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インタビュー

[インタビュー]「遙かなる時空の中で」25周年。制作陣が語る誕生のきっかけと挑戦,初めて明かされる制作秘話も!

 コーエーテクモゲームスの恋愛アドベンチャーゲーム「遙かなる時空の中で」シリーズが,本日2025年4月6日で25周年を迎えた。

 本作は,業界初の女性向け恋愛シミュレーションゲーム「アンジェリーク」に続くネオロマンスシリーズの第2弾として,2000年4月6日にリリースされ,現在までに数々の作品が発売されてきた人気シリーズだ。

初代「遙かなる時空の中で」より
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 今回4Gamerでは,「遙か」シリーズ誕生の背景や制作秘話を,当時を知る開発陣にうかがう機会を得た。座談会形式で,ナンバリングタイトルすべてにわたって語っていただいたので,ぜひ最後まで読んで楽しんでほしい。

写真左より松濤明子氏、杉原 希氏、襟川芽衣氏、園部知子氏
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●インタビュイー
襟川芽衣氏:ルビーパーティーブランド長
松濤明子氏:「遙か3」「4」リードプランナー,「遙か」「遙か2」プランナー
園部知子氏:「遙か7」ディレクター,「遙か6」リードプランナー
上田聡子氏:「遙か7」リードプランナー,「遙か」「2」「3」「4」「5」プランナー
杉原 希氏:「遙かなる時空の中で」IPプロデューサー,「遙か5」「遙か6」プランナー


「遙か」が生まれたきっかけとは?
歴史に強いコーエーテクモならではの狙いと,その制作経緯に迫る


4Gamer:
 25周年おめでとうございます。まずはあらためて,初代「遙かなる時空の中で」(以下,初代「遙か」)の制作が決まった背景をお聞かせください。当時のことをご存じなのは,松濤さんと上田さんですよね。

松濤明子氏
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松濤明子氏(以下,松濤氏):
 はい。「遙か」は,「アンジェリーク」に続く女性向けの新しい柱として,ゲーム市場を盛り上げたいという意図がありました。コーエー(現コーエーテクモゲームス)の「信長の野望」と「三國志」のように,同じチームが交代で何かを作るものとして考えられたんです。

上田聡子氏(以下,上田氏):
 西洋ファンタジーをテーマとしたシミュレーションの「アンジェリーク」に対し,「遙か」は和風で,もう少し物語をしっかりと見せるアドベンチャーゲームにすることで,ふたつの違いを出しながら両立しようとしました。

 ですので,「アンジェリーク」では星座や血液型が登場する一方,「遙か」は陰陽五行思想や八卦といった東洋の世界観をベースにしました。これらは,龍神や神子,八葉といったモチーフよりも先にやろうとしていたことです。

松濤氏:
 初代「遙か」のプロデューサーが,大学では平安時代史を専攻しており,平安時代を舞台にこだわりの内容になりました。

 そのため,作中で「何月何日に雷が落ちた」というようなエピソードは実際の歴史上で起きた事件だそうです。天気や出来事なども史実をベースに広げているんです。

4Gamer:
 本当ですか!? まさかそこまでしっかりと作られていたとは……!

園部知子氏(以下,園部氏):
 確か,当時コーエーで出していた教育系ソフトを開発していた方々が,チームに参入したという経緯もあったんですよね。

松濤氏:
 そうなんです。そのプロデューサーも教育系ソフトのチーム出身で,ゲームをとおして新しい知識を得たり,体験したりしてほしいという狙いもあったと聞いています。

上田氏:
 プレイヤーである主人公は,誕生日によって木・火・土・金・水の属性が決まるのですが,初代主人公の元宮あかねは16歳という設定のため,プレイヤーの誕生日に加え,プレイした年に16歳になる女の子の属性が割り振られます。

4Gamer:
 なるほど! 初代「遙か」は2000年に発売されましたから,当時リアルタイムでプレイしていたら,「2000年,任意の誕生日で16歳になる人物」の属性になっていたというわけですね。

上田氏:
 そうです。ですので,発売年によって同じ誕生日でも,属性も変わるんですよ。

4Gamer:
 そうだったんですね……! いやもう,「遙か」ファンとしては,ここまでの話だけでめちゃくちゃ感動しています(笑)。

杉原 希氏(以下,杉原氏):
 私もです。シリーズ初期はいちプレイヤーとして「遙か」が大好きで,どのナンバリングでも自分の誕生日を入力してプレイしていたのですが,そういえば,毎回属性が違っていて新鮮でした。こういう理由だったとは……。

松濤氏:
 八葉の属性も合わせて考えて,「パーティに◯◯属性が足りないから誕生日を変えてみよう」といったプレイをされている方もいましたね。

4Gamer:
 まさにそうでした,非常に懐かしいです。「アンジェリーク」は攻略対象となるキャラクターが守護聖ですが,「遙か」における同位置の八葉は,どのように生まれたのでしょうか。

松濤氏:
 最初は「五行」をベースにした5人のキャラクターで検討していたそうです。ですが女性ユーザーの幅広いニーズを満たすために,さらに3人が加わり8人になっています。

 八葉の天地として,男性キャラクター2人ずつをグループ化することでユーザーがキャラクターをつかみやすくなり,そういう意味でも八葉という枠は良い形になっていますね。 

上田氏:
 八葉は八卦の属性に対応していて,どのキャラクターも物語に必須の存在です。八卦の属性を歴代引き継いでいるため,八葉は時代をとおして性格的にどこか似通っているところがあります。

