イベント
[GDC 2023]「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」の手描き風アートはどのように作られたのか。リードアーティストが語るスタイル確立から制作まで
3月20日から開催されていたゲーム開発者会議「Game Developers Conference 2023」(GDC 2023)では,「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」の魅力となっている手描き風アートスタイルをテーマとしたセッション「Creating the Art of 'Harry Potter: Magic Awakened'」が行われた。
NetEaseのGame Lead ArtistであるQingfeng Zeng氏の講演の模様をお届けしよう。
そして,「これから制作するゲームは,どのようなアートスタイルが適しているのか」という答えを探るべく,開発チームのコアメンバーは,原作のトーンを感じるべくイギリスのロンドンへと旅立ったそうである。
現地では,これから作業を進める上でその“証人”(資料)となる多くの写真をカメラに収めていった |
さらに,ハリー・ポッターの世界に対する,第一印象を思い出すことも大事であったと話す。小説が原作の「ハリー・ポッター」だが,同世界のビジュアル的な原体験といえば,やはり多くの人が映画から得ている。そのため,まずは,温かさと優雅さ,神秘性,そして魔法を強く感じさせる初期2作品を参考にしたという。
しかし,この感覚を,どのような形で表現すればいいのか迷うことも。そこで,“原作を読み進めるような気分になれる”ことをテーマにしてはどうかという考えに至ったそうだ。
「小説の挿絵や絵本に出てくるような絵にし,キャラクターのアートを作ってみるのはどうか」。そして,「サイズ感を調整し,手描き風のブラッシュストロークに羊皮紙に描かれたようなラフな質感,色の彩度は低めに」といった意見をもとに,ハリー・ポッターのお馴染みの登場人物たちが,絵本風の新たな姿で描き出されていった。
こうして絵本風に仕上げられた3Dモデルと背景だが,さらに2D感の強調が行われている。各モデルを絵のように見せるため,ラフな線による手書きの質感を持たせ,光の当て方も柔らかい光ではなくシャープな光に。ディテールを強調するようなリムライトも使用されている。
「よい照明は,ストーリーをよりよく伝え,そして没入感を与えてくれる」と語る氏。「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」では,あえて照明は複雑ではない仕組みで,絵本のような質感ながらスタイリッシュなビジュアルを目指したそうだ。
様式的なディテールが特徴のゲームは,プレイ時の遊びやすさのバランスに注意しなければならない。特に同作の場合は,リアルタイムカードバトルの要素があるため,個性的なビジュアルやエフェクトによっては,重要な情報や状況の判断に影響が出てしまうからである。
ポイントとなるのは,「(テキストの)読みやすさ」「視覚的なわかりやすさ」「ビジュアルヒエラルキー」と,「スタイライゼーション」「アーティスティックな魅力」「視覚的な面白さ」のバランスだという。
優先順位としては,「読みやすさ」と「わかりやすさ」を一番に,魅力的で視覚的に興味深いゲームプレイ体験を生む演出を考えたと話していた。
講演のまとめとして,「初期段階でのアートスタイル定義」「制作パイプラインの構築と人材育成」「芸術的ビジョンに忠実であること」の重要性が語られた。
人気作品で,多くの人たちがそれぞれのイメージを持つ「ハリー・ポッター」に対し,新たなアートスタイルを作ることは非常に大変なことである。
「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」の場合,それを確立するには半年以上かかったが,そこで作品にしっかり作品に向き合っていなければ,途中でスタイルに不備があり,やり直しのため大きなコストが発生しまうと説明する。
また氏は,これまでにない独特のアートスタイルのため,スタッフの連携も大事であったと述べた。このスタイルで一貫してアセットを制作できるよう,制作方法の情報やアイデアを共有しあい,皆がこれに対応できるようこのユニークなスタイルのアートへの理解を深めなければならないからだと。
確固たるアートスタイルを築き,それをスタッフがしっかりと理解し,共通したビジョンに忠実に制作物に向き合う。
「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」が,美しく印象的なハリー・ポッターのビジュアルアセットを作り上げることに成功したのは,それらひとつひとつの認識を,スタッフが共通して持っていたからだろう。
「ハリー・ポッター:魔法の覚醒」公式サイト
4Gamerの「GDC 2023」記事一覧
- 関連タイトル:
ハリー・ポッター:魔法の覚醒
- 関連タイトル:
ハリー・ポッター:魔法の覚醒
- 関連タイトル:
ハリー・ポッター:魔法の覚醒
- この記事のURL: