攻略
推理が苦手な人に贈る「マーダーミステリー」入門講座。初心者にオススメの“善良なゴシップ記者作戦”をじっくり紹介
「何それ?」という人に向けて大雑把に説明すると,マーダーミステリーは「ミステリー小説の登場人物となって物語を体験する」アナログゲームのいちジャンルだ。2019年ころから徐々に流行しはじめ,最近ではゲームメディアのみならず,テレビや新聞などでもトレンドとして取りあげられ,東京や大阪などでは専門のプレイスペースがいくつもオープンするほどの盛り上がりを見せている。
今,話題の“新ジャンル”「マーダーミステリー」を見逃すな! 「人狼」「脱出ゲーム」に続く,アナログゲームの新潮流を徹底解説
「マーダーミステリー」が今,熱い。その名のとおり,殺人事件を題材とした推理ゲームだが,これが現在,“新ジャンル”としてアナログゲームの界隈で大変な盛り上がりを見せているのだ。今回はこのマーダーミステリーを改めて紹介すると共に,その魅力に迫ってみたい。
魅力と感じる部分は人によってさまざまだが,そのポイントをあえて挙げるとすれば,各タイトルごとに一度しかプレイできない“一回性”と,それによって生まれる“物語性”なのではないだろうか。あなたは探偵として殺人事件の犯人を追うことになるかもしれないし,あるいは犯人として捜査を攪乱する側に回るかもしれない。そしてどちらにせよ,その体験は唯一無二の思い出としてあなたの心に残ることだろう。
ただ,マーダーミステリーに興味があっても,「推理はちょっと苦手で……」とか,「ほかのプレイヤーに迷惑をかけてしまいそうで不安」とかの気兼ねがあって,尻込みしてしまう人は多いかもしれない。そこで本稿では,「推理が苦手な人のためのマーダーミステリー入門」と題して,主に初心者に向けたプレイのコツを紹介してみたい。
新型コロナウィルスによる緊急事態宣言を受け休業している専門店が少なくない現状ではあるものの,これが解除されたときの“予習”として,またゲームの全貌を把握する助けとして,役立てていただければ幸いだ。
押さえておきたいマーダーミステリーの“仕組み”
具体的なコツを記す前に,マーダーミステリーの“仕組み”について,改めて説明しておこう。概要としては2019年10月に掲載した記事に詳しいので合わせて参照してほしいが,マーダーミステリーのメカニクスで重要なのは,すべての登場人物に「表の顔」と「裏の顔」が与えられていることだ。
犯人であれば,当然ながら「裏の顔」は「殺人事件の犯人」ということになるが,マーダーミステリーでは通常,その他のすべての登場人物に意外な「裏の顔」が設定されている。例えば“一攫千金を狙うトレジャーハンター”や“伝説的な暗殺者”といった具合で,この「裏の顔」に合わせた個人ミッションが課されることになるわけだ(“探偵役”などの例外はあるが)。
トレジャーハンターであれば,それは事件の渦中にある財宝を,秘密裏に回収することかもしれないし,暗殺者なら特定のプレイヤーを事件解決前に亡き者にすることかもしれない。そして,こうした個人ミッションの存在は,当然ながら「殺人事件の捜査」という共通ミッションの達成にあたっては障害となる。捜査そっちのけで財宝を探したり,暗殺を達成するために真犯人をミスリードしたりするプレイヤーばかりなら,真相は藪の中となりかねない。つまり,ここにジレンマが生まれるわけである。
プレイヤーは制限時間の中で,「殺人事件の捜査」と「個人ミッションの達成」の両方を満たすべく行動しなければならない。捜査ばかり進めていると個人ミッションは達成できないし,かといって個人ミッションばかりにかまけていると,周囲から疑惑を向けられて犯人扱いされかねない。これはほかのプレイヤーも同様で,個人ミッションの存在が,無実の登場人物に怪しい行動をとらせ,反対に行動に縛りの少ない真犯人を積極的な捜査に駆り立てる。ゲームは思いもよらない方向に転がっていき,エンディングで「こんな真相だったなんて!」と驚かされることになるのである。
事件の捜査とミッションの達成,この二つをどう両立させればいいのか。ここがマーダーミステリーにおいて最も悩ましい点であり,同時に最も面白い点と筆者は考えている。
「善良なゴシップ記者作戦」のすすめ
さて,ここまで読んだ人の中には「犯人を推理するだけじゃないんだ……」「ちょっと難しそう」と思った人もいるだろう。だが安心してほしい。初心者にうってつけの作戦がある。それが筆者の提唱する「善良なゴシップ記者作戦」だ。
これは簡単に言えば,「個人ミッションの達成は後回しにし,とりあえず事件についての情報収集に注力する」というもので,あなたが犯人役であっても,あるいはそれ以外であっても運用可能な作戦となる。だが,まずは犯人以外だった場合を想定して話を進めてみたい。
