インタビュー
ライザの成長した姿を描くのは,針に糸を通すような仕事。「ライザのアトリエ2」キャラクターデザインをイラストレーターのトリダモノ氏に聞く
「アトリエ」の設定はイラストレーターと作っていく
前作からのキャラクターでは,レントは難航したんですか?
細井氏:
さまざまな経験を通して成長するキャラクターですので,そのぶん,どういう方向で成長させるか悩みました。
トリダモノ氏:
1人で放浪の旅をして異文化に触れたということで,最初のラフだと歌舞伎や侍など和をテーマにしています。ただ,ほかのキャラクターと並べたときに,成長というよりオンラインゲームのクラスみたいになってしまったので,ボツにしました。
トリダモノ氏:
そこで,正統進化させようという話になりました。放浪感を出したくて,ワイルドなかっこよさを持つ方向にしたんですが,なんだかシルエットが「つまらない」と思い,赤いマントを足しています。レントと言えば赤というイメージもありますから。
細井氏:
今まさに飛び出しましたが,やっぱりトリダモノさんは「つまらない」っておっしゃるんですよ(笑)。
4Gamer:
トリダモノさんが「つまらない」モードに入るのは,どういうときなんですか?
トリダモノ氏:
うーん,デザインの後半でしょうか。この方向性で行こうと自分の中で決まり,あとは最終調整という段階まで来たときに,急にアクセルを踏みたくなるんです。仕事としては本当に申し訳ないと思いますが……。
4Gamer:
お話を聞いていると,最初から設定が固まっていれば,もっとスケジュールに余裕を持ったデザインができそうだと思ってしまうのですが,そういうものでもないのでしょうか。
細井氏:
もちろん,それはそうだと思います。ただ,設定はわざと固めないようにしているんです。
4Gamer:
どういうことでしょう?
細井氏:
設定はイラストレーターさんと一緒に作りあげていくものだと考えているんです。最初から固めておくと,我々が決めすぎてしまうと言いますか。
4Gamer:
イラストレーターさんの色を出す余地がなくなるということですか?
細井氏:
そうです。実際,トリダモノさん以外の方からも「設定がなさすぎる」と言われます。ただ,だからこそ「アトリエ」シリーズが続けられているとも思うんです。
これまで,シリーズごとにイラストレーターさんに参加いただいていますが,もし細かな設定を作ってから描いていただく方針だったら,我々の色が維持され過ぎてしまって,イラストレーターさんの作家性,エッセンスが入ってこなくなります。シリーズごとに新しいスタートが楽しめるというのは「アトリエ」シリーズの魅力の1つですから,イラストレーターさんの色を出していただきたいんです。
トリダモノ氏:
描いている側としては,大変ではありますけど,楽しい仕事でもありますね。
ただ絵柄が変わればいいというわけではありません。例えば「アーランド」シリーズなら,岸田メルさんと一緒に作ったからこその味があると思うんです。
「アトリエ」シリーズで,こうした取材などでイラストレーターさんも一緒に出ていただいているのも,同じ理由からですね。思いきり表に出て,イラストレーターさんのパーソナリティも一緒にユーザーさんにお伝えしたいんです。
変えなくてはいけない。変えすぎてはいけない。それでいて,主人公らしく
4Gamer:
ええと,いつの間にか2時間近く経ってしまいましたが,肝心のライザの話をまだ聞けていません。
細井氏:
ライザはもともと,「3年後をとりあえず考えてみて」と前作の発売直後ぐらいにお伝えしていましたが,その後にトリダモノさんの充電期間があって,年明けからすぐにデザインが始まりました。最初にお伝えしたイメージは「女子大生ぐらいの歳で,都会に行くからおめかししている」ぐらいです。
トリダモノ氏:
おのぼりさんみたいな。
細井氏:
一方で,ライザは前作で皆さんに支持していただいたキャラクターなので,構成要素は踏襲すべきだというのは,開発チームの共通認識として持っていました。
そこは最初から一貫していましたね。大きく変えて「この人誰?」という違和感を持たせたくなかった。
細井氏:
ですから,トリダモノさんも慎重に時間をかけて案を出してくるのでは,と思ったんです。ところが意外にもすぐに第一稿をいただきました。
トリダモノ氏:
「残すところは残す」というのが決まっているだけでも,そこがデザインする側としては大きいんですよ。例えばライザ自体はあまり変えなくても,服を変えたりするだけで印象は変えられますから。
4Gamer:
ここまでは,順調に聞こえますけれども……。
細井氏:
我々も「いいじゃん!」と盛り上がり,順調に進むと思っていました。
しかし,途中で気付いてしまったんです。「前作とあまりにパーツ構成が同じすぎなのでは?」と。
4Gamer:
ああー……。今回,ほかのキャラクターが成長しているだけに,ライザの変化が小さいと,1人だけ取り残されているように見えてしまいそうですね。
