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印刷2025/03/21 21:39

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[GDC 2025]HoYoverseが語る「崩壊:スターレイル」のデザイン哲学――RPGを“プレイアブルなフィクション”として再発明する

 「崩壊:スターレイル」(Honkai: Star Rail)は,2024年12月に開催されたThe Game Awardsで「Best Mobile Game」を含む3つの主要賞を受賞した。そのリードゲームデザイナーであるChengnan An氏が設計哲学と開発過程を,アメリカのサンフランシスコで開催中の「Game Developers Conference 2025」で語ったので,レポートしていく。

Chengnan An氏
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“プレイアブルなフィクション”というビジョン


 「'Honkai: Star Rail': Reimagining RPGs for Mass Audiences and Broad Appeal」と題された講演の冒頭,An氏は自身が「ゲームプレイアーキテクト」と「コンテンツプランナー」の役割を持つと言った。

 また「崩壊:スターレイル」は単なる物語/ゲームではなく,“プレイアブルなフィクション”と位置づけており,この作品を生み出す過程では3つの原則が重視されたという。

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 第1の原則は「没入感(Immersive)」だ。プレイヤーに物語を観せるだけでなく,その一部となれるような演出に注力した。
 第2の原則は「単純さ(Simple)」だ。プレイヤーがすばやくゲームに入り込み,楽しみ続けられるよう心がけた。
 そして第3の原則が「拡張性(Expandable)」だ。ここでは,プレイヤーが常に新しい要素を期待できるよう設計したという。

 これらの原則は「崩壊:スターレイル」全体の設計思想として,「Satisfying Combat」(満足感のあるバトル),「Imaginative Universe」(想像豊かな宇宙),「Regular New Content」(定期的な新コンテンツ)という3つの柱に具現化された。


バトルシステム設計の背景


 An氏はまず,崩壊シリーズ作品の「崩壊3rd」(Honkai Impact 3rd)と「崩壊:スターレイル」のバトルシステムの違いに言及した。

 「崩壊3rd」は攻撃ボタンをタップしてコンボを決める,一般的なアクションゲームであるが,「崩壊:スターレイル」はターン制バトルながらも,スキルを細分化しつつ速いペースを維持することで,アクションゲームの“ような”体験を提供しているという。

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 バトルの没入感を高めるため,An氏のチームはアートと科学/技術の両面からアプローチした。キャラクターモデルのポリゴン数は「崩壊3rd」が1〜2万だったのに対し,4万に増加。とくに“顔だけに1万以上のポリゴン”を割り当て,より豊かな感情表現を可能にしている。

 さらに,アニメーション制作には映画のようなストーリーボードを導入した。会場では「Fire Blast」攻撃のもととなったストーリーボードが示され,戦闘アニメーションを映画のワンシーンのように設計することで,視覚的に魅力的な体験を実現したと解説された。


理想と現実のギャップを埋める――バトルシステム改良の過程


 講演の中でとくに注目を集めたのは,バトルシステム開発における試行錯誤の過程だ。「プレイヤーがプレイを始めなければ,私たちのハードワークは意味がない」との言葉とともに,An氏は当初構想していた「弱点ブレイクQTE」システムの限界を率直に述べた。

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 「Original Idea VS. Reality」と題されたスライドでは,当初計画していたシステムの3つの問題点――限定的な条件がプレイヤーの選択肢を制限すること,キャラクターとタイミングが合わないこと,そして選択が強制的に感じられることが明示された。

 敵の弱点を破ったあと,プレイヤーがさまざまなキャラクターから行動を選択できるシステムについては,赤髪の「姫子」による攻撃,黄色い髪の「フック」による別の攻撃,そして「ナターシャ」というヒーラーが自分自身を回復させる様子が会場で示された。

 An氏はこれに対し「このアイデアは紙の上ではよさそうに思えましたが,実際には単調で,不必要な選択を強いるものでした」と語る。

 この問題を解決するため,開発チームはシステムを「フォローアップアタック」(Follow-Up Attack)へと進化させた。これはターン順を無視して自動的に発動する追加攻撃システムで,敵の弱点を破る,HPが50%以下になるなど,特定の条件を満たすと発動するものだ。

 デモ映像では,プレイヤーの1回のクリックから始まる連鎖的な攻撃の流れが示された。ヘルタの攻撃が敵のHPを半分以下に下げ,それが彼女自身のフォローアップアタックを発動させ,さらに敵の弱点を破壊して姫子のフォローアップアタックも誘発するという連鎖反応だ。

 このように,より多様で戦略的なバトル体験を実現しつつ,プレイヤーにとっては簡単に操作できるシステムを完成させたと説明された。


想像力豊かな宇宙の創造。ピノコニーの世界設計


 講演の後半は,ゲームの世界観構築に焦点が当てられた。
 An氏は「崩壊:スターレイル」が現在5つの世界を持つことに触れ,その1つである「ピノコニー」(Penacony)を紹介。「Golden Hour」と呼ばれるピノコニーのエリアを映したトレイラーも流された。

