レビュー
「鬼ノ哭ク邦」レビュー。やり込みでどんどん強くなるバトルシステムの気持ちよさと,考えさせられるシナリオが魅力
特殊な死生観を提示し,プレイヤーに問いかける物語
本作の舞台となる「中ノ邦(ナカノクニ)」の人々は,我々とは異なる死生観を持つ。死後に生まれ変わる“輪廻転生”が信じられており,死者が出ても悲しむことが禁じられているのだ。
死者が未練や悲しみを残すと,輪廻転生できずに魔物と化してしまう。これを防ぐのが,本作の主人公であるカガチらが務める,「逝ク人守リ(イクトモリ)」と呼ばれる者。死者の未練を断ち切り,彼らが安心して来世へ向かえるようにする。カガチは任務の中で,謎の少女・リンネと,彼女を追う殺人鬼・黒夜叉に出会い,その運命は大きく変化していくことになる。
物語が重要な作品だけに,先の展開や細かい所に触れるのは避けておくが,プレイを始めたばかりだと,重いムードと中ノ邦における死生観に驚くかもしれない。我々が恐れる死だが,中ノ邦においては来世に行くためのステップとして,ある意味肯定的に捉えられているからだ。生と死という領域に,我々の常識とは異なる考え方が提示され,プレイヤーとしてはいろいろと考えさせられる。
ポイントは,中ノ邦の住人達もこうした死生観を完全に肯定しているわけではないということ。町の人々の声を聞いてみると,本音は我々と近いものであることが分かる。輪廻転生した先でも愛する相手と別れたくないと願う人がいれば,全体主義的に輪廻転生を礼賛する中ノ邦のありように疑問を呈する人もいる。報われぬ思いに悲しむ人もいるし,愛が妄執に変じて苦悶する人もいる。つまりは中ノ邦の住人達は本質的に我々と同じ人間であるということだ。逝ク人守リとして生死を達観し,時には冷徹に見えるカガチと,普通の住人達の対比を通し,中ノ邦の死生観を物語として読み進めていくと,より没入できるだろう。
鬼ビ人は,戦うほどに強くなる
物語がダークであるのとは対照的に,本作のバトルは魔物達をなぎ払っていく気持ちのいいものとなっている。といっても,反射神経が必要なアクションではなく,立ち回りが重視される内容だ。ボス級の魔物ともなれば攻撃力が高く,相手の動きをしっかりと見て,一手先を行く感じで余裕を持って回避したい。
バトルの見どころは,ジョブに相当する「鬼ビ人(オニビト)」の個性と成長にある。鬼ビ人は強大な力を持つ死者の魂で,1人1人が異なる武器を司っており,カガチは鬼ビ人を自身に憑依させて戦う。最大4人の鬼ビ人を「編成」し,バトル中にリアルタイムで切り替えられるのだ。
鬼ビ人の武器は,手数で勝負する双剣,重い一撃を叩き込む斧,飛び道具の弩(おおゆみ),特殊なバリアを設置する格闘など,いずれも個性的。通常攻撃や攻撃スキル,そしてステップやガード,ジャンプといった特殊動作「鬼ビ人アクション」を駆使し,魔物たちと戦っていこう。
盾砲のガウォードは通常攻撃こそ鈍重だが,スキルの威力は高い |
トレイズは鎖。敵を攻撃するだけでなく,地面に打ち込んで移動の助けにもできる |
双剣のリガンはスピーディーな動きと,敵の攻撃を受け止めてのカウンターが爽快。魔物を斬りつけつつ,一気に駆け抜ける |
ウィルは斧の重い一撃をたたき込める |
鬼ビ人のシステムでとくに楽しいのがパワーアップだ。鬼ビ人の攻撃を魔物に当てていくと,スキルポイントに相当する「鬼魂(オニダマ)」が手に入る。この鬼魂を,スキルツリーの役割をする「技奥樹(ギオウジュ)」に割り振れば,攻撃スキルやパッシブスキルを修得できるのだ。仲間になった当初の鬼ビ人は,通常攻撃と鬼ビ人アクション,攻撃スキル1つしか使えない。しかし,育てると攻撃スキルが増え,そこにいろいろなパッシブスキルの効果も乗っていくので,飛躍的に強くなっていくのだ。
例えば,鎌のイザナは,仲間になった時点だと,通常攻撃と瞬間移動の鬼ビ人アクション,そして周囲をなぎ払う「パラレル」という攻撃スキルしか持っていない。攻撃範囲は広いもののリーチ自体は短く「接近しないと戦えない鬼ビ人」という印象だ。
しかし,スキルが揃っていくと「敵の側背に回り込んでクリティカルヒットや即死を狙う,アグレッシブな鬼ビ人」であることが分かる。それというのも,敵の側背から攻撃を当てることで発動するパッシブスキルが多数存在するからだ。「クリティカル率が上がる」「自分の防御力が上がる」「敵の防御力を下げる」「確率で自分のHPが回復する」「自分の移動速度が上がる」など,これらの効果が通常攻撃の一振り,攻撃スキルの一発に乗る可能性があるのだから心強い。
攻撃スキルも,敵の後方から当てると一定確率で即死が発生する「リーパー」や,鎌から衝撃波を放つ「ショック」など,様々なタイプのものを修得でき,やはりこれらにも前述したパッシブスキルの効果が乗る。パッシブスキルで上昇した移動速度と瞬間移動を駆使し,魔物の後ろへ回り込むことで高威力の攻撃を叩き出せるのだ。このように育てていくことで,鬼ビ人の印象と立ち回りが大きく変わってくる。
イザナと対照的に,弩のディーアは敵との距離が遠いほど有利になる。敵を「ロック」してから攻撃を当てれば,様々な効果が発動するからだ。
