インタビュー
[CES 2015]VR業界に結束の動き。新たに発足した業界団体Immersive Technology Allianceの偉い人に緊急インタビュー
CES 2015に合わせるかのように本誌に送られてきたプレスリリースによると,このITAは「バーチャルリアリティ業界の標準化」を目指しているという(※)。このあたりは,我々消費者には分かりにくい部分が多いので,ITAのエクゼクティブ・ディレクターに就任したNeil Schneider(ニール・シュナイダー)氏に独占インタビューを行い,じっくりと話を聞いてきた。
※先日お伝えしたオープンソースプラットフォーム「Open Source Virtual Reality Eco-System」(OSVR)などとは別の流れなので注意
ITA公式サイト
まだまだ生まれたばかりのVR/AR産業
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
このたび,ITAが発足してエクゼクティブ・ディレクターに就任されたわけですが,まずはSchneiderさんの経歴から聞かせてください。
Neil Schneider氏(以下,Schneider氏):
4Gamer:
それは興味深いですね。そういった,ある種の,草の根的な関係者の交流サイトから,さらに大きく一歩を踏み込んで正式な業界団体に拡充していくきっかけはなんだったのでしょうか?
Schneider氏:
元々,私達のサイトでは,2009年にS-3D Gaming Allianceというグループを発足させていました(※S-3DはStereo-Scopic 3Dの意)。よく私は,「欲求不満の高まりから発足させた」と冗談めかして説明するのですが,立体視対応ゲームを研究したり楽しんだりする側と,ゲーム用プラットフォームを作る側での考え方の違いが大きかったので,それを何とかしたいと立ち上げたんですよ。
4Gamer:
それがITAになっていったと?
Schneider氏:
私達の仲間には先のLuckey氏やCarmack氏といった,ゲーム業界の未来を描ける人材がいました。そこで,こうしたつながりをフルに生かそう,さらに広範囲に執行委員を集めて,より大きな力を生み出せるだけの業界団体へ生まれ変わろうというのが,その契機ということになります。
名称は,「没入感のある技術」全般をカバーするため,「Immersive」(イマーシブ,没入性)という言葉を入れようということになって,S-3D Gaming Allianceから改名しただけだったりしますが(笑)。
4Gamer:
その具体的な設立目的というのが少し分かりにくいのですが,つまりはオープン仕様な開発用APIのようなもの,例えばOpenGLのようなスタンダードを設定するということなのでしょうか?
Schneider氏:
OpenGLを連想されたのは面白いですね。実際,OpenGLを策定している業界団体のKhronos GroupからNeil Trevett(ニール・トレヴェット)氏にも役員として参加してもらっています。
実は,イマーシブテクノロジーは,3Dグラフィックスがただの研究素材でしかなかった1980年代から存在します。しかし,その後,大きな進化を遂げることになった3Dグラフィックスと比較すると,イマーシブテクノロジーが本格的に消費者のもとに届き始めたのは,つい数か月前といったところでしょう? Lucky氏とCarmack氏の2人が出会ってから,まだ3年しか経っていないのです。
4Gamer:
確かに。
Schneider氏:
そんな状況の中,(OpenGL的なものを目指す前に)私達がまずやるべきことは,ハードウェアやソフトウェアの開発者,そして大学や企業の研究者達が,より情報を共有しあえるような場を提供するということです。2014年に「Immersed」というVR関係者の交流を目的にしたイベントを開いたのもその一環です。これにより,必要な情報や人材がローカルレベルで手に入ったり,政府や企業からのファンドの存在を知ることができるようになったりと,非常に意義のあるものだと思いますね。
昨年は業界白書をまとめるようなこともしていますし,そうした情報交換を通じて,業界をさらに活発化させるというのも私達の目的の一つです。
4Gamer:
つまり,今の段階ではVR専用の技術を規格化(スタンダード)するという意味ではないと?
