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ウズ - マーダーミステリーアプリ
  • 発売日:2021/07/09
  • 価格:基本プレイ無料+アイテム課金
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人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは
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印刷2022/05/03 12:00

インタビュー

人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは

マーダーミステリーアプリ「ウズ」
画像集#014のサムネイル/人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは
 マーダーミステリーが日本で知られるようになって,はや3年ほどが経過した。当初は専門店などで対面で遊ぶのが主流だったが,コロナ禍における緊急事態宣言の影響を受けて,今ではオンラインでのプレイ環境が整い,多くのプレイヤーがオンラインでマーダーミステリーを楽しんでいるのが現在の状況である。
 そんな中,スマートフォンで遊べるマーダーミステリーとして活況を呈しているアプリに,Sallyが開発を手がけるマーダーミステリーアプリ「ウズ」iOS / Android)がある。さらに2021年7月は,制作者向けのシナリオ作成ツール「ウズスタジオ」のβ版も公開され,その人気に拍車がかかった印象だ。

 構造上,一度プレイしたシナリオは二度とプレイできないマーダーミステリーは,常に新作のシナリオが求められることもあり,多くのシナリオが集まるプラットフォームほど人が集まるのは当然である。ただ,その中でも「ウズ」と「ウズスタジオ」が利用者からそれほどまでに支持されるのにはどんな理由があるのか。
 今回4Gamerでは,プレイヤーネーム“レゼ”としても知られるSallyの代表取締役CEO・平石英太郎氏に話を聞いてみることにした。また「ウズ」のコミュニティを代表して,「交差する星のきらめき」などで知られるシナリオ作家・ささわか氏にも同席いただいている。
 「ウズ」の人気の秘密を解き明かしていくインタビュー,マーダーミステリーファンはぜひご一読いただきたい。

Sally 代表取締役CEO 平石英太郎氏
画像集#011のサムネイル/人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは

マーダーミステリーアプリ「ウズ」公式サイト



必要から生まれた「ウズ」と,必然から生まれた「ウズスタジオ」


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。スマートフォンで楽しめるマーダーミステリーとして人気を集めている「ウズ」ですが,開発の発端は何だったのでしょう。

平石英太郎氏(以下,平石氏)
 プレイヤーが集まるだけで遊べるようにできないかと考えたのが,そもそものスタートでした。当時は友人に誘ってもらったDiscordのサーバーで,そこで募集される卓に参加していたんですが,募集から数分で枠が埋まってしまうことが多くて。

4Gamer:
 プレイヤーの人数に対して,ゲームマスター(以下,GM)の数が不足していたんですね。ちなみに,それはいつ頃のお話ですか。

平石氏:
 最初にマーダーミステリーを遊んだのが……2020年の7月だったと思います。もう強烈に面白くて,連日連夜オンラインで遊んでいました。「ウズ」の開発を始めたのは,その1か月ほど後だったと思います。

4Gamer:
 ものすごくフットワークが軽いですね。

平石氏:
 ベンチャーキャピタルの出資を受け,大学在学中に起業したので,すでに環境が整っていたのが大きいと思います。正式なスタッフは私を含めて2人だけで,外部の人に副業で手伝ってもらったり,学生に参加してもらってる小さい会社ですけど。

4Gamer:
 リリースが確か2021年4月ですよね。ということは開発期間は……。

画像集#010のサムネイル/人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは
平石氏:
 正式なリリースはそうですがストアに並んだのは2020年10月なので,開発期間で言えば2〜3か月ですね。とはいえ,開発はCTOであるもう一人のスタッフに任せっきりで,自分は毎日マーダーミステリーを遊ぶ係でしかありませんでしたけど(笑)。

4Gamer:
 そうなんですね(笑)。

平石氏:
 とはいえマーダーミステリーというゲームへの知見はそこで鍛えられましたし,卓を囲んだ参加者から意見を聞くこともできたので,意味はあったと思っています。感想戦のときに「今,こんなアプリを開発しているんですけど〜」という感じで。

4Gamer:
 在学中に起業されたとのことですが,なぜ起業しようと思い至ったのでしょうか。「ウズ」を手がけるまで,どんな事業をされていたんですか。

平石氏:
 世の中を良くすることに時間を使いたかったんですよね。「ウズ」を始めるまでは,Zoom飲みをしながらカジュアルなゲームが遊べるサービスや,旅館のオペレーションを最適化するサービスなんかをやっていました。いろいろ手を出しましたが,正直どれもあまり手応えがありませんでした。理由は単純で,そのサービスを求めているユーザーが少なかった……のだと思います。

4Gamer:
 でも,「ウズ」はそうでなかった?