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 ピノコニーをデザインする際,「グラマラスな都市」と「夢」というキーワードがとくに重要だったという。

 「グラマラスな都市」のコンセプトは,鮮やかな青と金を基調とした都市風景のコンセプトアートで示された。ビンテージスタイルの建物が現代的に発光する雰囲気が,独特の美学を形作っている。
 An氏によれば,これらは単に美しい都市を作るだけでなく,“プレイアブルな都市”を目指したのだという。

 通常,都市は生活する場所で,楽しみたいときはテーマパークのような別の場所に行くものだが,An氏のチームはその2つの概念を融合させようとした。人間サイズのカプセルトイマシンや,ピンボールマシンのように移動できる通勤システムなど,ユニークな遊び要素がそれだ。

 「夢」というコンセプトについては,「Dreamscape」(夢の風景)と題されたスライドで,重力の変化や壁を歩ける機能が紹介された。
 壁は通常,キャラクターの移動を妨げるものだが,ピノコニーでは新しい場所へのアクセスを提供する橋として機能する。映像でも,キャラクターが小さな泡を使って壁に乗り,地上にいるかのように宝箱を開けたり,オブジェクトを壊したりする様子が示された。

 このほか,錯覚を利用したパズルやテレビに触れることで特殊能力を持つキャラクターに変身する機能など,夢をテーマにしたさまざまな遊び要素があるそうだ。


世界の活性化。「黄金小路」復興イベントの事例


 講演はさらに,「仙舟『羅浮』」(Xianluofu)にある「金人巷」(Aurum Alley)という地域の活性化イベントの紹介へと移った。

 「Before」の映像では,暗く寂れた通りに人影はまばらで,活気がない。「After」の映像では,同じ場所が明るく彩られ,人々でにぎわう活気ある市場へと変貌している。このイベントの目的は,かつて栄えていた市場を復活させることだという。

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 具体的なゲームプレイとして,「Inventory Arrangement」(在庫整理)と「Logistics Planning」(物流計画)という,2つのミニゲームが紹介された。プレイヤーは商人の在庫整理を手伝ったり,鳥型ドローンを使った物流計画を立てたりして,街の配送システムの効率を上げていく。各ミニゲームをクリアするごとに,黄金小路はより活気づき,生き生きとしていくという仕組みだ。


継続的なコンテンツ更新の仕組み


 「映画は1つのストーリーを提供しますが,私たちはTVシリーズのように定期的に新しいシーズンを届けています」というAn氏の言葉とともに,本作のライブサービスゲームとしての側面が説明された。

 会場では,V1.0(リリース時),V2.0(ピノコニー実装),V3.0(最新版)の各時代のビジュアルが提示された。
 リリース時には2つの世界を用意し,バージョン2.0で「ピノコニー」,最新バージョンで「オンパロス」という新世界を導入した。

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 バージョン3.0で導入された「記憶」(Remembrance)という新パスについても紹介された。キャラクターが「メモスプライト」と呼ばれるクリーチャーを召喚してバトルをサポートする能力や,「シミュレーション宇宙」(Simulated Universe)の更新,さまざまなミニゲームの追加など,バージョン3.0でもかなりの新要素を実装したという。

 An氏は,コンテンツが増えるにつれてプレイヤーの負担が増す可能性についても言及。更新が重なるにつれ,レベルアップやアイテム取得をより簡単にし,新規プレイヤーが以前のストーリーを終わらせなくても新しいコンテンツにアクセスできるようにするなど,各自のペースでゲームを楽しめるような改善が行われているとのことだ。


設計哲学からゲームの未来へ


 講演の最後には,活発な質疑応答が行われた。
 コンテンツ開発チームの規模については「全体では数百人」,アート資源の優先順位付けについては「プレイヤーに最高の体験を提供するための配分」という回答があった。システムの永続性の判断基準や,ガチャシステムとゲームバランスの関係についても質問が寄せられ,An氏はアクセシビリティを重視する設計姿勢を強調した。

 新世界の開発期間についての質問には「コンセプト化から発売まで12か月以上かかる」との回答があり,銀河を舞台にしたストーリーとして,プレイヤーに多様な惑星体験を提供する意図も語られていた。

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 最後にAn氏は,「崩壊:スターレイル」は5年の歳月をかけた情熱的なプロジェクトであり,より広いオーディエンス向けにRPGを再定義する,というビジョンに導かれた作品だと語った。
 没入感,シンプルさ,拡張性という3つの原則がゲームのあらゆる側面を導き,プレイヤーがすぐに没頭し,時間をかけて新しい体験を発見し続けられる。そうしたゲームを完成させたという。

「4月には2周年を迎えます。まだお見せしたいことがたくさんあります。トレイルブレイザーの皆さん,崩壊:スターレイルの旅にぜひご参加ください。この旅が順風満帆でありますように」

 「崩壊:スターレイル」はゲームの枠を越え,HoYoverseの“プレイアブルなフィクション”という革新的なアプローチによって,RPG設計の新たな可能性を示しているのかもしれない。

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