イベント
[CEDEC 2014]ゲームの面白さを的確に伝えるための「題材」選びとは。セッション「ロジカルにゲーム企画をやろう! 〜題材からのゲーム企画手法〜」聴講レポート
「CEDEC 2014」記事一覧
石川氏は,かつてシステムソフトに在籍し,PC用ストラテジーゲームである「大戦略」シリーズや「天下統一」シリーズなどを手がけた人物だ。1999年にエレメンツを設立して以降は,コーエー(現コーエーテクモゲームス)やレベルファイブ,ガンバリオンといったメーカーのコンシューマゲームタイトルにも関わってきた。
石川氏は,まずゲーム開発におけるプランナーの仕事は,ゲームデザインとゲーム企画発案にあるとし,近年において前者の知見は,国内海外とも充実してきているとする。
その一方で,後者のゲーム企画の発案および企画書の作成に関する知見は十分とは言えず,さらなるゲーム開発の発展を期待するのであれば,それらを“型”として体系化する必要があるのではないかという持論を語った。石川氏は,例えば“型”となった10年分の知見を,新人が1年で身に着けられれば,残りの9年でそのほかの新しいものを蓄積できるのではないかと説明した。
もっとも,ゲームの企画が,ほかのビジネスにおける一般的な企画と違うのかといえば,必ずしもそんなことはなく,「問題を解決する」という本質的な目的は同じであると石川氏は述べる。ただ,解決すべき問題が,ビジネスの企画では実際的な利益であるのに対し,ゲームの企画では,実利的ではない「体験感」であるところが異なっている。石川氏は,「ゲームとは実利的な効果を与えてくれるものではなく,ゲーム体験による心の動きを与えるもの」とした。
また石川氏は,「このゲームは,こういうシステムだから面白い」というゲームデザインの説明だけでは,受け手はなかなかその面白さを想像できないと指摘した。それは,企画を通すときも,実際にプロモーションなどでゲームを説明するときも変わらないという。
とくに最近は,ゲームが目新しい遊びだった頃とは異なり,受け手が貪欲にゲームの情報を求めることは少なくなっている。そんな状況では,大々的なプロモーションを打ち,多くの人にゲーム体験をイメージさせる手法が有効だが,予算の問題があるため,すべてのプロジェクトで実行できるわけではない。
ならばどうすればいいか? 石川氏は,すべてのプロジェクトで利用できる手法として「企画書に,ゲーム体験をイメージさせる切り口を設けること」を挙げ,本セッションのテーマである「題材の選択」について説明した。例えばゲームの企画書に「F1ドライバーになる」「プロ野球の監督になる」「戦国大名になる」といった文言があれば,受け手側も,ある程度ゲーム体験とその面白さをイメージしやすくなるというわけだ。
しかし,題材の中にも面白さを伝えるのに向いているものと,そうでないものがある。この分類に関して,石川氏は1996年のビデオゲーム工学学会にて発表された「ゲームデザイン要説」の手法を紹介した。その分類法は,縦軸を「現実にある」「ない」,横軸を「ターゲット消費者の多数が知っている」「知らない」と設定し,その題材がどこに位置するかを分析するというもの。さらに題材が「現実にある」場合には,「日常」か「非日常」かが分類される。
この手法では,題材が5つの位置(ジャンル)に分けられるわけだが,「ゲームデザイン要説」によれば,ゲームにしたときもっとも有利なのは,「題材が現実にあり,多数のターゲット消費者が知っているが,非日常的であるもの」とのこと。具体的には,上記で挙がったプロ野球や戦国大名などだ。それとほぼ同じ程度に有利なのが,「現実にはないが,多数のターゲット消費者が知っているもの」──つまり,版権モノなどのフィクション系だ。
ならば,有利な2つのジャンルを狙えばいいかというと,話はそう簡単ではない。というのも,プロ野球や戦国時代を扱ったゲームなども,すでに世の中にたくさん存在するからだ。またメジャーなIPの権利を獲得するのも簡単なことではない。
学生が「機動戦士ガンダム」の権利を獲得できるかといえば,予算の面でも信用の面でも不可能だろう。
また「現実にあり,ターゲット消費者にあまり知られていない」ジャンルであっても,比較的メジャーに近いものを探してみたり,世間で話題になったタイミングに乗ったりすれば,うまくいく可能性があるが,それを狙ってやるのはなかなか難しい。
そこで石川氏は,うまく題材を選択する手法として,「新ジャンルと組み合わせる」「イメージさせる題材で領域シフト」「日常から非日常を抽出」の3つを挙げた。
「新ジャンルと組み合わせる」の例としては,三国志のキャラクターに,一騎当千のアクションとストラテジー要素を組み合わせた「真・三國無双」と,サッカーゲームに収集/育成要素を組み合わせた「イナズマイレブン」が紹介された。いずれも既存の人気ジャンルに,ほかの要素を組み合わせ,新ジャンルとして成立させた例だ。
「イメージさせる題材で領域シフト」の例では,オリジナルのフィクションを,「ゾンビ映画のような体験ができるゲーム」として伝えることに成功した「バイオハザード」や,特撮番組のような体験ができる「地球防衛軍」が紹介された。
ただし,特定の映画や番組のイメージを強く打ち出してしまうと,権利関係で問題が発生する可能性があると,石川氏は釘を刺した。
さらに「日常から非日常を抽出」の例では,「ときめきメモリアル」が紹介された。すなわち,学校生活は日常的な題材だが,その中で「多くの女の子にモテモテになる」という非日常を描いたゲームというわけだ。石川氏は,「学校生活はもちろんのこと,モテモテになるというのも(現実的かどうかはともかく)イメージしやすく,非常にうまい題材」と評価した。
そのほか,ゲームではないが,テレビドラマの「半沢直樹」も,上司から理不尽なことを言われるサラリーマンの日常の中から,その上司を「倍返し」という形でやり込める非日常性が抽出されている例として紹介された。
セッションの終盤にて,石川氏は題材とゲームシステムの関係について言及。石川氏は,優れたゲームシステムでも,題材が良くなかったために売れなかったゲームも多数あるとし,「題材を変えることで,売りやすくなることもある」と述べた。その例として,ファンタジー世界を舞台にしたNOVA GAMESの対戦型ゲームブック「LOST WORLDS」のゲームシステムをそのまま使い,題材をセクシーな女性戦士同士の戦いに置き換えて日本でヒットしたホビージャパンの「クイーンズブレイド」が紹介された。
石川氏は,以上をまとめて「ゲームシステムを伝えるのに,一番いい題材は何かを考えることは無駄ではなく,むしろ非常に優れた方法」とした。
現在,石川氏は,自身のブログにて「ゲーム企画塾」を連載している。石川氏いわく,これまでにあったゲーム企画に関する知見を寄せ集めてかみ砕いた内容となっているとのことで,今回のセッションで紹介された題材についても,より詳細に記されているので,本稿を読んで興味を持った人は,そちらにも目を通してみてはどうだろうか。
- この記事のURL: