(人間には)第三の性別が存在していたんだ。
これは、男性と女性をあわせもつ性で(中略)<アンドロギュノス>といい、太古の昔には、これも一つの種族であった。
古代ギリシャの哲学者およびレスラーであるプラトンは,ダイアログ(対話篇)の「饗宴」で,同時代の詩人・アリストパネスがこう述べたと記しました(訳は光文社版)。
ざっくり言えば「なので人間は他者を求めるものだし,同性でもそれが起こりうるのだ」という話ですが,まあ脳味噌がすっかり
「エルデンリング」色に染まっている最近の筆者には
“接ぎ木の貴公子”状の物体しかイメージできません。それか
「サイレントヒル4」の融合ヴィクティムです。または
「ファンタシースターオンライン」のパンアームズ。
というわけで今回は,アンドロギュノスを捩(もじ)ったタイトルなのだろうけれども何かしらの意味が込められているのかはイマイチ分からない,「
アンドロデュノスII」(Andro Dunos II)でやっていきましょう。はい,今回の前書きはやっつけですよ,やっつけ!
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「アンドロデュノス」は,
1992年にビスコからリリースされたMVS(業務用NEO・GEO)向けの横スクロール型シューティングゲームです。出荷本数があまり多くなかったうえ,ゲーム自体が比較的地味で,こと後年のNEO・GEOにはキャラクターを押し出したものやサンプリング音声を多用したものなど華やかな印象のゲームが増えたため,店頭で稼働していることは極めて稀でした。筆者も1回か2回,見たことがあるような……無いような……といったレベルです。
AES(家庭用NEO・GEO)でもリリースされていますが,あまりの地味さからか,ビスコ公式サイトの「
家庭用ゲーム年表」にすら記載されていない(
業務用ゲーム年表には記載)不遇っぷり。ネオジオCD版の
「ドリフトアウト」は掲載されているんですが……あっ,
「ネオドリフトアウト」はどちらにも無い……。
そんな影の薄いタイトルですが,希少価値は非常に高く,ゲームの内容よりも中古市場での価格高騰っぷりの方が有名かもしれません。完品のAES版は,中古市場で約
30万円の価格が付けられています。Alienwareのラップトップが買える値段ですよ。
権利元が行方不明なタイトルだと,そのまま中古ショップのショーケースを飾るばかりになることはざらですが,ビスコは自社でのゲームパブリッシングこそ2001年の
「婆裟羅2」で実質的に終了しているものの,健在の企業です。
2012年,いわゆるhomebrew(プラットフォーマーの認可を得ていない個人開発ソフト。移植の場合はゲーム版元の許諾を得るなどする点で,海賊版と区別される)のゲームをパブリッシングしていたフランスのNeo Conception Internationalが,ビスコの許諾を得て
ネオジオCD版「アンドロデュノス」を開発・発売します。
Neo Conception Internationalはその後,社名をJoshProdに変えて2017年に
「ブレイカーズ」や
「武蔵巌流記」の
ドリームキャスト移植版や,リプロダクト版の
AES用カートリッジなどを開発・発売。近年では社名をPixelHeartに変えたうえで,インディーズゲームのパブリッシングにも乗り出しています。「アンドロデュノスII」は各種ダウンロード販売の他,
PS4 /
Nintendo Switch向けの“MVS Edition”(パッケージ版とサントラCDやMVSカートリッジ風BOXなどを同梱)や,
ドリームキャスト版および“
Space Songs Edition”(ドリームキャスト用ソフトとサントラCDを同梱)が販売されているなど,一見すると「何やのそれ」といった商品展開が行われていますが,そういった背景があるわけです。
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PixelHeartにとって,「アンドロデュノスII」は
「初代のネオジオCD版を発売してから10年。とうとう続編を出すまでに至りました!」という記念碑的なタイトルでしょう。計り知れないほどのアンドロデュノスへの愛情を感じます。「地球上には,こんなにアンドロデュノスとNEO・GEOとドリームキャストが好きな人もいるんだ……」と思うだけで,けっこう笑えてくるレベルです。
1980年代のアニメチックなドリームキャスト版のジャケットデザイン
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PixelHeartだけでなく,ブラジルのQUByte Interactiveは2019年に
「婆裟羅コレクション」を開発・発売する(国内版はコーラス・ワールドワイドが発売)など,ビスコはIP利用の許諾に関して柔軟に対応している様子が見受けられます。なのでシューティングゲーム以外のタイトルに関しても,どこかが動いてくれるといいなーと思うんですよね。
「雀々しましょ」シリーズとか。
いえ,よこしまな話ではありません。2000年にリリースされた
「雀々しましょ2」のBGMって妙にカッコいいんですよ。とくに対戦相手にリーチをかけられた後のピンチBGMが「うおお,なんだこのディスコミュージックとジャングルのパワフルな融合は!」みたいな感じで最高なんです。劇中のガールズバンド・TINKERBELLのデビューアルバムというユニークなスタイルを採ったサウンドトラックCDもありましたが,プレス数は少なかったらしく,現在では極めて入手困難となっています。なので「やっぱりアーケード麻雀ゲームとゲーム音楽ならシティコネクションさんかなー。希少盤のリイシューでいえばPヴァインさん,マイナー音源のリバイバルでいえばCASSETRONさんでワンチャン無いものか」と,陰ながら思っている次第です。
それはそうとして,ゲームの移植ならやっぱPC向けがいいな。表現規制がゆるいからな。
よふかし野うさぎ 紅雀
で,実際の「アンドロデュノスII」の出来はいかがなものか。Steam版の発売前に,
北米Nintendo Switch版が発売されていましたので,アメリカンスピリッツをぶちこんだ筆者私物のNintendo Switchから買ってみたわけですが,これが存外に……と言ったら何なものの,面白い。
なおスクリーンショットは,Steam版発売を待ちきれなかった筆者が購入した北米ストア向けNintendo Switch版のもの
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ちなみに北米版なのに,最初の言語選択が「English / 日本語」。Steamストアページの対応言語欄では日本語が「サポートされていません」となっていますが,恐らく同じ仕様でしょう。日本のゲームは伝統的に英語表記のUIを採用することが多々ありますが,それだとSteamでは「日本語対応」と見なされないケースが多々ある(チェック担当者によって対応の差も)と巷の噂で聞きますし……。まあ,そもそも本作は“文字を読む”シーンがほとんど無いのですが
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前作をオマージュした発進シーン。丸っこくて可愛らしかった自機は,いくらかシュッとしたデザインに
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複数のショット(本作では4種類)を切り替えながら戦うという,1990年代初頭の横スクロールシューティングゲームで微妙に流行したスタイルは,下手に実装すると「回避さえできれば誘導弾だけ撃ちっぱなしでOK」や「敵配置さえ覚えれば集中弾だけ撃ちっぱなしでOK」になりがちなもの。ですが本作では
「シチュエーションにあわせて適切なショットを選ぶ」という,あるべき面白さがうまく打ち出せています。
アドリブ力よりも,敵の性質や出現位置を把握することが重要なゲームデザイン。画面奥から敵が出現するなど,三次元的な演出が多めなのも特徴的
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また「各ショットはアイテムで強化されるが,特定のショットに依存するとバランスが偏る。被弾すると使用していたショットのレベルが下がるので,依存は“弱いショットしか無い”という状況も呼びうる」という要素も,プレイ中に逐一駆け引きが求められるので緊張感が途切れません。その他にも,「ハイパーショットは敵弾を消せるが,使用直後は通常ショットのレベルが下がってしまうので,敵のラッシュや破壊可能弾への対応が難しくなる」というリスク&リターン要素もあります。前作のハイパーショットは“死にスキル”状態だったそうなので,バランス調整がうまくいっているという印象です。
サーチライトに照らされた敵市街地に降下しての超低空戦闘や,大型宇宙戦艦への対艦攻撃など,シチュエーションもカッコいい
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操作は8方向移動+攻撃2ボタン+ショット切り替えというシンプルさですが,上記のシステムやステージリザルト画面で行えるパワーアップの割り振りなどが絡み合うことで,なかなか「さっきミスったからユニット(防御オプション)を取るか……いやショットが弱いと先が厳しいから……」などと頭を悩ませてくれます。攻略スタイルは,プレイヤーの趣味や主義によってけっこう変わってくるでしょう。
前作ボスの改修版が登場したり,シューティングゲームでは定番の“クライマックスには前作ボスによるボスラッシュ”が発生したりするシーンも
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本作を開発したのは,開発
「Infinos」で知られるゲーム制作チーム・ピコリンネソフト。ごく小規模な開発チームながら,
「INFINOS外伝」はアレンジ版の
「INFINOS EXA」としてアーケード向け(exA-Arcadia)にリリースされるなど,一定の支持を集めるデベロッパです。
モズの枝にはアマガエル
「アンドロデュノスII」の他,「婆裟羅コレクション」には新規開発の
リメイク版も収録されていましたし,つい先月はプラチナゲームズがハムスターの有する日本物産IPを用いた
「ソルクレスタ」を発売するなど,近年
「旧作シューティングゲームの現行メーカーによる再構築」がしばしば行われています。プラチナゲームズは「ソルクレスタ」のスタイルを
“ネオ-クラシック”と称していますが,これは一定のジャンルとして市場を形成しうるのかもしれません。厳密な定義は難しいところですが,三月うさぎの森から発売された
「コットン リブート!」や,サクセスから発売された
「コットンロックンロール」などは,少なくとも“そのジャンルに引っかかっている”タイトルだと言えるでしょう。
PixelHeartは,これも“ビスコ旧作の続編”である
「Ganryu 2」を4月22日に発売する予定ですが,こういったタイトルはもっとあっても良いと思うんですよね。
そう,例えば
「ハームフルパーク2」とか,
「はちゃめちゃファイターII' Turbo」とか,
「アトミックロボキッドZwei」とか,
「ポラックスNEXT」とか。どうでしょう。
どうでしょう。
……どうだ?
あと,巷ではクラウドファンディングで資金調達した某シューティングゲームの精神的続編がいろいろと紛糾を呼んでいたりしますが,筆者はメディアに携わる者としては中立に努めながら,いち出資者としては「で,どうにかなるんですか?」と熱くも冷たくもない心持ちで見たりしています。