「遙かなる時空の中で〜八葉抄」より
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4Gamer:
 「遙か」は,ナンバリングごとに舞台となる時代やキャラクターが変わりますが,このあたりは最初から意図されていたのでしょうか。

松濤氏:
 実は「遙かなる時空の中で2」(2001年9月28日発売 ※PC版。以下,「遙か2」)の制作が決まったとき,「アンジェリーク」の守護聖のように,同じキャラクターで続投させるべきではないかという話もありました。

 ですが,「遙か」は一作で成長ドラマや恋愛ストーリーを描き切っているため,新しいキャラクターを出す必要があるという結論になりました。

 同じ時代が舞台だと,ユーザーの皆さんも「あのキャラは出ないの?」と思われるでしょうが,「遙か2」は初代の100年後という設定なので,違うキャラクターで続投することにも納得していただけたのではないかと思います。

上田氏:
 「遙か2」は,“キャラクターの交代”“時代の変化”という大きなチャレンジがあり,テキスト量も膨大でした。あのシステムとして,ある意味「遙か2」は初代「遙か」の完成形になったと思います。

「遙かなる時空の中で2」より
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4Gamer:
 「遙かなる時空の中で3」(2004年12月22日発売 ※PS2版。以下,「遙か3」)までは,平安時代が舞台になるんですよね。雰囲気がガラッと変わりますが,源平合戦は平安時代の末期ということで。

上田氏:
 はい。「遙か3」は,2作目までの雅やかな雰囲気に固執してはいませんが,それでも和歌や漢詩を頑張って入れました。平安時代の真ん中くらいだと,まだ無い和歌もありますが,作品でモチーフにした時代なら,かなり出そろっていたので。

 そういえば,松濤さんと玉葉(日記)を横浜市立中央図書館に借りに行ったことがありましたよね。

松濤氏:
 ありましたね。基本的に,一次資料をあたるほうが良いとプロデューサーから提案があって,相当真面目に調べました。どんな記述があったかを調べていくことで,すごくかっちりした参考資料ができました。

上田氏:
 あと,私は「吾妻鏡必携」を自腹で買いました……。

園部氏:
 歴史関連で分からないことを上田さんにうかがうと,いつもものすごい量の本を見せてくださるんですよ(笑)。それもパッと出してくださって。

松濤氏:
 そうなんですよね。「こんな内容の和歌で何かないですか?」と聞くと「この歌はどう?」とサッと出してくれたり。すごく頼りにしてます。

 また,「遙か3」開発当時はまだ義経の情報がネット上には少なくて……。「『一ノ谷の合戦』はどういう戦局で変化したのか」といった細かい点もできるだけ忠実に再現しようとして,「誰が今どこにいるか」というキャラクターのセリフなどは,布陣図を見ながら書きました。

襟川芽衣氏(以下,襟川氏):
 ……というのを頑張って調べて作ってしまう人たちが,当社にはたくさんいるんですよ(笑)。

4Gamer:
 いや,お話をうかがっていると本当に,当時これだけしっかりとしたバックグラウンドや知識を持って作られた女性向けゲームは,ほかに存在していなかったんじゃないかと思うくらいです。

松濤氏:
 これは社風ですよね。

襟川氏:
 当時も女性向けゲームはいろいろ出てきましたが,多くはファンタジーや学園ものだったりしましたよね。ですが,コーエーは歴史を題材としたゲームをたくさん作ってきましたし,とくに日本の歴史を扱う作品は,自分たちの会社からの見方も厳しくなります。

 ですから,作り込みはしっかりと行い,「ゲームで楽しく遊ぶ」プラス「学びがある」――その両方を意識していたのかなと。社風というのはそのとおりで,そうした社内の期待に応えたいという開発陣の想いもあったと思います。

松濤氏:
 やっぱり歴史が好きな人が会社に多いので,企画会議や中間バージョンなどで男女問わずさまざまなスタッフから「ここが良かった」「ここは改善したほうが良い」と,ご意見いただきます。

 「◯◯(登場キャラクター)が好きだな」「〇〇(登場武将)の見せ方として新しいと思う」など,キャラに寄せる熱いメッセージをもらうことも多かったですね。

写真手前:上田聡子氏
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「遙か」が作品ごとに取り組んだ,新たな挑戦
当時の女性向けゲームでは初の試みが満載!


4Gamer:
 ゲームシステムについても,詳しくお聞きしていきたいと思います。「日本ゲーム大賞」で優秀賞を受賞するなど,大ヒット作となった「遙か3」は,前2作とは雰囲気だけでなく,システム周りにも大きな変更がありましたね。

「遙かなる時空の中で3」より
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上田氏:
 「遙か」シリーズはナンバリングごとに毎回,新しいことに挑戦しているんですよ。

松濤氏:
 「遙か3」を制作する少し前,男性向けの市場もシミュレーションベースのゲームから各キャラクタールートでストーリーが変わるようなスタイルへと,流行が変わっていったんです。そうしたゲームはまだ女性向けの市場には見当たらなかったので,「女性向けにも絶対にニーズがある」と思っていました。

