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レイトレ対応GPU「Navi 2X」は2020年後半,「Zen 3」ベースのEPYCは同年末に登場。AMDが投資家向けイベントでロードマップを明らかに
投資家向けのイベントであるため,当然のことながら新技術や新製品の発表を行うようなものではない。しかし,2019年における業績説明だけでなく,2020年に向けた事業計画の説明もあり,その中には,今後,同社から登場する新プロセッサのロードマップ紹介も含まれていた。本稿では,そうしたロードマップ情報を抜粋してレポートしたい。
リアルタイムレイトレーシング対応のRadeonは,
RDNA 2ベースの「Navi 2X」として2020年後半に登場
4Gamer読者の関心が高そうなテーマとしては,これまで一向に姿を現すことのなかった「リアルタイムレイトレーシングに対応するNavi世代GPU」について,近年のAMDで,Mr.Radeonの役を務めるDavid Wang氏(Senior Vice President for the Radeon Technologies Group,AMD)と,旧ATI Technologies時代からGPU開発を統括しているRick Bergman氏(Executive Vice President,Computing and Graphics Business Group,AMD)らが説明した。
両氏の発表における要点は,以下の3点となる。
- リアルタイムレイトレーシング対応のNaviは「Navi 2X」で,アーキテクチャ名は「RDNA 2」となる
- (Navi 2Xの)リリース時期は2020年後半となる見込み
- 製造プロセスは引き続き7nmを用いる
裏を返せば,2020年前半に,リアルタイムレイトレーシング技術対応の新GPUがAMDから登場することはない,ということでもある。
また,Navi 2Xに続く世代の「Navi 3X」は,「RDNA 3」アーキテクチャとして,現在開発を進めていることも明らかとなった。製造プロセスは未定のようだが,登場時期は2022年前後となるようだ。
なお,これまでNaviの後継となるGPUの開発コードネームは「Arcturus」(アークトゥルス,うしかい座の1等星)と言われてきたが,当面はNaviシリーズが続くことになったようである。
Navi 2Xがサポートするリアルタイムレイトレーシングについては,興味深いことも明らかになっている。Navi 2Xのリアルタイムレイトレーシングは,Microsoftのレイトレーシング技術「DirectX Raytracing」(以下,DXR)の新バージョン「DirectX Raytracing 1.1」(以下,DXR1.1)でサポートされるという点だ。
DXR1.1は,2020年前半にリリース予定であるWindows 10の大型アップデートで,DirectX 12に統合されるといわれる機能である。DXR1.1では,「グラフィックスレンダリングに非同期なレイトレーシング」をサポートする見込みで,物理シミュレーションや音響シミュレーションといった算術用途,いうなれば「GPGPU寄りなレイトレーシング」においても使いやすいAPI拡張が行われているという。
ちなみに,このDXR1.1が統合される新DirectX 12では,NVIDIAが考案した新しいジオメトリパイプライン「Mesh Shader」(関連記事)が正式採用となるのが発表済みで,ゲームグラフィックス業界の関心はとても高い。はたして,AMDのNavi 2Xは,リアルタイムレイトレーシング対応のみならず,NVIDIA考案の新ジオメトリパイプラインに対応してくるのかが,気になるところである。
Zen 3ベースのCPUが早くも2020年後半に発表?
一方,CPU分野については,AMDのCTOであるMark Papermaster氏(CTO and Senior Vice President,Technology and Engineering,AMD)や,サーバー部門を担当する上級副社長のForrest Norrod氏(Senior Vice President and General Manager,Data Center and Embedded Solutions Group)がロードマップを示していた。
両氏の発表における要点は,以下の3点となる
- Zenアーキテクチャをさらに進化させた「Zen 3」を2020年の年末に投入する準備がある
- Zen製造プロセスは引き続き7nmとなる。
- Zen 3の次世代となる「Zen 4」の製造プロセスは,5nmプロセスとなる
なお,Zen 3やZen 4ベースのCPUにおけるCPUコア数や対応スレッド数などについては言及されなかった。
サーバー向けCPUも,同じアーキテクチャを使用するので,Zen 3ベースのEPYCプロセッサは,開発コードネーム「Milan」として2020年年末に投入予定とのこと。続けて2022年頃までには,Zen 4ベースのEPYCである開発コードネーム「Genoa」が投入見込みであるそうだ。
Zen 3ベースのMilanは,米国のオークリッジ国立研究所(ORNL)で2021年稼動予定であるスーパーコンピュータ「Frontier」に,Zen 4ベースのGenoaは,米国エネルギー省(DoE)が2023年に稼動を予定しているスーパーコンピュータ「El Capitan」に採用される予定とのことである。
