連載
レトロンバーガー Order 49:オタク,怒って暴れろ! 未来を切り開くために! 「AVGN」ゲームのデラックス版が出たんだよ編
おうオタク! 最近ちゃんと怒ってっか!?
誰しも「怒り」を搔き立てられるものは何かしらありますが,近年の社会はクリーンさやフラットさを求める傾向が強いため,公に「怒り」を発露することが忌避されています。例えば「アンガーマネジメント」なんてものが謳われたりもしていますね。
実際のところ,昨今目立つ特殊なイデオロギーやファンダメンタリズムに依った社会への怒りを声高に叫んでいる人は,その大半がロジカルな思考を放棄した悪い意味での刹那主義であるように感じられます。これについて別の見方をすれば,シンプルな「怒り」の発露が憚られるようになったからこそ,正当性を持つための拠りどころが求められ,思想が局所集中することで先鋭化や短絡化,過激化が発生しているとも言えるのではないでしょうか。
ですが,「怒り」が世の中の不平や不都合を破壊してきたのも事実です。機動戦士は正義の怒りをぶつけますし,獲得者は熱き怒りの嵐を抱いて飛び出しますし,斬魔大聖は憎悪の空から来たりて正しき怒りを胸に機神咆吼です。ところで2019年発売と予定されていた斬魔大戰はいつ来るのでしょうか。怒ってはいませんが首はキリン並に伸び伸びののびのびBOYです。
のびのびはともかく,「怒り」に流されれば視野狭窄となり,しかし「怒り」を愚痴や冷笑で収めていたら何も変えられない。というわけで今回は「怒り」を改めて考えるべく,“怒ったオタクのレトロ感あるゲーム”でやっていきましょう。
2020年10月30日に発売されたばかりの「Angry Video Game Nerd I & II Deluxe」です。本連載で割と久々のレトロ“風”ゲームですね。
Dies irae, dies illa
「Angry Video Game Nerd I & II Deluxe」は,2013年に発売された「Angry Video Game Nerd Adventures」と2016年に発売された「Angry Video Game Nerd II: ASSimilation」を,グラフィックスなどを大幅強化&新要素追加のうえで1本にまとめたもの。発売はいずれもScreenwave Media,開発はFreakZone Gamesです。
もともとの「Angry Video Game Nerd」は,自主制作映画監督であるJames Rolfe氏が主演・制作した映像コンテンツでした。映画制作の傍らで手がけた短編VHSが,同氏の友人によってYouTubeにアップロードされたところ,人気となりシリーズ化したのだとか。内容を簡単に言うと「AVGN(怒れるゲームオタク)がレトロなクソゲーをこきおろす」もので,軽妙&痛快な暴言の吐きっぷりと,取り上げるネタや視点のマニアックさが魅力となっています。
ゲームの「Angry Video Game Nerd」シリーズは,基本的には「ロックマン」をオマージュしたようなアクションシューティングゲームです。ただレベルデザインは極悪で,「I Wanna be the Guy」や「Super Meat Boy」にも通じる部分を持った「死にゲー」となっています。「Angry Video Game Nerd I & II Deluxe」だと難度NORMAL以下は残機無限なうえ,単品版からリスポーンが高速化されているので,ズンズンガンガンAVGNをミンチにできます。
「Angry Video Game Nerd I」で舞台となるのは,クソゲーの世界(クソゲーって英語でも「shitty video game」と,ウ○コ的なニュアンスで呼ばれるんですねえ)。クソゲーをプレイしていたら友達がTV画面に吸い込まれ,自身もキ○タマを引っ張られてクソゲーの中に入り込んだAVGNが,ハンドガンを武器に……NES(北米版ファミリーコンピュータ)の周辺機器・Zapper(北米版「光線銃」)に酷似したハンドガンを武器に,ピクセルアートな世界を冒険していきます。
道中に落ちているバズーカ状の武器……スーパーファミコンの「スーパースコープ」に酷似したやつ……を入手すれば,射撃がパワーアップ。ダメージを受けると失ってしまいますが,それまで強力な弾を発射できます。
