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劇団の新たな可能性を示した一作。「劇団『ドラマティカ』ACT2」東京公演の感想をネタバレなしで語る
Happy Elementsが提供する人気ゲームアプリ「あんさんぶるスターズ!!」(以下,「あんスタ!!」)の舞台シリーズの1つ,「劇団『ドラマティカ』ACT2/Phantom and Invisible Resonance」が,2022年6月24日より上演中だ。本稿では,東京公演を観劇した筆者の所感をネタバレなしでお伝えしていく。未見の人で一切の情報を入れたくない場合はご注意いただきたいが,あらかじめ雰囲気を知っておきたい人には観劇ガイドに,観終わった人にはいち鑑賞者の感想として楽しんでもらえれば幸いだ。
「劇団『ドラマティカ』」の新たな挑戦,ACT2
<あらすじ>
実在するのかさえわからない謎のテロリスト『ファントム』―――
『あいつだけは…絶対に俺が……!』
バー「ta-ta」。
ギィ・フェルディナントがマスターを務めるこの店には、秘密を抱えた常連客のみが日々やってくる。
警察からの汚れ仕事を担うエージェントの朝比奈ルシカは、刑事である京極哲太との取引のために「ta-ta」を訪れていた。
とある事情から『ファントム』を追い続けているルシカに対し、京極は『ファントム』との接点があるとされる和蒜 デニス 健治確保のミッションを課す。
その和蒜を知る人物として、京極の部下である笠舞 歩が連れてきたのは死刑囚・雫 斗真。
京極の命により、ルシカと斗真はペアとして任務を遂行することになるが、非協力的である斗真に対しルシカの苛立ちが募っていき……。
『…絶対服従で俺のために踊れ,アシカ。』
果たして彼らは和蒜に,そして『ファントム』にたどり着くことができるのか―――
※公式サイトより引用
「劇団『ドラマティカ』」とは,「あんスタ!!」に登場するアイドルたちが所属する演劇サークルだ。今作も,2021年に上演された「劇団『ドラマティカ』ACT1/西遊記悠久奇譚」(以下,「ACT1」)と同様に,“アイドルたちが舞台上で役を演じる”という「劇中劇」のスタイルとなっている。
あらすじを見てもらえば分かるとおり,「ACT2」は前作とは世界観も雰囲気もまったく異なるクライムサスペンス調のオリジナルストーリーだ。と言っても,終始シリアスな場面ばかりということはない。ちょっとしたコミカルなやりとりと,迫力あるアクションや歌などがスタイリッシュなビジュアルに彩られて展開し,観る者を飽きさせない。かっこいい,かわいい,面白い,切ないなど,この1つの舞台にはさまざまな要素が詰まっている。
前作を観劇した人は分かると思うが,「ACT1」の三蔵法師をはじめとする登場人物は,それぞれを演じるアイドルたちに近い部分を感じることが多かった。ところが今回の「ACT2」は,出てくる人物のほとんどがアイドルとしての彼らとは正反対のイメージを持っている。
鳴上 嵐が演じる朝比奈ルシカ(演:北村 諒)は,普段の嵐とは違う男らしい口調だし,月永レオが演じる雫 斗真(演:橋本祥平)は無愛想で刺々しい。真面目でふざけたことをほぼしない日々樹 渉の京極哲太(演:安井一真)も,乱 凪砂が演じるギィ・フェルディナント(演:松田 岳)のおちゃめで人当たりが良いところも,悪の組織に君臨する斎宮 宗の和蒜 デニス 健治(演:山崎大輝)も,氷鷹北斗が演じる,押しは弱いが先輩刑事をこよなく尊敬する笠舞 歩(演:山本一慶)も――どの役柄においても,“(作中の)ファンが知るアイドルたち”とは異なる性質が全面に押し出されたキャラクター性だ。
役者陣にとってはただでさえ難しいであろう劇中劇が,「ACT2」ではさらなる難度だったことは想像に難くない。とはいえ,舞台を観ているとしっかり「アイドルが役を演じている」と感じられたし,どの役も,いつものアイドルたちとは違う新たな魅力にあふれていて感服した。