ロックは,攻撃スキルを使う際にボタンを押しっぱなしにするとカーソルが出現するので,これを動かして敵を狙うというもの。ロックした敵を攻撃すると,パッシブスキルの効果によって怯ませやすくなったり,自分の攻撃力が上がったり,敵の防御力が落ちたりといった効果が発生するのだ。カーソルを動かしている最中は無防備になるため,逃げながら戦うのが効果的となる。
ルシカが憑依した状態の戦い方も特徴的だ。ルシカはナックルのパンチ攻撃のほか,「バリア」の鬼ビ人アクションと「装置」を使える。ドーム状のバリアには,受けるダメージを減少させる効果があるものの,初期段階だと展開中に身動きが取れないため,単なる防御の役割しかない。
しかし,パッシブスキルを取ると,バリアを設置した後,カガチが自由に動けるようになるため,バリアの中に留まって戦うという選択肢が生まれる。
そして,特定の攻撃スキルを当てると発生する不思議な光球が装置だ。画面上に多く存在するほど,攻撃スキルの威力やクリティカル率がアップする。つまり,バリアの中に敵を誘い込み,スキルのクールタイムを把握した上で,できるだけ多くの装置を出すことを意識すれば,効率よく自身を強化できる。
パッシブスキルを取れば,バリアを設置した後は自由に動けるようになる |
特定の攻撃スキルを当てると,光球「装置」が出現 |
また,すべての鬼ビ人の攻撃スキルは,「覚醒」によってさらに強くなる。覚醒とは攻撃スキルを使っていると「覚醒効果」が発動するというもので,こちらも攻撃力アップや移動速度の上昇など効果は様々。覚醒効果は,1つの攻撃スキルに対して4つまで付与することが可能だ。
ここに,後述する武器の特殊効果も加わって,最終的には技奥樹のパッシブスキル複数+覚醒効果4種+武器の特殊効果複数が付与され,ものすごい性能になる。というと,ややこしく思えるかもしれないが,基本的には,鬼ビ人で戦っているだけで鬼魂や覚醒が手に入ってどんどんパワーアップする。そのため,育成のモチベーションも上がり,次はどんな鬼ビ人が出てくるのか,鬼魂でどんなスキルを手に入れようかと,ワクワクしながらゲームを進められるのだ。
体験版を遊んだ人の中には,鬼ビ人の切り替えに少し時間がかかることや,攻撃スキルの後に動けなくなることが気になった人がいるかもしれない。製品版では「鬼ビ人の切り替えを早くする」「鬼ビ人を切り替えた後の隙を移動や攻撃でキャンセルできる」「攻撃スキルの隙を通常攻撃でキャンセルできる」といったパッシブスキルが用意されているので,ぜひ使ってみよう。
任務を進めるうえでは,現世である「現シ世(ウツシヨ)」と死者の世界「幽リ世(カクリヨ)」を行き来するのも重要だ。幽リ世には宝箱が隠されていたり,鬼ビ人や,死者の魂である「迷イ人(マヨイト)」がいたりする。鬼ビ人を見つければ仲間にでき,迷イ人の願いを叶えてあげれば報酬がもらえるので,積極的に幽リ世を探検してみよう。
また,幽リ世では物理法則が変化し「攻撃を受けてものけぞらなくなる」「すべての攻撃がクリティカルヒットになる」「空中にいると攻撃力が上がる」など特殊な効果が発生することもある。うまく使って魔物との戦いを有利にしよう。
魔物を倒せれば,武器や,武器に特殊な効果を与える「影石(カゲイシ)」が手に入る。同じ武器であっても,強化の段階や影石をはめ込めるスロットの数が違っているため,理想の武器を探してトレジャーハントに励もう。状態異常の発動率を上げるパッシブスキルを持つ鬼ビ人に,毒や麻痺を付与する影石をはめ込んだ武器を持たせるなど,いろいろと工夫してみるのも面白い。
いくつか気になる点もあった。例えばボスとの戦いにおいて,負けた時に「リトライ」を選ぶと,鬼ビ人の編成を変えることができずにボスとの再戦がスタートしてしまう。鬼ビ人とボスの相性によっては特定の攻撃を回避しづらい場合があるため,リトライを繰り返していると泥仕合になりがち。現在のリトライに加え,鬼ビ人の編成を変えて挑めるようになっていればよりプレイしやすいのではないだろうか。
また,新しい鬼ビ人を仲間にした際は,魔物が弱いマップへ行って育成すると効率が良いのだが,マップを選択する際に推奨レベルの表示がほしいと感じられた。
武器にはまっている影石の効果をその場でチェックすることができず,武器のリストを閉じてから影石のリストへ飛ばなければならないのも少し不便だ。鬼ビ人の通常攻撃や攻撃スキルに,どんなパッシブスキルの効果が乗っているかの一覧が確認できれば,バトルのプランが立てやすくなると思う。
といった感じで,細かな不満はあるものの,本作は死生観をテーマとしたダークなシナリオや,戦うほどに強くなる気持ちの良いバトルシステムという,2つの大きな魅力を持つタイトルに仕上がっている。まずは体験版を触って,興味を惹かれたらぜひ,その続きを製品版でプレイしてみてほしい。
「鬼ノ哭ク邦」公式サイト
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