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「鉄拳8」バトル中の背景をムービーで使用するには。インゲームアセットを用いた映像制作手法[UEFest’24TOKYO]
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印刷2024/11/30 11:00

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「鉄拳8」バトル中の背景をムービーで使用するには。インゲームアセットを用いた映像制作手法[UEFest’24TOKYO]

 2024年11月2日,「Unreal Engine」の無料大型勉強会「UNREAL FEST 2024 TOKYO」にて,3D対戦格闘ゲーム「鉄拳8」PC / PS5 / Xbox Series X|S)に関する講演が2つ実施された。
 本記事では,「『TEKKEN8』におけるUnrealEngineを用いた映像制作術」と題したセッションをレポートする。

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左から阿部智洋氏 / 石坂 淳氏 / 李 芝涵氏
画像集 No.003のサムネイル画像 / 「鉄拳8」バトル中の背景をムービーで使用するには。インゲームアセットを用いた映像制作手法[UEFest’24TOKYO]
 本セッションでは,バンダイナムコスタジオのシネマティックディレクター・阿部智洋氏,デジタル・メディア・ラボのショットディレクター・石坂 淳氏,同リードアーティスト・李 芝涵氏が登壇し,両社の役割分担と制作フロー,映像制作でのインゲーム用データの利用方法などが紹介された。


映像制作における2社の役割分担

 鉄拳8は,2024年1月26日に発売されたシリーズ最新作だ。32人以上のキャラクターが登場し,ムービーシーンから流れるようにバトルへつながる没入感の高い演出と,壮大なストーリーを体験できる。



 ストーリーモードで登場するプリレンダムービーは,「メインストーリー」が約100分,「キャラクターエピソード」が約60分,「DLC追加ストーリー」が約30分の規模となっている。
 本セッションでは,10月1日に配信されたアップデートVer.1.08で実装されたDLC追加ストーリーの開発事例がメインに取り扱われた。

画像集 No.004のサムネイル画像 / 「鉄拳8」バトル中の背景をムービーで使用するには。インゲームアセットを用いた映像制作手法[UEFest’24TOKYO]
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 バンダイナムコエンターテインメントは「鉄拳8」Ver.1.08アップデートを2024年10月1日に実装する。本稿ではバージョンアップ時に無料で追加される新ストーリーモード,“Unforgotten Echoes”や,DLCとして復活を果たした,三島平八のキャラクター性能,開発陣への合同インタビューをお届けする。

[2024/09/25 00:00]

 映像制作は,バンダイナムコスタジオで開発中の鉄拳8のゲームデータをデジタル・メディア・ラボに共有しながら作業を行った。2社の役割分担については,各社の得意分野や人員リソースを加味して下記のようになっている。

バンダイナムコスタジオ公式サイト
  • UE5環境の提供
  • ディレクション
  • モーションキャプチャ
  • エフェクト
  • クロスシミュレーション

デジタル・メディア・ラボ公式サイト
  • アニメーション
  • ライティング
  • レンダリング
  • コンポジット(映像合成)

映像制作の流れ

 映像制作フローは,まずアニメーションを「Maya」(外部リンク)で制作して,UE5でライティングやレンダリングを行う。
 また,エフェクトは,UE5や「Houdini」(外部リンク),「EmberGen」(外部リンク)を要素によって使い分けて制作する。
 最後に,レンダリングした映像やエフェクトは,「Nuke」(外部リンク)を使用して,1つの映像に合成する流れだ。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 「鉄拳8」バトル中の背景をムービーで使用するには。インゲームアセットを用いた映像制作手法[UEFest’24TOKYO]


インゲームアセットを利用した映像制作手法

 バトル中の背景にあたるエリアのインゲーム用のアセットは,画面にあまり映らないのでモデルの作りこみがないなど,ゲーム用に最適化が行われている。
 映像制作では,その背景部分を舞台に利用するため,映像制作用の最適化や作りこみが必要となった。

画像の緑色で示されたところが,映像制作で作りこむ部分
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実際にバトルで使用している部分は画像左下の黄色で示されたところ。ムービーでは,背景を舞台にしたシーンを制作する
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 モブキャラクターや戦車などは,障害物となり不要なので削除した。また,地面の凹凸が大きく,このままではキャラクターの足がめり込んでしまうので,地面を平坦にする調整を行ったそうだ。

 プリレンダの映像制作は,処理負荷よりも見え方重視なので,明るさや反射,ハイライトに加え,アニメーションに合わせたモデルの調整も行い,グラフィックスの品質を上げている。

調整前
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調整後。舞台奥にいたモブキャラクターや戦車が消え,地面の凹凸も減っている
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 マテリアルやNiagaraエフェクトは,パラメータを調整しやすいように,複数のマテリアルを一括コントロールできる「Parameter Collection」を仕込んでいる。
 元の値に対し四則演算で補正を加える仕組みで,元データを変更せず,各種パラメータを一括で調整できる。

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 ライトについては,ブループリントで管理しており,ライトの方向や位置ごとにタグをつけて,色や明るさなどを一括で調整可能にした。

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 キャラクターやカメラの動きが多いシーンでは,キャラクターを追従しながら,カメラに対しての角度を保つライトを用意している。

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 エフェクトは,炎など単純に足し合わせる要素,煙など半透明に重ねる要素,衝撃波の歪みなどの表現で使う要素など,それぞれのグループに分けておくことで,コンポジット作業を行いやすくした。

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 コンポジットは時間がかかる作業のため,コンポジット時に調整したいエフェクトが多いシーンは要素別に,そうでない場合は,できる限り完成形の映像に近いビジュアルでまとめてレンダリングするなど,臨機応変に対応したそうだ。


