企画記事
「PC 捨てたい 方法」。いろいろな捨て方を学んだ結果,かつての相棒の心臓がパソコンファームで“V字破壊”されたEND
その小さな一歩を踏み出せずに。
僕はいくつの積みを背負ってきたんだろう。
以前,3DSやPS Vitaなど「携帯ゲーム機のバッテリー爆発問題」を調べて,ウチの子はまだまだ大丈夫(だろう)という安心を得た。
これはこれで本稿とは別の話だが,“家が急に火事になるかも”といった危険を孕む問題のため,該当者はあわせて確認すべし。
上の記事を制作しているころの話だ。携帯ゲーム機を思うかたわらで,部屋の隅。毎日の生活で視界に入っているのに,もう使わないしイラないのに,ゴミ相当のノートPC×2台を完全放置していた。
だって,捨て方が分からないし。調べれば分かるんだろうけど,なんか考えるだけでめんどうそうだし。そうやって放置していた。
でもそれって,よくないよね? なら,分かるよね?
一世一代の奮起。「PCの捨て方」を調べることにした。
まず,PCおよびノートPCは原則,近所のゴミ捨て場などにポイッと捨てることができない。もしかしたらそれも可能な自治体が存在するかもしれないが,基本的にやってはいけない。理由は法律だ。
資源有効利用促進法こと“PCリサイクル法”があるから。
この法は端的に「PCには貴重な資源が含まれてるから,地球のために可能な限り使い回そうね(強い圧)」といったもの。資源再活用の名目とあわせて,そこら中での不法投棄の抑止も担っている。
2003年の制定以前はPCも粗大ゴミ分類だった。けれど20年経ち,PCリサイクル法20周年記念イヤーとなった現代では,もはや常識。
それゆえに,捨て方が面倒そうで,よく分からないし,面倒だからと放置していた。そういう人は少なからずいると思われる。
でもそれって,よくないよね? なら,分かるよね?
それでは,PCの正しい捨て方に迫っていこう。
まず前提として,PC破棄時に誰もが気を付けたいのは,データの保存媒体「HDD / SSD」などの取り扱いについてだろう。
HDDの中身というのは,命の危機が迫っているときに遺言の主題にしたいことトップ3に入る人も多いと思う。それほどまでに個人情報や趣味嗜好が詰まった,ヤワで繊細なハート型のアーカイブだ。捨てたあとに誰かにのぞき見られることがあってはならない。
またクレジットカード情報などをピーピングされると,その後の生活にも支障をきたしかねない。なので「自分で完全消去」か「データを消してもらうサービス」のいずれかを必ず済ませておきたい。
なお,前者は「PC名 HDD 消したい」などの語で自力で調べればOK。後者に関しても,回収方法次第で一緒にやってくれる。念のためを考えると,自分で消したうえで回収してもらうのがもっとも安心か。
そして以下が,捨て方の大別である。
■1.「自治体」の回収ボックス
在住地域によっては区役所・市役所,連携施設などに電子機器などの回収ボックスが設置されている。こちらは無料で利用可能。
ただし「設置場所まで持っていく」「ボックスの規格により,廃棄可能な機器のサイズが異なる」などの課題が挙げられる。利用したい人は,各自治体のホームページで調べてからにしておこう。
■2.「メーカー」の回収
自治体からも推奨されがちな,捨てたいPCのメーカーに頼む手段。廃棄方法としてはもっとも正規だろうが,PC×1台につき“3千円ちょっと”の費用がかかる。そこを割りきるかどうかが物議である。
このほか「PC下取りサービス」があるメーカーなら,捨てたいPCを代価に,新型PCを割り引き価格で召喚するのも一案になる。
■3.「家電量販店」の回収
大手の家電量販店はだいたい,PCの回収業務も担っている。こちらは持ち込み・郵送の両対応で,PC本体のみなら基本的に無料となるようだ。家の近くにお店がある人は,自治体の回収ボックスと同じくフラッと利用する案を検討しやすい。詳しくは店舗ごとのサイトで。
■4.「リサイクル業者」の回収
「パソコンを無料回収します」などとうたう,リサイクル業者に頼む方法もある。昔はよく見た,近所をトラックで走る怪しげな回収業者ではなく,きちんとした企業サービスの利用を厳守しよう。
