インタビュー
[TGS 2018]開発者すら諦めかけていた「シェンムーI&II」移植。国内スタッフに制作の裏側を聞いた
「シェンムーI&II」は,1999年に発売されたドリームキャスト用ソフト「シェンムー 一章 横須賀」と,2001年に発売された「シェンムーII」をカップリング移植したもの。国内においては2作とも初の他機種移植タイトルとなる。
今で言うオープンワールド形式の劇中世界などで,ゲーム市場に強いインパクトを与えた「シェンムー」シリーズ。今でも高い支持を集めるタイトルだが,これまで国内向けには移植などが行われてこなかった。約20年を経て移植されたシェンムーは,どのような姿になっているのか。そして,なぜこれまで移植されなかったのだろうか。
「シェンムー I&II」公式サイト
4Gamer:
よろしくお願いします。まず「シェンムーI&II」の移植はSEGA Europe主導の企画だそうですが,シェンムー人気はヨーロッパで強いのでしょうか。
野口博司氏(以下,野口氏):
本作に対して,反響が一番大きかった地域は北米でした。ただ,もちろんヨーロッパにも多くのファンがいらっしゃいます。そういった人達の声が大きかったこともあり,SEGA Europeでリバイバルさせようという話が始まりました。
4Gamer:
北米と言えば,カナダではシェンムーのドキュメンタリー映画「A Gamer's Journey: The Definitive History of Shenmue」も作られていますね。ところで,ヨーロッパ諸国での人気の分布はどのような形になっているのでしょう。
笠原英伍氏(以下,笠原氏):
フランスやイギリスなどで人気が高く,フランスからはシェンムーのムック本も制作されていますよ。
野口氏:
シェンムーを好きな人達が,いろいろな形で盛り上げてくれているのはすごく嬉しいですね。
4Gamer:
「シェンムーI&II」に,日本のセガゲームスはどのような形で関わっているのでしょうか。
野口氏:
英語版がベースになっているので,表示やボイスを日本語にする,“逆ローカライズ”みたいな作業を行っています。
4Gamer:
英語版のボイスなどは入っていますか?
野口氏:
いえ。日本語版には,日本語音声と日本語字幕のみが収録されます。
4Gamer:
「シェンムーI&II」は任意の場面でセーブできるなど,プレイアビリティが向上されているそうですね。
野口氏:
それ以外にも,近年のゲームと同じように左スティックで操作する形にしています。ただ,ドリームキャスト版のように十字キーで操作することも可能です。
環境設定についても,オリジナル版より少し拡張されています。とくにビジュアルの部分を重視していて,高解像度描画の選択や,コントラストの変更が可能となっています。音声も,BGMやSEのボリュームを変更できます。
4Gamer:
高解像度化はいろいろな手法があるかと思うのですが,本作の場合はどのようになっているのでしょう。
野口氏:
SEGA Europeがゲームエンジンを載せ替えていて,そのうえでポストエフェクト(後処理)のブルーム(明るい部分を滲ませる処理)などをフィルタ,コントラストやガンマ値を変えたりできるとか,そういったところが主なものです。
4Gamer:
テクスチャに変更はありますか?
野口氏:
そこは基本的に全部当時のままです。
笠原氏:
オリジナル版の要素はそのまま,見た目を綺麗にするような方向性ですね。
4Gamer:
アスペクト比のワイド対応はどのような形なのでしょう。
野口氏:
SEGA Europeのエンジンに4:3から16:9にする3Dレンダリングが搭載されていて,それでアスペクト比の変化を実現しています。16:9か4:3かは,プレイヤーが任意で選択可能です。
4Gamer:
オリジナル版で行われていた実在企業とのコラボは,本作だとどのようになっているのでしょう。
笠原氏:
基本的にはすべて架空の企業や製品に変更されています。
4Gamer:
自社コラボのアーケードゲームはどうでしょうか。
野口氏:
そちらは今回も全部遊べるようになっています。「ハングオン」「アフターバーナー」「スペースハリアー」,そして「アウトラン」。ちゃんと4つ入っていますよ(笑)。
笠原氏:
それ以外にも,シェンムー独自の「エキサイトQTE」や「ダーツ」も遊べますので,楽しんでください。
4Gamer:
日本国内での販売はPS4のみとなっていますが,PC版の販売を解禁はどうでしょう。
笠原氏:
現状ではPS4版のみ販売する予定となっています。
4Gamer:
先行して販売されている海外版では,発売当初「不具合が多い」という声が上がっていました。国内版のバージョンではどうなっているのでしょう。
笠原氏:
不具合は多かったのですが,バグは時間の許す限り,見つけたものは修正していくというスタンスで開発しています。なので,海外版に比べたら日本語版でのバグは少ないと思いますし,SEGA Europeが粘り強く頑張ってくれており,海外版もパッチを配信してバグ修正に対応しています。
4Gamer:
シェンムーというタイトルの魅力は,どのようなところにあると思いますか?
笠原氏:
個人的には,プレイした人の「面白い」と思うところが,それぞれ違うということだと思っています。ある人はストーリーが,ある人はいっぱいあるミニゲームが面白いと言ってくれています。登場人物に関しても,一般的なゲームなら主役級の誰かに人気が集まるんでしょうけど,「街なかにいる一般人の,この人が好きだ」みたいになるんですよね。そういう風に,人によって好きなところが変わるのが,「いいゲーム」だと呼ばれている理由なんでしょう。
野口氏:
壮大なストーリーとか魅力的なキャラクターとかはあるものの,それ以上にプレイヤーが“いきなり放り出される”んですよね。「何をすればいいんだろう」というところから始まって,ガイドラインもなく自分でいろいろ調べたり触ったりしないと進まないというのが,ひとつの衝撃であり,今のゲームとも違う独特なものだったと思います。
あと,シェンムーはこだわり方が違っていて,例えば蛍光灯の紐を引っ張って,電気をつけたり消したりできます。そういう細かさがあるから,ゲームの世界に突っ込んだ気持ちでプレイできるのでしょう。
4Gamer:
シェンムーはエポックメイキング的なタイトルですが,具体的に「現在のゲームに引き継がれている」と思う要素はありますでしょうか。
笠原氏:
シェンムーで開発されたQTE(クイック・タイマー・イベント ※)は,セガのいろいろなゲームに引き継がれていますね。
※現在,カットシーン中に指定されたボタンを押すシステムは一般的に「クイックタイムイベント」と呼ばれているが,シェンムーでの表記は「クイック・タイマー・イベント」となっていた。
野口氏:
1つのゲームにいろいろなミニゲームが入っていて,冒険や格闘など,いろいろなものを経験してゲームを進めていくというスタイルのタイトルには,影響を与えていると思います……ここで具体的なタイトルは挙げることはできないのですが(笑)。
4Gamer:
20代以下のゲーマーには「そもそもシェンムーって何だろう?」みたいなところがあるかと思います。そういう人達に向けた「こういうところから楽しむといい」みたいなアドバイスはありますか?
