海外で称賛された「少女と宇宙の物語」プレイレポート。“雰囲気ゲー”の側面と，思いがけないストーリーに魅せられる

　グラビティゲームアライズが2022年3月18日に配信する，スマホアプリ「少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway」（iOS / Android）。

　本作はインディーゲームで，牧歌的な雰囲気とSF的な世界設定とが主題となる，ポイント＆クリック型のアドベンチャーゲームだ。


　ノルウェーのゲーム開発者，Mattis Folkestad氏が2017年に世に送り出した本作は，翌2018年に同国のゲームアワード「SPILLPRISEN GAME OF THE YEAR」「GAME OF THE YEAR SMALL SCREEN」で受賞。
　ほかにも数々のアワードにノミネートされるなど，評価を得た。

　そして，リリースからしばらくのあいだは英語および欧州向けの言語のみでの展開となっていたが，このたび完全ローカライズされた日本語版がようやくお目見えすることとなった。

　そんな期待のタイトルをリリース間近に触れることができたので，実際にプレイしてみての所感と，作品が持つ魅力についてお伝えしよう。

「少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway」公式サイト

「少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway」ダウンロードページ

ポイント＆クリックで少女を導いていこう

　舞台は，1929年のノルウェー西部。草原の広がる山の片隅で，小さな農場カーフレッジを営み，牛たちと暮らす女性「ルース」が主人公だ。

　本作はいわゆる“脱出ゲーム”のように，画面内の気になる部分を調べたり，入手したアイテムを特定のオブジェクトに対して使ったりして，行動範囲を広げ，物語を進展させていく構造である。

タイトルの“Milkmaid（ミルクメイド）”とは，牛の乳搾りに従事する女性を指す言葉。ルースは農場で乳牛を育て，牛乳をとり，バターやチーズなどの乳製品を作ることを生業とする

　プレイヤーはポイント＆クリック（タップ）操作でルースを導く。

　画面内の調べたいところをタップすると，ルースの独白形式のコメントでさまざまな情報が得られる。彼女を移動させたいときも，目的の場所をタップするだけの直感的な操作で動かせる仕組みだ。

　また，一見すると背景のように見えても，実はアイテムとして取得できる物品もあり，タップすることで手に入れられる。ストーリー進行のカギになることもあるので，気になったらとりあえず触れてみよう。

ちょんちょんとダブルタップすると，ルースが走って移動。スイスイ動くのでテンポも良好

所持アイテムは画面下側に表示。ドラッグ＆ドロップで対象の箇所にアイテムを使用できる

最初から所持しているアイテム“日記”は，ゲーム進行に使うことはないが，彼女のバックストーリーをうかがい知れる。ときには，ちょっとしたヒントが隠されていたりするかも？

美しいアートワークと音楽が作り出すムード
“雰囲気ゲー”としての側面に不足なし

　星々がきらめく夜空に，オーロラが揺らめくタイトル画面。そこからして胸が高鳴る本作だが，その味わい深さは大きな魅力だ。

　淡い色の水彩画のようなタッチが魅力なピクセルアートは，想像上ではあるが，1920年代のノルウェーの牧歌的な空気を描き出している。
　謎解きに躍起になるのではなく，そういった心に染みる風景を堪能しながら進めるのも，本作の楽しみ方の一つと言えるだろう。

　実際，そういった面が欧州の人々の琴線に触れたのだろうから。

場面によっては，かなり遠方からの視点になる。広々とした展望が開放感を味わわせてくれて気持ちいい。また，山の頂へ移動するように操作すると，ルースもあっという間に豆粒のような小ささに。実際はだいぶ距離がありそうな位置関係でも，デフォルメされたドット絵だからこそ納得しやすいゲーム的な演出が，プレイのテンポを損なわせないことに寄与している

氷河により大地が削られ，複雑な地形を成したフィヨルドが見られるのはノルウェーだけ

北欧らしさを感じさせてくれる景色。見る者を魅了する美しさがありつつも，ときには不吉の兆候とされることもあるオーロラ。彼女に暗示しているのは果たして……？

　各国で高評価を得ている楽曲は，ストーリー展開にうまく作用しており，各場面における情感を豊かなものにしてくれている。
　シンプルなグラフィックスから与えられる情報量は少ないが，シーンを彩る音楽により，一つ一つの光景に想像が膨らんだ。

