
プレイレポート
[プレイレポ]1年の喪失から,1か月で立ち直れるか。「コーヒートーク」クリエイターの最後の作品「Afterlove EP」が描くもの
ありがたいことに,筆者はまだ大きな不幸には出会っていないが,それでも1〜2週間かそこらは塞ぎ込んだ経験がある。そういう時期は,自分自身と,目の前にある問題のことしか考えられなくなるものだ。取り繕うのが苦手な人は,本当に音信不通になってしまうこともあるだろう。
しかし,そのあいだにも時間は進んでいて,いつか無視していた事柄のツケを払うときが来る。それは勉強だったり,仕事だったり,友人関係だったりとさまざまだろう。取り返すには,その時間を過ごす以上の努力が必要になる。
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Fellow Travellerから本日(2025年2月14日)リリースされる「Afterlove EP」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch)は,大きな悲しみに直面して丸1年を放り投げてしまった主人公が,どうにかして“ツケ”を払うために奔走するアドベンチャーゲームだ。かつての仲間たちとの関係を修復し,自身が抱える悲しみと向き合い,立ち直っていく姿が描かれる。
本作は「コーヒートーク」などで知られるクリエイター,Mohammad Fahmi氏の遺作である。デベロッパのPikselnesiaは本作の開発にあたり立ち上げられたスタジオで,Fahmi氏の意思を継ぐ形で完成させたのだという。
これからプレイレポートをお届けするが,アドベンチャーゲームの性質上,どうしても一部のネタバレが含まれる。核心の部分は避けて,プレイフィールを中心に紹介しているが,ネタバレを気にする人は注意してほしい。
とりあえず序盤の流れと作品の雰囲気を知りたければ,Steamストアページからデモ版をダウンロードして遊んでみるのがオススメだ。
※本稿はFellow TravellerよりSteamキー(コード)の提供を受けています
「Afterlove EP」公式サイト
立ち直るまでのタイムリミットは1か月
若者が過去の悲しみと向き合う物語
物語の舞台となるのは,活気に満ちたインドネシアの首都ジャカルタ。才能ある若きミュージシャンのラーマは,恋人であるチンタの急死によって意欲を失い,すべてを投げ出してしまった。
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1年後,ラーマはついに前を向くことを決意するが,かつてのバンド仲間たちは新しい生き方を見つけようとしていた。時間や意識のギャップは簡単には埋まらず,悲しみを振り切っていないラーマと仲間とのあいだには,どこかぎこちない雰囲気が漂ってしまう。
そこで立ち上がったのが,1か月後に開催されるライブの出演計画だ。話し合いの結果,練習を重ねて成功を収められたらバンド活動を継続。ラーマが過去に縛られたままなら解散,という状況になる。
果たして,ラーマは再び仲間の信頼を得て,バンドを続けられるのか――。これが本作のあらすじとなる。
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ここで,1つの疑問が浮かんでくる。悲しみを引きずり続けているラーマが,なぜ「バンドの再始動」という大きな決断を下せたのだろうか。
それは,ラーマの“頭の中”にチンタが住んでいたからだ。チンタはまるで生きているかのようにラーマに語りかけ,ラーマも実際に声を聞いているかのように応答する。バンドの再結成に向けて動き出すことができたのはチンタのおかげだが,それによってラーマは悲しみから脱せないままでいるのだ。
この声は,ラーマが自分を守るために作り上げた想像の産物なのか,それとも幽霊になった恋人がラーマを見かねて助けに来てくれたのか。いずれにせよ,立ち直るためには頭の中に住む恋人との接し方も考えなければいけない。
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このように文章でストーリーを表現すると,重苦しさを感じるかもしれないが,ゲームの雰囲気は比較的明るい。Soyatu氏が手掛けるキャラクターデザインは全体的にポップな印象があり,漫画風の会話シーンも相まってジメジメとしたイメージはない。
登場人物の多くは明るく開放的で,会話するほどにみんなが好きになっていく。とくにバンドメンバーのターシャとアディットの振る舞いからは,かつてのバンドが理想的な姿だったことがうかがい知れる。2人は自分の道を歩みつつも,ラーマの復帰をしっかりと喜んでくれているのだ。
それだけに,1年間のギャップの大きさが強く感じられる場面は心に来るものがある。ラーマは自分の記憶に残る“1年前の仲間”に対して語りかけているが,実際の仲間たちはラーマがいない1年を過ごしたあとなのだから。
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それに加えて,頭の中に響くチンタの声が状況をかき回してくる。ラーマは(当然ながら)チンタのことを隠しているが,同時に彼女を“想像の産物”として扱うことを本能的に拒否しているため,彼女の存在が仲間とのディスコミュニケーションにもつながってしまう。
これまた難しいことには,チンタは常にラーマの味方をし続けるワケではないということだ。ラーマが言いすぎてしまったときは咎めるし,新しいコミュニケーションを取る勇気を後押ししてくれる。
正直なところ,本作の開始当初は「ラーマは自分にとって,都合のいい妄想に振り回されているのでは?」といった見方をしていたのだが,チンタが発する言葉は“実在感”が非常に強く,プレイヤーにもそれが何なのかが分からなくなってくる。このもどかしさこそ,ある意味で本作最大の魅力なのかもしれない。
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悲しみから立ち直るためには,新しい出会いに目を向けることも必要だ。ラーマはジャカルタの街を自由に探索できる。1日は昼と夜に分割され,時間によってできることが異なるので,いろいろな場所を巡ってみよう。
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単に出会った人々と会話をするだけではなく,路上で歌ってステージのリハビリをしたり,セラピーに通って自分と向き合う時間を作るのも悪くない。ライブまでの1か月にどんな生活をするべきかは,自分なりに考える必要がある。
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毎週金曜日はライブの練習をすることになるが,そうした場面ではリズムゲームが展開される。難度はそれほど高くなく,いわゆるスコアのようなものも存在しない。1つの演出として楽しむのがいいだろう。
サウンドは地元インドネシアのインディーズバンドであるL’Alphalphaが担当していることもあり,どの楽曲もキャラクターのイメージにピッタリだ。練習のたびにラーマが用意する新曲も,本作をプレイする楽しみの1つだろう。
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Afterlove EPはシンプルでありながら,答えのない問答と向き合う物語を描いている。ただ重苦しいだけでなく,それを普通の生活に寄り添った形で描く本作は,誰にとっても一定の実感を持って受け止められる内容になっていると思う。
ラーマのような体験をしていなくとも,ちょっとしたきっかけで「周囲と感覚が噛み合わない」「みんなと同じ方向を向けない」と感じたことがある人は少なくないはず。そのような経験に何かしらの答えを求めている人は,本作からヒントを得られるかもしれない。
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「Afterlove EP」公式サイト
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- リズム/ダンス
- Fellow Traveller
- Pikselnesia
- プレイ人数:1人
- PS5:Afterlove EP
- PS5
- Xbox Series X|S:Afterlove EP
- Xbox Series X|S
- Nintendo Switch:Afterlove EP
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- ライター:蒼之スギウラ

商標:(C)2021 PT Pikselnesia Atma Fantasi。 版元: Fellow Traveller(R)。 Fellow Traveller は Surprise Attack Pty Ltd によって Fellow Traveller Gamesとして商標登録されています。 すべての権利は著作権者に帰属します。
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