業者によっては「機器〜〜個で無料」など,タダで引き取ってもらうための手段もけっこうある。無償の奉仕というわけではなく,この業界自体がPCリサイクル法に則った営利なので,Win-Winなのである。
■5.いろいろな取り引き
リサイクルショップに買い取ってもらう。リアルやアプリのフリーマーケットで売り払う。家族や知人に譲渡する。原則,自己責任がつきまとうため,自力でのリスクヘッジは必須である。
おもちゃや衣服と違い,PCは個人情報の塊だ。しかも自分なりにデータを消しても,プロならサルベージできてしまう。だから捨てたいPCは「ドリルで穴を空ける」のが一番安心だと言われるくらいだ。
こうした疑義を抱くと,前述の手段もすべて怪しく見えてくる……が。その先にあるのは「やっぱいっか」の放置精神だけなので注意。
といったなかで今回は,リサイクル企業を頼ってみた。
家の近くには区役所も家電量販店もある。だが4GamerスタッフのPC通らが「パソコンファームで捨てた」「袋に詰めてパソファで捨てた」と2票挙げてきたため,同調圧力に屈した形だ。
もう一案のメーカー回収の場合,やれ型はなんだ,名称はなんだと細かな部分を確認しないといけないのが面倒だったのもある。
件の「パソコンファーム」は,パソコン・電子機器のリサイクル企業であり,郵送・訪問回収・持ち込みに対応していた。
基本無料なのは持ち込みだけだが,郵送と訪問もキャンペーンに応じて“機器の種類・台数によっては無料”だった。
業態としては,以下のイメージとのこと。
さらにオプションサービスも充実している。
■データ消去 証明書発行
料金:1650円(税込)〜。メニュー多数
「すべて消し去ったぞ」という証明書。不安を解消したいときよりも,会社が病院の診断書のように求めてくるときに検討か。
■HDD返却サービス
料金:7700円(税込)
「PCを分解してHDDは返却します」。営業妨害はしたくないが,工具があって,自力で抜き取る方法を調べれば数分で終わるはず。複雑な構造をわざわざ分解するのが面倒だったり,自らの手をいっさい汚したくない深窓の令嬢系だったりしたときに検討の余地あり。
■出張データ消去サービス&出張物理破壊サービス
データ消去:ストレージ容量で料金変動
物理破壊:2750円(税込)
PC分解:1650円(税込)
+出張費用(地域別料金)
スタッフがオフィスや自宅にやってきて,HDDのデータを消してくれたり,片手で持ってきた「HDD破壊マシン」の物理パワーでHDDを破壊してくれるマッシブスタイル。絶対的な安心がほしいか,日々の冷めた心にちょっとした刺激を求める人は検討しよう。
■持込HDD物理破壊見学サービス
HDD物理破壊料金:2750円(税込)
PC分解料金:1650円(税込)
パソコンファームの工場に持ち込み,目の前で粉砕してもらうお祭り。埼玉本社ではHDDたちに“V字破壊の刑”を与える「プレス機」も存在し,間近で見ればプレミアリーグばりに熱狂できるだろう。
■オンライン物理破壊サービス
基本料金:6600円(税込)
オンライン物理破壊費:3300円(税込)
なにがなんでも物理で破壊してあげるという意志を,インターネットの電子の力を使って提供するオンライン配信。動画制作のひとネタにもなりそうだし,かつての相棒が画面越しで完全破壊されるさまを眺めて「クックック……」と愉悦を味わえる2020年代のコロセウム。
など,同社はとにかく物理で破壊するパワー系サービスが豊富だった。またこれらを適用せずとも「(見学などされない場合でも)弊社にて確実にデータ消去を行いますので、ご安心下さいませ」とのこと。
そこは企業の信用問題として,信じていいものとする。
そのうえで今回は,物理破壊見学サービスにキュンときた。
正直,捨てるだけなら自治体でも家電量販店でもなんでもいい。しかし埼玉県・三郷本社でのみ提供される「専用設計アタッチメントによるV字破壊」というHDD抹殺ショー。その様子を記事でお届けするのが美しいゴールだろうと思い,今回は現地にノートPCを持ち込んだ。
ドドンッ!
