バンダイナムコエンターテインメントは本日(2022年7月28日),
「デジモンサヴァイブ」(
PS4/
Switch 以下,サヴァイブ)を発売した。
2017年に発売された
「デジモンストーリー サイバースルゥース ハッカーズメモリー」(
PS4/
PS Vita)からおよそ5年ぶりとなる新作デジモンゲームは,テキストアドベンチャー+タクティクスバトルという,デジモンゲームとしては珍しいジャンル。プレイヤーが選んだ選択肢の積み重ねによって物語の結末やパートナーデジモンの進化先が変わっていくというシステムが採用されているほか,デジモンが地方に伝わる民間伝承の神様として祀られる存在となるなど,これまでのデジモン作品とは異なるテイストのタイトルとなっている。
今回4Gamerでは,本作のプロデューサーである
羽生和正氏にオンラインインタビューを実施し,本作の開発経緯や基本的なシステム,世界観,デジモンゲームの今後などについても聞いた。
テキストアドベンチャーで描かれる,より物語性を深くした新たなデジモンゲーム
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず「サヴァイブ」の開発がスタートした経緯を教えてください。
「デジモンサヴァイブ」プロデューサー 羽生和正氏
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羽生和正氏(以下,羽生氏):
もともとデジモンのゲームは,「デジモンストーリー」シリーズと「デジモンワールド」シリーズの2つを主軸としていましたが,次世代機への移行に伴い,開発期間が長期化していました。そんな中で定期的にコンテンツを提供するため,少し小規模なプロジェクトの新たなチャレンジをしてみようと開発が始まったのが,「サヴァイブ」になります。
ただ,開発上のトラブルにより,ゲームの作り直しが発生したため,当初の発表からかなり開発が遅れることになってしまいました。結果的にファンの皆様をお待たせすることになってしまい,申し訳ありませんでした。
4Gamer:
新たなチャレンジとおっしゃったとおり,本作はテキストアドベンチャー+タクティクスバトルという,これまでのデジモンゲームにはなかったジャンルですね。
羽生氏:
テキストアドベンチャーに挑戦しようと思ったのは,「サイバースルゥース」と「ハッカーズメモリー」で行った「デジモンの設定を整理し,ゲームで新たなデジモンの物語を描く」ということを,違うアプローチで表現したかったからです。
「サイバースルゥース」や「ハッカーズメモリー」の導入部分では,ハッカーたちが使役していたデジモンがコンピュータプログラムではなく,人間とは違う世界にいる生命体であり,コンピュータネットワークを通じてこの世界に現れているということが人々の間で知れ渡っていきます。
人々のデジモンへの認識が,プログラムから異世界の生命体であると変化していくのは,液晶ゲームから始まり,アニメなどで世界観が広がっていったデジモンの歴史をゲームの物語の中で表現したものなのですが,ファンの皆さんからも好意的に受け取られました。
4Gamer:
その辺りは「ハッカーズメモリー」のインタビューでも語っていましたね。
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羽生氏:
はい。今回の「サヴァイブ」では,「デジモンの設定を整理し,ゲームで新たなデジモンの物語を描く」という点はそのままに,もっと物語を中心としたゲーム性でアプローチしようと思っていたので,テキストアドベンチャーというジャンルを採用することは最初に決めていました。
4Gamer:
本作はテキストアドベンチャーパートで主人公が取った行動や選択によって,主人公のパートナーデジモンの進化先が変わったり,エンディング分岐が発生したりするというシステムが採用されています。こちらもデジモンのゲームでは,今までになかったものだと思います。
羽生氏:
このシステムについては,「ハッカーズメモリー」を作っていたときすでに考えていました。ゲームでデジモンはパラメータなどの数値を上げることで進化していきますが,アニメなどでは,「パートナーデジモンは人間の半身,現身(うつしみ)のような存在であり,人の心に反応してデジモンが進化する」ことが描かれています。それをゲームの体験として落とし込むことができないかと思い,作ったシステムになります。
「サヴァイブ」では,主人公がとった選択肢によって「カルマ値」というものが変わり,それによりパートナーデジモンの進化先や,物語のルートが3つに分岐していきます。カルマ値は「道義」「調和」「激情」があり,それぞれがデジモンのワクチン,データ,ウイルスという3属性に対応しています。