 そこで「遙か3」では,よりストーリードリブンな形にして,シミュレーション要素よりアドベンチャー要素やRPG要素を強めたゲームにしています。

4Gamer:
 「遙か3」では,やはり「運命上書きシステム」が実に画期的だったと思います。

松濤氏:
 そうですね。「遙か3」では,それまでのシリーズでミニゲーム制作や1キャラクターに2つの物語を作ったり,細かい分岐を作るのに使っていたリソースを,「キャラごとに大きく物語が変わる」ことに注力することにしました。

 また「遙か2」では,新しいキャラクターを攻略する際に,また最初から札を集める必要性がありました。一方でそのころリリースされていた「真・三國無双」シリーズでは,成長を引き継ぎキャラクターの強さや武器が継承されて,例えば以前は倒せなかった呂布を倒せるようになるなど体験も変化します。

 その成長感や積み上げをアドベンチャーの仕組みに乗せようと考えたのが,「運命上書きシステム」が生まれたきっかけのひとつです。

「遙か3」より
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4Gamer:
 なるほど,いわゆる“強くてニューゲーム”状態ですね。

園部氏:
 今で言うナラティブなゲームです。ストーリーを読むだけではなく,体験することによって,より面白く感じるという。私も「遙か3」をプレイして入社しました(笑)。

杉原氏:
 強さもドラマも積み上げ式になっているので,プレイするほど愛着が深まり,夢中になりましたよね。私も学生のころにプレイしたのですが,授業中も「早くあの世界に行かないと……」と,上の空だったのをよく覚えています。

松濤氏:
 実は当初,ゲームシステムの大きな変更に社内では反対意見も多かったです。初代「遙か」「遙か2」が素晴らしいゲームだったので,その延長線でいくべきだという意見もありました。

 ただ,開発現場は「絶対に面白い!」と確信していたのと,ほかのゲーム開発部門のスタッフからは「すごく良いシステムだね」という賛成ももらえたのがありがたかったです。

上田氏:
 でも,確かに社内で反対意見が出たのも,分からなくはないんですよ。これまでの「遙か」では,誰かが傷ついたり,死んだりするような描写がなかったので。

松濤氏:
 「遙か3」は,最初にプロデューサーから「『3』は義経,源平合戦。無常観をコンセプトとする」という要望がありました。そのうえで歴史上の人物としての義経は,努力して源氏のために働いても,兄に捨てられて命を落とすという悲劇性まで含めて“義経”だと思うんです。

 史実の人物をそのまま攻略対象とすることも「3」が初だったのですが,史実の出来事をオリジナルキャラクターでエピソードだけ拾うのではなく,義経や弁慶や平家の武将たちの持つバックグラウンド含めて描こうと考えていました。

 源平を描くなら「敦盛の最期」のように命をかけた覚悟は必須のものだと思いますし,「壇ノ浦の戦い」で大活躍してそのままハッピーエンドでは義経という人物を描ききれない。だからこそ,そこはしっかりと表現しようと考えました。

「遙か3」より
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上田氏:
 チームのなかでは,面白いものになる確信はありましたが,やはり新しい挑戦ではあったので,発売前に鶴岡八幡宮にお参りに行きましたよね。

松濤氏:
 行きましたね! 「たくさんの人に愛されるゲームになりますように」と絵馬を書いてきました。……頼朝様と政子様に「ごめんなさい!」と思ったりしながら(笑)。上田さんとは一緒に熊野にも取材に行きました。

4Gamer:
 そんなエピソードがあったんですね! すみません,もうひとつ「遙か3」について聞かせてください。「遙か3」は主人公人気がかなり高いことも特徴だと思いますが,あのように最前線で戦う主人公にした理由はあるのでしょうか。

松濤氏:
 主人公の「頑張る姿」に男性が惹かれるという特徴がネオロマンスシリーズにはありますが,さまざまな札を集めるという要素が無くなったことに加えて,戦場であることが伝わりやすく,緊張感が伝わりやすいように近接武器の剣にしています。

 戦線を切り開いたり,戦局を変えたりといった大きな変化も,プレイヤーである主人公自身が起こせるという狙いがあります。「可愛い」と言われるより,「すごい」と言われようになる達成感を目指しました。

上田氏:
 自分の意思で物語を変えるというところが,プレイヤーのゲーム体験と非常にシンクロしやすいところはありますよね。「本当に私が運命を変えてるんだ」という。

 「遙か」シリーズは,目的を達成するための戦いや行動が,恋愛の進行にプラスに働く構造になっていますが,そこが「アンジェリーク」とは違うんですよ。「アンジェリーク」は恋愛を成就させるためには,戦略的に育成を控える必要がありますので。

4Gamer:
 確かにそうでした……! あちらは「恋を選ぶか,女王になる使命を選ぶか」ですよね。そして「遙かなる時空の中で4」(2008年6月19日発売 ※PS2/Wii版)では,時代が一気に遡り,古代が舞台となります。

「遙かなる時空の中で4」より
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松濤氏:
 「遙か4」は,「遙かなる時空の中で0(ゼロ)」のようなものをやろうとしたことから始まりました。ただ,その“0”をどこに置くかは,かなり話し合ったんですよ。

 初代「遙か」で「100年くらい前に龍神の神子がいた」という設定があったので,最初はその時代を検討しました。ただ,そこを描くには,まだ平安京に建物などもあまりにも少なく,「これをゲームにするのは結構しんどそうだ」ということになりました。

