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企画記事
発達障害やトラウマに,ゲームはどう対応できるのか? 「頭と心のアクセシビリティ」の可能性を,「プリンス オブ ペルシャ」「Dead Space」から考える
[インタビュー]ゲームをめぐるバリアフリーの現在地はどこか? Xboxのアクセシビリティ・コントローラ開発者,ケイトリン・ジョーンズ氏に聞いてみた
![[インタビュー]ゲームをめぐるバリアフリーの現在地はどこか? Xboxのアクセシビリティ・コントローラ開発者,ケイトリン・ジョーンズ氏に聞いてみた](/games/999/G999905/20241203005/TN/014.jpg)
ゲームをめぐるアクセシビリティの問題はここ数年で大きく進化を遂げてきたが,その現在地はどこにあるのか。今回は障害者週間を記念し,Xboxのアクセシビリティ・コントローラ開発者であるケイトリン・ジョーンズ氏に,メールインタビューを実施した。
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- ライター:ノイ村
[インタビュー]障碍のあるゲーマーはどのようにゲームを楽しんでいるのか? 当事者に聞く,ゲーム環境構築とアクセシビリティ
![[インタビュー]障碍のあるゲーマーはどのようにゲームを楽しんでいるのか? 当事者に聞く,ゲーム環境構築とアクセシビリティ](/games/999/G999905/20241209037/TN/010.jpg)
ゲームとアクセシビリティを巡る状況は,今どのように変化しているのか。本記事では障碍を持つゲーマーである上虎氏にメールインタビューを行い,ゲーム環境についてお話を伺った。バリアフリーeスポーツ団体であるePARAの寄稿とともに,アクセシビリティの「今」をお届けしよう。
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- ライター:ノイ村
例えば,もともとの発達特性や加齢などによる認知機能の衰えを抱える人は,パリィやカウンター,QTEのような「特定のタイミングでボタンを押さなければならない場面」で反応に遅れが生じて先に進めなくなることがあるし,ADHDやASDのような発達障害の症状によって短期記憶や情報処理に困難を抱えている人は,ゲーム内で何度も同じ場所を訪れてしまい,進めていたタスクの進行状況や目的を見失って途方に暮れてしまうことがある。
あるいは,過去の心的外傷(トラウマ)に対して,ゲーム内の物語の展開や描写がトリガーとなり,ゲームを続けるどころか病院へ駆け込まなければならないような状態になることもある。こうした人々にとっての“アクセスのしやすさ”も,「アクセシビリティ」にほかならない。
このように書くと自分ごとにしづらいという人もいるかもしれないが,例えば「QTEが苦手」「マップを覚えるのが苦手」「ショッキングな描写が苦手」といったゲーマーは,読者の中にもきっと少なくないのではないだろうか。こうした個人の特性の違いは必ずしも「障碍」や「病気」という言葉に縛られるものではない。だが,人によっては,こうした悩みがゲームプレイそのものに支障をきたし,ゲームを辞める理由になるほど深刻なものになることもあるのだ。
ADHDの知人を例にあげると,「The Elder Scrolls V: Skyrim」を遊んでいた際に,いくつかの深刻な問題に直面したという。短期記憶に困難を抱えているがゆえに,街を訪れればどこに何があるのかが分からなくなって何度も同じ道や同じ家を往復し,ダンジョンに行けば道に迷って出られなくなる(「出口かと思ったら入口だった」ということがあまりにも多いらしい)。
さらに大量のサブクエストを受注して,次に起動したときに「今,何がどうなっているのか」がまったく分からなくなって途方に暮れてしまうことが頻発したとのこと。それらの要因が積み重なったことで,その知人はせっかく世界観やロールプレイに夢中になっていたにも関わらず,最終的には20時間ほど遊んだところで「自分にはできない」とプレイを止めてしまったという。
似たような経験は,当事者でなくともあると感じるかもしれない。だが知人曰く,何よりも悲しかったのは,こうしたゲーム内の出来事から,現実における仕事や生活での失敗を連想してしまい,苦しくなってしまったということだ。現実を忘れるために遊んでいる娯楽が,特性とのアンマッチを起こして現実での苦しみを増幅させるきっかけとなり,むしろ生活に大きな支障をきたすケースは,障碍を持つ人物にとって,決して珍しい出来事ではない。
だからこそ,さまざまなプレイヤーがいることを想定して,ほかの選択肢を用意し,カスタマイズ性を設けることで,あらゆる可能性に柔軟に対応できるようにする。そうして,いかに多くの人にゲームを楽しんでもらえるようにするかというのが「アクセシビリティ」という言葉の中にある本質であり,現在,ゲーム業界で多くの開発者が挑戦している課題なのだ。そして,こうした取り組みは結果として非当事者を含む多くのプレイヤーの助けにもなっている。
本稿では,そんな「頭と心のアクセシビリティ」をテーマに,二つの作品を中心にして,その現在地を確認していく。
史上,最もアクセシブルなメトロイドヴァニア:「プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠」
あらゆるゲームジャンルの中でも特に活況を示している「メトロイドヴァニア」。このジャンルの醍醐味といえば,広大なマップを探索していく中で少しずつスキルを獲得することで,これまで通れなかったエリアを通れるようになったり,今までできなかったことができるようになったり,という成長の達成感にある。しかし往々にして陥りがちなのが,「で,どこに行けばいいんだっけ?」と路頭に迷ってしまう状況だ。