平石氏:
 はい。ニーズがあるのは実感として分かっていましたし,何より自分自身が使いたいサービスだったので。「ウズ」のスタッフも全員ボードゲーム好きで,人狼ゲームなどをよく遊んでいました。そんな風に身近だったのも,「ウズ」が成功した要因の一つなんじゃないかと思っています。

4Gamer:
 なるほど。現時点で成功と言えるくらい,好調なんですね。

平石氏:
 以前の事業に比べると,比較にならないくらい成功だと思います。ダウンロード数で言えば,iOSとAndroid合わせて7万ほどありますし,月間のアクティブ数が2万人ほどなので,毎日300〜400回はシナリオが遊ばれている状況です。

4Gamer:
 登録シナリオ数は,今どのくらいあるんでしょうか。

平石氏:
 現時点(※インタビューの収録は4月12日)では165本のシナリオが登録されています。月に10本以上は増えているので,王道の推理ものからコメディ風,それからいわゆる“エモ”なものまで,多様なものが揃っていると思います。

4Gamer:
 ささわかさんは「ウズ」を触ってみていかがでしたか。

マーダーミステリー作家のささわか氏
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ささわか氏:
 プレイヤーの募集から,実際のプレイ,感想戦まで,すべてがスマホで完結するのがいいですね。オンラインなのでご時世的な気兼ねもないですし,遊びたいと思ったときにすぐに遊べるのが魅力だと思います。募集からゲーム開始まで,30分ほどあればできちゃうので。

平石氏:
 私の場合,対面でのオフラインプレイでも「ウズ」を使って遊ぶことがあるくらいです。カードが遠くて文字が読みづらいということがないですし,立ち上がったり移動したりする必要もない。準備も楽だし,よくソファに寝そべって遊んでますね。

4Gamer:
 マーダーミステリーを題材にしたアプリはほかにもありますが,それらと比べて「ウズ」が優れているのは,どんなところなんでしょう。人気の秘密といいますか。

平石氏:
 「ウズ」を開発するにあたって,先行アプリをいくつか触ってみたんですが,個人的にあまりしっくりこなかったんですよね。GMレスを謳いながら,進行が分かりにくかったりとか。
 あとは,ほかのアプリでは実現できないギミックのシナリオも,「ウズ」なら実現できるところが強みだと思います。機能追加が比較的気軽にできるので,シナリオ作家さんからの要望を反映しやすいんです。

「ウズ」プレイ中の画面(※ネタバレにならないようモザイクを加えています)
画像集#017のサムネイル/人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは 画像集#016のサムネイル/人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは

4Gamer:
 確かに,それは大きいですね。

平石氏:
 最近は中国産のアプリも入って来ていますが,本国でのDAU(Dayly Active User)が100万人越えと言うだけあって,さすがにUIやUXが洗練されていると思いました。「ウズ」も見習わなければと思っているところです。一方で,シナリオの傾向は日本と海外で異なるように感じます。やっぱり日本は,ガラパゴス化が得意なのかもしれません(笑)。

4Gamer:
 いわゆるスマホゲームなどと比べると,マーダーミステリーの市場はそこまで大きくないように思います。事業をここにフォーカスしていくことにリスクは感じませんか?

