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[CEDEC 2015]“目的のつながり方”でゲームを分析する手法「UOSモデル」が紹介されたセッションをレポート
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印刷2015/08/29 16:12

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[CEDEC 2015]“目的のつながり方”でゲームを分析する手法「UOSモデル」が紹介されたセッションをレポート

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 CEDEC 2015の2日目にあたる2015年8月27日に,日本デジタルゲーム学会の井戸里志氏「目標の構造としてのゲーム ―ゲームデザイン分析手法『UOSモデル』の提案―」と題したセッションを行った。

 「目的のつながり」でゲームを分析するという新手法が紹介されたその内容をレポートしよう。

日本デジタルゲーム学会の井戸里志氏
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新しい遊びを生み出すときに役立つ「UOSモデル」


 セッション名にある「UOSモデル」とは,井戸氏がゲームデザインを分析するために考案したオリジナルの手法だ。
 ここでのゲームとは,コンピュータゲームに限らず,ボードゲームなども含めた広義の“遊び”を指す。UOSモデルは,“ゲームにおける大小の目的がどのように結びついているのか”に注目し,結びつきの強弱や構造によってゲームデザインを分析・分類しようというものである。

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 では,ゲームにおける大小の目的とは何だろう。ゲームデザインに関心を持つ読者なら,「大目的」「小目的」という用語を耳にしたことがあるのではないだろうか。
 おおざっぱに言えば,大目的とはゲームにおける最終目標で,小目的は,大目的を達するためにクリアしなければならない目標のことだ。RPGに例えるなら「ラスボスの大魔王を倒す」ことが大目的で,「大魔王を倒すためにレベルを上げたり,行く手を阻む中ボスを倒したり,扉の鍵を手に入れたりすること」が小目的となる。

 井戸氏によれば,UOSモデルは,既存のジャンルに則ったゲームよりも,今までに存在しないジャンルのゲームを作る際の指針として有効なのだという。

 新しいジャンルのゲームにはお手本とすべき前例がないため,その時点で問題がないかの判断がつきにくいのだが,UOSモデルならば,ゲームにおける目的の結びつき方だけを見て,うまくいくかどうかをある程度判断できる。また,新たな目的(新要素と言い換えてもいいかもしれない)を追加する場合に,どういったものにすればいいかも分かるという。
 うまく使えば,“いろいろな要素を導入してみたが,どうもかみ合っていない”ような場合,“かみ合っていないのはなぜなのか”が理解できる可能性があるというわけだ。

 井戸氏によれば,UOSモデルが分析対象とできるゲームの条件とは,「目標の達成と,そのための行動や思考から生じる面白さ」を持っていることであるという。氏はこうした面白さを持つゲームを「意味ある遊び」と表現する。ここでいうところの「意味」とは目標,もしくは目標を達する意義と言い換えてもいいかもしれない。友達とのコミュニケーションや,物語的な面白みといった,目的と達成を問わない遊びはUOSモデルによる分析の対象外となる。


「進行式統合」と「創発式統合」


 氏が考えるところの「意味ある遊び」とは,小目的が大目的に統合された構造を持つか,もしくは魅力的で認識しやすい目標が存在する場合に成り立つという。
 では,「統合された構造」とは何だろうか。それは,小目的の達成が,他の目標に影響を与えるような構造だ。

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 統合の強弱と小目的の与えられ方はゲームデザインによって違いがあり,こうした違いによってゲームは「進行式統合」「創発式統合」の2種類に分類できるという。

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 進行式統合の例として挙げられたのがクイズゲームだ。クイズゲームの大目的は,問題にたくさん正答することであり,次々に出される問題のそれぞれに正答することが小目的だ。問題(小目的)はプレイヤーが意図的にアクションを起こさずともゲーム側から自動で与えられる。問題(小目的)どうしのつながり(統合)は弱い。ある問題を間違えたからといって,次に出る問題でやるべきことが変化するわけではなく,プレイヤーがやるべきことは1問目でも100問目でも正答を目指すことのみだからだ。

 進行式統合と正反対の特性を持つのが創発式統合で,好例としては将棋が挙げられる。将棋の大目的は敵の王将を取ることで,そのために敵の駒を取ったり,王将を追い詰めたり,自陣を守ったりするのが小目的だ。敵の王将を取るために採用できる戦術(小目的)は多岐にわたっており,自分の戦術がうまく決まったか(小目的を達成できたかどうか)で次に取るべき戦術(小目的)が変化していく。つまり,ある戦術(小目的)が別の戦術(小目的)に影響を与えているわけで,これは強い統合なのだという。


