弟がリアル農家なので「Farming Simulator 25」を一緒にプレイしてみた。農家目線での本作の完成度はいかに？

　リアルな農場体験ができる大規模農業シミュレーションゲーム「Farming Simulator 25」（PC / Mac / PlayStation 5 / Xbox Series X|S）は，実在メーカーの農機を操縦したり，農業だけでなく畜産や林業にも取り組めたりと，幅広い遊び方が楽しめる「Farming Simulator」シリーズの最新作だ。


　「Farming Simulator」は，シリーズファンやシミュレーションゲーム好きには愛されている作品だが，ニッチなジャンルということもあり，日本のゲーマーのあいだでは知名度はそこまで高くなかった。

　しかし，2025年3月に入ったころから著名なストリーマーのあいだで本作がプチ流行し始めると，その動きが次第に広がり，配信プラットフォーム上で本作の枠が増え，日本のプレイヤーも徐々に増加していった。

2025年3月4日〜11日の国内売上TOP10に入る勢い

　突然で恐縮だが，実は筆者（ありみち）の実弟はリアル農家だ。筆者が本作にドハマりしているタイミングで，せっかく身内に農業を営んでいる者がいるのだから，実際にプレイしつつ話を聞いてみようと企画を持ちかけたところ，快諾してくれた。

　「League of Legends」や「Monster Hunter Wilds」で遊んでいたありみち弟（以下，弟くん）だったが，現実と同じ農家に，少しのあいだだけ転職してもらおう。

リアル農家，ゲーム内に転生しても農家だった件

ありみち：
　簡単に自己紹介からお願いします。

弟くん：
　ありみちの弟です。関東で蕎麦の実農家をやってます。そういえば，このゲームって蕎麦の実は作れるの？

弟くんが白菜を作って収穫した際の写真

ありみち：
　蕎麦の実は，今のところ実装されてないかなぁ。でも，今作「Farming Simulator 25」からはお米の栽培ができるようになったんだよ。

「Farming Simulator 25」から育てられる作物に“米”と“長粒米”が追加された

弟くん：
　そうなんだ。米ってことは，収穫とかに使う農機はISEKIなのかな。

ありみち：
　え，正解。やっぱり有名なんだ。

弟くん：
　うん，米ならメジャーなのはISEKI。（農機販売ページを見ながら）うわ，本当にさなえちゃんがある！

ありみち：
　さ，“さなえちゃん”？

弟くん：
　ISEKIの田植えする農機の名前。あ，ちなみに通称じゃなくて，ちゃんと商品名ね。日本の農機はダジャレとか，ちょっと変わった系統のものが多い。同じ米だと“かりとりくん”とかもあるよ。

ハンドル下に“さなえ”の文字。農機に貼られた注意書きも日本語でびっしり書かれていて，現実世界からそのまま持ってきたかのよう

弟くん：
　じゃあ，最初に米でも作ってみる？

ありみち：
　このゲーム，これといった正解はないけど，最初は小麦とかのほうがいいんじゃないかな。米は，まず畑内に田んぼを設置しなきゃいけなくて，田んぼは基本的に米専用の土地になっちゃうから。

弟くん：
　じゃあ小麦にするか。まずは土を耕して……。

ありみち：
　実はもう収穫できる小麦の畑を用意してあります。


弟くん：
　あ，もう育ててくれてたんだ？

ありみち：
　ううん。NPCが育てた小麦畑を買収した。

弟くん：
　強奪じゃねぇか！　リアル農家が限りなくリアルに近い農業シミュレーションを遊ぶっていう話だったよな!?

ありみち：
　まぁまぁ。ゲームシステム的に許されていることですし，収穫がいちばんホットな部分じゃないですか。

弟くん：
　企画者がそれでいいならいいけどさ……。

弟くんがお隣さんの畑の収穫を手伝ったときの写真。晴天で収穫日和

ありみち：
　では，小麦を収穫していきましょう。機械を借りるか，買わなきゃいけないんだけど……。

弟くん：
　小麦ってことはコンバインが必要か。あとはトレーラーとトラクターも必要だよね。トラクターは3点リンクのほうがいいよ，それからフロントにツメを付けられればフォークリフトっぽく使えるし，フロントローダーを付けられるやつがいい。おすすめのメーカーある？