UEを利用した映像制作手法

 デジタル・メディア・ラボでは,「Flow Production Tracking」(旧:ShotGrid,外部リンク)を使用して,アセットの管理を行っている。
 シーケンサの作成は,Mayaから出力したキャラクターアニメーションなどのデータをFlow Production Trackingの機能を使って,UE側に持っていく。

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 UE側では,キャラクターやカメラのアニメーションシーケンスと分けて,ライトやエフェクトなどはサブシーケンスとして管理している。

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 分けて管理することで,キャラクターのアニメーションなどに変更があっても,ライトやエフェクトに影響を与えずに入れ替えられる。このため,アニメーションが仮の状態でも,ライトやエフェクト作業を問題なく進められるメリットもあるそうだ。

 また,インゲームで汗や水濡れ,汚れなどの設定が用意されていたので,それらも有効活用しながら,映像制作を進めたそうだ。

汚れなし(左),汚れあり(右)
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 ハイスピードなシーンは,UE側で表現している。まず,Mayaで通常速度のアニメーションを作成し,「After Effects」(外部リンク)のタイムリマップ機能でタイミングを調整する。
 その後,UE側のTimeDilationで時間の遅れを設定し,等速からスロー,スローから等速など可変のスピード調整を実現した。

 UEのスロー表現などの機能で,速度変化を気にせずに作業できたという。

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 映像で多くのモブが登場するシーンでは,一部のキャラクターを除き,「VAT」(Vertex Animation Texture)を利用している。VATは,アニメーション情報をテクスチャ情報として保存する仕組みで,負荷を大幅に削減できる。

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 シーンによっては,30体以上のキャラを配置しており,レンダリング中にPCが落ちてしまうほど負荷が高いため,VATを利用するメリットが大きいという。

Houdini公式ドキュメント「Labs Vertex Animation Textures render node」


 モーションキャプチャで長尺アニメーションを数種類作成し,VATデータとして書き出してUEに取り込む。UE側では,長尺のアニメーションからどのフレームを使うかなどを考えながら,VATを配置していったそうだ。

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 VATの利用では,影や反射が正しく出なかったり,モーションブラーがかからなかったりする問題が発生した。
 影や反射は,UEのレイトレーシング設定の「Evaluate World Position Offset」をオンに,モーションブラーについては,マテリアルに前後のフレームからモーションベクターを生成する「Previous Frame Switch」ノードを配置して,対応したそうだ。

影や反射について:変更前(左),変更後(右)
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モーションブラーについて:変更前(左),変更後(右)
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エフェクト制作とコンポジット作業の流れ

 エフェクトの制作は,バンダイナムコスタジオが主に担当しており,UE5の機能であるNiagaraのほかに,さまざまなツールを組み合わせて制作を行っている。

 キャラクターの固有技はNiagaraを使用している。ムービーでは,インゲームよりも高品質な見た目が求められるので,高解像度化やエフェクトの発生数の増加などブラッシュアップを行っている。

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 見せ場となるエフェクトでは,メインとなる要素はHoudini,にぎやかしとなる煙などの要素はEmberGenという風に使い分けを行った。

 EmberGenは,リアルタイムでシミュレーション結果を得られるため,レンダリング時間を削減し,フィードバックの対応を素早く行える。
 複雑なエフェクトでなければ,HoudiniではなくEmberGenを利用すると,制作スピードの面で大きなメリットとなるそうだ。

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 また,レンダリング時間を削減するために,レンダリングツールはMayaの標準機能「Mantra」(外部リンク)ではなく,GPUレンダリング可能な「Redshift」(外部リンク)を採用し,RTX4090を搭載したハイエンドPC4台を用意して,全カットのレンダリングを行った。

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 このようにして制作したエフェクト素材をデジタル・メディア・ラボが受け取り,コンポジット作業を行っていく。

 コンポジット作業では,各ソフトで出力したエフェクトを乗せていくが,この時,爆発のエフェクトで黒煙が炎のエフェクトよりも前に表示されてしまうなど,前後関係の問題が発生した。

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 前後関係を正しくするため,3Dソフトで出力を行う際に,深度(3D空間でカメラから見た時の物体の奥行き)情報付きで出力を行って対応した。

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 深度情報付きのデータを使用する欠点として,容量が巨大になりやすく,レンダリングやコンポジットに時間がかかってしまう点がある。
 基本的な素材は4Kで出力を行っているが,画質に影響を受けにくい薄い煙などは2Kや3Kで出力するなど,ビジュアルに影響のない範囲で,負荷対策を行ったそうだ。

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 セッションのまとめとして,映像制作でUE5を活用できた点が紹介された。UE5は実際に鉄拳8で使用しているエンジンのため,インゲームのアセットやキャラクター,背景,エフェクトなどをそのまま利用でき,素早く制作を開始できる。

 また,リアルタイムでレンダリングできるため,ライトやエフェクトを調整した時に,素早く確認できるほか,インゲームで実装した汗や汚れなどの設定も有効的に活用できる。
 アセットの効率的な共有で,バンダイナムコスタジオとデジタル・メディア・ラボそれぞれの強みを生かしながら,制作を進行できたと振り返った。

画像集 No.042のサムネイル画像 / 「鉄拳8」バトル中の背景をムービーで使用するには。インゲームアセットを用いた映像制作手法[UEFest’24TOKYO]

「バンダイナムコスタジオ」公式サイト

「デジタル・メディア・ラボ」公式サイト


「鉄拳8」公式サイト

「UNREAL FEST 2024 TOKYO」公式サイト

「Unreal Engine」公式サイト

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