Schneider氏:
もちろん,消費者に広められるべき新しいテクノロジーが,特定のハードウェアでしか動かないという,テクノロジー面での不公平があっては困ります。「スタンダード」という言葉はいろいろな意味に取れるので,先ほどはOpenGLのことを連想されたのでしょうけど,まずは一つの業界にまとめるという「スタンダード作り」から始めている状態です。重要なのは,まずは各団体が一つにまとまることであり,その橋渡しを私達が担っていきたいと考えています。
異なる立場の人達が,まず一つの部屋の中で向き合ってみること
4Gamer:
今回のCES 2015では,北米以外にもヨーロッパやアジアのスタートアップ企業が,Riftなどへの対応を念頭に置いたVR機器やテクノロジーを展示しているようです。ITAを国際的な組織にすることは念頭に置いておられますか?
Schneider氏:
ええ。ITAは北米に限定しているわけではなく,さまざまな企業や団体に参加してもらいたいと思っています。実際,すでに協賛していただいている40社の企業や団体には,韓国やインドのメーカーも加わっています。私達は非営利団体ですから,コンテンツメーカーであればメンバーシップを無料にしていますので,日本のソフトウェア開発者達にも参加してもらえるとうれしいですね。
4Gamer:
メンバーを見ると,今のところOculus VRやSony Computer Entertainment,もしくはGoogleといったVR/AR産業の中核になりそうなビッグプレイヤーの協賛までは取り付けておられないようですが。
Schneider氏:
当然,ITAとしては彼らに賛同していただければ非常に喜ばしいことであると思います。しかし,すでに5年以上となる活動を通じて,それこそOculus VRのLucky氏とはコネクションを培ってきましたし,Electronic ArtsやDigital Extremeといったソフトウェアメーカーや,VRテクノロジーのコア部分を開発する企業,大学機関などがメンバーに加わっています。
大手企業の協賛は,業界がまとまるのに不可欠な要素であることは疑いないのですが,結局は,消費者や研究者の目線で開発を行う私達の意見が彼らの製品にフィードバックされていくわけですから,必ずしもOculus VRやSCEがいないとITAが成り立たないというわけではないでしょう。
4Gamer:
では,ITAとしての短期的,そして長期的な活動目標をまとめてもらえますか。
Schneider氏:
Immersedが行われるトロントは,北米第4の都市ですが,カリフォルニアのような場所とは違って,まだ企業や研究者が一つにつながりあっているとは言えません。昨年のイベントに参加してくださったとある教授も,「世界的にもVRテクノロジーは過去30年にわたって研究されてきたけど,誰にもまったく世に知られないノウハウが大学や企業に眠ったままになっている。それを知らずに,これまでどれだけの無駄な研究が繰り返されたことか」なんて話されていました。それを考慮すると,こうした交流による情報の共有が不可欠なことがお分かりになると思います。
ゲームを作る人はVRテクノロジーに疎いけれども,逆に大学関係者も自分の研究をゲーム産業で生かせることに気づかないままノウハウが埋もれていくわけで,誰かがまた同じことを繰り返さなければならないのですから。
4Gamer:
おっしゃるとおりでしょうね。
Schneider氏:
こういったイベントによる交流が,世界各地にもローカルレベルで拡散し,やがて一つにまとまっていくことを願っています。しかし,それよりも,異なる立場の人達が,まず一つの部屋の中で向き合ってみることこそが,一つの目標になるでしょう。
長期的な目標は,まだ予想がつきにくいですね。我々消費者にとっては,VR対応ヘッドマウントディスプレイ(以下,VR HMD)は輝くような最新技術でありますが,5年も経つとまったく異なるものが誕生しているかもしれません。そうした事態にも対応できるだけの基礎を作っておきたいと思います。
4Gamer:
今回,CES 2015の展示会場を歩いてみると,聞いたこともないメーカーがVR HMDを展示している例をいくつも見ました。先行するRiftなどでも,技術面からくる3D酔いなどが話題になっていましたが,ITAは消費者団体としての認可をするようなことも想定されてますか?
Schneider氏:
市場が乱雑な製品であふれてしまい,消費者を混乱させるのは大きな問題になりますので,それもITAが想定すべき一つの目標になると思います。しかも,まだまだ混沌とした状態でありますので,やはり,まずは業界が一つにまとまっていくことが重要になるのではないでしょうか。
もう一度念を押しておきますが,この産業で一つの大きなセグメントになるはずの日本の関係者にも,ぜひ参加を促しておきたいですね。
4Gamer:
分かりました。本日はありがとうございました。
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