プレイレポート
VRに懸けるValveの本気を見た。研究され尽くしたデザインでシリーズを見事に昇華させた「Half-Life: Alyx」プレイレポート
そして2020年3月24日,第2作「Half-Life 2」からおよそ16年ぶりとなる最新作「Half-Life: Alyx」が,シリーズ初のVR専用ゲームとして発売された。
同社は以前より「The Lab」などのVRゲームをリリースし,2019年6月には自社製のVR機器「Valve Index」を発売するなど,VRへの注力がうかがえた。そんなValveの“VRに対する本気”を感じた本作のプレイレポートをお届けしよう。
なお,本作の時系列は「Half-Life」と「Half-Life 2」の間だが,舞台は2と同じ「City17」。キャラクターやストーリーも2に関連したものが多く,1の続きというよりは,2の前日譚という位置付けになる。1とは直接的なつながりがないので未プレイでも支障はないが,2の知識はあったほうがより楽しめるだろう。
「Half-Life: Alyx」公式サイト
VRを知っているからこそ感動する本作のクオリティ
筆者はこれまでもVRゲームをよくプレイしていて,ただ「VRである」というだけではあまり心が動かされなくなった筆者だが,本作ではものの数分で何度も感動してしまうことになった。
まずはグラフィックスだ。VRゲームは片目にそれぞれ映像を表示する性質上高負荷になりやすく,モデルや背景は負荷がかかりすぎないようシンプルになりがちである。しかし本作では開始直後から,広大なCity17が美麗なグラフィックスで眼前に登場する。遠くでは大型のエイリアンが歩行していたり飛行型エイリアンが物資を運んでいたりと,ただの背景ではなく“そこに存在している”という感覚が強い。
それでいて,負荷は一般的なVRゲームとそれほど差が無いように思えた(これはスペック等も関わるので個人差があると思うが)。「これまでのVRゲームとは一味違う」と実感できる。
次は移動方法だ。従来のVRゲームは指定先にワープ(高速移動)する「ブリンク(シフト)タイプ」か,普通に歩いて移動する「歩行タイプ」のどちらかを選択することが多かった。しかし本作では,ブリンク/シフト/歩行を選べるのに加え,歩行移動中にシフト移動が可能になっている。
地味な点だが,これは筆者としてはかなり嬉しい。個人的に,VRゲームは“没入感”が何よりも大事だと考えている。そうなると,移動方法は必然的に歩行タイプ一択となるのだが,VRは立ってプレイすることが多いので,移動が長いと割と疲れる。
初見の場所はじっくりと雰囲気を楽しみつつ, 一度見た場所や変化の無い場所はささっと移動したいというわがままに,本作のシステムは見事に応えてくれた。デフォルトはブリンク(ワープ移動)だが,ぜひ連続移動(歩行移動)へ変更してみてほしい(酔いを感じた人はブリンクかシフトを選ぶといいだろう)。
さらに,周囲に配置されたオブジェクト。VRゲームの醍醐味は,なんといっても手を自由に動かし,周囲のオブジェクトに干渉できることだ。アクション系のVRゲームではたいていの物は掴んで移動させたり投げたりできるし,それが瓶や箱だった場合は破壊できることも多い。本作ももちろん周囲のさまざまなオブジェクトに干渉できるのだが,それにとどまらず,さらにワンランク上の体験を用意してくれている。
例えば,ある部屋の窓際にはペンが置かれている。プレイヤーは当然それを掴んで持てるのだが,そのまま窓へ持っていくと……なんとインクが窓につく。つまり「ペンで窓に落書きができる」のだ。さらに,ペンの横に置かれた“ホワイトボードの黒板消し的なやつ”を押し当てて擦ると……書いたものを消せる。
当たり前のように感じるかもしれないが,筆者はとても感動した。VRでお絵かきができるゲーム自体はいくつもある。だが,本作はお絵かきゲームではない。その辺に落ちているペンで何も書けなくても当然なのだが,ゲーム進行とは関係ない部分でも「できそうなことがちゃんとできる」ということが重要なのだ。
これはペンに限らない。ラジオのアンテナを伸ばせたり,電気のスイッチを消せたり,飼育ビンの中にいる虫(?)に餌をあげられたりと,ゲームの進行とはまったく関係のない部分で,プレイヤーが「やりたくなりそう」なことの多くができるよう作り込まれている。筆者はViveを使用していたので確認はできなかったが,Indexコントローラーを使用していると,空き缶や果物を握りつぶすといった動作もできるらしい。
ゲームは基本的にシステムで用意されたアクションしかできず,できそうなことができない場合が多い。本作のこうした細かい作り込みは,VRの自由度をさらに強く感じさせ,“没入感”を加速させてくれる。
自然かつストレスのないゲームプレイ
本作の特筆すべき点に,VRゲームにありがちなストレス要素の多くが排除されているということがある。
例えば,VRは視点の自由さから進行方向を見失いがちなのだが,本作は操作が必須になるオブジェクトが,うまく進行ルート上に目立つよう配置されている。プレイしていて自然に「あ,これ操作できそう」となるので,道に迷うことがほぼない。
他にも,ゲームを進行していくと手に入る「グラビティ・グローブ」がある。これは本作の大きな特徴の1つで,遠くにあるオブジェクトを手元に引き寄せることができる装備だ。