4Gamer:
パートナーデジモンの進化分岐以外に,ルートにはどのような違いがあるのでしょうか。
羽生氏:
大きいのは,それぞれのルートで仲間と敵対することもあるという点でしょうか。例えば,「激情」ルートは「感情の赴くまま行動していく」ということを信条としていますが,それと相容れない人とぶつかり合うことになります。
プレイヤーそれぞれに感じ方があるとは思いますが,開発としては,それぞれの3ルートにハッピーエンド,バッドエンドという区切りをつけてはおらず,あくまでルート分岐の1つとして捉えています。2周目には「裏ルート」というもう1つの分岐も開放され,こちらでは物語のさらなる核心に迫っていくことになります。
4Gamer:
タクティクスバトルについてはいかがでしょうか。こちらも今までのデジモンゲームでは馴染みないジャンルですが。
羽生氏:
システム自体は素早さによって行動順が決まるアクティブターン制という,かなりオーソドックスなものになっています。移動距離や登坂力がユニットごとに違ったり,高低差やユニットの向き,モンスターの種族と攻撃属性の相性によって与えるダメージが変わったりというタクティカルなバトルの基本部分はしっかりと押さえて作りこんでいます。
4Gamer:
バトル中のデジモンの進化については,どのようになっているのでしょうか。
羽生氏:
進化については,バトル中に任意のタイミングで発動できるコマンドの1つになっています。進化中はパラメータが上昇し,強力な技が使えるようになる一方で,SPというポイントを毎ターン消費し,ゼロになると元の成長期に戻ってしまいます。SPは成長期の状態でターンごとに少しずつ回復するほか,アイテムや仲間と会話するコマンドを選ぶと回復します。SPをどうマネジメントしていくかが,勝利のカギになっています。
4Gamer:
今回,野生のデジモンがフリーモンスターとして登場し,それらを仲間にすることができるとのことですが,パートナーデジモンとはどのような違いがあるのでしょうか。
羽生氏:
フリーモンスターについては,パートナーより若干パラメータを低く設定してます。ただ,バトル開始時に成長期からスタートするパートナーと違って,進化段階が固定されるので,開幕でいきなり完全体や究極体として戦闘に参加できるようになっています。また,探索やバトルの報酬で手に入る「進化アイテム」を使用すれば進化させることもできます。
物語の分岐によっては,仲間のパートナーの種族が偏ってしまうことがあり,フリーモンスターはそれを補うといった狙いもあります。なので,進化のルートも割と自由に決められるようになっています。
等身大の人間とデジモンの絆を,物語を通じてリアルに描く
4Gamer:
ここからは「サヴァイブ」の世界観について詳しく聞いていきたいと思います。本作は,作品全体に漂う雰囲気が和風の怪奇モノという印象だったり,デジモンが一部の地域で“ケモノガミ”の民間伝承として伝わる存在だったり,サイバネティクスな演出を極力排除していたりと,今までのデジモンゲームとは違った雰囲気があります。この辺りは意識しているのでしょうか。
羽生氏:
雰囲気をほかの作品と変えるというのは,確かに意識している点ではありますが,根本的な部分は今までのデジモンシリーズにあった設定をベースに構築したものになっているんです。
4Gamer:
と言いますと。
羽生氏:
例えば,今回デジモンが“ケモノガミ”として信仰される存在となっているという設定の着想は,「デジモンアドベンチャー」でシリーズディレクターをつとめた角銅博之さんの考えをお伺いしたことから得ています。
以前角銅さんと「デジモンとはどういう存在だと思いますか」と話をする機会があったんですが,その際に「デジモンとは,古来より人間に寄り添ってきたスピリチュアルな存在で,時代によって妖怪や式神として見え方が変わってきたもの。デジモンと呼ばれているのは,あくまで現代においてデジタルガジェットを通して認識できるからなんだ」という話を聞いたんです。
4Gamer:
その辺りは,2018年にあった生配信(
関連リンク)でも語っておられますね。
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羽生氏:
はい。デジモンの設定というのは媒体ごとに違っていて,デジモンの歴史の始まりである液晶玩具の方では,コンピュータウイルスがAI知能を得て進化した存在で,ネットワーク上にあるデジタルワールドでハッカーたちが使役しているという設定でした。