敵キャラクターは何というか,どこか見覚えのある連中がゴロゴロ出現。背景グラフィックスも1990年代を駆け抜けたゲーマーなら既視感バリバリのものがバシバシ出てきます。チュートリアルでは「ヘイ! リッスン!」と言ってくる4枚羽の発光体が話しかけてきたり,それを「うるせー!」とばかりに射殺することができたり。うん,「怒れるゲームオタク」どころか,AVGNが怒られてもおかしくないですね。まあ,これでいてPCとNintendo Switchで先行発売,後からPS4 / Xbox Oneでも発売と,「どこかから怒られる」どころかPC&全主要コンソールでリリースされるんですけど(なお日本国内での発売予定は今のところ無し)。
solvet saeclum in favilla
「I」では“ゲームの中”が舞台でしたが,「Angry Video Game Nerd II」では,宇宙から照射された怪光線の影響で現実世界にゲームが侵食。16bit状態となった世界を元に戻すべく,AVGNが戦います。
「I」では1つの長いラウンドが1エリアを構成していましたが,「II」は複数の短いラウンドが1エリアを構成する形に変更。要は「スーパーマリオブラザーズ」形式から「スーパーマリオワールド」形式へのシフトです。
エリアには日本風のところもあるのですが,そこは忍者が跋扈したり,人型ロボットが熱血パンチで飛んできたり,ボスが片耳にリボンを付けたネコチャン(っぽいオムニ社的な殺戮マシーン)だったりと,完璧に日本です。James Rolfe氏は怪獣映画の愛好家としても有名ですが,背景では恐竜が巨大化したような風貌の怪獣が,蛾っぽい怪獣や3本首の怪獣,自身と似た姿のメカ怪獣と戦っていたりします。セガマニアが見たら「ザ・スーパー忍」というタイトルが戦慄と共に脳裏をよぎる,素晴らしい情景です。
teste David cum Sibylla
「I」と「II」をクリアすると,最終章の「The Angry Video Game Nerd in Tower of Torment: The Final Chapter」がアンロックされます。このゲームモードでは,AVGNが因縁の相手との最後の戦いに挑みます。その因縁の相手とは!?(トレイラーでAVGNが倒してるけど!)
破天荒なゲームプレイと豊富なパロディを,ブラッシュアップされた環境で楽しめる「Angry Video Game Nerd I & II Deluxe」。これが世に送り出されたのも,James Rolfe氏がクソゲーに「怒り」を覚え,AVGNという映像作品を作り出し,そこで描かれた「怒り」が面白がられて支持を得たからこそです。
そう,大事なのは「怒り」を徒(いたずら)に発することでも,封じることでもなく,創造のエネルギーにしたり面白がったりして律すること! 胸に憤怒を抱くことは恥ずべきことではありません。むしろ憤怒があってこそ人は前へと進めるもの。必要以上の優しさや寛容さはかなぐり捨てて,憤怒と共に歩んでいきましょう。AVGNのテーマソングを口ずさんだりしつつ!
■AVGNテーマソングの歌詞(一部)
He’s gonna take you back to the past to play shitty games that suck ass.
(尻の穴を吸うようなクソゲーをプレイするため,彼はあなたを過去へと連れて行きます)
He’d rather have a buffalo take a diarrhea dump in his ear.
(バッファローの下痢便を耳に流し込んだ方がマシなのに)
He’d rather eat the rotten asshole of a road-killed skunk and down it with beer.
(轢き殺されたスカンクの腐った尻の穴を食べて,ビールで流し込んだ方がマシなのに)
He’s the angriest gamer you’ve ever heard.
(あなたが耳にする中で,彼が最も怒れるゲーマーです)
He’s the angry Nintendo Nerd.
(彼は怒れる任天堂のオタクです)
He’s the angry Atari Sega Nerd.
(彼は怒れるアタリとセガのオタクです)
He’s the Angry Video Game Nerd.
(彼は怒れるビデオゲームのオタクです)
- 関連タイトル:
Angry Video Game Nerd I & II Deluxe
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