 それなら,そもそも龍神の渡来や龍神の神子が生まれたのはいつなのかを,もう少しスケール感を上げて考えてみようと。そこで中国大陸でダイナミックなドラマをやってはどうだろうかとも検討しましたが,そういったダイナミックなものなら記紀神話の舞台でということになりました。神話の時代ということでそれまでのシリーズにないファンタジー要素を強めた形で作っています。

 記紀神話は,何年から何年ごろなのかが曖昧でスケール感をあげられる余地がありました。「遙か3」では同じ時間軸を主人公が移動しますが,「遙か4」は主人公が王となり,やがてその国が衰退し,王朝末期にまた再び主人公が生まれる……という,実は数千年にわたる物語なんです。

上田氏:
 私は考証を担当していますが,記紀神話の時代は引用できる資料が少なくて,調べるのがすごく大変でした……。

松濤氏:
 そうですよね……。上古の時代とかですから……。

 最初にビジュアルを作ったとき,「上古だと竪穴式住居? 本当にロマンティックになるの?」という意見もあり,魅力的になるようさまざまな社内スタッフの力を借りました。「この光る水が動力で……」などCGスタッフからのアイディアもたくさんもらいましたね。

 作中に登場する「天鳥船」は,全社でデザインを募集して決まったものです。若手社員の作品だったのですが,“土器をアレンジした形”という発想がとびぬけて魅力的で,採用となりました。

「遙か4」より天鳥船
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4Gamer:
 そんなエピソードがあったんですね! 「遙か4」は,システム面でマップや戦闘などに3Dが採用されたのも驚きました。

松濤氏:
 「遙か3」までのような立ち絵による演出では,多人数を表現するのに限界もあり,3Dモデルを使うことになりました。それこそ,“一軍の将”であれば,敵の人数も多いわけですし……。

 また,会話の場面でも,立ち絵だと画面上はどうしても真正面に立っているような印象になりますよね。横に並んでいるのか,それとも背中合わせなのかなどの細かいニュアンスも表現できるのではと,3Dを採用したんです。

「遙か4」より
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4Gamer:
 なるほど。少し話が逸れますが,演出面といえばSEなどを含めた表現の変化についてもうかがいたいです。

松濤氏:
 立ち絵の話もそうですが,「遙か」シリーズでは,男性キャラクターとの距離感の表現を重視してきました。例えば,初代「遙か」で採用した演出で新しかったのが,キャラクターが普段の立ち絵のサイズから,足音のSEを挟んで立ち絵がアップになるところです。それだけのことなんですが,けっこうドキッとするという。

 何かを失敗したり,距離が離れたりするときには,キャラクターがすっと下がるみたいなところも,直感的な表現方法だったんじゃないかと思います。

4Gamer:
 分かります! 足音のSEは,「遙か」シリーズでかなり印象的でした。

松濤氏:
 初代「遙か」では藤姫の足音が大きいのはおかしいよねということで,足音が鳴らなかったのですが,「2」では足音の重さを変えたものも作っています。確か,深苑(「遙か2」の藤原深苑)などは,軽めの足音にしていたと思います。

上田氏:
 あとは,雪道や履物の種類によって変えたりもしていましたね。

4Gamer:
 砂浜や玉砂利を踏むような足音もありましたね! 記憶が蘇ってきました(笑)。

松濤氏:
 そういう所作に色気というか,ツヤのようなものをさらに足したくて,「遙か3」では衣擦れのSEを,いくつかのパターンで取り入れました。武蔵坊弁慶というキャラクターがフードを被っているのですが,身動ぎしたときに「しゅるっ」という衣擦れの音がするんです。

 通常のSEは鳴り終わりを待って立ち絵が変わるのですが,音を鳴らしながらキャラクターの表情がフェードするよう,鳴り終わりを待たない指定にしています。

「遙か3」より
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4Gamer:
 いや,実に細かいですね……。

松濤氏:
 あとは,「遙か4」から入った新しい演出として,「カットイン」があります。完全な1枚絵をつくって演出する数は絞りつつ,状況描写はほしいという場面で,補足的にカットインを使っていました。

 例えば,ちょっと特別なものを拾ったとか,すごい大軍勢が……といった描写を,カットインで表現していたんです。


初代から11年後,「遙か」は新たな挑戦へ


4Gamer:
 初代「遙か」から11年目,「遙かなる時空の中で5」(2011年2月24日発売 ※PSP版。以下,「遙か5」)は,また大きな変更点がたくさんありました。

「遙かなる時空の中で5」より
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襟川芽衣氏
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襟川氏:
 「遙か5」は,シリーズのなかでも重要なタイトルです。これまでの作品と同じように,舞台となる時代とキャラクターを変えるだけでも良かったのですが,さらなる挑戦として,出演される声優さんを新たにお迎えしました。

 もちろん,これまでの作品が終わるわけではなく,ドラマCDやイベントなどを行いながら,「遙か5」で新しいゲーム展開を進めていくという……。「遙か」シリーズがさらに拡大していくところを見せられたのではないかと思います。

 メインキャラクターのキャストが変わったことで,ファンの方をビックリさせてしまったかもしれません。ですが,これまでのファンの方にも引き続き楽しんでいただきつつ,新しい展開をしていくことは,ルビーパーティーの成長にとっても非常に重要だったと感じています。受け入れてくださったファンの皆さんには,本当に感謝しています。