ありみち：
　ごめん，なんて？

弟くん：
　まず，小麦とか穀物系の収穫には，たいていコンバインっていう農機を使う。それから収穫した小麦を積載するトレーラーと，それを牽引するトラクター。

畑を耕してから収穫するまで，小麦を作るために必要な農機一覧

ありみち：
　トラクターはオプションでいろいろ付けられるみたい。馬力の増加とか，タイヤの変更とか……あ，さっき言ってた3点リンクとかフロントローダーの取付もある！

弟くん：
　じゃあ，リアル農家の言うとおりにカスタムしていってください。

ありみち：
　は，はい。

機種にもよるが，オプションの種類はかなり多い

ありみち：
　ここは弟くんに収穫してもらいましょう。コンバインに乗ってみて，どうですか？

弟くん：
　すごいな。こんなにリアルだと思わなかった。一人称視点だと運転席も忠実に再現しようとしてるのが分かるし，現実の農機をほぼそのまま持ってきてる感じ。

ありみち：
　操作感とかは？

弟くん：
　現実の俺のほうがうまい。

ありみち：
　そ，そうですか……。


ありみち：
　収穫，お疲れ様でした。次は来シーズンに向けて畑を耕したり，肥料を撒いたりします。同じ畑で3回収穫したら，石灰をまかなきゃいけないらしい。

弟くん：
　あ〜，ちゃんと原作準拠（現実と一緒）だね。

ありみち：
　リアル農業でも同じなんだ？

弟くん：
　だいたい，3年に1回は石灰をまかなきゃいけない。っていうのも，土をアルカリ性寄りの中性にしたいんだよね。作物を作ってると酸性に傾いていっちゃうから，そのままだと根っこが溶けて育ちにくくなる。だから，強いアルカリ性である石灰を撒いて中和したい。

ありみち：
　科学の話になってきたな。

弟くん：
　料理もそうだけど，食べ物の話ってほとんど科学だよ。

トラクターのいろはにほへと

ありみち：
　このゲームの特徴のひとつとして，実在するメーカーの農機が実装されてるっていうのがあるんだけど，何か気になるメーカーある？

弟くん：
　うわ，John Deere（農機メーカー）じゃん！

グリーンカラーの車体と鹿のロゴがトレードマーク

ありみち：
　有名なやつ？

弟くん：
　海外だとメジャー。日本でこれを見かけたら，「この農家，儲かってんな」ってなる。

ありみち：
　農機のなかでも高級ブランドってこと？

弟くん：
　というよりも，海外メーカーだから。車でも外車に乗ってる人はお金持ちってイメージあるじゃん？　あんな感じ。国内だと，ほとんどがクボタ，ISEKI，三菱，ヤンマー。

「Farming Simulator 25」内で実装されている日本の農機メーカーは，クボタとISEKI

弟くん：
　John Deereにも乗ったことあるんだけど，日本の農地で乗り回すには大きすぎて不向きだと感じたかな。長野県とか北海道のデカい農地なら活躍できるかも。

ありみち：
　「Farming Simulator 25」にアジア地域がモデルのマップがあるんだけど，道が狭いところが多くて，その土地に合った農機を使わなきゃいけないなって思いました……。

弟くん：
　さては，めっちゃデカい農機で市街地に突っ込んだな。

ありみち：
　うん……。

弟くんが普段使いしているのは，三菱PALCEED GV750。アタッチメントはビニールもかけてくれるカルティベーター

ありみち：
　こうして見ると，トラクターってマフラーが運転席の横とか，上のほうに付いてるってことに気づいた。

弟くん：
　農機用のトラクターは速度が遅いから，乗用車みたいに後部下に付いてると熱やらガスやらが溜まるんだよね。あと，何かを牽引することが多いし，アタッチメントや収穫物を傷めないためだと思う。

　ほかには，トラクターの前輪と後輪の大きさには差があって，前輪が小さく作られてるんだ。

ありみち：
　前輪が小さいとどうなるの？

弟くん：
　前輪を小さくすることで，あえて「強く回りやすい」ようになってる。場合によっては，ほぼ直角に近い角度でも曲がれるよ。

ありみち：
　確かに，右に曲がろうとハンドル切ったつもりが，一回転してたときがあった。ちなみに，使ってみたいトラクターとかある？

弟くん：
　ランボルギーニかなぁ。このゲームって実装されてないの？

ありみち：
　え，ランボルギーニって農機も出してるの!?

