バンダイナムコエンターテインメントは,2022年10月20日にNintendo Switch用ソフト「
ウルトラ怪獣モンスターファーム 」を発売する。本稿では発売に先駆けて行われたメディア向けの試遊会と開発者インタビューの模様をお届けする。
NFC対応製品を持ち寄り,怪獣を誕生させる幸せな時間
50年以上の歴史を持つ国民的特撮作品
「ウルトラマン」 の怪獣と,シリーズ25周年を迎えた育成シミュレーションゲーム
「モンスターファーム」 。そんな両者のコラボレーションが実現したゲームが「ウルトラ怪獣モンスターファーム」である。開発はコーエーテクモゲームスが担当しており,シリーズ外伝にして正統後継作という立ち位置だ。
「ラトゥール島」には「怪獣」と人間が共存していたが,争いが起きた。怪獣は「円盤石」に封じられ,後に再生できるようになった
「モンスターファーム」シリーズでは,音楽CDをゲーム機に読み込ませてモンスターを誕生させていた。使うCDによって誕生するモンスターが異なっており,CDを持ち寄っていろいろと試してみるのが面白みの1つとなっていた。
2019年に発売された移植版「モンスターファーム」では,CD再生機能の代わりに,データベースからCD名やアーティスト名を検索し,モンスターを再生する仕組みが採用されていた。
今回の「ウルトラ怪獣モンスターファーム」では,データベース検索に加えて,
NFC対応製品 を用いて怪獣を誕生させられる。交通系電子マネー,ゲームセンター用カードや入館証や社員証など,NFC機能が搭載されている様々な製品に対応している。
Nintendo Switchのコントローラに読み込み部分があるため,これらにNFC対応製品を触れさせて怪獣を再生したり,後述する「継承クッキー」を焼いたりできるのだ。
今回の試遊会には,手持ちのNFC対応製品を持ち込み,編集者と2人でいろいろと試してみた。
同じ種類のゲームセンター用のカードを2枚を読み込ませると,どちらでも同じ種族の怪獣が出てくるが,パラメータが微妙に異なっていて,まったく同じというわけではない。もちろん,NFCの種類が違うと別の怪獣になる。中には,「帰ってきたウルトラマン」に登場する
「ベムスター」 に,「ウルトラマンガイア」に登場する「ガンQ」っぽい目玉が付いた
「ガンQベムスター」 や,「ウルトラマン」に登場する
「ゴモラ」 に「バルタン星人」を思わせる模様が付いた
「バルタンゴモラ」 といった,本作オリジナルの怪獣も登場するので,いろいろ試してみたくなる。
昭和から平成まで,歴代「ウルトラ」シリーズからさまざまな怪獣が再生される
興味深いのが,
「同じNFCを使っても,いつも同じ怪獣が出てくる」 とは限らないところだ。今回の試遊会は2時間半ほどの時間が設けられていたのだが,試遊会の前半と後半で同じNFCを読み込ませると,異なる怪獣が出現したのだ。
「レッドキング」と「ガンQ」の「レッドキングガンQ」
モンスターが誕生する際は,「ウルトラマン」のオープニングを彷彿とさせる影絵の姿で登場するが,見覚えがあるシルエットでも,前述したオリジナル怪獣だったりする。編集者と筆者の2人で,持ち寄ったNFCを取っ替え引っ替えして,いろいろと試してみるのは本当に楽しく怪獣を誕生させるプロセスだけで1日中遊べてしまいそうなくらいだった。
「NFCの読み取り中にコントローラから離せば,そのタイミングに応じて違うモンスターが出てくるんじゃないか」ということで,NFCを近づけたり離したりして試したり,「時間帯によって生まれる怪獣が変わるんじゃないか」というあれこれ推察するのも楽しい。
「ガンQベムスター」(左)と「エレキングベムスター」(右)。同じベムスターでもさまざまなバリエーションが存在
実際にどうなるかは発売後に試していただくとして,「生活に密着した品から,色々なモンスターが生まれる」という「モンスターファーム」のコンセプトの優秀さを再確認し,知り合いと一緒に色々と試行錯誤した初代作の思い出が甦ってきた試遊体験だった。