先ほども説明したように,マーダーミステリーは「事件の捜査」と「個人ミッションの達成」の綱引きによって成立しているわけだが,慣れないうちはこの配分に悩んでしまうことだろう。そこでこの「善良なゴシップ記者作戦」である。具体的には「特定の人物について徹底的に調べ上げ,その情報を全員と共有する」ことをまず目指せばいい。
理由としては,慣れないうちから個人ミッションを意識しすぎると,その達成を邪魔されないために嘘をつくことが多くなり,結果として犯人扱いされがちだから。また,情報収集がおざなりになってしまうとストーリーに入り込めず,エンディングを迎えても何が何だか分からない……という悲しい状況にも陥りかねない。ゲームを楽しむためにも,やはり優先すべきは殺人事件の捜査というわけだ。
ただ,捜査と言っても切り口は色々とある。手始めに犯行時刻のアリバイから……と行きたいところだが,マーダーミステリーの場合,それぞれの登場キャラクターには「裏の顔」があり,おおむね全員が全員,犯行時刻の前後に怪しげな行動を取っているはずだ。じゃあ動機のセンを追ってみる……ことにすると,今度は複雑な人間関係が見え隠れしてきて,誰が犯人でもおかしくない,となりがちだ。気が付けば時間切れになり,手に入れた情報をうまく整理できないままゲームが終わってしまう――。例としては極端かもしれないが,慣れないうちはこういった事態に陥りやすいのは間違いない。
「善良なゴシップ記者作戦」では1〜2名の登場人物をひとまずの「犯人」と仮定し,集中的に情報収集を行うことを推奨したい。そのキャラクターが犯行時刻に何をしていたか,どんな「裏の顔」を持つのか,ほかの登場人物との人間関係はどうなっているのか。ゴシップ記者そのままに,とにかく調査対象のキャラクターについて徹底的に調べ上げてみよう。いっそ本人に直接疑問をぶつけるのも手だ。
結果,調査対象のキャラクターが真犯人ならそれでいい。ほかの登場人物はあなたの活躍を褒め称えてくれるだろうし,もし犯人でなかったとしても,それは容疑者を絞ることにつながる。決して無駄ではない。むしろ事件解決への大きな足掛かりとなることだろう。
調査対象の選定は自由で構わない。マーダーミステリーでは担当キャラクターについての設定シート(ハンドアウト)が渡されるので,それを元に「このキャラクターなら,この二人について調べそうだな」と想像を膨らませるのが一番面白いだろう。どうしても決められないなら「どれにしようかな……」で神様に聞いてしまうのもアリだ。いずれにせよ特定のキャラクターに焦点を絞ることが重要だ。
注意事項としては,手に入れた情報はできるだけ隠さず,ほかの登場人物達と共有していくことだ。自分の「裏の顔」についても,個人ミッションの達成を妨げない範囲なら明かしてしまって構わない。ゴシップ記者のように動き回りつつも,善良な情報提供者を心がけたい。積極的に捜査に参加していけば,周囲のプレイヤーはあなたを容疑者から外してくれるはずだ。
また,ほかの登場人物の個人ミッションが判明した場合,可能な限りその達成にも協力しよう。もちろんあなたの個人ミッションと対立するのであれば無視すればいい。ただし,妨害工作は避けること。下手に怨みを買ってしまうと,犯人として投票される可能性が高くなる。人間は,ときとして理性よりも感情を優先するものなのだ。
さて「善良なゴシップ記者作戦」の基本は以上のとおりだが,実際にプレイするにあたっては初動に困ってしまうこともあるだろう。そうした場合に備えたコツを,以下にいくつか伝授しておこう。
1.初動に困ったら……
多くのマーダーミステリーでは,証拠を探す=情報カードを獲得するのに,トークンを支払らう仕組みを取っている。真っ先にすべきは,この情報カードをさっさと集めてしまうことだ。トークンはほかの用途(アイテムの使用など)に使えることもあるので,全部使いきってしまうのはためらわれるかもしれないが,後半戦になればまた増えるので,序盤から難しく考えることはない。
また序盤からハデに動くとほかの登場人物に怪しまれかねしれない……という不安もあろうが,ゲーム全体を通して「善良な情報提供者」を続けていれば,そちらの印象のほうが強くなるもの。心配しなくていいので,とにかく調査対象に定めた人物に関連しそうな情報カードをどんどん入手していこう。
次の行動は,ほかの登場人物との情報交換だ。最初に誰と密談するか迷いがちとなるので,ここは事前に決めておきたいところ。自分の設定シートから「このキャラが一番信頼していそうな相手」を確認しておいて,まずはその相手を指名するのがいいだろう。