弟くん：
　というか，元々はトラクターを作ってたところだよ。スポーツカーのほうがあと。

ありみち：
　そうなんだ。でも，このゲームでは残念ながら実装されてないようだ……。

弟くん：
　そっかぁ。高速道路も走れるくらい馬力があるって話だから，いつか乗ってみたい。

輸入販売店　コーンズ・エージーHPより引用（リンク）

ありみち：
　このゲームでは農機やアタッチメントを新品で買えるし，中古車セールやリース（レンタル）もあるけど，リアル農家さんはどうやって農機を手に入れてるの？

弟くん：
　新車を買うことは滅多にない。ほとんどの人は，農業を引退する人からお下がりでもらったり，中古を買ったりする。あとはリース契約して，最新機種を使うとかになってくるかな。

ありみち：
　リースとか購入の場合は，メーカーの営業さんとかにお願いして？

弟くん：
　そう。あとは販売店とか。農機は普通に1千万とかするからね。扱うお金の単位がデカいから，感覚がバグりがち。軽トラが1000円くらいに思える。

ありみち：
　確かにこのゲームやってると「え〜，1パレットたったの300ユーロでしか売れないの？」とかなるけど，普通に高額なんだよね。「あれだけ頑張って育てて300円か」みたいな感覚になる。

ビニールハウス栽培はある意味でゴール

ありみち：
　このゲームでもいわゆる金策があって，そのひとつがハウス栽培なんだけど，現実の農業だとどうなのかな？

弟くん：
　儲かるかって話？　ハウス建てられるなら，みんな建てたいよ，そりゃあ。

ありみち：
　やっぱ儲かるんだ……。

本作のハウス栽培は，タンクに水を補充しているだけで作物ができる

弟くん：
　儲かるっていうより，安定してるのがメリット。天候に左右されないからね。ハウスで苗を育てて，それを露地栽培（地面に直接植えて育てる方法）に持っていくって農家さんもいるよ。

ありみち：
　このゲームで言うところの米みたいな感じか。建てられるなら建てたいっていうのは，やっぱり初期費用が高いから？

弟くん：
　それもある。かなりまとまった敷地が必要だってこともあるし，光熱費なんかの維持費もバカにならない。

ありみち：
　現実はそんなに甘くないか……。

弟くん：
　俺もハウスで無双できるようになりたい。

弟くんが収穫したレタス。茎を上にして置いているのは，そこから白い液体（生き物で言うところの血）が出るので，それを洗い流すためだとか

「Farming Simulator 25」総評：めっちゃリアル

ありみち：
　実際にプレイしてみて，どうでした？

弟くん：
　とにかくリアル。作物を育てる手順とか，雨が降っているときに収穫すると収穫量が下がるってとこも，現実と同じ。農機のモデリングもすごいよね。ウサギさんとカメさんもちゃんといたし。

ありみち：
　う，“ウサギさん”と“カメさん”？

ほんとにいる!!!!

弟くん：
　ギアみたいなもので，ウサギに入れるとエンジンの回転数が上がって速くなる，カメはその逆。

ありみち：
　これって全世界で共通の表示なの？

弟くん：
　そこまではちょっと分からない。日本メーカーの農機は，だいたいそうなんじゃないかな？

ありみち：
　そうなんだ。ほかには？

弟くん：
　ゲーム内でトラクターに乗ってるとラジオが聞けるのもすごいと思った。現実だと，ラジオを爆音で流しながら作業してる。

ありみち：
　このゲームをやってみて，逆に勉強になったこととかある？

弟くん：
　自分が普段作らない作物の収穫を体験できるのは面白かったな。初めて知る農機もたくさんあって勉強になったし。あと，このゲームでトラクターを動かしてたら，実際の運転もうまくなったみたいで，つい最近人に褒められたよ（笑）。

ありみち：
　「切り返しうまいね〜」みたいなこと？

弟くん：
　そう。あとは，見えない線が見えるようになれば完璧。

ありみち：
　見えないものを見ようとするな。

本作には，どこを走ればキレイに作業ができるか見えるようになる“ステアリングアシスト”という機能が存在する。弟くんの最終目標は，これが現実でも見えるようになることらしい