱いている(あるいはもうファンやユーザーになっている)層に向けて,「あるアクションは,このゲームにおいてはこのような形で実行できる」「武器や防具,職業の選択肢は,こんな感じでたくさんある」といった局所的な機能・データを短い動画で紹介する。
・メインGIF
事実上のトレイラー。多くの人にアピールすることを目指す動画となる。
目まぐるしい展開をみせるアクションゲームなどであれば,短くて印象的なアクションシーンを詰め合わせにしていくだけでも一定の効果が期待できるが,アドベンチャーゲームのような静かな進行をするゲームの場合は,テロップなどで情報を補ってやらねばならないこともある。
いかにゲームの面白さをうまく要約して伝えられるかが勝負となる。
ともあれ,GIF動画の長さには限界があるし,人々が動画を見てくれる時間にも限りがある。そんな中で印象的な動画を作るにあたって,Reisenegger氏は4つの要点を示した。
・見た瞬間に「これは!」と思わせるくらいに,キャッチーであること
・視聴者は動画が紹介するゲームのことを何も知らないと想定すること
・単体で完結するものを目指すのではなく,視聴者がゲームに対し継続的な興味を抱くことを目指すこと
・視聴者にとって「好き」ではなく「愛してる」ものを目指すこと
GIF動画編集のコツ
続いてReisenegger氏は実際にどうやって良いGIF動画を作っていくかを紹介した。
Reisenegger氏はまず,GIF動画を作るにあたって作業を最も簡単にするのは,「すでにそのゲームのトレイラーがある場合」だと語る。長尺のトレイラーから印象的な部分を数秒だけ切り取って,GIF動画にするというわけだ。
このような「トレイラーの再利用」は,積極的に行うべきだとReisenegger氏は指摘した。1本のトレイラーから10本以上のGIF動画を作るようなことも珍しくないという。高いコストを投じてトレイラーを作ったのであれば,徹底的にそれを活用しよう,というわけだ。
GIF動画の編集にあたっては,いくつかコツがあるという。以下に列挙してみよう。
・ウォーターマークは入れない:動画の右下にロゴやゲームタイトルなどの透かしを入れる例があるが,Reisenegger氏の経験上,これらにはほとんど意味も効果もない。
・1シーンあたり最低でも1秒は使う:これよりも短くなると,何が起こっているのか分からない。
・テロップとゲームプレイは分離する:テロップを入れる場合,暗転させた画面に入れる。
・場合によってはゲームプレイの速度を10%ほど早める:ときには25%くらいまで早める必要もある。
・第1フレームを大切にする&暗転でスタートしない:第1フレームはプレビューとして表示されるので,まかりまちがっても完全に真っ黒な画面でGIF動画を始めない。
・ぱっと見て印象的なシーンでスタートする:映画のトレイラーは静かなシーンで始まることもあるが,宣伝用のGIF動画では危険。ゆっくりしたスタートでも構わないが,この場合は「すごく美しい風景」「びっくりするような異様さ」といったものを見せる必要がある。
・トレイラーは何本ものGIF動画として再利用する:前述のとおり。
また,ある程度までコミュニティが育ったなら,「GIF動画をコミュニティに作ってもらう」のもアリだとReisenegger氏は指摘した。これはかつて「Poly Bridge」で成功させた(関連記事)パターンだが,近年では「Nimbatus」が面白い試みをしている。
これはTwitterで「GIF動画コンテスト」を行うというもので,「Nimbatsu」のプレイアブルデモ無料配布キャンペーンと一体化している。このようにして,「コミュニティを形成する」部分でも「GIF動画をコミュニティに作ってもらう」ことも可能だ。
SNSやサービスごとに異なる規格・ルール・投稿様式
さて,作ったGIFは公開しなくては意味がない。Reisenegger氏は公開先ごとにどのような特徴があるかを解説した。
・TwitterとFacebook
「TwitterはNo.1だ」とReisenegger氏は指摘する。
効果的な広め方としては,ハッシュタグの活用がある。特に「#Screenshotsaturday」タグは開発中のゲームのスクリーンショットが共有されるタグであり,ここに使用しているゲームエンジンのタグ(「#Unity」「#UnrealEngine」など)を加えることで拡散力が高まるという。
投稿頻度としては「多ければ多いほど良い」そうで,1日10本以上投稿するといったペースでも構わない。とくにTwitterは,特定の意図がなければ過去ログを遡るような使われ方をしないので,ユーザーが「見ている」ときに投稿,ないしは拡散されたものしか閲覧されにくい。
ちなみにTwitterでの利用を考えると,GIF動画は正方形で作ったほうが無難とのこと。また「動く」ことを意識させるためにも,「GIF」というアイコンを画面隅に入れたほうが良いという。
・Imgur
日本ではほとんど利用されていないが,英語圏においても「もっとも過小評価されている」とReisenegger氏は語る。しかしながら利用者数はかなり多く,そのわりに「トップページ」に記事が載りやすい。
ちなみにImgurではGIFは動画に変換されてしまうので,動画をそのままアップロードしたほうが良い。また記事のタイトルは個人的な情報を含むもの(「僕と妻が2人で4年かけて開発しているゲームなんだけど」的なもの)が拡散力を持つ。
英語圏ではとても強い影響力を持つ。ただし広告宣伝に使う場合は固有の投稿ルールがあるので,事前にルールをちゃんと把握しておく必要がある。
Imgur同様,個人的な情報を含む記事タイトルが有効。
・メール
ゲームプレイGIFで説明したように,ゲームメカニクスを文字でくどくどと説明するくらいなら,GIFを添付したほうがよい。メディアやインフルエンサーに対するアピールとしては,メールが最も有効になる。
ただし,一部のメーラーはGIFをサポートしていない。また,スマートフォンでメールを確認することが多いメディアであればGIFのサイズは小さめに,どちらかといえばPCでメールを確認することが多いインフルエンサーであれば大きめに添付する。
これよりも…… |
こっちのほうが良いに決まっている |
・SteamやKickstarter
ゲームプレイGIFやバナーが有効。
特にKickstarterの場合,動画が再生される数よりも,冒頭に添付したGIFファイルのほうがより多くの人に閲覧される(むしろ動画はなかなか閲覧されないと考えたほうがよい)。ゲームの第一印象を作るのは,GIF動画だと考えて差し支えない。
近年,多くのゲーマーは情報を得るためのガジェットとしてスマートフォンを使っており,情報収集の時間=電車で移動している時間であるといったことも珍しくない。こうなってくると,いかに動画配信が発達したとはいえ,「動画を再生すると『ギガを使う』から嫌だ」といったケースも見られるようになる。
そんな中,より軽量でありながら,ストリーム動画同様のインパクトを持つGIF動画は,多くの場面においてコンテンツの認知度を高めるアクセントとして活用し得るということは,ゲームを作る側はもちろん,ゲームを実況する側などにとってもチェックしておくべき知見ではないだろうか。
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