どこに何があるのかを忘れ,広大なマップを見ながら手当たり次第に未探索エリアへと向かい,時間を無駄にしてしまった経験がある人は,きっと少なくないだろう。これは単純に「あるある」であると同時に,ADHDなどの短期記憶に困難を抱える人にとっては,より深刻な問題となる。
「プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch / PS4 / Xbox One / PC / PS5 / Xbox Series X|S)では,主人公・サルゴンの持つ「記憶」という能力によって,自分の現在地のスクリーンショットを撮影し,ゲーム内マップに自動で紐付けられる。これにより,わざわざ元の場所に戻らなくても,「なんで通れなかったんだっけ?→(記憶を見る)→ああ,こういうことか!」とその場で確認できるというわけだ。
個人的にも,この機能を今後のメトロイドヴァニアにおける業界標準にしてほしいと切に願うくらいに,便利で画期的な機能であると感じている。
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本作はそのほかのアクセシビリティ機能も非常に充実しており,マップ上に次の目的地と,現在通行不可能な箇所を自動でマークしてくれる「ガイドモード」や,ゲーム内におけるプラットフォームアクションのパートを丸ごとスキップできる機能,戦闘の受け流し(パリィ)の猶予時間や各種ダメージ量を項目ごとに細かく調整できる優れた難度調節オプションなど,プレイヤーの得意/不得意や特性に応じてゲーム全体のバランスを柔軟にコントロールできる。
こうしたカスタマイズ性の高い難度設定は,「ドラゴンエイジ:ヴェイルの守護者」のような大作から,「ULTRAKILL」のような小規模なインディー作品まで,近年では多くの作品で実装されている。
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そもそも,本作は「SEKIRO」を彷彿とさせるアグレッシブで歯ごたえのあるバトルや,最後まで飽きさせない優れたマップデザイン,失敗しても「もう一回!」とやりたくなってしまう絶妙なプラットフォームアクション,時間にまつわる多種多様なスキルを操る面白さなど,単純にめちゃくちゃよくできたメトロイドヴァニアの傑作だ。
その前提をもとに,本作は「行った場所を忘れてしまうのなら,画像で残せばいい」「道に迷うなら,ゴールを明示してもいい」「瞬発力に自信がなければ,無理にプラットフォームアクションをやらなくてもいい」「戦闘に集中できる時間が短いなら,ダメージ量を増やしたり,敵のHPを減らしたりすればいい」といった具合に,さまざまな可能性を想定して,幅広いプレイヤーに手を差し伸べてくれるのである。
これは,まさしく「自分たちがいいと思ったゲームを,より多くのプレイヤーに楽しんでほしい」というアクセシビリティの本質が表れた結果にほかならない(これは,今回言及しているすべての作品に共通する)。本作は,昨年のThe Game Awardsで「Innovation in Accessibility」部門を受賞しており,まさに「史上,最もアクセシブルなメトロイドヴァニア」と呼ぶに相応しい一作だろう。
「不快」を避け,「恐怖」に没入してもらうための大胆な挑戦:「Dead Space」
優れたホラーゲームは,「恐怖」と「不快」の違いをよく理解している。だからこそ,ホラーゲームの名作には,実はアクセシビリティの面においても評価できる作品が非常に多い。
近年の「バイオハザード」シリーズでは,未探索/探索エリアを色分けして表示するという優れたマッピング・システムによって,どこまで探索したのかを忘れて迷ってしまう,取り逃がしたアイテムがないか不安になる,といった余計なストレスが取り除かれている。「SOMA」や「Still Wakes the Deep」では,敵が襲ってこなくなるモードを導入している。このように,過度な負担(≒「不快」)を与えることなく,まっすぐ恐怖体験に集中させてくれるのである。
![]() バイオハザードRE:3のマップ画像 |
そして,プレイヤーのトラウマを刺激するのも,「不快」であって「恐怖」ではない。これはホラーゲームに限った話ではないが,近年はプレイヤーにセンシティブな刺激を与える可能性のある描写に対して,「事前警告(Trigger Warning, Content Warningなど)」として該当する項目を一覧化し,体調を崩したときのために専門的な機関への導線を設けることが一般的になっている。
こちらも「Senua’s Saga: Hellblade II」のような大作から,インディーホラーの傑作「OMORI」まで,その規模は大小を問わない。昨年リリースされたリメイク版「SILENT HILL 2」においても,原作にはない事前警告がゲーム起動時に表示されるようになっていた(ちなみに,映像作品の分野においては,Netflix「13の理由」などでも同様の試みが実施されていたが,事例は少ないのが実情だ。個人的にはこちらの分野にも事前警告が広まってほしいと思っている)。
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そんなホラーゲームの中でも,特に注目すべきアクセシビリティ機能を実装しているのが,2008年に発売された名作のリメイク版となる「Dead Space」(PC/PS5/Xbox Series X|S)である。主人公であるアイザックの多種多様な死にざまを筆頭に,過激でグロテスクな描写が話題となりがちな本作だが,このリメイク版では,こうしたショッキングなシーンを緩和するための機能が用意されている。