細井氏:
そうなんです。実際,全員のラフを並べると,ライザだけが子供っぽく見えてしまって。そのバランスを取るために,ほかのキャラクターのデザインを先に決めてからライザに取り掛かろうと,後回しにしていたんです。
細井氏:
これまでの「アトリエ」ではお馴染みの「続編では師匠ポジションになる」という形で,錬金術士として成長したライザを描くなら,ラフの案でも良いと思うんです。しかし,そのお約束を捨てて,今作でも主人公になるという立ち位置を決めた以上は,それに見合ったデザインにしなくてはなりません。
トリダモノ氏:
主人公らしいライザをデザインするために,細かい部分を1つ1つ調整していきました。
例えば帽子は,印象を変えるためにいろいろなデザインを考えてみたんです。つばをつけたり,ニットにしたり,いっそなくしてしまったり。でも,ライザは前作の帽子のイメージが強くて,どれもしっくりこない……。
そこで,同じ帽子をちょっとだけズラす形にしてみました。これだけでもけっこう印象が変わるので,我ながら良い案だったと思っています。
細井氏:
顔周りのパーツを変えすぎると別人に見えてしまいますから,良い落としどころだと思いました。ライザは,私の中で「ものを大事にする素朴な子」というイメージがありますので,同じ帽子を使い続けているというのも良いですね。
トリダモノ氏:
顔周りでは,髪型も変えています。耳を出して大人っぽい感じにしたいと考えたのですが,前作の案を見ていたら,片耳が出ているものがあって「これだ!」となりました。
4Gamer:
アシメのやつですね。細井さんが気に入っていたのに不採用になった(笑)。
トリダモノ氏:
それです。髪を伸ばして大人っぽく,みたいなことも考えたのですが,そうするとやはり変わりすぎてしまいますし,クラウディアとの対比を考えると短いほうが映えますから,前作のボツ案をアレンジする形にしました。
細井氏:
苦労したのは服ですね。インナーはシャツで行こうと決まっていたのですが,アウターをどうするか悩みました。
トリダモノ氏:
アウターによって,印象もだいぶ違いますからね。
4Gamer:
採用しているのは右下の案ですよね? 初期のラフでは首回りがモコモコしていますが,だいぶスッキリしました。
トリダモノ氏:
大人っぽい要素を入れたくて,トレンチコートをイメージしています。
季節が合っていないからと細井さんは乗り気ではなかったんですが,どうしても着せたかったので,夏用のトレンチコートの画像を探してきて「ほら,ありますよ!」とか主張して通しました。
細井氏:
あまりに強く推されるので根負けしたのですが,普通に着たら暑いだろうと,着崩し案を実演したりもしました。トリダモノさんは“普通”だと満足してくださらないので,変な着崩しを。
トリダモノ氏:
その中で面白いのがあって,実はインナーで採用しています。着崩しの案に,袖ではなく肩に空いている穴から手を出しているみたいなやつがあったんです。それを参考に,ライザはインナーの左腕に腕を通さず,袖を後ろにくくりつけています。
4Gamer:
あ,このクリップ付いているやつ,袖なんですか? ひらひらした腰パーツ的なものかと思っていました。
トリダモノ氏:
クリップは袖口が広がらないよう止めている感じですね。歩いているときに後ろに流れる,ひらひらしたパーツをつけたかったという意図もあって,特徴的な着崩しになっています。
細井氏:
今作のライザは,おめかししているということで,アクセサリーも増やしていただきました。
トリダモノ氏:
ライザが耳に穴を開けるとは思えないので,イヤーカフを着けています。
ネックレスは前作の秘密基地の鍵です。思い出の詰まった大事なものなので,肌身離さず持っているんです。
細井氏:
左足についているのは香水入れですね。ライザ的には大人びたアイテムです。
トリダモノ氏:
カラーパターンもいろいろ考えましたけど,どれもしっくりこなかったんですよね。前作のカラーを決めたとき,とくに意識はしていなかったのですが,いわゆる“ビタミンカラー”(柑橘類に見られる明るい色味)を取り入れたものになっていたんです。これが夏っぽい清涼感や可愛らしさが表現できていて。時間の余裕もなかったので,結局前作を踏襲したカラーになりました。
4Gamer:
確かに,どれも違和感が……やはり前作のイメージが強烈に残るものなんですね。
トリダモノ氏:
前作のファンからしたら,「変化がなさすぎ」と思われないかかなり悩んだのですが,やっぱり変えないほうがいいんじゃないかと。
4Gamer:
カラー決めの段階だと,素足を出すかどうかで揺れているみたいですけども。
トリダモノ氏:
前作では素足にするか隠すかで争いましたが,良いとこどりみたいな形に落ち着きました。
4Gamer:
太もも感も,素足も楽しめる。なるほどと思うしかないですね。
前作で太ももが話題になりましたが,今作でデザインを考えるときに意識はされましたか?
