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[GDC 2025]「Sid Meier's Civilization VII」の物語はいかにして構築されたか。ナラティブチームがその手法を語る
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もはや語る必要もないだろうが,“Sid Meier's Civilization”シリーズは,現在も現役で活動するゲーム業界の大御所,シド・マイヤー氏が1991年にオリジナルをリリースしたストラテジーゲームの金字塔の1つだ。eXplore〈探索〉,eXpand〈拡張〉,eXploit〈開発〉,eXterminate 〈根絶〉の4要素を兼ね備えた,いわゆる“4X”の代名詞的な存在として,今なお多くのゲーマーを惹き付けるシリーズであり続けている。
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実に8年ぶりのリリースとなった「Sid Meier's Civilization VII」では,ゲームプレイが「古代」「探検の時代」「近代」という3つの異なる時代を段階的に経ていく形になり,シリーズで初めて指導者と文明を切り離すなど,新たな試みが加えられた。これにより,プレイヤーは新しい時代が幕を開けるたびに,アンロックされた文明から相応しいものを選択していくことになる。
このため同作では,1つの文明の物語を追いかけるのではなく,選択によって変化する物語を柔軟に構築しなくてはならない。Manning氏らナラティブチームは,これまでのシリーズにはない新たなシステムを構築しなくてはならなかったのだ。
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「Sid Meier's Civilization VII」公式サイト
歴史は重なって作られている
「歴史は重なって作られている」(History is built in layers)とは,Firaxisの開発チームが「Sid Meier's Civilization VII」のゲームコンセプトを紹介するときに謳っていたキャッチフレーズの1つだ。地層を掘り下げると古い時代の遺跡が現れるように,新しい文明は常に古い文明の上に成り立っている。
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それはゲーム開発でも同じで,Manning氏らが当初提案したアイデアは,前作の「VI」でもすでに存在していたことが,リードデザイナーのエド・ビーチ(Ed Beach)氏と話し合ったときに明かされたという。これは「VI」における“ゴシップシステム”のことで,ほかの文明に起こっている事件が,“ウワサ”として表示されるというものだった。
しかし,このときの“ウワサ”はプレイヤーには関係のないものだったりして,「VI」においては多くの人が見過ごしていたような,不人気なフィーチャーであった。そこでManning氏らはこれを土台にしつつ,よりプレイヤーの選択に影響を与えるようなシステム「ストーリーレット」をゲームに組み込むことにした。
ストーリーレット(Storylet)とは,インタラクティブメディアのストーリーにおいて小さなイベントを組み合わせながら1つの大きなストーリーを構築していくという,2019年にフィクション作家のEmily Short(エミリー・ショート)氏が提唱したコンセプトだ。
Manning氏は,これをシリーズに合うよう再解釈し,プレイヤーの選択や行動によって何らかのイベントが発生していくシステムを作り出した。
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これらはプレイヤーのアクションや自然現象の発生をトリガーとしており,例えば同じ鉱物資源をいくつか開拓したり,文明の固有ユニットを生産したりといった,条件が単純なものもある。しかし中には火山での被害や,都市国家のやり取りをトリガーとする複雑なものもあり,その数はローンチ時で1262種類にも及んでいるという。
もちろん特定の文明や地形でしか発生しないものもあるので,数100時間プレイした程度では,ほんの一部しか見られないとのことだ。
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また時代を超えて発生するストーリーレットも用意されている。
Manning氏が例に挙げたのはローマ文明固有のストーリーレットで,これはローマ文明をプレイしているときに,司令官が敵文明や都市国家に倒されることがトリガーとなっている。これにより先の戦闘で失われた鷲の紋章を取り戻すクエストがスタートするのだが,これに失敗した場合でも,次の時代で遺物として再発見されるようになっているという。こういった仕組みにより,プレイヤーは文明のつながりを意識できるようになると,Manning氏は話していた。