それをアニメ化するにあたり世界観を広げていくなかで,デジモンをただのコンピュータウイルスとして捉えるのではなく,本質的に彼らを異世界の生命体として捉えたうえで,人間とのパートナーシップの物語が描かれていきました。
4Gamer:
確かにデジモンアドベンチャーには,液晶玩具と設定が違う箇所がかなりありましたね。
羽生氏:
今は液晶玩具が発売した1997年当時よりもデジタルの概念がより日常的になったことに加えて,我々の知識も増えたことから,デジモンという存在はデジタル技術の文脈だけでは片づけられない存在になっています。
そう考えるとデジモンをスピリチュアルなものとして捉えるという角銅さんの設定は,デジモンという存在を説明するうえで納得感があると思ったんです。スピリチュアルな存在だからこそ,デジモンアドベンチャーでは唯一無二のパートナーであり,自身の現身として,子どもたちの心に反応して姿を変えていたわけです。
4Gamer:
なるほど。
羽生氏:
今回のサヴァイブでは,デジモンアドベンチャーで広がった
「デジモンは古来より人に寄り添って生きてきたスピリチュアルな存在」という設定を再解釈して描いています。
最初は“ケモノガミ”として捉えられている存在が,ゲームを進めるにつれて世界にどう認識されていくのか,それにより人間の認識や関係にどのような変化が出てくるのかという点は,本作における見どころの1つとなっていますので,注目していただければと思います。
4Gamer:
「課外キャンプの途中で異世界に飛ばされる」「物語の中心は8人の子供たち」といった設定にも,「デジモンアドベンチャー」を思わせるような共通点がありますが,この辺りも意識されているのでしょうか。
羽生氏:
そうですね。先ほども申し上げましたが,「サヴァイブ」は「デジモンアドベンチャー」からインスピレーションを得ている点が多いので,作品の導入部分では共通している部分も多いです。
ただ,私は「デジモンアドベンチャー」は,選ばれたヒーローの物語だと思っています。「デジモンアドベンチャー」が,異世界に飛ばされた子供たち全員が誰も欠けることなく屈折せずに“選ばれし子どもたち”として成長していくのに対し,「サヴァイブ」では,等身大の子どもたちが異世界に飛ばされたらどうなるのかという点を描いて対比させています。
4Gamer:
仲間の中には,最初はパートナーデジモンを否定したり,傷つける人もいるとのことですね。
羽生氏:
モンスターが跋扈する危険な異世界という環境の中では,当然それぞれの本性やエゴが出てくると思うんですよね。人それぞれパートナーへの接し方も違いますし,中には自分自身が受け入れられないが故にもう1人の自分とも言えるパートナーを傷つけてしまう人も出てきます。
そして,その心の動きがデジモンの進化に影響を与えて,良くない方向に行く人もいれば,正しい方に向かう人もいて,中には命を落とす人もいるかもしれません。そういった人間的なドラマが物語の中で描かれています。
4Gamer:
同じ異世界に飛ばされたというシチュエーションながら,「デジモンアドベンチャー」に比べるとダークな物語が描かれるんですね。
羽生氏:
そうですね。「デジモンアドベンチャー」が「十五少年漂流記」だとしたら,「サヴァイブ」は同じ漂流ものでも「蠅の王」にテイストが近いかもしれません。ダークな要素のある物語なので,ちょっと人を選ぶ要素もあるタイトルなのは確かです。
4Gamer:
キャラクターやデジモンの選出についてはいかがでしょうか。主人公はゴーグル姿でパートナーはアグモンという正統派な印象です。
羽生氏:
主人公のパートナーをアグモンにしたのは,幅広いファンに受け入れてもらえるデジモンだからですね。ユーザー調査でも「パートナーにしたいデジモンは?」と聞くと,およそ6割の人がアグモンと答えています。パートナーの変更が出来ないゲーム性でもあったので,一番人気のアグモンを主人公のパートナーに選びました。
4Gamer:
主人公は正統派である一方,仲間たちのパートナーデジモンは,メジャーどころをそのまま持ってきたわけではないと感じます。
羽生氏:
ほかの仲間に関しては,アニメでパートナーになったデジモンはなるべく避けています。私が新しいデジモンゲームでやりたいことの1つとして,「これまであまり目立たなかったデジモンに光を当てる」ということがあります。デジモンたちの個々のドラマを描くことによって,キャラクターの魅力をより引き出していけるのがゲームの魅力だと思っています。
4Gamer:
その辺りは「ハッカーズメモリー」のときから一貫しておっしゃられていましたね。