オプションに用意されている「コンテンツ表示の警告」をオンにすると,NPCが無惨に殺害されたり,自傷行為をしたりといったショッキングな場面が発生する直前に,そうした描写が入る旨が画面上にポップアップするようになる。さらに,「残酷な描写を隠す」をオンにすると,該当の場面がフィルターで覆われ,その光景を見ずに済むようになる(アイザックの死にざまにおいても,ただフェードアウトするだけになる)。
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前述のとおり,現在の事前警告を巡っては「一覧化して起動時に表示する」というのが一般的なアプローチとなっているが,「Dead Space」ではそこからさらに踏み込み,「いつ該当するシーンが発生するのかをリアルタイムでプレイヤーに提示する」,「該当のシーンを見せなくても済むようにする」という課題に挑んでいる。
「過度な配慮ではないか」とツッコミが入ることもあるが,やはり根本にあるのは「余計なストレスを感じることなく,まっすぐ恐怖体験に没入してほしい」という開発者の想いにほかならないだろう。一覧化して表示する形式は,ゲームを遊ぶかどうかの判断そのものをプレイヤーに委ねているわけだが,本作の場合は,あくまで該当する箇所のみを絞ったうえで「無理して見なくてもいい」と手を差し伸べている。どちらのほうがそのゲームを遊びたいと思っているプレイヤーにとって役立つかどうかは明確だ。
実のところ,いつでも目的地へのルートを表示してくれるガイド機能や,複雑になりすぎないマップデザインなど,「Dead Space」は2008年の原作の時点で,アクセシビリティ面において参考にできるポイントが多かった。同作はホラーゲームの歴史において大きな影響を与えた作品だが,その先進性はアクセシビリティにおいても同様であり,15年後のリメイク版においても,その考え方がしっかりと受け継がれ,さらに進化を遂げている。
「モンハン」にも広がるクモ恐怖症対策,RPGの会話や選択肢を巡る機能の充実など,さらに広がる頭と心のアクセシビリティ
ここまで,主に「プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠」と「Dead Space」を中心に,頭と心のアクセシビリティを紹介してきたが,もちろん,ほかにもさまざまな事例が存在する。
2020年の「Grounded」に搭載されたことで注目を集めた「クモ恐怖症(Arachnophobia)対策モード」(クモの見た目を恐怖心を与えないものに変更する)は,今では「スター・ウォーズ ジェダイ:サバイバー」や「ホグワーツ・レガシー」といったAAA作品や,「Lethal Company」といったインディーの話題作にも導入され,間もなく発売を迎える注目作「モンスターハンターワイルズ」にも実装されていることが明らかになっている。
恐怖症を巡っては,「Horizon Forbidden West」において,海中恐怖症(Thalassophobia)対策モード(海中での視認性向上,海中での無制限の呼吸可)が実装されるといった広がりを見せており,今後の動きにも注目したい。
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また,会話量や選択肢に,(短期/長期記憶能力や,一つひとつの選択に対する心的負担など)文字どおり頭を悩まされるRPGやアドベンチャーにおいても,プレイヤーを助ける機能の充実が図られている。
特にJRPGにはよく搭載されている「会話ログ」(現在の会話を遡る機能)をさらに発展させ,(聞き逃しやすい)戦闘中に発生したキャラクター同士の会話や,探索で発見したオーディオログ,カットシーンでの発言などをまとめて一気に遡ることができる充実のログ機能を備えた「STAR WARS ジェダイ:サバイバー」(記録してくれる量には制限がある)や,ゲーム内で何度か遭遇する重要な選択場面のすべてにおいて自動的に「決断時セーブ」を残しておいてくれる「ドラゴンエイジ:ヴェイルの守護者」など,過去の作品に搭載されていた機能を,さらに便利なものに進化させていく動きが起きているのだ。
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ここまでさまざまな事例を紹介してきたが,今回触れたタイトルのうちの半分ほどは,特に「アクセシビリティ」という言葉を冠しているわけではなく,開発者も明確に障碍を持つ人のためにこれらの機能を実装したわけではないだろう。
だが,それは結果として多くのプレイヤーに活用され,同時に障碍や困難を持つ人の助けにもなっている(もちろん,「プリンス オブ ペルシャ」のように逆のパターンもあるだろう)。ここに,「アクセシビリティ」という概念の本質がある。
言葉はあくまで便利なラベルにすぎず,重要なのは開発者側の「たくさんのプレイヤーに自分たちのゲームを楽しんでほしい」という想いにほかならない(これは身体におけるアクセシビリティにおいても同様だ)。そして,その想いとノウハウの積み重ねこそが,未来のアクセシブルなゲームへとつながっていくのだ。
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プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠
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