平石氏:
 まだ黒字化できているわけではありませんが,出資者の理解は得られているので,今のところは好きにやらせてもらっています。将来性を見込んでくれているんだと,前向きにとらえています(笑)。

4Gamer:
 では,次に先頃β版の提供が開始された「ウズスタジオ」についてお聞きしたいのですが,ここれは具体的にどういったサービスなんでしょうか。

平石氏:
 一言で言うなら,「ウズスタジオ」はマーダーミステリー専用のエディタです。PCとスマホから利用できるWebアプリケーションで,キャラクターシートやオープニング,エンディング,投票などの設定項目を埋めて公開ボタンを押すと,すぐに「ウズ」で遊べるようになります。

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4Gamer:
 つまり,「ウズ」の登録シナリオを増やすための施策ということでしょうか。

平石氏:
 それもありますが,「ウズ」の利用者からの要望に応えたというのが大きいです。「自分もシナリオを作ってみたい」「それをウズに載せたい」という声が,とても多かったので。

4Gamer:
 確かにマーダーミステリーをプレイしていると,自分でも書いてみたくなるのもわかる気がします。

平石氏:
 また「ウズスタジオ」で作成したシナリオを,「ウズ」以外で使用しても,規約上まったく問題ありません。ご自身でパッケージ化して販売してもらってもいいですし,なんならほかのマダミスアプリで公開してもらっても大丈夫です。

4Gamer:
 それは太っ腹ですね。「ウズスタジオ」を利用するには,料金がかかるんですか?

平石氏:
 現状は無料でご利用いただけます。現在は専用のDiscordサーバーに加わっていただくことが参加条件なのでDiscordのアカウントが必要ですが,将来的にはこれも任意とするかもしれません。βテストということで,利用者の意見を収集するのが今のところの目的です。

4Gamer:
 Discordサーバーは自分も拝見しましたが,活発にコメントがやりとりされていて,まるでサロンのような雰囲気でした。ささわかさんは,「ウズスタジオ」で制作したシナリオを「ウズ」で公開されているとのことですが,実際の使い勝手はいかがですか。

ささわか氏:
 PCに疎い私でも使えるので,とても重宝しています。紙を切ってカードを作ったりしなくていい分,オフラインより楽ですし,ボタン一つでテストプレイできるのも助かります。

4Gamer:
 テストプレイの機能はいいですね。シナリオの完成度を高めるのに,テストプレイは欠かせない工程ですし。

ささわか氏:
 ええ。以前は友人に頼んでテストプレイをしていましたが,それも限界があります。今は「ウズスタジオ」のDiscordサーバーでテストプレイヤーを募れるので,そういう意味でも楽になりました。日程調整もしやすいですし。

平石氏:
 シナリオ制作者が集まるサーバーですので,単純にシナリオが面白いかどうかだけでなく,テキストの細かい言い回しやギミックの提案など,具体的なところまで含めた建設的な議論ができる場になっていると思います。
 また「ウズ」はゲームの進行をアプリが代替してくれるので,「ウズスタジオ」で手順に従ってシナリオを作成すれば,必ず遊べる状態で完成させられるというのもポイントです。以前は投稿されたシナリオを運営側で一度チェックしていましたが,「ウズスタジオ」ならその必要もなく,すぐに公開できます。

ウズスタジオ
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4Gamer:
 現在の「ウズスタジオ」はβ版とのことですが,機能追加も順次行われていくと考えていいのでしょうか。

平石氏:
 はい。実際に先日のアップデートでは,BGMやボイスなどの音声ファイルが登録できるようになりました。これは利用者からの要望で実装したものです。以前はGMレスとはいえ,プロローグなどは誰かが読み上げなければならなかったのが,シナリオ側で用意しておけば,それも不要にできます。

4Gamer:
 なるほど……ちょっと疑問なのですが,「ウズ」で現在公開されているシナリオは,すべて「ウズスタジオ」で再現できると考えていいのでしょうか。機能的に欠けている要素というのは,まだ何かありますか?

平石氏:
 残念ながら,現状ではまだその域には届いていません。例えば,「ウズ」には投票フェイズが複数回あるようなシナリオもありますが,現状の「ウズスタジオ」でこれは再現できません。対応するとインタフェースがごちゃごちゃしてしまい,分かりづらくなってしまうからです。

4Gamer:
 ごちゃごちゃ……ですか?

平石氏:
 内部的な話をすると,ウズの各シナリオは「ウズ言語」という,ある種のスプリクト言語で実装されています。アプリの「ウズ」はその再生装置であり,「ウズスタジオ」はGUIを備えたスクリプトエディタです。なので複雑な条件分岐を含んだシナリオの場合,ウズ言語であれば簡単に実装できますが,「ウズスタジオ」で同じことができるようにするのは難しい。それがウズ言語と「ウズスタジオ」の違いになっています。

4Gamer:
 ああ,なるほど!