4Gamer:
 大きな節目となったということですね。では,内容についてお聞かせください。こちらは幕末が舞台となっていますが……。

松濤氏:
 女性ユーザーで大好きな人が多い幕末ですよね。とはいえ,「遙か5」では,あまりほかの作品で登場しなさそうな人物も出てきました。

園部氏:
 その代表はアーネスト・サトウですよね。

杉原氏:
 アーネストは一番最初に決まったキャラクターだと聞きました。時代の風の象徴として,外国人の八葉を入れたかったと。

松濤氏:
 それこそ幕末だと,新選組の人物をモチーフにしたキャラクターが多くなりがちですが,アーネストをはじめとして,開国派のキャラクターはほかにもいましたよね。

上田氏:
 そうですね。これまでの「遙か」は平安や古代が舞台でしたが,近代に入ったことで,キャラクターの感性も現代的になってきたと思います。

 「遙か5」ではアーネスト・サトウのほかにもあまり知られていない人物が八葉に選ばれていて,初めてキャラ表を見たときは正直,驚きました。

 ですが,一次資料もかなり残っており,それぞれの大義や目標がはっきり見える人物も多く,そこをリスペクトして物語を描きたいという想いがありましたので,ストーリー中にそのような意識が反映されているところもあると思います。

「遙か5」より
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4Gamer:
 倒した敵を封印すると武器が変化するというシステム(武器封印)を採用したきっかけなどがあればお聞かせください。

杉原氏:
 「遙か5」では,仲間との共闘感の表現として「連鎖術」というシステムが入りました。これは,「複数の属性の技を特定の順番で組み合わせることで,大きな術を放つ」というものです。この連鎖術を,できるだけ自由なキャラクターの組み合わせで起こせるようにするために考え出されたのが,「武器封印」です。

 「武器封印」を行うと,敵の属性を武器につけることができるので,各キャラクターは,自分の属性だけでなく,いろいろな属性の技を使えるようになるんですね。

「遙か5」より
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4Gamer:
 「遙かなる時空の中で6」(2015年3月12日発売 ※PSP/PS Vita版。以下,「遙か6」)では,戦闘システムもまた変化しましたね。さらに,ストーリーの舞台がぐっと現代に近くなり,大正時代が描かれました。

「遙かなる時空の中で6」より
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園部知子氏
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園部氏:
 「遙か6」で掲げていたのは,“原点回帰”です。時代はかなり進みましたが,初代「遙か」や「遙か2」のように,日程が決まっていて毎朝同行キャラクターを選択させて行動するシステムや,カードを使った戦闘にあえてトライしました。

 カードを使った戦闘では,スマホで遊ぶゲームが当たり前になった時代に合わせて,とっつきやすく,怨霊を使役するという本作らしい戦略性をもって遊べるようにと取り入れられたものになります。以前からのファンには懐かしく,また新しく感じてもらえるようなものを目指しました。

 舞台は“大正ロマン”で,ストーリー上の新しい試みは,これまでの白龍の神子と対の存在である黒龍の神子を主人公としたことです。時代性もありますが,“反逆”や“困難を覆す”といった逆転の発想をアンチヒロインにもたせているのと,黒龍の神子だからこそ敵勢力だった鬼の一族サイドの掘り下げや,陰の力を使った能力によってできることなどを描き,「遙か」の新しい一面を描きました。

 リードプランナーの私が「遙か」に本格的に関わるのは「6」が初めてでしたので,それゆえの新しいカラーが出ているとも思います。ただ,直前のタイトルの「下天の華」では戦国ものを制作していたので,歴史と恋愛のストーリーをしっかり描くこと,「遙か」シリーズへの愛とリスペクトを一番大事にして挑むことはしっかり決めていて,それは同じく「下天の華」チームで一緒に開発していた杉原とも話しましたね。

杉原氏:
 はい。ストーリーのテンポや,シリアスとコメディのバランスなど,「下天の華」から活かせる部分は活かしつつ,「遙か」シリーズが大切にしてきた「現代主人公ならではの価値観や絆の紡ぎ方」を強く意識して制作していましたよね。

 ちなみに,私たちもびっくりしているのですが,ちょうどこの3月で発売から10周年でして……。

4Gamer:
 比較的最近のような気がしていましたが,もう10年ですか……! 「遙か6」は,シリーズ初のフルボイスだったんですよね。

園部氏:
 そうなんです。なので,システム面ではサウンドにもかなりこだわって制作が進行しました。

 大正時代は,恋愛に対する価値観も従来シリーズよりは変化してきたので,よりしっかりと恋愛ドラマを表現する狙いがありました。ダミーヘッドマイクを使ったりと,初代「遙か」から続いていたサウンド面のこだわりの完成形と言えるかもしれません。

4Gamer:
 また戦闘システムですが,陣形や戦略が重要そうな仕組みは,シリーズのなかでもかなり異色な印象です。開発のうえで工夫した点などがあれば,教えてください。

杉原氏:
 黒龍の神子の「怨霊を使役する力」を表現するため,「札の形をとった怨霊」を主人公が扱って戦う形はどうだろう,という話になり,そこからチェスや将棋のような見た目と遊びを取り入れるという発想につながっていったそうです。

 分かりやすさと楽しさを軸に設計されたため,「複数の味方を敵に隣接させると協力技が発動する」という,シンプルな仕組みになっています。シンプルな分,簡単すぎても難しすぎても遊びとして成立しなくなってしまうため,テストプレイによるバランス調整は,いつも以上に入念に行っていました。