あれだけ言われたら,そりゃ意識しますよ(笑)。
太ももがウケているだけで,デザインに関してはそんなに期待されていないのかも……。
4Gamer:
そんなことはないでしょう!(笑)。個人的には,今作のライザのほうが好きですよ。
トリダモノ氏:
そう言っていただけると,デザインした甲斐があります。
細井氏:
実際,公開後の反響は我々が考えていた以上に好意的でした。「お姉さんになった感じが良い」といった声もいただいて,ありがたいです。もっと賛否が分かれるかと思っていましたので,安心しました。
トリダモノ氏:
前作に比べたら,デザイン上で大きな振れ幅はないんですが,とにかく微調整が大変でしたね。リアルタイムで描いていたので,データが残っていないデザイン画も山ほどあります。
細井氏:
今までの主人公と全然違う作り方でしたから,心理的な圧みたいなものもあったのではないかと思います。
トリダモノ氏:
3年経った大人っぽさを表現しないといけない。新しさを盛り込んで,前作とは変えなきゃいけない。でも,変えすぎてはいけない。それでいて,主人公として映えるものにしないといけない。ほかのキャラクターとのバランスも取らないといけない。前作のファンが納得できるものにしないといけない……。
針に糸を通すような仕事でしたが,自分でも,良いデザインになったという手ごたえがあります。
4Gamer:
手ごたえを感じたられたのは,どの段階ですか?
トリダモノ氏:
最終段階で,ほかのキャラクターと並べたときですね。これが成長したライザの姿なんだと思えました。
ただ,これは「ほかのキャラクターも完成してからでないと,手ごたえが感じられない」ということでもありますから,自分がキャラクターデザインに時間がかかってしまう理由でもあります。
細井氏:
鈴木は「いつ決まるんでしょうか……」と天を仰いでましたからね。
4Gamer:
しかも,パティが完成するのはこの後ですよね?
細井氏:
はい。とはいえ,ここまで来たので,パティのデザインは早かったです。例えば足ならライザが変則的,クラウディアはタイツ,セリは素足なのが決まっていますので,それらと被らない構成要素というのは限られます。
そうした組み合わせに,現代チックな要素や巫女服などのこれまでのパティのデザインで取り入れたものを,トリダモノさんの中で消化していただいて完成しました。
トリダモノ氏:
主人公が決まった後なので,心に余裕もありましたね。
開発チームとイラストレーターが互いにリスペクトしあえる関係
4Gamer:
全員のデザインが終わったのって,いつ頃なんですか?
トリダモノ氏:
4月ぐらいだったと思います。
4Gamer:
そこから3Dモデルを作っているんですよね。初報が7月でしたけど……。
細井氏:
デザインが決まるまでは,モデルの顔だけ先に作るとか,進められるところだけ進めて間に合わせました。
それで,モデルが順次できてくるじゃないですか。そういう時に,トリダモノさんは「これはこうしたほうがよくないですか」と気付かれるのです。
トリダモノ氏:
すいません……。
細井氏:
鈴木は当然「え,これ対応するんですか?」と言いますけどね。
4Gamer:
3Dモデル制作側にも支えられて,ライザ達は完成しているわけですね。
トリダモノ氏:
チームですからね! おかげで,納得できるものを作らせてもらっています。自分に合わせてくれるのは,「アトリエ」独特の作り方かもしれませんけど。
細井氏:
独特かもしれませんね。
ガストブランドタイトルの開発チームとCGディレクターは,みんなイラストレーターさんに人生を左右されています。
4Gamer:
鈴木さんの話を聞くに,そうなんでしょうね(笑)。とはいえ,タイトル毎にキャラクターを刷新しながらも,毎回キャラクターを推せるIPとして成立しているのは,そうした開発体制を取っているからではないかと思いますよ。
細井氏:
イラストレーターさんは,本当に大変なお仕事だなと痛感しています。だから,我々もフレキシブルに動かなくてはいけません。イラストレーターさんにご協力いただいて,失敗させてしまうのが一番心苦しいですから。
我々はイラストレーターさんをリスペクトしていますし,イラストレーターさんもそうしてくださるので,良い関係を築けているのではないかと思っています。
最終的にすがれるものは自分の感覚
4Gamer:
前作では「アトリエ」から降りたくなったというお話がありましたが,そういった点では今回は大丈夫でしたか?