目的にもさまざまな種類がある


 一口に目的といっても,短時間で達成できるものもあれば,長時間かかるものもあり,達成のためにプレイヤーが能動的に介入しなければならないか,受動的に見ているだけでいいか,といった点でも違ってくる。

 UOSモデルにおいては,小目的はリアルタイム性の有無と,プレイヤーの介入が能動的か受動的かで分類できるという。それが以下の4種だ。

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●「リアルタイム能動」
ゲームはリアルタイムで進行し,プレイヤーは能動的に介入する必要がある

●「リアルタイム受動」
ゲームはリアルタイムで進行するが,プレイヤーは見ているだけの時間が長い

●「非リアルタイム能動」
リアルタイム性はないが能動的に介入することを求められる

●「非リアルタイム受動」
ゲームはリアルタイムに進行しないし,ある程度は見ているだけでいい

 一方,大目的は,達成に掛かる時間によって短期・中期・長期に分類できる。以下は井戸氏による分類の目安だ。

●短期
リアルタイム性のあるゲームなら20秒以内,非リアルタイムなら1手

●中期
リアルタイムなら20〜3分,非リアルタイムなら2〜10手

●長期
それ以上のもの

 これだけだとイメージしづらいと思うので,既存のジャンルをこの考え方で分類するとどうなるか,下の写真で確認してほしい。

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 リアルタイム能動に分類されるジャンルの代表例はアクションゲームだ。プラットフォーマー(「スーパーマリオブラザーズ」などの横スクロールアクション)は目の前にある穴や段差といった難関を越えることが目的なので,短期目標型。ドットイート(「パックマン」など)は,画面内にあるすべてのドットを食べることが目的になっており,プレイヤーが考えるスケールが少し大きくなるので中期目標型。MOBA(「League of Legends」など)は,これまで挙がったタイトルより長い時間の試合を戦うので長期目標型に分類される。

 一般的な分類なら同じ「テーブルゲーム」にカテゴライズされる麻雀と将棋だが,井戸氏が提唱するこの分類だと,順に中期目標型と長期目標型になるのが興味深い。麻雀は半荘での勝利よりも,一局ごとに自分がアガることを強く意識するので中期目標型。将棋は全般において敵の王将を取ることを考え,一局の時間が長くかかるので長期目標型というわけだ。

 上の写真で「Monopoly(モノポリー)」が非リアルタイム受動に分類されているのは,ゲームはリアルタイムに進行するわけではなく,ゲームの勝敗に重要な影響を及ぼす株や土地の売買の頻度が低いからだという。


魅力的な目標とは何か


 井戸氏によれば,意味ある遊びが成り立つ条件のもう一つは「魅力的で認識しやすい目標」があることだという。つまり,ゲームの目的が心惹かれるものであり,それが分かり易く提示されているのが一番であるというわけだ。では,どういった目標が「魅力的」で「認識しやすい」のだろうか?

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 魅力的な目標は「自己目的性」「内的利益性」「外的利益性」のいずれかに合致するのだという。
 自己目的性とは,ゲームがどんな構造を持っていようと,それ自身が楽しい行為で,ゲームに多大な影響を与え,人間の本能に根ざした,自分の能力を誇示できるもの。つまり直感的な面白さだ。
 内的利益性は,ほかの小目的の達成を容易にするもの。RPGにおけるレベルアップなどは,内的利益性の良い例だという。
 外的利益性は,現金が手に入るギャンブルや脳が活性化する脳トレなど,現実生活に影響を及ぼすもの。ゲームのなかで達成した目的が,ゲームの「外」側に影響するので外的というわけだ。
 魅力的な目的,と一口に言うが,こうして分類するとその本質は微妙に異なっていることが分かる。

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 一方,認識しやすい目標として井戸氏が挙げたものは,「システムが目標を与えてくれる」「達成するために考慮すべき情報が少ない」「達成するために取りうる選択肢が少ない」「直感に合致している」と,実にシンプルだった。


新しい遊びを生み出す指針「目標型ゲーム」と「統合型ゲーム」


 今までにない遊びを生み出したい場合,「目標型ゲーム」「統合型ゲーム」のどちらを目指すかを決めるといいだろう,と井戸氏は語る。

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 目標型ゲームは,目的を達成すること自体の気持ちよさを味わうことが主眼で,ゲームの構造から独立した魅力を持つものに適している。例えば,リズムゲームは音楽に合わせてボタンを押すという行為自体が面白いわけだ。