4Gamer:
 フルボイスにするにあたって,苦労した点や良かった点などがあれば,お聞かせください。

園部氏:
 苦労したのはシナリオのスケジュール面で,従来より制作期間がタイトになったことですが,新作フルボイス作品として「下天の華」の経験を活かし,さらに収録ボリュームを増やすべく頑張りました。

 ただ,次のタイトル「遙か7」の収録ボリュームが「遙か6」の倍以上となり……,制作陣は年々高みを目指しています(笑)。その苦労の甲斐あって,「遙か6」以降はキャストの皆様の素晴らしい演技をそのままお届けできるようになりました。まさしくドラマとしてバージョンアップできた利点だと思います。

「遙か6」より
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 また,それだけでなく,感情の盛り上がりとともに切り替わる音楽演出や,緻密な背景アート,大正レトロながら優美さを出す影絵を使った画面演出など,ビジュアル・サウンド面でも進化を遂げています。

 「遙か6」では,「遙か」シリーズでキャラクターデザイン・コミカライズをご担当されている水野十子先生に,すべてのスチル原画も描き下ろしていただくという贅沢な試みが実現しました。非常に好評だったため,「遙か7」でも引き続きスチル原画をご担当いただきました。

「遙か6」より
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4Gamer:
 現時点でシリーズ最新作となる「遙かなる時空の中で7」(2020年6月18日発売 ※Switch版。以下,「遙か7」)は,「遙か」20周年の作品となりました。こちらは満を持して,戦国時代が舞台です。コーエーテクモの他作品ではおなじみの武将も,たくさん登場しますね。

「遙か7」より
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襟川氏:
 「遙か6」でついに大正時代まで来ましたが,その次で昭和や現代を描くのも,何か違うよねと。本作の制作では,“集大成”というキーワードもよく出ていて,コーエーテクモが作るなら,やはり戦国時代のど真ん中に挑戦するべきだろうということになったんです。

 ただ,戦国時代は「下天の華」ですでに描いていたため,ネオロマンス作品では2回目になることに葛藤がありました。「武将を被らせるべきではないのでは……」といった話も出ましたが,いろいろなことを取っ払って,とにかく「遙か」で描きたいものを作ろうと。

松濤氏:
 「遙か6」が初代「遙か」「遙か2」の原点回帰であり,リブートという位置づけだとしたら,「遙か7」は「遙か3」の良かったところを取り入れた作品なんですよね。

園部氏:
 はい。戦闘では,「遙か3」の円陣システムを,より遊びやすく現代的に最適化しました。

 シナリオ面では,後半に重めのルート展開をしたいという意図がありました。あまり詳しく話すとネタバレになってしまうのですが,「運命上書きシステム」とはまた別の挑戦をしています。

「遙か7」より
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4Gamer:
 「遙か7」の主人公,天野七緒は,異世界出身の織田信長の娘です。「遙か6」までは龍神の神子が主人公でしたが,七緒は……というのが,大きなポイントですね。

園部氏:
 主人公は信長の娘,コーエーテクモが描く戦国ものです! 「遙か」の集大成を楽しみにしていてください! という感じでありつつ,すごい隠し玉があるという(笑)。でも,シナリオではしっかり泣かせますよと。

上田氏:
 龍神がいるのにどうして戦乱が続いたのだろう。また,それほど戦乱が続いた後で通常のやり方で乱世を鎮められるのだろうか,という疑問から「遙か7」の設定が生まれました。

杉原氏:
 私は「遙か7」制作時は別のプロジェクトにいたので,発売後,お客さまと同じタイミングでプレイしたのですが,スタッフロール後の演出と展開に胸が熱くなり……。ぜひそのあたりのお話をうかがいたいです。

上田氏:
 本作のストーリーは,運命上書きシステムを踏襲しないものの「エンディングごとに大きくドラマの差をつけたい」という挑戦がありました。

 「遙か」シリーズは,歴史の大きな流れを変えないようにしており,とくに「遙か7」は「遙か5」が先に出ていますから,東軍が勝利して徳川幕府が成立する流れを変えることができません。そこで,「遙か7」ではゲーム中盤の五章で龍神の神子としての使命がいったん終わる展開にしてストーリー展開の自由度を確保したんですよ。

 そこから先はキャラクターごとにルートが分岐し,さまざまなエンディングを迎えることになります。使命を果たした後の話という点ではある意味,「遙か3」の「運命の迷宮(ラビリンス)」のようなものと言ってもいいかもしれません。

杉原氏:
 ひとつの使命が終わった後も,それぞれの戦いや愛が自由に続いていくんですね。

園部氏:
 あと,「遙か7」が令和の発売タイトルらしさがあるところは,わりとカジュアルに異世界間を行き来できることですよね。VRゴーグルやキャンディなど現代のアイテムを持っていけたり。

上田氏:
 初代から作品に関わっていて,主人公が異世界トリップして「ここはどこ,何をしたらいいの?」と迷う展開は,パターン化しているなというのもあったんです。

 「遙か7」ではどのキャラクターのルートでも,現代のアイテムが最低ひとつは恋愛に絡むように設計されています。最初は,現代から持っていったアイテムによってストーリー展開が変わる,という構想もあったのですが,最終的には今の形に落ち着きました。

「遙か7」より
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松濤氏:
 それと,「遙か7」のもうひとつの挑戦は,海外で同時発売したことです。ワールドワイドな展開を目指して,「遙か」もより広いお客様に届けようとしています。