VRゲームはアイテムを手で掴まなければならないので,離れた場所のアイテムを拾おうとするとストレスがたまる。このグローブを手に入れてからは,対象に狙いを定めて手首のスナップで引っ張る動作をすると,対象物が自分に向かって弧を描いて飛来するようになる。これにより飛んできたアイテムを,そのまま手でキャッチできるのだ。
これがまた非常に楽しい。初めてグラビティ・グローブを手に入れた時は,辺りの物を根こそぎ引っ張ってしまったくらいだ。アイテムを拾いにいく手間をなくすだけでなく,拾うこと自体に楽しさを得られる素晴らしいシステムだと思う。
引き寄せは遠くのアイテムを拾うだけでなく,探索の手助けにもなってくれる。本作のアイテムは時に,無造作に置かれた箱の中や,棚に並んだケースの裏などに配置されていることがあり,それらをいちいち探して回るのはとてもじゃないがやってられない。そんな時はグローブで箱や邪魔なオブジェクトを引き寄せることで,遠くからでも楽に探索することができる。
また,アイテムとその他オブジェクトではアイテムのロック優先度が高くなっているようで,アイテムを引き寄せようとしてゴミばかりロックしてしまう,といった場面が無いのもストレスフリーだ。
加えて,グローブはインベントリとしての役割も備えており,武器や回復アイテム,キーアイテムを収納できる。基本的にVRゲームでは,身体の周囲のホルスターやポケットにアイテムを収納することが多い。実際そのほうがリアル志向ではあるのだが,うまく掴めなかったり間違えて掴んだりといったことが頻発することにもなるので,そのあたりを考慮した結果のインベントリ方式だろう。
しかしそのおかげで,武器を収納する煩わしさや,すぐに使わないアイテムをわざわざ手に持って運ぶ必要が無くなり,快適にプレイすることができた。
プレイヤーを飽きさせない多彩なマップ
本作は良くも悪くもほぼ一本道だ。しかしそんなのが一切気にならないほど,新しい景色が次々と現れる。
City17の街なかから始まり,ゾンビが徘徊する薄暗い駅のホーム,手元の小さいライトだけが頼りの下水道,そこら中を爆発物が取り巻く工場,謎の植物(?)に侵食され朽ち果てたホテルなど……。それぞれのチャプターの舞台となるマップには,似通った場所がほとんど無く,プレイしていてまったく飽きさせない。
ホラーテイストな作風のため,薄暗い場所が多いのは否めないが,閉塞的な空間だけでなく,たまに空が見える開けた場所を通るので,しっかりと気分転換もさせてくれる。このあたりのバランスは本当に良くできていると感じた。
シリーズファンも歓喜? おなじみの敵をVRで体感
本作に登場する敵は,どれもHalf-Lifeを代表するものばかりだ。「ヘッドクラブ」「ゾンビ」「バーナクル」「コンバイン兵」などなど,おなじみの敵がおなじみの姿で登場する。ただし,プレイヤーはVR視点だ。
そもそも2(本編)から16年ぶり,Episode 2からは13年ぶりのリリースとなる本作は,過去作に比べて格段にグラフィックスが向上している。そしてシリーズに登場する敵はどれもグロテスクな容姿だ。……となればもうお分かりかと思うが,“敵がメチャクチャ気持ち悪い”。
FPS視点だと,ともすれば可愛らしさすら感じてしまいそうなヘッドクラブでさえ,VR視点ではとても気持ち悪い。裏面はさらに気持ち悪いのだが,ご存じの通りヘッドクラブは飛びついてくる。顔をめがけて……。
本作で初めてVRゲームをプレイしようとしている人は,後ろにクッションか何かを用意しておくことをオススメする。
ゾンビは基本的に近寄られることがないので“癒やし枠”だ。ただし剥がれたヘッドクラブが起き上がって襲いかかってくることがある点は注意しておこう。バーナクルも下手に近寄らなければ脅威ではないが,群れを成して触手をだらんと垂らす様は,人によってはヘッドクラブより苦手かもしれない。ちなみに倒すといろいろ吐き出してくるのも恒例だ。
まさに「現実にいたらこんな感じ」をそのまま体感させてくれる本作は,シリーズファンとしては歓喜せざるを得ないだろう。
VRに懸けるValveの本気を感じた「Half-Life: Alyx」
本作は,これまで「リアル志向」を強く意識しがちだったVRに対して,あくまで「ゲーム」として,ストレス無く楽しむことを重視した作りになっているタイトルだと感じた。それでいて,VRに重要な“没入感”を維持するための,細かい部分への作り込みも欠かしていない。
これまで紹介したもの以外にも,VRならではの謎解き要素があったり,武器を強化してコンバインとの銃撃戦を繰り広げたりと,本作の魅力的なポイントはまだまだある。VRゲームが好きな人はもちろん,VRを体験したことがない人も,ぜひ実際にプレイしてみてほしい。
VRゲームはまだまだ発展途上だが,間違いなく「Half-Life: Alyx」はこれまでのものからワンランク上のステージにあるタイトルと言えるだろう。Valveが「Half-Life」という看板IPでVRゲームを開発するにあたり,さまざまな研究を重ね,本気で挑んだという意気込みがひしひしと伝わってくる作品だ。
「Half-Life: Alyx」公式サイト
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