ドドドンッッ!!
ドドドドドンッッッ!!!
こちらが,プレス機にオーダーメイドの追加アタッチメントを装備した「V字破壊機」だ。V字破壊は“HDD内部がV字にゆがむまで折り曲げる”という,アメリカではポピュラーな処理方法だという。
日本でも,日東造機の油圧応用ハードディスク破壊機「CrushBox」シリーズにより,破孔処理もしくはV字破壊が可能ではある。だが,本機は単純に“作業スピードが圧倒的”という利点があるようで。
実際,このプレス機は日本ではパソコンファームしか有しておらず,同業者も興味関心から視察にくることがあるのだとか。
なお,V字破壊に対応するのは「HDD 2.5インチ〜3.5インチ」で,拡張カード型の「M.2」規格のSSDは日東造機製品で処理される。
まずは試しに,事前に抜いていたHDDからセットしてもらうと。
1秒。重たい作動音からわずか1秒程度。一瞬にしてHDDがひしゃげた。これだけで,このHDDはもう二度と使えなくなった。
最後の写真,よく見るとスタッフの手のひらに結晶体がこぼれているのが見えるだろう。これは2.5インチ型の内部が“ガラス製の構造体”で設計されているためだ。むしろ,2.5インチ型はメンコのように地面に叩きつけるだけでガラス体が割れるレベルらしい。
結晶体がこぼれてくるような状態はもはや完全破壊に近いようなので,自力で手早くできる破壊手段として覚えておこう。
同時に,HDDがいかにガラスのハートであるかを恐れよう。
続いては,強固に見える3.5インチ型だが。
グワァッ!!!
グワァァッ!!!!!!
などと2回プレスする必要すらなく,2個同時の横並びであろうと一撃で無慈悲に破壊しきった。現状,ユーザー側はこの機械に特別な利を感じていないだろうが,こうした業務に従事している人は現時点で「な,なんてスピード感だ……」と戦慄しているかもしれない。
それくらい,HDDの破壊速度が類を見ないほどのようである。
しかも,横ではなく瓦割りスタイルで置いても。
PC愛護団体なる組織が存在しているのであれば,この断頭台じみた処刑スタイルに顔面を蒼白にしかねない。
補足だが,この一連の様子は「持込HDD物理破壊見学サービス」の現地およびオンライン配信で見られる(V字破壊は持ち込み時限定)。配信に関してはZoom経由で,スタッフが会話しながら作業してくれる。
しかし,キャストとしての腕前は研鑽中とのことで,ときどき無言になることも。双方のコミュニケーションの空気まで破壊しないよう,利用者側も複数のリアクションを用意して,相互協力で盛り上がろう。
お次はSSDの場合。今回の持ち込みPCは,M.2規格のSSDだった。
このとき「PCを分解してもらう」「SSDだけ持ち込む」「データだけ消去してもらう」「PC本体は持ち帰る」なども選べるが,今回はいずれも経年劣化していたため,SSDは破壊,PCも回収してもらうことに。
ここで出てくるのが,前述した日東造機の「CrushBox(DB)」だ。こちらは上述のV字破壊機と違い,日本国内の類似業者間で一般的に普及している。それもあってアタッチメントも豊富らしい。
そして,かつて日夜をともにした相棒の心臓が,破壊しか生み出すことのできない拷問器具めいた禍々しい穴に投じられた。
おまえとはいったい,東京ゲームショウを何年一緒に歩んだのだろう。東西南北どころか離島でも海外でもいつも一緒にいたよな。ありがと。本当にありがと。気付けば,ツラい出張のイヤな思い出ばかりが脳裏に浮かんでくる。今すぐとっととさっさと破壊されてくれ。
これでSSDの物理破壊が終了した。
ついでに,HDD 3.5インチ型の場合も見させてもらった。こちらはアタッチメントを必要とせず,直接挿入すればいいようだ。
こうしてHDDを物理破壊することで,セキュリティが守られた。
なお,成果はV字破壊機もCrushBoxも同等だが,後者は個数制限,使用手順,破壊速度を加味すると1個あたり数十秒かかる。
対してV字破壊機はアナログな機構ながら(もしくは,ゆえに),ご安全を第一に考えても個数・手順・速度のいずれも上回っていた。
同社ではPCを年間で約10万台,週に300台から500台ほど(さまざまな手段で)処理するようなので,同機は見せ物としての魅力のみならず,スタッフらの作業効率に大いに貢献しているようだ。
ここまででHDDの破壊とPCの回収が済んだ。
そのうえで,今回は倉庫内も見学させてもらうことに。
場内には分別されたマザーボードやキーボード,内線電話などがたんまりある。細かく分解する素材は一部だけで,PCの基板をはじめとする多くの資材はそのまま融解し,鉄に変えてしまうらしい。
ケーブル類も,中身の銅線だけを取り出せば資源価値は高いようだが,これらはカニの足みたいなもののようで。作業コストが見合わないという判断から“それを担うリサイクル会社”に流すのだとか。
リサイクル業界内は各自の「やる」「やらない」が細分化されており,それぞれの対応範囲で戦っているらしい。知らない生態系だ。
工場内には大量のデスクトップPCのほか,MacにMacintoshにPC-9800シリーズ。ゲーム機もPlayStationシリーズやXboxシリーズ,さらには90年代のゲーム機がよりどりみどりだ。実機のワンダースワンやPSP go(PlayStation Portable go)を見たのは何年ぶりだろう。
スタッフ的には「ついにPS4やiPadがやってくるようになった」など,市場的には型落ちでも,現場では最新な機器たちにそのつど対処できるよう,知識をアップデートしていかなければならないようだ。
一見すると宝の山。個々で見れば「顧客はフリーマーケットに出したほうがよかったのでは?」とすら思う。だが,こうしたアイテムは“面倒だからみんなまとめて”を理由に出されがちとのこと。
それに我々にはお宝に見えたところで,持ち込んだ当人はもとより,毎日毎週毎月と同じようなものが大量に送られてくるスタッフの立場としては,見るだけでお腹いっぱいか。日々のご飯の種としては大事にしても,モノに対する見方はまず違うだろう。
この業界では,新しければ資源価値が高いとは限らない。
例えば携帯電話。iPhoneをはじめとするスマートフォンは構造の最適化・小型化が進み,詰まっている資源がそれほどおいしくないという。それに,スマホの処理は長らく“キャリア会社のしのぎ”で,スマホ自体がそれほど流れてこないのだとか。手持ちのスマホを引き換えに機種変更したことのある人なら,だいたい理解できるだろう。
一方,構造が古いフィーチャーフォンには銅などの資源が組み込まれており,スマホよりおいしいという。そのほかのリサイクル対象物もほとんどは「古くて大きいほうがうまい」とのこと。
一般市場とは真逆な,リサイクル業界ならではの価値観だ。
まるで大人の社会科見学だった,パソコンファーム訪問。
ここにある物の多くはさまざまな方法で形を変えて,また新たな製品の一部となり,我々の前に現れる。本題はPCの捨て方であったが,リサイクルという言葉の先にある流れを実感できるイイ一日だった。
そして年末といったら大掃除。この時期はリサイクル業者もかき入れ時らしく,あらゆる資源がまとめて送られてくる。
年末に向けて,捨てたいPCがある人はV字破壊。それ以外のものもキレイさっぱりしたい人は,パソコンファームにご相談。
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