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もちろん,特定の文明や指導者によらない汎用型のストーリーレットも多く用意されているが,あまり汎用なものばかり発生するとプレイヤーはゲンナリしてしまう。そこで同じストーリーレットが何度も発生しないような調整も施されている。開発にあたっては,こうした汎用イベントと固有イベントのバランスを取ることをとくに意識したと,氏は述べていた。
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Firaxis Gamesでは5人の歴史家が従事
Manning氏は脚本家の経歴も持つナラティブディレクターではあるものの,本作ではシステムのデザインを構築したのみであり1つひとつのストーリーレットを書いたのは専門のスタッフである。なぜなら,本作のストーリーを作り込むには歴史の知識が必要不可欠で,氏のチームには5人の“歴史家”が在籍していたからだ。彼らはアートワークなどの監修作業に加え,ストーリーレットの作成にも従事している。
そのメンバーが,大学では東南アジアの歴史を修学したというAndrew Johnson(アンドリュー・ジョンソン)氏と,同じくアメリカ史を担当したFinn Taylor(フィン・テイラー)氏だ。
Johnson氏は,「Sid Meier's Civilizationシリーズは歴史をモチーフにしているが,歴史に忠実ではありません。同様に歴史シムではなくゲームでもある。過去シリーズではエイブラハム・リンカーンが先史時代からアメリカを率いたこともあり,歴史的にはあり得ないモチーフではあるものの,それによってプレイヤーの“もしも”に答えてきました」と語っていた。
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Johnson氏らが大切にしたのは,特定の文明や指導者の歴史的なつながりだ。
例に出されたのは,ショーニー族のリーダーとして名を遺す「テムカセ」だ。ショーニーは探検の時代に選べる文明の1つだが,近代になると別の文明へと移行しなければならない。このとき「メキシコ」を選べば「ショーニーのルネッサンス」というイベントが発生。「メキシカン・ショーニー」(メキシコ文明の中の少数民族化したショーニー)が古代のショーニー族に伝えられていた教えを発見する。これにより,プレイヤーは「ショーニー族の長老に権限を与える」か,「ショーニー族の分派が新王国を作る」かの二択を迫られることになるそうだ。
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一方,Taylor氏は1つひとつのストーリーレットが,どのようにプレイヤーにインパクトを与えるかという視点での解説を行った。
例えば1つしかない斥候ユニットが遠隔地で果てた場合,ストーリーレットによって「ずっと待っているが戻ってこない」といったメッセージが表示される。もちろん,プレイヤーは斥候に何かあったのだとすぐ理解するだろうが,ここはあえて「故郷で消息を気遣う人たち」の視点でメッセージを書くことで,よりドラマチックな効果を狙っている。こうした細かい部分にも,開発者のアイデアが込められているわけだ。
セッションの最後に登壇したシニア・ナラティブデザイナーのNill Raban(ニル・レイバン)氏は歴史家ではないものの,「Sid Meier's Civilization VII」では考古学周りを担当したという。例えば滅亡した都市国家の跡地に,近代になってから探検家の興味を惹く遺跡が登場するといった,時代を超えた考古学的ストーリーを氏が担当している。火山や洪水の被害地や,都市開発の中で埋没した古代施設などで遺跡が生成されることが多いそうだ。
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なお前述のTaylor氏は,近代アメリカで発生するイベントの1つに,19世紀のカリフォルニアに存在していた「The Great Republic of Rough and Ready」という小国家をネタにしたストーリーレットの存在をほのめかしていた。
実際にアンロックされることはあまりないそうだが,これはゴールドラッシュで湧く19世紀中庸,シエラ山脈の麓にあった鉱山町で起こった史実を元にしている。なんでも鉱物に対する高い関税に反抗し,人口が1000人にも満たないにも関わらず,1951年に独立宣言を行ったのだそうだ。結局,このアメリカ最小の独立国家は近隣の町に目をつけられてしまい,外国籍であることを理由に酒の販売が拒まれたため,3か月ほどで独立宣言を破棄してしまったとか。
この奇妙な実在国家の誕生イベントが見たい人は,さっそく近代アメリカでプレイしてみてはいかがだろうか。
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「Sid Meier's Civilization VII」公式サイト
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