「ありがたき哉 日本語化」は,ここ最近で日本語対応となった海外作品を良い機会だからあらためて紹介しようという,フワッとしたコーナーです
「プレイ前も遊び始めてからも『うわ! なんか変だこれ!』と感じられるゲームをやりたい。でもシュール過ぎるのはイヤ。難度が高いのもイヤ」という人は,今回紹介する
「Felvidek」を遊んでみるといいかもしれません。これがそれです。
Felvidekは,15世紀スロバキアを生きるアルコール依存症の騎士の冒険を描いたタイトルです。領主の命令を聞いたり,敵対勢力や謎の教団とのゴタゴタに巻き込まれたりしながらあっちこっちをフラフラする――そんなゲームですね。手描きのザラついた2Dグラフィックスがものすごいインパクトですが,ゲームジャンルは意外というかなんというか,いわゆる
JRPG(!)です。
そんな本作は,2024年3月にSteamでPC版がリリースされ,11月のアップデートで日本語にも対応しました。ありがたき哉。本稿執筆時点でSteamでは2600を超えるレビューを集め,評価は
“圧倒的に好評”を獲得しています。人気作ですね。
酒と仲間をお供に繰り広げられる珍道中
Felvidekは,
Brozefこと
Jozef Pavelka氏(
@brozef_ )と
Vlado Ganaj氏(
@vladoganaj )が開発し,Tutto Passaが配信しているタイトルです。本作のα版は,Brozef氏がチェコの大学でのプロジェクトとして制作したもののようですね。
なお本作の日本語翻訳はKurono Studiosの
Sam L. Kurono氏(
@kurono_studios )と
Alexander Toyota氏(
@AlexanderT78541 )ですね。いやあ,いつもありがとうございます。
本作は,開発元が謳っているとおりJRPGとして制作されています。手描きの2Dグラフィックスを採用したタイトルで,要所にローポリのシネマティックシーケンスが挿入される形ですね。モノトーンとまではいきませんが,低い彩度のザラザラとしたビジュアルがたまりません。
なお日本語が完璧かと言われるとそうではないです。……が,複雑な会話で意味が通らない部分もご愛敬というか,許せてしまう何かがあります
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ゲームの主な構成要素はフィールドでのキャラクター移動,戦闘,インベントリを含むメニューといったところでしょうか。実際に遊んでみるとすぐに「ああ,JRPGだなあ」という感覚を得られると思います。スキルツリーを持つような複雑なキャラクター育成システムなどはなく,攻略Wikiを確認しながら遊ぶようなゲームではないな,といった感じです。
そんなFelvidekの舞台は前述のとおりスロバキア,時は15世紀です。具体的な場所としては“スロバキア高地の改変歴史的な地域”と表現されています。
物語の主人公は騎士のパヴォルという,あまり特徴のない男です。強いて目立つ要素を挙げるなら,アルコール依存症であること,そして妻との間に問題を抱えていることぐらいでしょうか。
かわいそうなパヴォル(主人公)
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ある意味で,お酒は本作の最重要アイテム。「やくそう」や「ポーション」に相当するアイテムもワインです
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パヴォルは,王国に立ち向かう者達を止める――といった感じの使命をうっすらと帯びており,イヤイヤ道連れとなった修道士を始めとした仲間達と共に,城や集落,森,ちょっとしたダンジョンのような場所など,全体として割と狭い範囲を行ったり来たりします。そしてその道中で,フス派(カトリック教会を批判した宗教改革者ヤン・フスの教説に追従する人々)やオスマン軍,さらには謎の教団のメンバーなどと戦うのです。
基本的にみんな口が悪いです
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酔っ払いもなんかすごいですね
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JRPG感を生むシンプルなシステムと会話
「ものすごい絵面だな」などと思いつつ手を出すことになる本作ですが,実際にゲームを始めるとすぐ「ものすごくJRPGだな」と感じられると思います。シンプルなシステムと,NPCのリアクションを含む会話のテンポがそうさせているのでしょう。以下で,本作の主な要素となるフィールドでの冒険と戦闘のあれこれについて,ざっと画像で紹介しておきましょう。
ちなみにFelvidekはRPG Maker(RPGツクール)で制作された作品となっています。なるほど,みたいな。
【フィールド】
フィールドの移動は,斜め見下ろし視点の画面で展開します。加わった仲間を引き連れて歩く,伝統的な(?)システムですね。
パヴォルの冒険は,領主の城から始まります
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城や集落,森といった各エリアへは,デフォルメされたメインマップを使って移動します
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パヴォルと運命を共にするはめになる不憫な修道士・マティ。基本的にはいいヤツです
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礼拝堂や教会,民家のベッドなど,体力や,スキル使用に必要なマナを全回復できる場所が点在しています。リソースの管理はシビアではない,ということです
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話しかけると開口一番,ゲームのTipsを話出すNPC。JRPGって感じがします
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何を伝えたいのか分からないNPCの会話。イラッ。でも好き
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無意味すぎるNPCの会話。イライラッ! でも好き
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ごくたまに入るシネマティックシーケンス
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変な人が目白押しです。この人を見ただけで,本作の雰囲気が一発で分かりますね。キービジュアルに採用していいレベルでしょう
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【戦闘】
戦闘も,JRPGの伝統的なターン制のコマンドバトルが採用されています。これといって特筆することはありませんが,味方側が行動する時にはいちいち凝ったアニメーションがあります。サウンドエフェクトと相まって,これがなかなかに味わいがあり,単調な戦闘も飽きさせません。
なお戦闘はランダムエンカウントでもシンボルエンカウントでもなく,基本的には,ストーリーの流れで必要な戦闘を行うといった感じですね。
住み慣れた我が家のようなコマンドバトルです
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スキルを発動したり,アイテムを使ったりすると,ちょっとしたアニメーションが見られます
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ポートレート部分に表示されるアイコンで状態異常などをキチンと把握しないと,意外と苦戦しますね
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ちなみに本作には,キャラクターの育成要素として経験値やレベルといった概念はありません。戦闘をより有利に進めるためには,装備を強化するか,消費アイテムを使って永続的なステータス強化を行うかといった感じですね。
アートスタイル,音楽,そして人間達が見どころ
これまで紹介してきたとおり,Felvidekは非常にシンプルなシステムを採用しています。JRPGの幹(みき)となる部分だけで構成したような潔い仕様といいましょうか。ただこれが,
本作の尖った点を際立たせているのだと思います。アートスタイルと音楽,一癖も二癖もある登場人物達が見どころですね。真面目なんだか不真面目なんだかよく分からない,でも確実に「クスッ」と笑えるポイントが多い,実に捉えどころのないゲームです。
なお作者のBrozef氏は,スロバキアの文化的なゲームを作りたかったとのことで,そうすることで友人を楽しませられるうえ,母国のユーモアを世界に伝えられると考えたそうです。ちゃんと受け取れているかどうかは分かりませんが,筆者は本作を,グッとくる素敵なアートスタイルを持つ,とても愉快なゲームだなと感じました。
全体として非常にコンパクトな作りであり,攻略を楽しむ,ゲームゲームした内容ではないですが,目や耳,テキストでたっぷりと異国情緒を味わえることは間違いありません。ビジュアルでビビッと来たら,ぜひ気軽に試してみてほしいタイトルですね。