ただしこの舞台は,単に「普段見ることのできないアイドルの魅力が感じられる作品」というだけの認識で観劇すると,少し意外な味わいになるかもしれない。というのも「ACT2」は,世界観以外にも前作との大きな変化があると感じたからだ。
「ACT2」は,「ああ,面白かった!」で終わらない“何か”を残す。キャストインタビューでも「帰ってからも思い出して楽しめる」という発言があったとおり,おそらく「ACT2」を見終わったあと,多くの人がこの物語や残された余韻について考えをめぐらせるだろう。また,観劇した者同士でお互いの感想を話し合いたくなるかもしれない。そんななか筆者がたどり着いたのは,「劇団『ドラマティカ』」という存在そのものが,よりリアルに感じられたという感覚だった。
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「あんスタ!!」の舞台化シリーズ“劇団『ドラマティカ』”キャストインタビュー。新作公演は,「ファントム」を追う男たちを描く完全オリジナルストーリー
Happy Elementsが展開する人気ゲームアプリ「あんさんぶるスターズ!!」の舞台「劇団『ドラマティカ』シリーズ」の第2弾公演「劇団『ドラマティカ』ACT2/Phantom and Invisible Resonance」が,2022年6月24日より上演される。本稿では,出演者の山本一慶さん,安井一真さん,松田 岳さん,山崎大輝さんへのインタビューをお届けしよう。
映画にたとえると,分かりやすいエンターテイメントに徹していた「ACT1」はシネコンで観るハリウッド映画。一方の「ACT2」は,ミニシアターが似合うヨーロッパ映画と言えばいいだろうか。「ACT2」は観る人によって感じ方がかなり異なりそうな点もそうだし,憂いを含んだストーリー性というのもそれに近いと個人的には感じる。
「劇団『ドラマティカ』」は,高校を卒業したばかりのアイドル(ただし演劇にとてつもない才能がある),日々樹 渉が主宰する劇団サークルである。彼は予定調和に興味がなく,人を驚かせることに喜びを感じるタイプの人物だ。
筆者の解釈では,そんな彼が率いる「劇団『ドラマティカ』」は,難しいと思われることにも果敢に取り組み,常に新しい何かに挑戦する集団だと思える。渉だけでなく,劇団に所属する一癖あるメンバーたちを見ていても,この感覚は間違っていないような気がする。
この舞台シリーズ共通の「アイドルたちはこの舞台をどんなふうに作ったんだろう?」「稽古はどんな雰囲気だったんだろう?」という,作品世界に没入した想像は相変わらず楽しい。メタ的に言ってしまえば,いわゆる“通好み”な雰囲気に感じられた「ACT2」は,2.5次元舞台として鑑賞するよりも,“とある劇団が上演した舞台”という受け止め方をしたほうがしっくりきた。
そういう意味で,「ACT2」は「劇団『ドラマティカ』」というサークルをより現実的に感じられたのかもしれない。今作を反芻していくなかで,この作品は鑑賞者である自分の先入観をもぶち壊してきたのだと気づいたとき,「やられた!」と思った。
この作品を何度も楽しめるか? に対する筆者の答えはイエスだ。小道具やセリフのやりとりには実にたくさんの伏線や謎が散りばめられているし,見返すことでそこに込められた意味を発見したり,登場人物たちの想いをより深く理解できるだろう。
2.5次元舞台でありながら,そこから一歩進んだ可能性を示した「劇団『ドラマティカ』」。「ACT3」やその先を心の底から期待しているが,1つの劇団としての存在感を示した今作を踏まえると,次はどんな舞台が来るのかまったく予想ができない。「ACT2」が千秋楽まで無事に完走し,彼らがまた新たな挑戦を見せてくれるのを楽しみにしている。
「劇団『ドラマティカ』」公式サイト
(C)ENSEMBLE SQUARE/劇団『ドラマティカ』製作委員会