上田氏:
 それに関して,ひとつエピソードがあります。「遙か7」は,天と地上の人間の営みがリンクする「天人相関説」の発想で作られましたが,あれは中国由来の考え方なんですね。

 日本のユーザーで言及される方はほとんどいませんでしたが,台湾のユーザーからは「すごく馴染み深い」という反応がありました。

4Gamer:
 それは興味深いですね! シリーズをとおしてお話をうかがってきましたが,ハードの性能が変化することによる制作の工夫などについて,お聞かせください。例えば,当初はメモリに乗る文字量に制限があったんですよね。軍荼利の「荼」の字がない,といったことも。

松濤氏:
 昔はハードの制約上,使う文字には開発のかなり早い段階で制限がかかっていました。画数の多い字はフォントが潰れるので,可能な限り使うのを避けていましたし,故事成語や難しい言い回しも多いシリーズなのですが,セリフがリライトなどで変わると「あれ,この文字使えないのか」みたいなことも結構ありました。今では考えられませんね。

 あと,昔はROMの読み込み時の回転による待ち時間を考慮して,演出を入れたりしていました。解像度も低く,一行の文字数が少ないので,「イクティダールさん」とか「リズヴァーン先生」などの長いキャラ名が入ると,それだけで一行の大半が埋まることもありました。

 「遙か3」では,話者が分かりやすいように顔のそばにセリフウィンドウが出るようにしたのですが,そのため縦の文字数が「遙か」「遙か2」よりさらに少なくなっていて,「先生」と呼ぶ形にしていたことに,後々かなり救われましたね。

4Gamer:
 ネオロマンスシリーズにおけるシステム共通化とは何でしょうか。また,システム改善によるスキップの高速化など,利便性向上について教えてください。

松濤氏:
 ネオロマンスゲームは,ほかのシリーズで進化した点を相互に取り入れることで,より便利により快適にゲームがプレイできるように発展してきました。高速スキップやセーブデータに鍵をかける機能などが,その一例です。ほかにも,「遙か4」は「金色のコルダ」の仕組みをベースにして動いていたりします。

4Gamer:
 ルビーパーティー名物とも言える分岐の多さは,「遙か」シリーズから始まったものだそうですね。敗北時のみの演出や,特定条件のときのみ出現する分岐など,非常に多く用意されていますが,工夫したことや苦労した点があれば教えてください。

松濤氏:
 プレイヤー自身の行動や選択が,後々にまで影響するという部分は,「遙か」のリードシナリオがこだわっていたところでした。直後ではなく,「あのとき,あなたは〇〇と言ったよね」というようなやり取りが入ることで,そのキャラクターに与えた影響がより重く伝わりますよね。そういった狙いの集大成ともいえるのが「遙か2」で,「プレイヤーの気持ちや考えに近いものが必ずある」と言えるほど,充実した細かい枝分かれの分岐があります。

上田氏:
 「遙か」シリーズでは,テキストの作成に入る前にイベント内のフローを作成して,全体の流れを決めてからテキストを書くという作り方をしていました。「遙か3」では,ゲーム進行自体もさまざまに変化するため,章全体のフローを作成することで分岐を管理していました。フルボイス化してからは音声数の上限があるため,分岐をたくさん作るのが少し難しくなりましたね。

松濤氏:
 そうですね……当時は音声がない部分がある前提でしたから。それをフルボイス化した「遙か3 Ultimate」は本当に音声が膨大でした。

「遙か2」より
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4Gamer:
 今では当たり前になった演出やシステムも多いかもしれませんが,当時としては,どれも画期的なものでした。本当に,「遙か」シリーズは,のちの女性向けゲームに多大な影響を与えたと思います。


「遙か」が大切に掲げていること
25周年を迎え,新たに目指すものとは


4Gamer:
 「遙か」シリーズを長く作っているなかで,大切にしていることがあれば,あらためてお聞かせください。

杉原 希氏
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杉原氏:
 「遙か」に関わらせていただくなかで,大切にしたいと思っているのは,主人公の使命の重さです。もちろん,「アンジェリーク」をはじめとする他シリーズの主人公たちも,大切な使命や志を持っているのですが,「遙か」の場合,主人公は冒頭から神子という大きな責任を課せられるうえ,救う対象は見知らぬ世界だという……。ものすごくハードだと思います。

 いわゆる「立場が人を作る」パターンですよね。悩み,もがきながら,さまざまな人と手を取り合って困難を乗り越えるうちに,お仕着せだった使命が,いつのまにか主人公自身の望みになっている。絆や恋をとおして,見知らぬ世界が,守りたい世界に変わっていく。

 この主人公のひたむきな成長こそが,お客さまが没入してくださる理由のひとつではないかと感じていまして,シリーズとしても,ずっと大切にしていきたいポイントだなと思います。

松濤氏:
 確かにそういう重さは「遙か」シリーズならではの個性ですね。
 あとはルビーパーティーのゲームを通じて,女性向けではありますが,女性に限らず,プレイしたすべての人が面白く感じられるような,システムもシナリオも幅広いユーザーにとって魅力的なゲームであってほしいですね。

 シナリオとシステムの両輪がきれいに回っていること……せっかくゲームという形で遊ぶわけなので,ほかのメディアではできない体験になると良いなと思います。自分の体験として物語を受け取れるのが,ゲームというメディアのアドバンテージだと思いますし。