羽生氏:
あと,今回は民間伝承という側面からデジモンを描いているので,サイバー感のあるものやヒーローっぽいものはあえて選出していません。犬や鳥,虫のように自然界にいても違和感のないモチーフのものをチョイスしています。
4Gamer:
人間とパートナーデジモンの組み合わせは,どのように決めていったのでしょうか。
羽生氏:
これについては,まず人間キャラクターの設定を決めた後に,それに似合うようなデジモンを選んでいます。今回は,“人間の心がデジモンに影響を与える”という基本コンセプトがあるので,登場人物が物語の中でどのような行動をするのか,どのような心の動きがあるのかというところを踏まえて,パートナーや進化先を決めていきました。
4Gamer:
仲間のパートナーも心の成長とデジモンの進化のドラマが描かれると。
羽生氏:
はい。例えば,君島サキは周囲に対して遠慮がなく,言いたいことをズバズバ言う子です。そのせいで周囲から煙たがられることもあるんですが,彼女自身はそんなことを気にせずに我が道を行くという性格です。
そんな彼女のパートナーであるフローラモンは一段階進化して何になるのか……という感じでそれぞれのキャラクターの性格や心の成長から,次の進化先を予想してもらうとより楽しめるかもしれません。
4Gamer:
仲間のデジモンの進化というのは,物語が進むにつれて自然と開放されていくのでしょうか。
羽生氏:
進行度だけではなく,ゲーム中の自由行動で各キャラクターと親密度を深めていくことで開放されていきます。1周目ではすべてのキャラクターの進化を究極体まではもっていけませんが,周回プレイでは,開放された進化は引き継がれるようになっていますので,繰り返しプレイすることで全員が究極体になれるようになります。
また,物語のルート分岐によって敵対することになる仲間のデジモンについては,味方の時と敵の時で異なる進化分岐が用意されています。
4Gamer:
そういえば今回完全新規のデジモンが発表されていませんが,登場する予定はあるのでしょうか。
羽生氏:
新デジモンについては……はっきりとしたことをお答えできません。ぜひ本編をプレイしていただければと思います。
次なるデジモンゲームも鋭意開発中。大小さまざまな新しい企画も
4Gamer:
デジモンゲームの展望についても聞かせてください。過去に「デジモンストーリー」シリーズは,続編を制作中というお話がありましたが,その後はいかがでしょうか。
羽生氏:
これに関しては「サヴァイブ」の開発が遅れたことにより,いろんなプロジェクトが滞ってしまいました。冒頭でも言いましたが,もともとデジモンゲームのIPは「デジモンストーリー」シリーズと,「デジモンワールド」シリーズの2つを主軸として考えていて,「サヴァイブ」はその2つのシリーズの間を埋める小規模なプロジェクトとして動いていたタイトルでした。
ただ,開発上のトラブルにより,ゲームをほぼ作り直したため,開発が非常に遅れることになってしまいました。結果的に私がにつきっきりになったため,ほかのタイトルにも影響が出ている状態でした。
4Gamer:
ということは次の作品が世に出るのはもう少し先になるということでしょうか。
羽生氏:
すでに新しいプロデューサーがチームに増員され,体制自体は整ってきていますので,2023年から2025年にかけて,新たな動きをいろいろと発表できる見込みです。「デジモンストーリー」シリーズのような大きなものから,移植のような小さなもの,「サヴァイブ」のような少し変わった外伝的なものまで,さまざまな企画を検討しています。
4Gamer:
それは楽しみですね。ちなみにこれは興味本位で聞きますが,羽生さんが個人的にやってみたいテーマは何かありますか。
羽生氏:
そうですね……実現できるかはともかくとして,ファンの年齢層と同じ30代くらいが主人公のデジモンをやってみたいなという思いがあります。社会人の主人公のところにデジモンが現れたら,その人や周りの生活がどのように変わっていくのかというファンがより自分を投影しやすい物語も面白いんじゃないかなと。
4Gamer:
確かにちょっと見てみたいかもしれません(笑)。今までになかったデジモンという感じがしますし。
羽生氏:
デジモンってSFの設定を考えるうえで非常に優れた題材だと思うんです。もちろん,正統派なゲームを展開していくことが大前提になりますが,それを押さえたうえで世界観を広げる意味でもいろいろなことに挑戦していければと思っていますので,今後の展開にぜひ注目していただければと思います。
4Gamer:
これからのデジモン作品にも期待しています。本日はありがとうございました。