ここで重要になるのもまた,「善良な情報提供者」であることだ。まずは自分の持っている情報を可能な限りすべて打ち明けよう。「裏の顔」と個人ミッションに触れるかは悩みどころだが,明かすことで個人ミッションの達成が明らかに困難になるのでない限り,正直に打ち明けて,協力を要請してみよう。隠しごとを減らせば減らすほど,あなたは捜査に集中できるのだから。
一方的に情報を提供するだけでは損なんじゃ……と思うかもしれないが,マーダーミステリーでは往々にして捜査に割ける時間に余裕がないもの。全体の情報共有が進めば進むほど真相に近付けると割り切って,ここは「情報を循環させる」ことに集中したい。自身が推理を苦手とするならなおさらで,どんどん情報を提供することで代わりに推理してもらうのだ。ただし,調査対象の情報を聞き出すのはを忘れずに。
また情報を渡した相手が真犯人だったら……と懸念する向きもあろうが,これも問題はない。情報が循環していけば,どこかで必ず嘘と真実が衝突し,結果的に犯人をあぶり出す契機となるはず。誰が嘘つきなのかを考えるのは,そのときになってからで構わない。むしほとんど推理せずに,真犯人を特定できることもあるのではないだろうか。とにかく大事なのは,すべての登場人物にあなたを「善良な情報提供者」だと印象付けることなので,そこを第一に考えるのがオススメだ。
2.推理の発表で何をしゃべるか
多くのマーダーミステリーでは,ゲームの中盤や終盤において各参加者が推理を発表する時間が設けられている。慣れないうちは,ここで何を話せばいいのか分からない……というケースも起こりがちだ。確かにここで迂闊な発言をしてしまったら,「議論を誘導しようとしている」「犯人かもしれない」と濡れ衣を着せられる……なんてこともありそうだ。
矛盾するような話だが,こうした場面では無理に推理を立てなくてもいいと考えよう。推理が苦手なら,これを自分の持っている情報をあらためて全員に告知する場にしてしまうのだ。手持ちの情報カードについても,まだ公開していないものがあったら,ルールに反しない範囲で共有してしまうといい。
3.誰を犯人として投票するか
ゲームの最後には,登場人物がそれぞれ犯人だと思う登場人物に投票する場面がやってくる。ここではほかの登場人物の推理を聞きつつ,最も疑わしいと思う相手を指名するのが王道だが,判断に困った場合は,最初に決めた「キャラクターが一番信頼していそうな相手」と意見を合わせるのも,一つの手といえる。
マーダーミステリーは推理ゲームであると同時に,ロールプレイのゲームでもある。キャラクターの心情に寄り添って判断するのもまた,プレイの方針として間違ってはいないのだ。
犯人役だった場合の基本方針
ここまでは犯人以外の登場人物を引いた場合を想定して書いてきたが,では自分が犯人役だったらどう動くべきだろうか。
最初に前置きしたとおり,「善良なゴシップ記者作戦」は,自分が犯人であっても十分に機能するものだ。というのも,マーダーミステリーにおいては犯人ですら,ゲーム開始時点では事件の全貌を掴んでいない。“仕組み”のところで説明したように,メインとなる殺人事件以外にも,複数の思惑が絡み合うサイドストーリーが同時進行しているからだ。
それは財宝の争奪戦であったり,一人の男性をめぐる恋のさや当てだったりするのだが,そうした想定外の思惑によって,状況はより混迷を極めたものとなる。例えば自分が隠したはずの死体がなくなっていたり,まったく見覚えのないものが凶器とされていたり。あるいはほかの登場人物が持つ,何か超自然的な能力(霊能力とか)によって,犯行の事実を暴かれてしまうことだってありえるのだから。
そうした理由から,犯人であっても情報収集は勝利を目指すのに欠かせないものといえる。方針としては,やはり1名ないし2名をターゲットに,集中的に情報を集めること。そして注意すべきは,無理にほかのキャラクターに犯行をなすりつけようとしないことだ。迂闊な発言をするとヘイトを買い,感情的な理由で犯人として投票されかねない。
ならば,どうやって自分から容疑を逸らせばいいか。実はこれにもコツがある。マーダーミステリーで真犯人を取り逃がす場合,その原因のほとんどは,真犯人の嘘がうまかったこと“ではない”。それは往々にして,プレイヤー同士が「自分だけは騙されたくない」「他人の掌で踊らされたくない」と思うあまり疑心暗鬼におちいって,お互いの情報をうまく生かせないまま時間切れになってしまうことに起因する。
よって,犯人役は無理に誰かに罪をなすりつける必要はない。
「あの人の言っていることは本当だろうか」
「自分たちを騙そうとして嘘を言っているのかもしれない」
「筋は通っているが,議論を誘導しようとしているようだ」