上田氏:
 お話だけでなく,システム的にも,しっかり楽しんでほしいという想いを込めてゲームを作っている会社なので,そうした面白さは常に求められていますね。

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園部氏:
 「遙か」に限らずですが,ルビーパーティーの作品に共通するのが,とっつきやすさや遊びやすさを意識していることです。五行説や歴史って難しそうだけど……と思っていても,遊んでみたら面白かったと感じてもらえるように。

松濤氏:
 ですね。口当たりを柔らかくするために,パラメータひとつとっても,「数字で見せるのではない表現」にこだわったり。

上田氏:
 どこまでをシステムで,どこまでをシナリオで表現するか……というのもありますね。

4Gamer:
 それをしっかりと作品に作り上げるのが,ルビーパーティーのすごさだと思います。
 「遙か」は25周年を迎えますが,ネオロマンス30周年記念として行われた先日のイベントも素晴らしかったです。キャストさんたちが喜ぶ姿も印象深かったのですが,チームの皆さんからも,ぜひ感想などをお聞かせください。

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 コーエーテクモゲームスは2025年1月25日,KT Zepp Yokohamaにて「ネオロマンス」30周年を記念した「ネオロマンス 30th Anniversary 〜遙かなる時空の中で〜」を開催した。初代キャスト陣が神子たちの前に揃うのは,2018年の「遙かキャラソン祭」以来。ファン待望のイベントの模様をお伝えしよう。

[2025/02/08 12:00]

杉原氏:
 イベントが行われるときは,開発チームに台本のチェックが回ってくるのですが,私たちも久しぶりに歴代の八葉と再会できたような思いで,とてもうれしかったです。

 また,当日の会場は,シリーズを支え続けてくださっている声優の皆さま,ならびにお客さま方のあたたかい愛情で満ちあふれていました。「遙か」は,会場においでくださった方を含め,すべてのお客さまと共に大切に作り上げられてきた作品なのだということを,あらためて痛感しました。シリーズに携わらせていただいていることを心から幸せに思うとともに,身の引き締まる思いでした。

襟川氏:
 コロナ禍に入って以降,しばらく「遙か」のオンリーイベントができない状況が続いていました。お客さまを呼ぶかたちとしては久しぶりのイベント,というだけでも胸が熱くなりましたね。

 内容も「遙か」の集大成ともいえるものになっていて,みんなで昔の映像を見て笑ったり泣いたり,思い出が蘇りました。とても懐かしく思いつつ,「これからも『遙か』は続いていく」という希望を,皆さんが感じている様子を見ることができて,私たちスタッフも鼓舞されたイベントでした。

4Gamer:
 それでは最後に,ファンの皆さんに向けて,一言ずつメッセージをお願いします。

襟川氏:
 いつも応援いただきありがとうございます。
 本日,「遙かなる時空の中で」は25周年を迎えることができました。

 今回の座談会のなかで,「遙か」がたくさんの歴史を重ねてきたことを,あらためて実感しています。そして,皆様の愛に支えられてきた25年なのだと,感謝の気持ちでいっぱいです。

 これからも皆様とともに歩み続けていけるよう,一同頑張りますので,ぜひ応援よろしくお願いします!

松濤氏:
 時空を越えたスケール感と「切なさ」を重視して作られたこのシリーズが,25年続いてさまざまなお客様に愛されてきたのは,とてもうれしいことです。お客様の心の中で大切に生き続けられるキャラクターと体験を生み出せるよう,制作者みんなも頑張っておりますので,今後もご注目いただけますと幸いです。

上田氏:
 「遙か」シリーズは登場人物の変化や成長を描く作品ですが,25年の歳月を経て,「遙か」シリーズ自体もまた,変化や成長を遂げてきたと思います。ここまで続けてこられたのも,ひとえにファンの皆様のおかげです。心からの感謝を込めて,あらためてご挨拶申し上げます。

園部氏:
 「遙か」シリーズは,皆様の声援に支えられながら,大きく変わり続け,同時に,変わらぬ切なさや温かさを守り続けるために,長い歩みを続けてまいりました。また,どのタイトルにもそれぞれの「遙か」が凝縮されており,どこから入っていただいても楽しめるのが醍醐味です。

 興味はあるけれど,まだプレイしたことがないという方は,ちょうどSwitch版「遙か6 DX」「遙か7」のダウンロード版が4月11日からセールになりますので,この機会にぜひ遊んでいただけるとうれしいです!

杉原氏:
 いつもシリーズを応援してくださり,ありがとうございます。時の流れのなかで,皆さまの周りでもさまざまなことが変わったかと思いますが,八葉たち,そして皆さまの分身たる神子たちが,ずっと皆さまとともにいて,ふとしたときにお背中を押すことを願っています。

 また,私からも2点,お知らせをさせていただきます。
 このたび,「遙かなる時空の中で」25周年キャンペーンとして,記念くじ&記念グッズの発売が決定いたしました。2025年春に受注予定ですので,ぜひご期待ください。

 そして,5月27日より,motto cafe池袋店にて「遙かなる時空の中で -白虎祭・玄武祭-」の開催が決定いたしました。詳細は後日発表いたしますので,こちらもあわせてご注目ください。

 新商品やコラボカフェに関する最新情報は,各種公式Xやネオロマンスオフィシャルサイトなどにてお知らせいたします。

4Gamer:
 本日はありがとうございました!

ーー2025年3月17日収録

ネオロマンスオフィシャルサイト

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