　ポイント＆クリックアドベンチャージャンルは，それ自体が謎解きを主体としていることも少なくないが。本作に関しては実際に遊んでみると，面白みがそれだけではないということがきちんと実感できる。

満天の星。真夜中の空。縦断する“Milkyway（天の川）”。心を奪われる一大パノラマだ

清々しさを覚える風景と気持ちが安らぐ音楽が，じっくりと遊びたくなる気持ちにさせてくる

謎解き要素はほどほどのようで
一筋縄ではいかないときも？

　雰囲気ゲーとしての魅力はここまでとして，一方で本作。
　謎解き要素が簡単なのかというと，決してそうでもない。

　難解なパズルの類こそ登場しないが，注意深く観察していないと見落としてしまうアイテムや，思いがけない解法が求められた仕掛けなどもあり，ラストにたどり着くまでに悩んだ場面はいくつもあった。

やるべきことはなんとなく分かるんだけど，そのためにはもう一つプロセスが必要そうで……そういった状況にしばしば遭遇する

使いたい器具にあるべきはずの“取っ手”が付いていない，なんてことはこの手の作品ではよくあること。問題は，本来の取っ手が見つかるかどうかだが……？

　作中にはヒント機能が（前述した日記のかけらほどのヒントを除けば）ないため，謎解きで行き詰ってしまった場合，サクサクと物語を体験したい人だともどかしい思いをするかもしれない。

　ただ，できることはそう多くはないので，根気よく周辺を調べたり，品々の使い道で試行錯誤を重ねていたりすると，解決の糸口がつかめるほどよいバランスになっている。知恵が回らなければ，根気としらみつぶしでカバー。華々しいものほど実際はそうして回っているものだ。

「これ拾えたのか！」「ここ行けたの!?」という具合に，急に突破口が開くことも。「なんだこんなことだったのね……」と思いがちなものほど，意外と気付けなかったりするもので

アイテム同士を組み合わせて新たな物を作成……といった脱出ゲームあるあるなシステムはない。おかげで複雑さはないけれど，意外な活用法を前にするとひらめきが必要となることも

予想だにしなかった物語展開
それこそが，この作品の醍醐味

　遅ればせながら，本稿ではネタバレに配慮しているが，実は本作。
　終始，農場での穏やかな時間の流れのなかで謎解きを続ける構成にはなっておらず，シナリオは途中から怒涛の展開を見せてくる。

　その想像を超えるストーリーが，海外で称賛されている主だった理由の一つであり，このゲームの最大の見どころと言えるのだ。

　タイトルに「少女と“宇宙”の物語」とあるように，話は徐々に，SF要素が織り交ぜられた壮大なスケールのものへと移り変わっていく。
　この流れにはいい意味で驚かされたし，彼女の行く末も気になること請け合い。遊びはじめれば，数時間で最後まで進めてしまうだろう。

ある日，ルースの目の前に現れる宇宙船。1920年代という時代にそぐわないテクノロジーが登場してから，物語の色は一変する

白黒模様の「リュッケ」は，ルースが生まれたときからずっと面倒を見てきた大切な牛で，彼女にとってとりわけ大事な存在

リュッケら牛たちに，宇宙船が迫る！　牛と宇宙船の組み合わせはそれだけで心躍る

宇宙船で出会うのはまさかの宇宙人!?　謎解きもひと捻りが加えられたものに変化

　若くして両親に先立たれてしまったルースは，その悲しみを抱え，開放感のある山頂で，日々の生活に閉塞感を覚えながら生きてきた。
　そんな彼女の人生が，色も音もすべて塗り替えられていくこの物語は，生きづらさを感じている現代人にこそ，きっと響くはず。

　最後まで遊ぶのに必要な所要時間は2〜3時間ほど。小振りなボリュームで，風光明媚な眺めに癒され，すばらしいサウンドに心動かされながらのプレイは，他意のない“純粋な雰囲気ゲー”として成立しており，最後に噛みしめるような思いになる物語への情緒を感じさせてくれる。

　少女と宇宙のストーリーがどのような顛末をたどるのか。
　気になった人はぜひ，その目で確かめてみてほしい。

「少女と宇宙の物語 Milkmaid of the Milkyway」公式サイト

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