また,NFCを使えば
「継承クッキー」 というアイテムも作成できる。これは怪獣に食べさせると,クッキーに込められたほかの怪獣の特性を継承させられるというもので,こちらもいろいろなクッキーが存在する。もちろん,怪獣の再生に使ったのと同じNFCでもOKだ。
NFCで「継承クッキー」を焼ける。能力名も「ウルトラ」シリーズへのリスペクトが感じられるもの
ファームにおける一連の流れは東京ゲームショウでのプレイ記事も参考にしてほしいが,やはり怪獣の巨大感と可愛さは特筆すべきものがある。あのウルトラ怪獣が料理をしたり,吹雪から村を守ったりして人間のお手伝いをするほほえましさ。そして,首を傾げたり,悲しんだりといった仕草の可愛らしさで,ウルトラ怪獣の新たな側面を発見できた感がある。
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2022/09/15 10:14
料理(左)やお宝探し(右)など,トレーニングで怪獣は成長する
ちなみに今回は,ガンQベムスターを育てていたのだが,試遊会が終わってお別れするのが本当に寂しく感じられた。発売日に同じNFCを読み込ませても,まったく同じガンQベムスターは出てこない。あの子が元気でやっていることを祈るばかりだ。
さまざまな表情を見せる怪獣。可愛い
バトルにおける「モンスターファーム」シリーズにはなかった新要素
「ダッシュ」 にも触れておこう。前方へと踏み込み,間合いを詰めるという技で,使用すると「GUTS」を消費する。
本作のバトルでは近〜遠距離まで4つのレンジが存在しており,それぞれのレンジに対応した技を出すことができる。満遍なく技を持っていればいいが,育成具合によっては特定レンジの技がないという場合もある。例えば遠距離用の技がない場合,相手に一方的に攻撃されてしまうのだが,ここでダッシュの出番となる。踏み込んで距離を調整,技のあるレンジに入って一撃というスピーディな展開ができるのだ。
もちろん,ガッツは技にも使うし,互いの距離を離すシリーズ恒例の「吹き飛ばし」もある。新たな駆け引きが提唱されたといってもよさそうだ。
試遊時の段階では,ガンQベムスターには遠距離技がなかった(左)。「ダッシュ」で間合いを詰め,「突進」を一撃
「モンスターファーム」をリアルタイムで遊んだプロデューサーと,シリーズプロデューサーの出会い
最後に本作のプロデューサーであるバンダイナムコエンターテインメントの
又野健太郎 氏と,開発を手掛けたコーエーテクモゲームスの
藤田一巳 氏にインタビューを行った。ウルトラ怪獣とのコラボによって得られた気づき,「モンスターファーム」というIPの新生など,興味深い話を聞くことができた。
左から 又野健太郎 氏(バンダイナムコエンターテインメント),藤田一巳 氏(コーエーテクモゲームス)
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「ウルトラ怪獣モンスターファーム」の企画はどちらから先に持ち掛けた話だったんですか。
又野健太郎氏(以下,又野氏):
弊社からモンスターファームの開発をされていたコーエーテクモゲームス様へと企画のご提案をいたしました。
藤田一巳氏(以下,藤田氏):
最初にコラボの話を聞いたときは,笑いましたね(笑)。ただ次の瞬間には作りたくて仕方なかったです。
私も「モンスターファーム」の新作をどういう形で作ろうかと考えていたんですが,ちょうど「次回作はモンスターの数ではなく,システム的に新しいチャレンジをすべきだ。ただ,それには強いフックが欲しい」という思いがあったんです。
そこにウルトラ怪獣でモンスターファームを作らないかという話が来たわけですから,「ぜひ!」とお願いしました。
4Gamer:
6月に配信された「Nintendo Direct mini ソフトメーカーラインナップ」で発表されたときの反応はいかがでしたか。
藤田氏:
非常にポジティブな反応をいただきました。ユーザーさんから「コラボでなくてモンスターファームの続編を!」という声をいただくかと思っていたのですが,蓋を開けてみれば非常に前向きなコメントが多かったです。「エイプリルフールみたいな企画だね」など,もちろんさまざまコメントはありましたが(笑)。しっかりと本作の面白さが伝わったのかな,と安心しました。
又野氏:
モンスターファームもウルトラ怪獣も皆さんご存じなので,両者をかけあわせること自体は思いつくけれど,具体的にどうなるかは想像が追いつかない感じだったんじゃないでしょうか。「どういうこと!?」「どれくらいモンスターファームなの?」「ウルトラ怪獣ってどうやって育てるの?」と……。
4Gamer:
「モンスターファーム」が“ほかのIPとコラボする”というのはありそうでなかったですよね。「機動戦士ガンダム」を組み合わせた「ガンダム無双」以降さまざまなコラボ作品が発売されている「無双」シリーズのように新たな道が拓けたような気がします。
藤田氏:
弊社の中でも「これを皮切りにモンスターファームエンジン化計画か?」なんて話はありましたね(笑)。ただ,今のところそれはないだろうと思います。怪獣ほどマッチするものはなかなか思いつかないですし。
4Gamer:
どういった部分がマッチしていると思いましたか。
藤田氏:
ブリーダーと対象のコミュニケーションがスムーズにいかず,結果として三枚目なキャラクターを表現できることですね。
ブリーダーが何か意志を伝えようとしても,相手はモンスターなので,人間を相手にコミュニケーションするようなわけにはいかない。コミュニケーションに齟齬があってコミカルな状況が発生することが,「モンスターファーム」には大事なんです。原作ではウルトラ怪獣は街を破壊する人間から見ると怖い存在であり,こうした意志疎通とは対極にいる存在じゃないですか。そんな彼らがブリーダーに育てられて意志を通じていくというのが,とても面白いと思ったんです。
少女に叱咤される怪獣。ブリーダーと人間のコミュニケーションの面白さが見える一幕
4Gamer:
視聴者,特に小さい子供にとっては恐怖を感じるような見た目をした彼らだからこそ,育てたり指示を出したりといった「モンスターファーム」的な状況とのギャップも大きくて面白いと。
藤田氏:
ただ,ウルトラ怪獣のスケール感をどうするかは困りましたね。ファームに入れて育てないといけないわけですから(笑)。ここは又野さんとかなり議論して,最終的には
「デカカワイイ」 をタイトルのテーマにしようと決まりました。
怖さや凶暴さといったイメージではなく,仲良くなって育てていくうち,別れが惜しくなるようなものでないとゲームとしては面白くならない。そして,そうした部分を表現できる「モンスターファーム」のシステムなら,ピッタリなんじゃないかと。
又野氏:
もともとウルトラ怪獣自体にある種の可愛さはあるので,「モンスターファーム」とは意外と合うんじゃないかとは思っていたんです。ただ具体化するときにはメチャメチャ苦労がありましたね(笑)。
でかくて可愛らしい「デカカワイイ」がキーワードとなった
藤田氏:
「デカカワイイ」とはいうけれど,どういうことなんだろうと。「デカカワイイなら怪獣は暴れなくていいのか」「ほかの怪獣に負けた時って,どういうリアクションをするんだろう」「言うことを聞かない時にはどうなっちゃうんだろう」「そもそも,怪獣が言うことを聞くってどういうことなんだ」。こういう部分を言語化するのが,とても難しかったんです。
又野氏:
原作にないものをたくさん表現しないといけないのも大変でした。ウルトラ怪獣にある種の可愛さがあるのは確かですが,原作にはデカカワイイと思えるシーンがそんなにふんだんにあるわけではないんです。「モンスターファーム」感を出しつつ,ウルトラ怪獣ファンにも納得感があるものに仕上げるのは難しいポイントでした。
藤田氏:
ヒントを掴むために,過去のウルトラシリーズをたくさん見ましたね。怪獣が地団駄を踏んだりするようなシーンなどをヒントにしました。
4Gamer:
シリーズの色んなところから「デカカワイイ」の要素を集め,ウルトラ怪獣としての可愛らしさを表現していったと。
藤田氏:
コラボするにしても,嘘になってしまうのは一番良くないじゃないですか。「モンスターファーム」ではバトルに勝ったモンスターがバク転することがありますが,ゴモラはバク転なんてしそうにない。だからそうしたことはさせないようにしました。
又野氏:
ウルトラ怪獣としての表現とモンスターファームらしい雰囲気を合わせることをとても大切にしてきました。
4Gamer:
コラボといっても一線はあるし,「モンスターファーム」の流儀をすべて押しつけること=コラボではないということですね。
バトル要素に関してはいかがでしょうか。原作でも怪獣は戦っていますし,バトルの部分はスムーズに作れたのでしょうか。
藤田氏:
そういうわけでもなかったですね。「モンスターファーム」のバトルは,スピード感とテンポがものすごく早いんです。
又野氏:
ウルトラ怪獣にそのスピード感を押し付けるわけにはいかないですからね。非常にバランスに苦労した部分だったと思います。
4Gamer:
ジャンルを問わず,怪獣ゲームの一大テーマですね。怪獣は大きいし,巨大感を出すには演出もスローになる。映像作品ならそれでもいいけれど,ゲームだとプレイヤーの入力に対するクイックなレスポンスが求められ,怪獣的なスロー演出を追及しすぎるとゲームとしての快適性に影響する。
藤田氏:
この辺りは又野さんから「バトルをもっと気持ち良くしてください! 同じ60秒のバトルでも,原作とは技を出せる回数が全然少ないじゃないですか!」と何度も指摘されましたね(笑)。
又野氏:
僕自身「モンスターファーム」がすごく好きだったので,バトルの際のスピード感が心に残っていたんです。個人的に「モンスターファーム」のファンが遊びたいテンポ感のバトルは分かっている。けれど,プロデューサーとしてウルトラ怪獣の重量感を表現しなければならないことも理解している。だから,最後のギリギリまで調整を続けましたね。
藤田氏:
お互いの距離が離れてしまった場合,怪獣的な演出のために動きを遅くした影響がモロに出てしまい,なかなか間合いを詰めることができないんですよ。なので,距離の調整が難しく「モンスターファーム」のときは,たくさん出せていた技が本作ではあまり出せない状態が起きていました。
この調整は本当に大変で,途中で「じゃあ,バトルを60秒から80秒にしましょう」なんて提案が出たくらいです。ただ,時間を延ばすというのは,バトルのテンポは改善されないので,根本的な解決になっていないんです。
4Gamer:
かなりの難問ですよね。60秒で「モンスターファーム」通りにテンポ良く技を出せること,ウルトラ怪獣の原作通りの重量感を表現すること。2つの要素が完全に相反しているし,どちらもおろそかにはできない。
藤田氏:
「モンスターファーム」と「ウルトラ怪獣モンスターファーム」のバトルを動画に撮って,並べて再生したりもしましたね。そうしていきついたのが本作の新要素「ダッシュ」です。
又野氏:
ダッシュが入ったことで体感的なテンポアップもそうですが,駆け引きが1つ追加され,バトルがとても遊びやすくなりましたね。ダッシュはGUTSを10消費して,ぐっと近づくのですが,そこからすぐ攻撃ということもできるので,最後の最後に自分の得意な技で一発逆転にかける……ということができるようになったのは大きいです。
4Gamer:
バトル部分は開発終盤まで調整したんですか。
藤田氏:
ダッシュして必殺の一撃が決まったらブラーを掛けてスローになる演出を入れたり,カメラアングルを変えたりと,マスターアップまで調整を続けました。
又野氏:
あと
“ゼロ秒問題” も大変でした。「モンスターファーム」のバトルって,残り時間がゼロ秒になった瞬間に技を出せるんです。でも,なんだか出せないような気がして……。
藤田氏:
こちらとしては「ほぼ完成した!」くらいの気持ちだったんですが,又野さんから「最後の一発が出せないんですけど」って。最初は「気のせいですよ,又野さん(笑)」なんて返していたんです。
又野氏:
その後も「いや,おかしい。僕は『モンスターファーム』ではゼロ秒で出す最後の一撃に賭けてたんだ!」と藤田さんに電話してしつこく食い下がったんですよ(笑)。
藤田氏:
そこまでいうなら……とバトルチームと検証したら,プログラマーから「本作は受け付けてないですが,モンスターファームはゼロ秒の時点で入力を受け付けてました」って話があって(笑)。
4Gamer:
リアルタイム世代だからこその気づきですね。
藤田氏:
「よくそんなの見つけたな……」ってみんなで驚いたんですよ。ただ,ダッシュシステムの実装と,ゼロ秒入力を受け付けるようにしたら,独特の駆け引きも生まれてバトルは劇的に良くなりましたね。あと又野さんからは「技のプリセットを保存させてくれ」「大会の予約ボタンを作ってくれ」という意見も出ましたね。
又野氏:
僕は「モンスターファーム」ユーザーとしての意見を,無邪気に出していただけなんです(笑)。モンスタファームは技をたくさん覚えると,各技を上下のボタンで切り替なきゃいけないんですが,毎回得意な技にカーソルを合わせるのが少し煩わしいなと……。
大会の予約ボタンについても僕としては必須でした。修行にいくと4週間かかるんですが,気がついたら出たかった大会が終わってる……といったことなどを防ぐためです。
藤田氏:
これらの部分って,「モンスターファーム」の続編を作っていたのなら気づかなかったところなんですよ。ウルトラ怪獣という新しいテーマを得たことによって光が当たり,「モンスターファーム」のシステムが確実に進化したと思います。
大会と修行にしても,確かにすっぽかしが起こるのは分かってますけど,スケジュールをチェックしてプレイすればいいですよね……ってスルーしようと思ってたところを,又野さんが「それじゃだめなんです!」と何度も指摘するわけです(笑)。
それで「大会が開かれる週にホリィが教えてくれる」仕様で実装したら,又野さんから「1週間前でないと,コンディションを整えられないじゃないですか」って指摘があったんです。細かいな〜って(笑)。
又野氏:
「モンスターファーム」って大会の前の週は休ませてコンディションを整えたいじゃないですか。大会を忘れていて,ちょうどモンスターの体調が悪い日に「今週大会です」なんて言われても困りますよね。
藤田氏:
システムの深い部分に関わる大変な実装でしたが,何とか実装しました。
又野氏:
藤田さんたちがいい物を作ってくるから,これもよくならないかなって欲が出ちゃうんですよ。
藤田氏:
これだけ注文をつけるんで,又野さん自身も弊社のオフィスに来る時「僕,開発チームの人たちに刺されませんかね」って心配してるんですよね。開発チームの苦労も分かっているから私は「大丈夫ですよ!」とはとても言えませんでしたが(笑)。
4Gamer:
ユーザー目線での指摘が「ウルトラ怪獣モンスターファーム」のみならず,今後の「モンスターファーム」にとってプラスになったところも大きいんじゃないでしょうか。
藤田氏:
それは大きいと思います。ユーザーの皆さんが「『モンスターファーム』と『モンスターファーム2』が一番面白かった」といっておられることには我々も反省しています。そこに,当時のユーザーだった又野さんから指摘をいただいたのはすごくありがたいですね。開発している最中は辛かったですが。
又野氏:
顔を合わせる度に,無邪気に新しい提案をするんですよね。「ここまでやれたんですから,もっとやりましょうよ!」って。開発メンバーには申し訳ない気持ちもありましたが,少しでもお客様に満足いただくゲームするためには,言いづらいことも言わなければいけないですからね。
4Gamer:
信頼があるからこそ,色々と提案ができるわけですね。
藤田氏:
そこは最初に又野さんと
「ケンカはやりましょう」「何かを隠すのは止めましょう」 と約束していたんですよ。