19年前のゲームなので,我々も若いプレイヤーには「何この古いゲーム。お使いばっかりじゃん!」みたいなことを言われるかと思っていたのですが,すでに発売されている海外では「ストーリーが面白い」とか「人物の設定がちゃんとしてる」とか,好評を得ています。
天候がリアルタイムで変化するマジックウェザーとか,ドアを開けるたびに部屋のレイアウトが変わるマジックルームとか,シェンムーIIのマジックメイズとか,いろいろな自動生成システムは色あせていないというか,新しい体験を今でも与えられるんじゃないかと思っています。
野口氏:
1986年の横須賀を再現しているので,懐かしい風景をいろいろ見つけられると思うんですよね。例えばダイヤル式の電話であるとか……そもそも,今は電話ボックス自体も減っていますし。
ガチャガチャも,今はプラスチック製のしっかりした機械ですが,昔はブリキか何かのハンドルを回すものだったり,そういう「自分も子供時代に巡り合っていたかもしれない」という昭和の風景を楽しんでもらえたらいいですね。
4Gamer:
シェンムーは発売当時から13年前の時代を舞台としたゲームですが,現在はシェンムー自体が19年前のゲームなので,二重にレトロな感じがありますね(笑)。
野口氏:
最近のゲーム業界では“レトロ”がキーワードとなっていまして,昔のゲームやファッションなどを目にしたり耳にしたりします。その中でシェンムーの話をいただいて,今年いよいよ発売になると思うと,うまい具合にビッグウェーブに乗っているのかなと思います。
笠原氏:
開発者でも移植は諦めかけていたのですが,オリジナル版を遊んでいた人達が「これを最新機種で遊ばせたい」という熱意で実現させてくれたので,非常に感慨深いですね。
シェンムーIIは(海外で)Xboxに移植されていますけど,シェンムーは移植されていなくて,よく「何故やらないのか」と言われていました。それは,やるとしてもオリジナルの開発者でも難しいような内容だったからです。でも,SEGA Europeの方で「移植したい」という声が上がって,プログラムを解析して「できる」となって。それが実際に動いてるのを見たときは非常に驚きましたし,SEGA Europeの熱意を感じました。
4Gamer:
移植できないというのは,どういった点で問題があったのでしょうか。
笠原氏:
いろいろな人がプログラマーとして入ってきて,しかも多人数で作っていたので,それを寄せ集めたプログラムになっていました。詳しくは言えないのですが,コードに日本語も入っていて……。
野口氏:
ソースコードが非常に複雑なものになっているんですよね。
4Gamer:
シェンムーは元々セガサターン向けに作られていたと聞きますが,もしかしてコードも……。
笠原氏:
セガサターンのころからの熟成されたコードになっているんです(笑)。それに,作っている途中で「あれもやろう,これもやろう」と後乗せの要素をたくさん追加しているので,「動いているのが奇跡」と思うようなところもあります。
今回の移植も,「何かを直すと何か不具合が出る」というのが頻繁に起こったと聞きます(笑)。
笠原氏:
オリジナル版のバグチェックも,チーム全員が3交代でやってましたから。
野口氏:
あのころ,僕は蕎麦屋のおじさんのモーションを6時間ずーっとチェックしてました。
笠原氏:
バグトラッキングシステムもなかったので,紙でバグレポートをプログラマさんに配達していたんですよ。
野口氏:
Windowsマシンも一部の人にしかなかったですからね。今ではビックリするような開発環境でしたよ。
笠原氏:
「シェンムーI&II」を作るにあたって,当時の仕様書的なものを集めたのですが,それは個人のPCのローカルに保存されていました。サーバもあるにはあったんですけれども,古すぎて今では動かなかったんです。
さらに,個人が所蔵していてデジタルなデータが存在しない資料もたくさんあったんですが,散り散りになった人達に「これ持ってる?」と聞いてまわり,探し出しました。
野口氏:
20年ぶりに連絡を取ったという人もいましたからね(笑)。意外なことに,みんな詳しいことを覚えていたんですよ。インパクトのあるタイトルだから,ずっと心に引っかかっていて覚えていたんでしょうね。
笠原氏:
作っていたときは仕様変更がけっこう入って,いつ開発が終わるのかも分からないほど大変でした。でも時間が経って,皆が皆そうなのかは分かりませんが,「あのタイトルを作っていた」というのが誇りに変わってきているのだと思っています。PCを買い替えても,データをコピーして大事に取っておいてあったりするんですよ。
4Gamer:
大きな追加要素のない,シンプルなタイプの移植に思えますけど,移植できたこと自体が奇跡的なんですね……。
笠原氏:
奇跡だと思います。資料が無いモノに関しては,ドリームキャスト版で実機確認しています。
野口氏:
僕と笠原さんの仕事は,ある意味「オリジナルを再現できるか」にあったという感じですね。
笠原氏:
肩書きとしてはローカライズプロデューサー,ローカライズディレクターとなっているんですけど,資料集めや,「あれだけこだわって作ったんだから,完全移植を目指したい!」みたいな監修が主でした(笑)。ここのSEの音量が違うとか,ここで足音が消えているとか,そういうのを2人で見つけてはSEGA Europeに修正のお願いをしていました。
野口氏:
シェンムーを隅から隅までプレイした人というのは,「シェンムーI&II」の開発チームにも少なかったと思います。僕らは,「意外とここって大事なんだよ」みたいなところを伝えていきました。
笠原氏:
ドリームキャストと並べてプレイして,バグっていても「オリジナルもこうだったから許す!」みたいな(笑)。
野口氏:
僕は海外版のシェンムーIIも取り寄せていたので,ドリキャスがあってXboxがあって……とレトロマシンフェアみたいになっていましたよ。
4Gamer:
レトロと言えば,先日のSEGA AGESステージで「Nintendo SwitchにもシェンムーI&IIが欲しい」という声が多いと紹介されていましたね。
[TGS 2018]「SEGA AGES」ステージイベントの模様を紹介。移植希望アンケートのTOP30が発表,1位は「ジェットセットラジオ」に
2018年9月22日,セガゲームスはTGS 2018の同社ブースにおいて,Nintendo Switchで展開している「SEGA AGES」ブランドのステージイベントを実施した。登壇したのは,下村一誠氏,奥成洋輔氏,堀井直樹氏,MC8bit氏だ。
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野口氏:
シェンムーはファンの皆さんがひたすら愛してくれていて,本当に感謝でいっぱいです。個人的にも,どこでもSwitchでシェンムーができたらいいな……とは思います(笑)。
笠原氏:
実現できるかは分かりませんが,ファンの意見は受け止めています。回答まで時間を要するとは思いますが,SEGA Europeにも相談したいと思います。
4Gamer:
Switchでシェンムーを遊べたら,プレイしつつ実際の横須賀を歩いてみる……なんてのも面白そうです。
いいですねえ(笑)。実際,アクションカムを着けて横須賀を歩きながら「俺は今,シェンムーの世界を歩いてるぜ!」とやってくれている人もいます。いかにリアルな1986年を再現するかと色々な資料をまとめて皆で作ったゲームですので,今の横須賀を歩いていてもモチーフになったものを見つけられると思います。
4Gamer:
「今だからこそ言える思い出話」はありますでしょうか。
笠原氏:
シェンムーというタイトルに決まる前,いっぱい候補が出ていて,そこで私は「玄風記」という案を出していたんです。“玄”には北という意味や,老子や荘子の教えとの関係があったりします。でも最終的には「シェンムー」となったんです。玄風記はボツになったわけですが,芭月 涼が香港に行くときのフェリーが“玄風丸”という名前で,ちょっと残させてもらいました。
野口氏:
僕はXbox版でローカライズの手伝いをしていたのですが,英語化の作業中,とある声優さんが「体調が悪くて収録に行けない」とのことで,急遽僕が声を当てた部分があります。カセットテープを聞くシーンで,キレたしゃべり方をする外国人がいるのですが,それは僕なんです。幸か不幸か,日本語版の音声には入っていないんですけれども(笑)。
4Gamer:
そのほか,アピールしたい部分などはありますか?
笠原氏:
限定版には2枚組のサントラCDがついています。「シェンムー」は過去にCD化されたことがあるんですが,「シェンムーII」は今回が初の音源化です。いろいろといい曲があるのですが,その中から厳選して20曲ずつ収録しているので,音楽も楽しんでいただければと思っています。
野口氏:
楽曲は,聞くことでシェンムーの旅を感じられるような収録順になっているんですよ。
笠原氏:
どんどん予約が入っていて,10月に入ったらもう買えなくなるかもしれない勢いなので,欲しい人はお早めに!
4Gamer:
ありがとうございました。
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