 統合型ゲームは,ゲーム内の目的どうしが強く結びついた中で,自分の意思決定によって状況が変化する様を楽しむというもの。動的な障害や敵が含まれるアイデアに向いているという。既存のジャンルではストラテジーゲームやFPS,物理パズルなどが統合型ゲームに当たるという。

 つまり,自分のアイデアは直感的な面白さを目指すものなのか,状況が変化する様を楽しませるものなのかをハッキリさせることにより,その後の方策が立てやすくなるというわけだ。

 目標型ゲームを作る場合,ゲームの中核となる「コア目標」を定めなければならないと井戸氏は指摘する。
 目的を達成する気持ちよさそのものを味わうのが目標型ゲームなので,コア目標に据えるのはゲームから独立した魅力を持つ行為である必要がある。

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 次に行うのは,コア目標の魅力を最大限に引き出す,進行式の構造を作ること。つまり,自動的に与えられる目的を達成することだけ考えればいいという状況になれば,目的の魅力が引き立つのだという。
 その良い例がクイズゲームだろう。目的は問題に正解すること。こちらが何もしなくても問題という目的を与えてくれるし,目の前の問題に正解することだけを考えていればいい。

 一方,統合型ゲームを目指すなら,ゲームの面白さを生み出すために,複数の目的をつなげた「コア構造」を作らなければならない。

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 目的同士の結びつきの強さこそが統合型ゲームの面白さであるから,“大目的を遂げるために多数存在する小目的を自分で選ぶことができ,その達成状況が別の小目的にも影響を与える”という創発式統合である必要がある。また,コア構造のみを抜き出してもある程度ゲームとして成立するものでなければならないという。


「FFXIII」と「ドラゴンクエスト」における構造の違い


 UOSモデルによる分析の例として挙げられたのが「FINAL FANTASY XIII」(以下,FFXIII)と「ドラゴンクエスト」だ。どちらもジャンルとしては同じRPGに属する作品だが,戦闘終了後における自動回復の有無により,異なった構造を持つ作品になっているという。

戦闘終了後に自動回復が行われるFFXIIIは図中左の「回復系RPG」に,そうではないドラゴンクエストは右の「消耗系RPG」に分類できるという
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 どちらの作品も「ダンジョンをクリアする」ためには,「戦闘に勝利する」必要があり,そのためには「戦闘ターンごとに適切な行動をする」ことが求められる,3つの目的を持った統合型ゲームであるという点は同じだ。

 ただし,FFXIIIは,UOSモデルで分析するとコア構造と進行式構造という,異なった形式の構造がリンクした「スーパー構造」になるという。

 FFXIIIを見てみると,「戦闘に勝利する」ために「戦闘ターンごとに適切な行動をする」というつながりは,ゲームの面白さを生み出すために目的を複数つなげたコア構造だ。 しかし,戦闘終了時にHPが全回復するという仕様により,戦闘でどれだけ消耗しようと,次の戦闘には影響を及ぼさなくなる,つまり戦闘同士の結びつきが薄くなるため,「戦闘に勝つ」ことと「ダンジョンをクリアする」ことのつながりは進行式構造になるという。

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 一方,ドラゴンクエストをUOSモデルで分析すると,FFXIIIとは違い,2つのコア構造が存在する構造になるという。
 「戦闘に勝つ」ために「戦闘ターンごとに適切な行動をする」というつながりがコア構造であるのはFFXIIIと同じだ。しかし,戦闘が終わってもHPは自動回復しないため,一回の戦闘でダメージを受けすぎるとダンジョンのクリアがおぼつかなくなるし,回復呪文を温存しすぎると戦闘に勝てなくなる。戦闘の結果が次の戦闘での戦術に大きな影響を与え,ひいてはターンごとの行動がダンジョン攻略により大きな影響を与えることになる,ということで,このつながりがもう1つのコア構造となるのだという。

 FFXIIIのようなスーパー構造のほうがプレイしやすくなる半面,難しめにしないとゲームの面白さが出にくくなるのではないか,と井戸氏は分析した。

 最後に井戸氏は「UOSモデルは新しいジャンルをデザインするときの指針として役に立つのではないでしょうか」と改めて語り,講演を締めくくった。

 FFXIIIとドラゴンクエスト以外にも,もう少し具体的な分析例が欲しかったところだが,新しい手法ということで,本格的な分析はこれからということなのかもしれない。今後分析例が増え,実際のゲーム開発に生かせるようになるのを期待したいところだ。
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