平石氏:
 我々としても,すべての機能を使えるようにしたいとは思っているので,今後も改善を続けていく予定です。大きくUIを改善した「ウズスタジオv2」の準備もしているので,ご期待ください。最終的には運営側も,「ウズスタジオv2」だけでシナリオが用意できるようになるのがゴールだと思っています。

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「ウズ」を支えるコミュニティの熱量


4Gamer:
 ここからは,先ほども話題に挙がったDiscordサーバを中心とした「ウズ」のコミュニティについて聞いてみたいと思っているのですが……その前にささわかさんご自身について,少し聞かせてください。ささわかさんは「ウズスタジオ」で制作した作品を「ウズ」で公開しているそうですが,それはどんなシナリオなんでしょうか。

ささわか氏:
 現在公開しているシナリオは4本あるんですが,最新作の「本日のDINNER」は,今晩の夕食で悩んでいる男性がテーマのシナリオになっています。あとは「あなた、隠してる事あるでしょ?」「イタズラしたのは誰!?」の2本も,「ウズスタジオ」で制作したものになります。

4Gamer:
 「あなた、隠してる事あるでしょ?」は2人用,「イタズラしたのは誰!?」は推理要素の低めの協力型と,いずれもマーダーミステリーの枠にとらわれない,ロールプレイが楽しいタイプの作品ですね。ちなみにマーダーミステリーのシナリオを書くようになったのは,どういうきっかけだったんですか。

ささわか氏:
 私の場合はちょっと特殊だと思うんですけど……マーダーミステリーというものを最初に知ったのが,とある配信番組だったんですね。それで友人と一緒にプレイしたいと思ったんですが,いきなり店舗に行ってパッケージを購入するのは,ちょっとハードルが高くて。

4Gamer:
 確かに割り勘ができないと,お値段はちょっと張るかもしれないですね。

ささわか氏:
 そうなんです。それなら自分で作っちゃえって……だから最初にシナリオを作ったのは,マーダーミステリーを遊ぶより前だったんです。

画像集#015のサムネイル/人気のマーダーミステリーアプリ「ウズ」は,どこから来てどこに向かうのか。開発元とシナリオ作家が語る,その魅力とは
4Gamer:
 えっ,それはすごいですね。

平石氏:
 私も初めて知りました。

4Gamer:
 ほかのボードゲームや,あるいはテーブルトークRPGのゲームマスター経験があったとか? 

ささわか氏:
 ボードゲームは元々好きでしたが,テーブルトークRPGの経験はありませんでした。もちろん,その後は普通にマーダーミステリーを遊ぶようになったので,オフラインやオンラインに関わらず,いろんなシナリオをプレイしていますけど。

4Gamer:
 その最初に作ったシナリオというのを,ぜひプレイしてみたいですが(笑)。ともあれ,最初はオフラインでのプレイから始められたんですね。

ささわか氏:
 最初のシナリオは,絶対に公開したくないです(苦笑)。確か最初に遊んだのは……Rabbitholeさんの「懺悔輪舞曲」だったと思います。オンラインで遊ぶようになったのは,「ウズ」を知ってからですね。

平石氏:
 「ウズスタジオ」の参加者アンケートを見る限り,やっぱり圧倒的なのは“プレイヤーとして遊んでいるうちに,自分でも制作したくなった”タイプの作家さんだと思います。執筆経験についての回答の85%ほどが,「今回が初めて」もしくは「現在執筆中」でしたので。ささわかさんのケースは,かなり特殊だと思いますよ。

4Gamer:
 ささわかさんは現在,「ふんわりホームズfromウズ」という企画に参加されているそうですが,これはどういうものなんでしょうか。

ささわか氏:
 「ふんわりホームズfromウズ」は,「ウズスタジオ」のDiscordサーバーからスタートした「ウズ」内のイベントです。基本的には複数の作家が同じテーマでシナリオを制作し,連作として発表していくという流れで,以前に「ウズ」内で開催されたイベント「怪盗団からの挑戦状」を踏襲したものになっています。