細井氏:
今回はキャラクターデザインが終わった後で,実家に帰りたいとトリダモノさんに言われました。
4Gamer:
デザイン終わっているのに……。
トリダモノ氏:
毎日自分の部屋に缶詰めで仕事し続けていたので,気分が落ち込んでしまったときがあったんです。朝起きたら,またライザと向き合わないといけない,自分は何のために描いているんだろう……みたいな。帰郷して,希望に溢れていた学生時代の初心を思い出して,元気をもらいたくなるんですよね。
新型コロナウイルスで,世間も落ち込んでいましたし,外出もできませんでしたし,結構影響を受けてしまいました。
4Gamer:
ああ,緊急事態宣言の時期は,ナーバスになってしまう方も多かったみたいですね。
細井氏:
トリダモノさんは大きく影響があったのではないかと思います。お付き合いのあるほかのイラストレーターさんもそうで,クリエイティブな仕事をしている繊細な方は,影響を受けやすかったのかもしれません。
実際に会って仕事ができなくなると,どうしても孤独感が増します。前作では,会って開発中のゲーム画面でキャラクターが動いているところをお見せしたり,一緒にご飯を食べに行ったりして,良い刺激になっていたと思うんですが,そうしたこともできなくなりましたし。
トリダモノ氏:
そうですね。ゲーム画面が見られなくなったのは嫌でした。気落ちしていると,細井さんに投げやりなことを言ってしまうこともあって……。
細井氏:
これだけ一緒に仕事をしていますから,そういった気分のときは分かりますし,慣れましたから大丈夫です。
トリダモノ氏:
一人で籠ってずっと「アトリエ」の仕事をしたら,みんな私と同じようになると思いますよ(笑)。
4Gamer:
細井さんは,気落ちはしなかったんですか?
細井氏:
気落ちはしなかったですね。トリダモノさんが悩んでいるのを支えないといけませんし,開発スケジュールに追われてしまって……(笑)。
細井氏:
それにしても,今回話していて思いましたが,トリダモノさん,変わりましたよね。
トリダモノ氏:
そうですか?
細井氏:
昨年のインタビューのときは,もっと自信がなさそうでしたけど,今回はこだわりを積極的にお話しされますし,「自分が好きだからいいんだ」とデザインされているのが伝わってきます。
4Gamer:
確かに。私はトリダモノさんとは1年ぶりですから,なおさら変化が大きく感じます。
トリダモノ氏:
独りよがりにならないよう気をつけていますけどね。ただ前作で,結局,自分を信じてあげないといけないと分かったんです。自分が好きになれないものを,誰が好きになってくれるんだという話なので。誰にも愛されなくても,自分は愛しているものにしてあげたいというか。
細井氏:
トリダモノさんは自分が描き続けるにあたって,そのデザインが好きになれないと絶対に決定には至りませんよね。仮に私が良いと思ってもダメですし。基本的に,自分のクリエイティブと心中するタイプだと思います。
トリダモノ氏:
そうですね。良い絵にしたいと思っても,最終的にすがれるものは自分の感覚です。そのとき「好きかどうか」はとても大切な基準ではないでしょうか。
とはいえ,「好き」だけで描いているわけではないので,こうしてイラストレーターとしての考えを話せる場を作ってもらえるのはありがたいです。でないと,ただの「太もも出した子が好きな人」で終わってしまうので(笑)。
4Gamer:
正直,前作でお話を聞くまでは,そう思っていたところもありましたけど(笑)。
キャラクターデザインの制作過程をお話いただける機会はなかなかないですから,こちらとしても楽しいですよ。
トリダモノ氏:
イラストレーターとしては,キャラクターデザインで喜んでもらえるのはすごく嬉しいですけど,この記事を読んでいただいた方には,やっぱりゲームも遊んでもらいたいです。動いているところを見ないと分からないデザインのこだわりってありますから。
4Gamer:
ゲーム画面で見られるのを楽しみにしています。本日は長時間,ありがとうございました。
「ライザのアトリエ2 〜失われた伝承と秘密の妖精〜」公式サイト
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ライザのアトリエ2 〜失われた伝承と秘密の妖精〜
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