さらにZen 3以降のCPUでは,CPUパッケージデザインの変革を予定していることも明らかとなった。
現行世代であるZen 2ベースのRyzenやEPYCは,「チップレットアーキテクチャ」を採用し,演算コアであるCPUダイと,周辺インタフェースをまとめたI/Oダイを1つのパッケージに収めた構造を採用し,柔軟な製品展開を迅速に行えるようにしていた。Zen 3以降でも,AMDは,このような革新的なパッケージング技術で業界を驚かせていきたいという。
具体的にどのような技術を用いるのかは明らかになっていないが,そのヒントとして示されたのは「X3Dパッケージング」というキーワードだ。
これまでのプロセッサ製造においては,面積を増やすことなく多くのCPUやメモリをパッケージ上に実装するために,CPUのようなロジック部分のダイと,メモリ部分のダイなどを直接積層する「3Dスタッキング」技術や,配線層(Interposer)の上に積層メモリダイとロジックダイを載せる「2.5Dスタッキング」技術が実用化されている。X3Dパッケージングでは,これらの技術を適材適所で両方とも活用するものであるという。
具体的な実装例は示されなかったが,積層メモリ技術であるHBMや,Ryzenシリーズにおけるチップレットアーキテクチャの延長線上にあるという説明だったので,1パッケージのプロセッサ上に,メモリやロジックを今よりも多く,かつ柔軟に実装することを目指すものと思われる。
こうした実装は,CPUよりもAPU的なプロセッサのほうが連想しやすいと思う。
GCNは新ブランド「CDNA」に改称
2019年5月にNavi世代GPUのRadeon RX 5000シリーズが発表となったとき,AMDは,従来のRadeonで採用してきた「GCN」(Graphics Core Next)アーキテクチャから,グラフィックスレンダリングに特化した「RDNA」(Radeon DNA)アーキテクチャへの刷新をアピールした。それと同時にAMDは,GPGPU寄りに振ったGCNアーキテクチャは,今後もGPGPU用途向けに継続していくとアピールしていたことを覚えている人もいるだろう。今回の発表では,この点についても説明があった。
AMDによると,GCNは「CDNA」(Compute DNA)に名を変えて,従来のアーキテクチャをベースにしながら,機械学習やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)用途に特化した最適化を図るという。
実際の製品としては,AMDのGPGPU向け製品であるRadeon Instinctブランドから登場する予定だ。CDNAベースのGPUで最初の製品は,7nmプロセスで製造され,先述したスーパーコンピュータのFrontierに組み込まれるようである。
CDNAの次世代となる「CDNA 2」では,CPUとGPUとで共有しているメモリ空間の整合性(≒キャッシュコヒーレンシ)が取られるようになり,CPUプログラムとGPUプログラムが,互いのメモリ空間にアクセスするときに,細かい気配りを行わなくて済むようになるという。おそらくは,明示的に指定したメモリ空間に対してのみ整合性を取る仕組みになると思うが,CPUとGPUが協調動作するプログラムの開発難度が格段に下がり,なおかつそれぞれのプロセッサにおける性能を引き出しやすくなるはずである。
このCDNA 2ベースのGPUも,先述した米国のスーパーコンピュータであるEl Capitanに採用の予定だ。
なお,CDNA 2におけるキャッシュコヒーレンシを実現する技術が,AMDが現在開発中の第3世代「Infinity Architecture」である。
Infinity Architectureとは,AMDが2017年に発表したプロセッサ間インターコネクト技術「Infinity Fabric」の発展型だ。Infinity Fabricの第2世代であるInfinity Architectureは,Zen 2ベースのCPUや,VegaベースのGPU「Radeon Instinct MI60,MI50」に採用されている。
Infinity ArchitectureはAMDの基盤技術なので,第3世代のInfinity Architectureは,RDNA系GPUの内部にも採用されるはずだ。ただ,グラフィックス用途に振ったRDNA系GPUで,CDNA系と同等のキャッシュコヒーレンシをサポートするのかどうかは,今のところ不明である。
話は変わるが,AMDのCEOであるLisa Su博士(President and CEO,AMD)は,イベントの最後に,世界的な新型コロナウイルスの流行によるAMD製品のサプライチェーンに対する影響について言及した。氏によれば,「今のところ大きな影響は受けていない」そうで,自社製品に対する需要も「中国内の需要は若干下がっているが,それ以外の国での需要におおむね影響なし」とのことだ。
そのため「状況が流動的なので予断を許さない」としつつも,「今のところは,製品開発,製品製造にも大きな影響はない」という見解を示した。近々,AMD製品の導入を検討していた人にとっては,少し安心できる話だろうか。
AMDの投資家向け情報ページ(英語)
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