平石氏:
 「怪盗団からの挑戦状」は,どのシナリオにも怪盗が登場するんですけど,これが何かを1つずつ盗んでいくんですね。個々のシナリオではそれ以上は分からないのですが,すべてのシナリオをプレイすれば怪盗団が何をしているのかが見えてくる,そういった趣向でした。こっちは2021年11月に運営主導で行ったイベントですが,「ふんわりホームズfromウズ」は完全にコミュニティ主導なので,そこが一番の違いですね。

ふんわりホームズfromウズ
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ささわか氏:
 「怪盗団からの挑戦状」がすごく盛り上がった余波を受けてDiscordサーバー内で自然に持ち上がった企画が,「ふんわりホームズfromウズ」になりました。現在はゴールデンウィークの公開を目指して,制作が進行しています。

4Gamer:
 それはすごい。コミュニティ主導で企画が生まれるというのは,それだけ利用者の熱量が高いということですね。

平石氏:
 そうですね。企画の立ち上げからシナリオの執筆,イラストの制作,全体の進行管理,イベント用Twitterの運営と,裏方まで含めれば20名超のチームで動かれていて,すでに「怪盗団からの挑戦状」を上回る規模になっていると感じます。

4Gamer:
 運営側としては,何か手伝ったりとかは?

平石氏:
 ごく簡単な,事務的なお手伝いはしていますが,それ以外は何もしていません。Discordサーバー内での動きがかなり活発で,今では進捗報告の会議を毎週されていたり,いつの間にかマスコットキャラクターやパンフレットまで完成していたりと,手伝うまでもないという印象ですね。

4Gamer:
 なるほど。開発者冥利に尽きるという感じですね。

平石氏:
 はい。Discordサーバーを設置したのは我々運営側ですが,その存在が見えなくなるくらいに利用者に活用してもらえるなら,それが一番だと思っています。ここは一体,誰が運営しているんだというくらいに。

4Gamer:
 ではちょっと角度を変えた質問になりますが,「ウズスタジオ」やそのコミュニティから生まれたシナリオの中で,とくにオススメできる代表作というと,何があるでしょうか。

平石氏:
 まず,ささわかさんの「交差する星のきらめき」は,代表作の一つに数えていいと思います。「ウズ」にはプレイ後に感想が書ける機能があるんですが,同作の評価はトップクラスです。
 また勢いという意味では,たぶき屋さんの「プロジェクト・ジェミニ」も人気ですね。ランキングでも2位につけていて,公開から3週間で1000人以上に遊ばれています。

「プロジェクト・ジェミニ」
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4Gamer:
 それはすごい。そこまで評価が高いんですね。

平石氏:
 はい。とくに「交差する星のきらめき」はその評価の高さもあって,運営チーム主導でパッケージ化も進んでいます。マーダーミステリー関連の出版を手がけている週末倶楽部さんの協力もあって,商業作品としてリリースできることになりました。

4Gamer:
 おお。「ウズスタジオ」から商業作品が生まれるというのは,利用者としても夢の溢れる話ですね。ささわかさんご自身としては,どんなお気持ちですか。

ささわか氏:
 まだ制作中で実物を手に取ったわけではないので,現実感が薄いというのが率直なところです。でもオンラインだけでなくオフラインでも遊べるようになり,プレイしてもらえる機会が増えるのなら,とても嬉しいですね。

平石氏:
 同作はマーダーミステリーの枠を飛び越える可能性を秘めたタイトルだと思っているので,ぜひもっと広い層に遊んでほしいと思っています。将来的には街のお店の棚に「ウズ」発の作品が並んで,気軽に手に取ってもらえるようにしていきたいです。

4Gamer:
 「交差する星のきらめき」が,その先駆けになるわけですね。

平石氏:
 はい。また「ウズスタジオ」で作られたシナリオでこそありませんが,「ウズ」の人気シナリオであるコノハナストーリーさんの「アリーアンドログ」も,パッケージ版が4月23日に発売となります。「ウズ」で作品を発表すれば,いずれは量販店やAmazonなんかで買えるようになるかもしれない。そういう期待を,後続の作家さんにも持ってもらえたら嬉しいですね。

コノハナストーリーによる2人用マーダーミステリー「アリーアンドログ」。事故で記憶を失ったカップルが,住んでいた部屋で見つけた日記帳をめくりながら今後を相談しあうという,一風変わった物語が展開される
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4Gamer:
 ささわかさんとしては,これからシナリオを書いてみようという人に向けたアドバイスが何かありますか?