そんなふうに疑惑を煽り,プレイヤー同士の連携を切ってゆくのだ。
また犯行が露見しない範囲内で,ほかのプレイヤーの個人ミッション達成に手を貸しておくのも,後々を考えるといい作戦だ。全体が疑心暗鬼に陥れば陥るほど,「恩人」であるあなたを犯人として指名する人間は減ってゆくのだから。
■つくなら大きな嘘を
もう一つ,犯人役の場合は,周囲へ情報提供するにあたって,工夫したほうがいいことがある。先のとおり,マーダーミステリーでは犯人ですら事件の全貌を把握していないことから,しゃべりすぎると思わぬところからボロを出しかねない。とはいえ都合の情報を伏せてばかりだと怪しまれるわけで……これは犯人にとってはたいへん厄介な問題といえる(まあ個人ミッションを優先しようとすると,犯人以外も似たり寄ったりになるが)。
こうしたとき,「あとで言い逃れが効くように」と小さな嘘を重ねていくのは,とくに悪手と思っておくべきだ。小さな嘘というのは検証が容易で,その矛盾を突かれると,ワリと簡単に犯人票が集まってしまう。そもそもマーダーミステリーでは,明確な証拠に基づいて真犯人が暴かれることは珍しく,大抵は「言動に矛盾があるから……」といったフワっとした理由で決着が付きがちだ。
なら,どんな嘘をつけばいいのか。
「嘘の中にほんの少しだけ真実を混ぜるとバレにくい」とはよく言ったものだが,このテクニックはマーダーミステリーでも通用する。ただし,その場合はできるだけ大きな嘘をつくこと。なぜなら,嘘が大きければ大きいほど,その検証が困難だからだ。あなたの発言に対し,「カードの情報と矛盾がないか」をチェックこそすれ,「こいつの脳内設定なんじゃないか」という可能性を考慮に入れてさらに調べを進めるプレイヤーはめったにいない。いたとしても,一人がすべての情報を内容を把握しているくらい情報共有が進んでいなければ検証は困難だし,通常そこまでの時間的余裕は登場人物に与えられていない。というわけで,必然的に大きな嘘のほうがバレにくくなる。「嘘に必要なのはIQではなく度胸」なのだ。
一つ,「大きな嘘」の例を挙げてみよう。
例えば貴方が「絶海の孤島に逃げ込んだシリアルキラー」という設定の犯人役だったとしよう。この状況下において,ただ単に自分の素性を隠そうとしても失敗する可能性が高い。捜査が進んで情報や物品が出揃ってくると,隠し切るのがどうやっても難しくなってくる。
ならば,どうするか。まるごと「裏の顔」を創作して,何人かのプレイヤーに堂々と語ってしまうのだ。例えば自分はシリアルキラーを追って潜入している捜査官だ,というような。そうすれば,あなたを指し示す証拠が出たとしても,「ヤツの手掛かりになる品を集めている。それはコレクションの一つなのだ」と言い逃れられる。
これが現実なら,そんな嘘はいずれ露見してしまうだろうが,マーダーミステリーにおいては捜査の時間も,議論の時間も限られている。真偽を確定しようがない「大きな嘘」は,このように戦法としてとても有効だ。
ただ,いくら「大きな嘘」でもあまりに突飛な,世界観を乱すような嘘はNGだ。例えば,嵐の山荘モノに,宇宙人とか神話生物を持ち出してくるような。元からそういう世界観のタイトルなら別だが,そうでないならメタ的なところでプレイヤーを混乱させることになり,ゲームを壊しかねない。注意してほしい。
当然ながら,これは犯人役以外の登場人物をプレイするとき,どうしても「裏の顔」を隠したいときに使える方法なので,これも頭に入れておくといいだろう。文章で読む分には荒唐無稽に思えるだろうが,実際のゲームでは意外に通用してしまうもの。ぜひお試しあれ。
というわけで,筆者なりの初心者への手引きを紹介してみたが,いかがだっただろうか。
もちろん自身のプレイ経験に基づいた内容ではあるものの,これはいわゆる「必勝法」や「定石」といったものではない。マーダーミステリーは奥深く,手慣れてくればもっといろいろな解法,そして楽しみ方が見つかるはずだ。そこはぜひ自分の手で開拓し,自分なりのプレイスタイルを見つけてみてほしい。
タイトルも国産のオリジナル作品が続々と制作・販売されている状況で,いまだにブームは途絶えていない。目下の新型コロナウイルスにまつわる諸々が終息すれば,さらなる盛り上がりを見せることは想像に難くない。また最近はオンラインで遊べるマーダーミステリーも増えつつあるので,そうした機会に本稿を役立ていただけたら幸いだ。
写真協力:ミステリー専門スペース「Rabbithole」
マーダーミステリー専門店「Rabbithole」公式サイト
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