開発を進めていると「今,ゲームのこの部分を相手に見せると,きっといろいろ言われるから止めておこう」と隠しごとをしがちなんです。そこで,開発途中のデータはサーバーに常にアップロードしておき,又野さんにいつでも触ってもらえるようにしておいたんです。
4Gamer:
そうした取り組みに成果はあったのでしょうか。
藤田氏:
トレーニングで風車を回すシーンを又野さんに見てもらったときに「風車が小さい」という指摘があって大きくしたことがありました。当初は風車がもっと小さくて,我々も「これじゃ小さいよな……」と薄々思っていたんですが,すぐに又野さんから電話があって。
又野氏:
正しいスケールではあるんですが,対象がウルトラ怪獣なので風車がどうしても小さすぎてしまう。そこはいい意味で少し嘘をついて大きくしましょうよと提案したんです。
4Gamer:
言い出しにくい指摘も,又野さんがしっかりと声を上げていたと。
藤田氏:
ウルトラ怪獣とコラボするという,言い訳できない状態に置いてもらったことが「モンスターファーム」には良かったんだと思います。「作り手のエゴ」というとカッコイイですが,やらないことに屁理屈をこねることも多いですから,そこを指摘してもらえて助かりました。
ゲームを開発していると,どうしても視野が狭まってしまうので,見逃してしまうことも多いんです。先の“ゼロ秒問題”や大会の予約についても,シリーズを続けていくうちに気づかなくなってしまっていたわけですね。
シリーズを重ねるごとに「モンスターファーム」もいろいろと変化はしていますが,ゲームのロジック部分が面白くないと「モンスターファーム」ではなくなっていく。今回は初期2作品で培ったリズムとロジックは絶対に守りつつ,進化させていこうと考えました。そういった意味では,我々自身が「モンスターファーム」について改めてもう一回勉強し直せたいい機会だったと言えます。
4Gamer:
「ウルトラ」シリーズを手がける,円谷プロダクションさんからの反応はどうでしたか。
又野氏:
円谷プロダクション様にもすごく協力してもらいました。「モンスターファーム」としっかりコラボレーションした驚きの内容にしたいということで,「合成」の要素などもを入れさせていただきましたが,提案時は「ウルトラ怪獣を……合成?」というような若干、戸惑いを感じるような空気が流れましたね(笑)。
実施に開発が進み始めてからは,ウルトラ怪獣の合成バリエーションについても,ブラッシュアップ案をたくさん出していただけたので,とても素敵なデザインになりました。
4Gamer:
今までと違うチャレンジだからこそ,円谷プロダクションさんにも熱意が通じたのかも知れませんね。まだまだお話を聞きたいところですが,そろそろ時間のようです。最後に,読者へのメッセージをお願いします。
藤田氏:
「ウルトラ怪獣モンスターファーム」は,開発チームみんなが面白がって作った,何だかあったかいゲームになったと思います。触れば触るほどに面白さを分かっていただけるだろうということは,自信を持っていえます。
ウルトラ怪獣へのリスペクトをしたうえで,“カッコイイからこそデカカワイイ”“カッコイイから,ふと弱いところを見せると感情移入できる”というギャップを表現しています。ウルトラ怪獣や「モンスターファーム」への常識に対して,いい意味での裏切りが一杯入っています。NFCについても,いろいろな怪獣が出てきますから,試してみてください。
又野氏:
ウルトラ怪獣とモンスターファームのコラボレーションタイトルとして,どちらの良さも最大限発揮できているタイトルになりました。藤田さんからもありましたが,みんなが前向きに面白がって制作したのが伝わる内容になっているかと思います。噛めば噛むほど面白くなってくるゲームになっていると思いますので、ぜひ時間をかけて遊んでいただければと。
ウルトラ怪獣に対して,こんなにも愛着が湧くゲームはほかにありません! デカくてかわいいあなただけのパートナー怪獣を見つけてください!
4Gamer:
ありがとうございました。