ささわか氏:
 そうですね……シナリオを書こうと思った以上,何か書いてみたい題材があるはずなので,まずはそれを形にすることが大事なんじゃないでしょうか。例えば私が「あなた、隠してる事あるでしょ?」を書いたのは,夫婦の修羅場というか,プレイヤー同士が言い争っているところが見たいと思ったのがきっかけなので(笑)

こちらも2人用のシナリオとなる「あなた、隠してる事あるでしょ?」は,帰宅した夫に向けて妻が放った「あなた,私に隠してる事あるでしょう?」という一言からゲームがスタートする
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4Gamer:
 題材というのは,そういうものでいいんですね(笑)。

ささわか氏:
 私のシナリオは,どれもマーダーミステリーというより会話自体を楽しむようなつくりなんです。なので三つ子に振り回されるお母さんとか,晩ご飯を何にするかという悩みとか,身近なものを題材にすることが多いですね。ただ,書きたいものが明確なら制作作業も捗りますので,まずはそこを見つけることが大切です。

平石氏:
 執筆に行きづまったときは,Discordに相談用のチャンネルもあるので,気軽に相談してみるといいと思います。きっと色んな人が答えてくれると思いますよ。

ウズスタジオのDiscordサーバーの様子
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「ウズ」が指し示す,マーダーミステリーの未来とは


4Gamer:
 「ウズ」と「ウズスタジオ」の現状は概ね分かりましたので,次は未来の話をお聞きします。現状では黒字とまではいかない状況とのことですが,今後はやはり黒字化を目指すことになるのでしょうか。

平石氏:
 黒字になればもちろん嬉しいですが,今はまだ“種を撒く”フェイズだと思っているので,そこまで具体的には考えていません。むしろ利用者を増やすことで,マーダーミステリーという遊びを広げることが大事だと思っています。
 例えば最近で言えば,YouTuberの東海オンエアさんがマーダーミステリーの動画を出されたことで,「ウズ」のプレイヤーが急激に増えたことがありました。そういう風に,マーダーミステリー入門者の受け皿に「ウズ」がなってくれたら,と思っています。


4Gamer:
 入門者の受け皿ですか。

平石氏:
 はい。一昔前に,アプリで遊ぶ人狼ゲームが流行ったじゃないですか。学生の頃,私もあれにハマり,放課後に部活そっちのけでプレイしていたクチなんですが,ああいう感じで「ウズ」が広まってくれたらいいな,と。

4Gamer:
 利用者をより増やしていく施策というのは,具体的に何か考えているのでしょうか。

平石氏:
 まず既存IPとのコラボレーションやタイアップといった定番の施策は,今後「ウズ」でもやっていきたいと考えています。詳細はまだ話せませんが,今まさに準備を進めているところですので,楽しみにしていただければと。
 あとはやっぱり実況配信でしょうか。先の東海オンエアさんの件もありますし,YouTuberの方とのコラボで動画を出していくといったようなことは,積極的にやっていきたいです。

4Gamer:
 一度しか遊べないというマーダーミステリーの特性からすると,実況配信との相性はあまり良くないのでは?

平石氏:
 確かにそういう側面はありますが,人口を増やすためには実況配信はやはり欠かせません。配信で「ウズ」の遊びやすさや配信フレンドリーな部分を知ってもらって,さらに自分でもプレイしたくなるような動画が理想ですね。ただ,これはまだ少し先の話になるかもしれません。

4Gamer:
 配信フレンドリーという意味では,複数の視点を切り替えながら観られるような,何かそういった工夫があると良さそうです。

平石氏:
 マーダーミステリーの本場である中国では,「明星大偵探」というマーダーミステリーをテーマにしたテレビ番組が2016年から放映されていて,マーダーミステリーアプリのメーカーがスポンサーになっていたりもするんです。日本でも「マーダー☆ミステリー 〜探偵・斑目瑞男の事件簿〜」や,「夜の蛙は眠らない」など面白い試みがなされているので,観るエンタメとしてのマーダーミステリーというのも,まだ可能性が眠っていると感じています。

4Gamer:
 例えばですが,リアルのイベントのようなものは考えていないのでしょうか。

平石氏:
 変わりどころとしては「毛玉の家」という企画が動いていまして……ちょっと説明が難しいんですが,これは「ウズ」に2日間だけ公開されて取り下げられた「毛玉の家」というシナリオがあって,それをこっそりプレイしたい人は横浜の日吉にある作者の自宅に来てください,という導入で始まるオフラインイベントなんですね。
 会場は築80年の本物の民家なんですが,松の枯木なんかがあってすごく雰囲気いいんですよ。その家主がシナリオの制作者で,自宅に人を集めてゲームマスターをやる……という体(てい)の公演型マーダーミステリーです。

「毛玉の家」
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4Gamer:
 それは面白そうですね。「ウズ」の運営側から仕掛けたイベントなんですか?

平石氏:
 運営側としては,民家を借りたり備品を準備したりといった支援の形での関わりで,企画自体は持ち込みです。支援は弊社の得意とするところですので,こういった企画の持ち込みも,ぜひ気軽に相談してほしいですね。

4Gamer:
 しかし,会社としてはあまり儲けにつながらなそうに思えますが……大丈夫なんですか?

平石氏:
 「ウズスタジオ」のクリエイターが活躍できる場所を提供するのが,運営側の使命だと考えているので。そこで培われた知見が「ウズ」に還元され,より良いプレイ環境が作られていくなら,それは我々にとってもメリットがあることだと思っています。

4Gamer:
 ランキング以外に,好みのシナリオを見つけやすくする機能などの予定はありますか。登録シナリオの数が増えてくると,良作が埋もれてしまったり,注目を集めにくくなってしまう懸念があると思うのですが。

平石氏:
 「ウズ」にはプレイしたシナリオを3段階で評価する機能がすでにあるんですが,これを利用して高評価を付けたものに類似したシナリオを,リコメンドする機能を追加する予定です。実は実装自体はもう済んでいて,今は精度向上のためのテストを行っている段階です。

4Gamer:
 なるほど。いろんな施策を考えてらっしゃるんですね。

平石氏:
 このほかにも推理小説家やテーブルトークRPGの作家さん達にお声がけしてシナリオを作ってもらうなど,さまざまな取り組みを検討しています。

4Gamer:
 期待しています。最後に,読者に向けたメッセージをお願いできますか。

平石氏:
 マーダーミステリーには,まだまだ秘められた可能性があると,私は思っています。単なる推理ゲームに留まらない,それでいて映画や小説にも引けを取らない,物語“体験”の装置としても成長できるんじゃないかと。Sallyとしても,その可能性を引き出すような取り組みをどんどん行っていくつもりなので,今後も応援していただけたら嬉しいですね。

ささわか氏:
 制作者の私としては,もちろん想定した筋書きというのは用意するわけですけど,プレイヤーがそれを超え,想定外の物語を生み出してくれるところに,マーダーミステリーの面白さがあると思っています。だから自分のシナリオを観戦するのが楽しいし,配信してもらえたらもっとうれしいです。

4Gamer:
 確かにささわかさんのシナリオなどを拝見していると,もはや“マーダー”の要素はほとんどないですものね。そうなってくると,マーダーミステリーという名前自体が,もはや適切でないのかもしれない。

平石氏:
 そうなんですよ。もちろん殺人事件をテーマにするのはキャッチーですし,王道ではありますが,それ以外の可能性というのもまだまだ眠っている。だから何かもっといい呼び方があればいいと思うんですが……何かないですかね?

4Gamer:
 そうですね……そこは今後の宿題ということで(笑)。本日はありがとうございました。



 Sallyでは,このほか「マダミス.jp」という,オフラインプレイヤー向けのシナリオ検索サービスも展開している(※2022年4月現在はβ版)。
 オンラインからオフラインへと,マーダーミステリーの遊び方が広がり続ける昨今,「ウズ」を初めとした同社の取り組みには,より一層の注目が集まることだろう。この場所から今後どんなシナリオが生まれ,どのように羽ばたいていくのか。今後の展開からも目が離せない。

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